・アクセス権限のあるコンピュータから取り出した営業秘密をライバル社に手渡した従業員に対し、コンピュータ詐欺及び濫用防止法(CFAA)は適用されない。ただし、営業秘密を受け取ったライバル社は、「間接アクセス」理論に基づき、CFAA下の責任を問われることになる。
・連邦営業秘密保護法(DTSA)制定前に営業秘密の不正取得・使用行為が行われていても、法制定後も当該不正使用行為が継続しているならばDTSAは適用される。
(Teva Pharmaceutical USA, Inc. v. Sandhu, et al.,  EDPA, 1/30/2018


第119話続きです。テバ社幹部から同社の秘密情報を受け取ったアポテックス社CEO(ジェレミー・デサイ)およびアポテック社に対するCFAA違反の訴え、またすべての被告に対するDTSA違反の訴えは、それぞれ請求原因を主張していない(failure to state a claim)のか。主張していないことを理由に、訴え却下を求めた被告の申立てに対する地裁命令をみてゆきます。

CFAA請求

間接アクセス理論(indirect-access theory) について

≪アポテックス社やデサイのような部外者は、サンデュのような部内者と同様に扱うわけにはいかない。彼らは、CFAAが刑事上または民事上の責任追及ターゲットとしているハッカーに近い。

彼らにはテバ社のコンピュータにアクセスする権限はなかったが、権限をもつ者を通じて、保護されたテバ社のコンピューターに間接的にアクセスしたのだ。彼らは、受け取った情報が、テバ社のコンピュータへアクセスし、窃取されたものであること知っていた。
コンピュータに直接アクセスしなかった者であっても、自らはアクセス権限のないコンピュータにアクセスするよう他者に「指示、奨励、もしくは教唆」した場合、その者はCFAAに基づく責任を問われることになる…。

テバ社は、アクセス権限のないデサイとアポテックス社が、テバ社の従業員であるサンデュと共謀して、保護されたテバ社のコンピュータにアクセスしたと主張している。さらに、デサイとアポテックス社は「サンデュから受け取った情報がテバ社の営業秘密であることを知りながら」、自らの競争優位性を高め利益を増やす目的で当該情報を使用した、とテバ社は主張する≫

これらは、間接アクセス理論に基づき、デサイとアポテックス社に対するCFAA下の請求原因を主張するものといえる≫


DTSA(連邦営業秘密保護法)請求

法施行日より前に発生した行為について

≪被告(サンデュ、デサイ、アポテックス社)は、DTSA違反主張の対象となった行為が発生したのは、DTSA制定日(2016年5月11日・即日施行)より前なので、本件に対しDTSAは適用されないと主張した。これに対しテバ社は、確かに当該営業秘密を被告が窃取し、使用し始めたのはDTSA施行日より前であるが、この行為は施行日後も続いていた、と反論した...。

DTSAは、他者の営業秘密に対する不正行為(misappropriation)*について、当該営業秘密が不正な手段で取得されたことを知りながら(もしくは知りうべき理由がありながら)それを「取得(acquitision)」し、または保有者の同意を得ずに「開示(disclose)」もしくは「使用(use)」すること、と定義している。18 USC §§1839(5)(A)-(B) 
不正な「取得」だけでなく、権限のない「使用」も適用対象にしている以上、法制定前に営業秘密を不正に取得、使用し、法制定後も使用を続けているものはDTSA下の責任を問われ得る。
 *訳注: misappropriationの訳語について、以前は辞書をみて「不正流用」としていましたが、違和感があり、その後はぼかした表現を使っています。営業秘密の文脈で "misappropriation"の定訳はあるのでしょうか?
  
