先発薬メーカーとジェネリックメーカー間の"reverse payment"(あるいは "pay-for-delay")という取決めに対する独禁法訴訟や、独禁法当局による取締りの現状については、このブログでもしばしば取り上げてきました。ここ1年ほどの間(2015.11~)でも以下のものがあります。

(2016.9.19) *「第96話・続き」あり

いずれも米国の事例ですが、本年(2016年)の締めくくりに、ヨーロッパの「リバースペイメント」事例を取り上げます。欧州連合の裁判所としては初めてこの争点を取り扱った判決ということであり、9月に出た判決なので、なんとか年内にとりあげたかったのです。

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2016年9月8日、欧州連合一般裁判所(General Court of the European Union: GCEU)は、EUの裁判所としては初めて、医薬メーカー間の「リバースペイメント(reverse payment)」取決めに関する判決を下しました。GCEU自身のプレス発表を中心に、判決の概要をみてゆきます。 


事案の概要

オランダの医薬メーカーLundbeck(以下「ルンドベック」)は、シタロプラム(citalopram)を有効成分とする抗うつ剤 "Cipramil"®を開発し、販売している。シタロプラムを対象とする基本特許の権利期間が満了した後、ルンドベックが保有していたのは数件の製法特許(「結晶化特許」)だけであり、ジェネリックメーカーが市場参入の準備を進めていた。

2002年、ルンドベックは、Merck(Generics UK), Alpharma, Arrow, Ranbaxyの4社と、それぞれ10カ月から22ヵ月を契約期間とする6件の契約を締結した。この契約は、ジェネリックメーカーがシタロプラム市場に参入しない代わりに、相当額の支払いやその他のインセンティブをルンドベックが提供するという条件を盛り込んでいた。

たとえば、ルンドベックは、相当額の一括払いとともに、廃棄することだけを目的にジェネリック薬の在庫を購入し、販売契約における利益保証を提供することが定められた。これらの取決めにより、契約期間中はジェネリックメーカーをシタロプラム市場から排除することが確保された。

2003年10月、欧州委員会(以下「委員会」)は、この契約の存在をオランダの競争法当局であるKFSTから知らされた。

2013年6月19日、独自調査を行った委員会は、ルンドベックと4社のジェネリックメーカーは、少なくとも『潜在的競合企業』であり、当該契約は 『目的による競争制限(restrictions of competition by object)』を構成することを認める決定を下した。
ルンドベックがジェネリック薬によるシタロプラム市場参入を阻止するために支払った額は、ジェネリックメーカーが当該市場に参入していたならば得たであろう利益額にほぼ相当するものとして、委員会は、ルンドベックに9,370万ユーロ、ジェネリックメーカー4社には計5,220万ユーロの罰金を科した。

ルンドベックとジェネリックメーカー、委員会の決定および罰金の取り消しを求める訴訟をGCEUに提起した。


GCEUの判決
ルンドベックとジェネリックメーカーの訴えを退け、委員会の決定および罰金を確認する。

最初に、本件契約が締結された当時、ルンドベックと当該ジェネリックメーカーらは潜在的競合企業であった、とする委員会の決定に誤りはない。

このような当事者間の契約が潜在的な競争を制限することを立証するためには、「かかる契約が締結されていなかったならば、一方の当事者が当該市場へ参入したであろう現実的で具体的な可能性(real concrete possibilities of entering that market)存在した」ことが示されなければならない。

当該ジェネリックメーカーがシタロプラム市場に参入したであろう現実的で具体的な可能性について判断するに当たり、委員会は、彼ら(ジェネリックメーカー)によってすでになされた投資、販売承認を当局から得るためになされた作業、有効成分サプライヤーと締結した供給契約など、客観的証拠を注意深く検討した...。

また、本件契約はTFEU第101条(1)で禁ずる「競争制限を目的とする契約/協定」に該当する、とした委員会の結論に誤りはない。ルンドベックは、本件契約に定められた制限が、彼らの知的財産権(とりわけ結晶化特許)を守るために客観的に必要であったことを証明していない。ルンドベックは、彼らの特許が侵害されたのであれば管轄権を有する国内裁判所に訴訟を提起することで、特許を保護できたはずである。また、ジェネリックメーカーによる市場参入制限の合意に拠らずとも、特許紛争を解決する手段は他に複数存在した。
さらに、ルンドベックの結晶化特許がジェネリックメーカーすべての市場参入を阻止できたかは明確でない。

以上に鑑みれば、本件契約が締結された時点において、本件ジェネリックメーカーが当該市場に参入したであろう現実的で具体的な可能性が存在したといえる。

したがって、本件契約が「目的による競争制限」を構成すると委員会の判断に誤りは認められない。
 
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GCEUのプレス発表はざっとこんな内容になります。欧州委員会も裁判所も、ルンドベックとジェネリックメーカーのリバースペイメント取決めが欧州競争法に違反することを認めていることはわかりました。 一方、自分自身いまひとつ理解できていないなと思うのが、「目的による競争制限(restrictions of competition by object)」という部分。さらに、GCEUの判決は、Actavis判決に基づく米国のアプローチとどう違うのかもよくわかりません。

GCEUの判決全文を読めばいいのでしょうがそこまでの時間(気力)もなし。そこで、次の「第100話(その2)」では、複数の専門家による本判決紹介を参照し、いくつかの疑問点やモヤモヤをすっきりさせて新年を迎えたいと思います。


12/13/2016  ヨシロー


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