「欧州委員会は、アイルランド政府が最大130億ユーロに及ぶ不当な税優遇をアップルに認めていたと結論する。これは、他の企業に課すよりも大幅に低い税額を特定企業に認めるものであり、EUの「国家による補助」(state aid)ルールに反する。アイルランド政府はこの違法な補助を回収しなければならない」
"State aid: Ireland gave illegal tax benefits to Apple worth up to €13 billion" (European Commission - Press release 30 Aug. 2016)


多国籍企業の税逃れ論争でスポットライトを浴びる知的財産

広く報道されたアップルの税回避手法(正確にはそれを可能にしたアイルランド税務当局の措置)に対する欧州委員会決定ですが、この手法にはアップルによる知的財産の利用が大きく関わっているだけに、日頃チェックしている知財法務関連のサイトや専門家ブログでもすぐに取り上げられました。たとえば、"Europe’s multi-billion dollar tax ruling against Apple throws treatment of IP assets into spotlight"(Richard Lloyd, iam-magazine blog 8/30/2016)

このなかでLloyd氏は、多国籍企業による租税回避問題自体は目新しくはないものの(欧州委員会の調査はアップル以外に、スターバックスやフィアットなどを対象に進行中)、アップルケースでも重要論点になっているとおり、国際税務における知的財産の取り扱いがますますスポットライトを浴びることになろうと指摘します。

Lloyd氏はまた、欧州委決定の数日前に米財務省が発表したホワイトペーパー"The European Commission's Recent State Aid Investigations of Transfer Pricing Rulings" US Department of Treasury White Paper (August 24, 2016)について紹介しています。


欧州委の独断専行(?)調査を懸念

このホワイトペーパーは、今回決定が下されたアップル―ケースを含む、欧州委による多国籍企業の租税回避行為に対する調査(および予備決定)について米財務省が懸念を表明したものです。

欧州委による調査は、2014年半ばからアップル、スターバックス、フィアット、アマゾンを対象として始められたもので、EU加盟国(たとえばアップルの場合、アイルランド)が多国籍企業に認めた税優遇措置(税務裁定)が、EU競争法で禁じられている「国家の補助」となるか否かを追及するものです。

違法な「国家の補助」が認定され、アイルランドがアップルに対し1兆5000億円を追徴課税するとなった場合(アイルランドは欧州委の決定に対し欧州司法裁判所へ提訴予定)、米国政府としては自国の税収となる可能性が失われてしまうため、放置するわけにはいかない。そもそも、多国籍企業による租税回避に対しては欧米を含めた各国間で調整しつつ対処する努力を進めてきたところではないか、というわけです。ホワイトペーパーの冒頭でもはっきりといっています。
...These investigations, if continued, have considerable implications for the United States -- for the U.S. governments directly and for U.S. companies -- in the form of potential lost tax revenue ... 

そのうえで、欧州委の調査手法の問題点を大きく以下の3項目に分けて論じています。
  • 欧州委のアプローチは新しいものであり、これまでのEU判例法と委員会決定からかい離するもの
  • このような新規アプローチに基づく回収(追徴課税)は遡及的に要求すべきでない
  • 欧州委の新たなアプローチは国際規範と整合せず、国際的租税システムを毀損しかねない
その具体的内容は(私には)難解な部分が多いので、標題に沿った一節のみ抽出します。
≪...欧州委によるこのようなアプローチが引き続きとられれば、OECD移転価格ガイドライン、とりわけ知的財産に関連するOECDメンバー間の入念な交渉と妥協の産物を毀損することになりかねない。移転価格をめぐる大規模紛争のほぼすべては知的財産などの無形資産に関するものであり、これこそ移転価格論争における最も困難な分野なのだ。

他にもある、この夏の「知財と税務」トピック

  • インド・デリー高裁における8年越しの裁判がついに決着。「外国法人による知財権の移転によって生じた所得は、インドの所得税の対象にならず。知財権のような無形資産の所在する「場所」は、その所有者が所在する「場所」と同一とみなされる」。オーストラリアのビールメーカーのインド商標権売却をめぐる事件。"Searching for Situs: Delhi High Court holds IP transfer by foreign based entity not taxable in India"(Ritvik M Kulkarni, Spicy IP 8/20/2016)
  • インドが「パテントボックス」制度導入(1961年インド所得税法第115BBF条設置) 。2017年4月1日施行。India's Own Patent Box Regime(Singh & Associates,mondaq.com 8/8/2016) *因みに、米国でも「パテントボックス」制度を導入する法案ドラフトが2015年に議会に提出されている。オバマ政権は「パテントボックス/イノベーションボックス」という形での優遇措置には否定的。

これらを書きながら思い出し、改めて読んでみたいと思った論文があります。当ブログで昨年(2015年)紹介しました。

第26話: 多国籍企業の租税回避戦略への対策は税法より知財法で』 (2/12/2015)
「外国子会社への安価な知財権移転を利用した多国籍企業の租税回避への対策には、税法より知財法を活用すべし。彼らが申告する移転価格というものは、特許訴訟を争う被告にとって格好の攻撃材料(証拠)となる」

...いまこそ読み時、かも。 


9/12/2016  ヨシロー



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