具体的に、テバ社は次のように主張している。
  • アポテックス社が、不正取得したテバの審査完了報告通知(Complete Response Letter: CRL)を自社の購入決定や生産目標の設定に利用し続けた。
  • サンデュは、2016年7月まで自身のラップトップコンピュータにUSBドライブを接続し続け、同年8月8日には、承認前および承認後のテバ社製品に関する規制状況やFDAとのやり取りに関するメモを含むスプレッドシートを彼女の私有ドライブにアップロードした。
これらは、DTSAに基づく営業秘密の不正取得、使用および継続使用という請求原因を主張するもとといえる≫

DTSAおよびPUTSA(ペンシルバニア州統一営業秘密法)請求

営業秘密の特定について

被告の主張:
テバ社の訴状はどのような営業秘密が不正取得・使用されたのかを特定していないため、DTSA, PUTSAに基づく請求の原因を主張していない。

≪この主張は受け入れられない。テバ社の訴状は、被告によって不正取得されたと主張する対象を十分に通告するものといえる。DTSAとPUTSAは営業秘密の定義において異なる文言を用いているが、本質的には同種の情報を保護するものである((a)秘密保持のための合理的手段が講じられている。(b)秘密性が保たれることによる独立した経済価値を有する。(c)正当な手段では容易に知ることができない。(d)容易にアクセスすることのできない他者が、その開示または使用により経済的価値を得ることができる。18 USC §1839(3); 12 Pa.Stat. §5302)

問題のCRLには、アポテックス社が競合するジェネリック医薬の承認審査を速めるために用いた、新薬申請に関するFDAからの秘密コメントが含まれている。また、サンデュが2016年8月に自分個人のドライブにアップロードしたスプレッドシートには、承認前・承認後医薬の規制状況と提出物に関するFDAとの秘密のやり取りに関する詳細が記されている。

これらの文書は、テバ社によって機密として分類され、アクセスが厳しく制限されているため、テバ社外では入手不可能である。その価値は、テバ社が競合他社への優位性を保つうえで不可欠のものである...。ゆえに当裁判所は、テバ社が営業秘密を含む文書を特定していると判断する。
ゆえに、テバ社によるDTSAおよびPUTSA訴訟は引き続き遂行可能と判断する》


営業秘密訴訟において、特に連邦地裁でDTSA訴訟を提起する場合には、営業秘密の具体的特定を厳しく求められるリスクがある、といったことを少し前にとり上げましたが(『第118話(3): ウェイモ v. ウーバー営業秘密訴訟が示すもの --「弱い特許、強い営業秘密」という現行制度がもたらす不幸(?)』(3/25/2018))、本件の場合(FDA情報)はかなり具体的に特定されている、ということなのでしょうか。


DTSAだけじゃない。営業秘密特定の要求は46州でコンセンサスができつつある?

営業秘密訴訟においては、州裁判所レベルでも営業秘密の具体的特定を求める傾向が定着しつつある...かもしれない、という最近の訴訟トピックを目にしました。

"Texas Supreme Court Declines To Take Up Case Requesting That A Plaintiff Describe The Elements Of Any Trade Secret Process That It Claims Was Misappropriated" (Jesse M. Coleman and Andrew Del Junco, Seyfarth Shaw LLP, mondaq.com 4/11/2018)

これはテキサスの州裁判所で州営業秘密法に基づいて争われている事件で、ライバル社に移籍した元幹部社員に対する営業秘密不正使用訴訟というよくあるパターンです。

原告(元の雇用主)が盗まれた営業秘密が含まれるとして20万ページもの文書を提出したことに対し、元幹部社員側が、より具体的な営業秘密の特定を要求する際に以下のような主張をしています。

≪いまや「テキサス州統一営業秘密法」と類似の法を採用する46州の間で、原告は訴訟の初期段階において、不正取得・使用されたと主張する営業秘密について合理的具体性をもって開示しなければならない、という「コンセンサスができつつある」≫
(...there is a "growing consensus" among the 46 states which have adopted laws similar to the Texas Uniform Trade Secrets Act that a plaintiff must disclose the allegedly misappropriated trade secrets "with reasonable particularity at an early stage in the litigation.)

結論だけいうと、営業秘密のより具体的特定を求めた被告の申立ては、テキサス州の一審、二審ともに却下され、テキサス州最高裁でも受け入れられなかった(正確には、職務執行令状の申請却下)ということです。


4/30/2018  ヨシロー  



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