第115話の続きです。注目の欧州委SEPライセンシング指針案の最終文言は、予定されていた11月10日の会合でまとめることができませんでした。今回は、その背景にある権利保有者側(SEPホルダー)や実施者側(インプリメンター)間の主要な対立点についてとりあげます。


困難なバランシング  "use-based" licensing vs. "license to(for) all"

SEPホルダーとインプリメンター間の主な対立点として指摘されているのが、"use-based" licensingと"license to all"("license for all"という場合もある)というアプローチ法です。おおよそ次のような説明がなされています。

"use-based" licensingとは

同じ特許でも、それがどのように使われるかによってライセンス料(レート)が変わってくる。たとえば、携帯電話にとってコネクティビティ(接続性)は必須であり、一日に一度つながればいいスマート・エネルギー・メーターと比べれば、その価値はより大きいものとなる。しがって、5G利用の携帯電話に対するライセンス料は、5G利用のスマートメーターより高額にされるべき、というアプローチ。

エリクソン、ノキア、インターデジタル、クアルコムなどのSEPホルダー側がメンバーとなっている(あるいは支援する)IP Europeがこのアプローチを支持しています。

反対派の代表格は、デル、HP、シスコ、インテル、アップルなどが支援するFair Standards Allianceで、次のようにコメントしています。 

「IoTや5G技術の開発と拡大という重要段階において、このアプローチは欧州経済に悪影響を及ぼす。川下のイノベーターは、自ら創り上げた価値部分についてまで川上のSEP保有者への支払いを要求されることになりかねない...」


license to all とは

サムスン、アップル、ファーウェイなどの最終製品メーカーのみでなく、すべてのメーカー、たとえば無線チップセットメーカーなどにもライセンスを与えるべきとするアプローチ。川下でどう使われるか否かに関係なく、チップセットメーカーがSEP保有者からライセンスを取得できるようにすることは、IoT関連では特に重要になるといいます。

これに異を唱えるのが前出のIP Europe

「..."license to all"は 、5G、IoT技術のイノベーションに対し破滅的意味合いをもたらす。 "License to all"は、実質的にライセンス交渉を停止させ、欧州からハイテク雇用を喪失させるものだ。欧州委が表明した目標に真っ向から対立することになる。license to allとは、license to kill (innovation)だ」



SEPホルダー兼インプリメンター、アップルのコメント

UMTS, LTE, Wi-Fiといった無線通信の標準は、数万件もの宣言されたSEPの対象になっている。このような「特許の藪」(patent thickets)は、いまもなお成長中である。5G、高度Wi-Fi、IoT用の通信標準をめぐる競争により、標準コミュニティは、多様なステークホルダーの利益のバランシングという課題に直面している...。

アップルは、このバランス問題について、SEPのライセンサーであるとともにライセンシーでもあるというユニークな立場から語ることが可能だ。

iPhoneを発売した10年ほど前、移動体標準の新参インプリメンターであったアップルは、過大なライセンス要求と差し止めの脅威に直面し、SEPライセンスに対する過剰支払いを何年も強いられることになった...。

SEPライセンス交渉は秘密裏で行われるので、新参インプリメンターはこの複雑な交渉を暗中模索状態で行うことを余儀なくされる。FRAND条件を受ける資格があるといわれても、何がFRANDかを示すロイヤルティ・レート表があるわけではない。

このような情報の非対称性の存在ゆえに、新規ライセンシーは何年もかけて複数のライセンス契約を結び、初めて不公正さを知るということも起こりうる。アップル自身、移動体SEPの不公正なライセンス慣行の事実を探り出し、訴追できるまでには、多くの年月と出費を要した。これは中小企業では不可能なことだ。

このようにアップルは、「標準技術開発者へのインセンティブと標準技術実施者による標準の利用拡大というデリケートなバランシングが重要」といいつつも、"use-based" licensingを危険視し、かなりインプリメンター寄りのコメントを提出しています。たとえば、

「... 過大で予測不可能なロイヤルティ要求が将来なされることを回避すべく、"common royalty base"を採用すべき。"common royalty base"は、特定の標準を対象とするSEP発明のすべてまたは実質的にすべてを実施する、当該コンポーネント部分またはその他の「販売可能な最小ユニット」(smallest saleable unit)とすべきである。これにより、コンポーネントサプライヤーや特定製品のライセンスを望む者など、あらゆる階層の当事者によるアクセスが可能となる」


このようなコメントを読むと、かなりインプリメンター側の主張に分があるように思えてきますが、SEPホルダー側の強い主張も最後まで続きました。


11/10会合の直前に提出されたEARTOのコメント

2017.11.8付で、EARTO(European Association of Research and Technology Organizations)という団体が、欧州委が策定中の指針案についてコメントを提出しています(前回記事を書いた後に知りました)。

その中でEARTOは、「今日のデジタル市場において欧州の競争者は、データ主導型あるいはアプリ主導型の市場に注力しており、そこでは知的財産の価値が減少してくる」と指摘しつつも、「知識創造、技術移転および知的財産こそ、このデジタル市場において欧州が競争力を保つことを可能にする最重要資産だ」と主張します。

この基本認識に基づき、"license to (for) all"を始めとするインプリメンター側主張それぞれについて、「正しい認識はこうだ...」という形で覆していきます。前出のアップルやFair Standards Allianceのコメントを読んでかなり説得力が強いと思った後でも、かなり見方を改めたくなってきます。しかも、後に取り上げる予定の米国司法省反トラスト局の新局長による最近の発言と、このEARTOコメントにかなり共通点を見出すことができるのです。


...時間オーバーとなりました。また、続けます。


11/26/2017  ヨシロー


追記:11/30の「速報」でお伝えした通り、欧州委が予定通り11/29/2017にSEPライセンス指針(「コミュニケーション」文書)を公表しました。タイトルも変わってきますので、第115話はここで締めくくり、指針内容や米動向については新たに第116話としてとりあげます。(12/3/2017)

    

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