IPR(当事者系レビュー)の合憲性を争ったOil States事件以降、IPRと合衆国憲法をめぐる論争が続いています。

Oil States事件では、合衆国憲法第3条および同修正第7条に違反せずとの最高裁判断が示されましたが、同判決自体が「本判決は範囲の狭いもの」と強調していることもあり、他の規定をめぐる憲法論議が次々と出てきます。
...とはいえ、実際に知っているのは以下の3つくらいなのですが。せっかくなのですべてとり上げておきます。

 


IPR
と憲法問題 

  • 2018.4.24  Oil States最高裁判決 -- 合衆国憲法第3条および修正第7条の違反なし (Oil States Energy Services v. Greene's Energy Group, No.16-712, 4/24/2018)*1)

  • 2018.5.9   「IPR被害者」によるクラスアクション提起される -- 修正第5(デュープロセス、収用条項)違反(Christy Inc. v. USA, Ct. Fed.Clms., filed 5/9/2018) *2) 

  • 2018.5.23  XY, LLC v. Trans Ova CAFC判決 - ニューマン判事による三権分立への懸念表明 (XY, LLC v. Trans Ova Generics, L.C. , Fed. Cir. 5/23/2018)

  1. *参照『第120話:Oil States事件の連邦最高裁判決下される --- I.P.R.の合憲性について、最高裁が判断したこと、しなかったこと』(5/6/2018)
  2. *参照『第121話:Oil States最高裁判決の余波(?) ...「特許財産の収用」に対する「正当な補償」を求め特許権者がクラスアクション提起』(5/14/2018)


今回とり上げるのは上記3番目、5月23日に下されたCAFC判決およびニューマン判事が反対意見(dissenting opinion)で示したIPRと憲法問題への懸念についてです。


XY, LLC v. Trans Ova Generics, L.C. (Fed. Cir. 2018)


事案の概要

原告(被控訴人)XY社は、X-, Y-
染色体を有する精子細胞の選別に関する米国特許を保有している。

被告(控訴人)Trans Ovaは畜牛用に胚移植および体外受精サービスを提供している。

 

Trans Ovaは、Inguran LLC(XY特許のライセンシー)から選別精子を購入していたが、次第にInguran製品の品質に不満を持つようになり、自らXY特許のライセンスを受け、独自の選別精子をつくるようになった。

 

20044月 Trans OvaとXY社は5年期間のライセンス契約を締結(契約は1年ごとに自動延長)。

200711月 InguranXY社を買収。同時期にXY社Trans Ova に対し契約解除の通知(契約違反を理由とする)。Trans Ovaは違反を否定し、ロイヤルティ支払い継続。

20094月 契約解除

 

20123月 XY v. Trans Ova XY社は特許侵害を主張し、Trans Ovaをテキサス西部地区連邦地裁へ提訴 
 -- Trans Ovaは訴えの却下または他地裁への移送を申し立て


2013
328日 コロラド地区連邦地裁へ移送
 -- XYは修正訴状提出。特許侵害の他に、契約違反、不当利得主張
 -- Trans Ovaは、特許無効、シャーマン法(反トラスト法)違反、契約違反の反訴

 

陪審評決

 -- 両当事者ともに契約違反あり
 -- XYの特許は無効でない。Trans Ovaにより故意に侵害された

 

Trans Ova は、特許有効の陪審評決について、地裁に新たな審理を求めるが退けられる。

 「Trans Ovaの主張は、XY側専門家承証人の意見を批判するに過ぎず、陪審審理で提示された主張の繰り返し以上のものでない」

 

これを不服として、Trans OvaはCAFCに控訴。

CAFC判断 *実際に控訴対象となった争点は、反トラスト法違反、契約違反など複数ありますが、以下、特許有効性争点のみとりあげます。


≪第一に、当裁判所は本件特許に対するTrans Ovaの無効主張について検討する必要がなくなった。なぜなら、当裁判所は本日、本件特許を対象とする別の控訴案件*において、本件と同じクレームを無効としたPTAB判断を確認(affirm)しており、その結果、XYはその他いかなる手続きにおいても同じ特許クレームについて権利主張することが、(争点排除効の適用により)禁じられることになったからである (…collaterally estops XY from asserting the patent in any further proceedings)  *別の控訴案件 XY, LLC v. ABS Blob.,Inc.Appeal No.16-2228)

 

≪当裁判所が確認したことにより、本件特許の無効判断は、最終的なものとなり、本件特許に関わるいかなる係属案件、並行係属案件に対しても争点排除効をもつこととなった。...かつて同種の並行手続き事案においても、当裁判所は、特許権者が(原審の)無効判断に対する控訴という救済を使い、法廷での弁論機会(day in court)を得ていることを理由に、争点排除効を認めている…。

 

これは、本件反対意見(Newman判事の反対意見)が主張するように『行政機関の対立する判断によって、地裁の判断が覆された』ということではない。行政機関であれ、地裁であれ、これらの無効判断を当裁判所が確認した事実により、その無効判断は争点排除効を有するのである≫

 

≪また当裁判所は、最近、最高裁のB&B Hardware, Inc. v. Hargis Industries, Inc.判決(135 S.Ct. 1293, 1303(2015)を適用し、審判部決定に争点排除効を認めている。MaxLinear, Inc. v. CF CRESPE LLC, 880 F.3d 1373(Fed.Cir.2018)参照≫ *1)

≪反対意見はまた、当事者からの要請も議論もなしに、当裁判所が自発的に(sua sponte)争点排除効を認めたことに対し懸念を示しているが、これも先例と本件当事者の立場に基づくものであり、誤りはない。両当事者ともに、PTABの決定が当裁判所に確認されれば排除効が生ずるものと仮定しており、そのうえで排除効の結果自体について争っているのである。…当事者のいずれかが排除効は適用されないと思っていることを示すものは何もない。したがって、本件のように明らかに排除効が生ずる争点については、原審に差し戻すことによる「司法資源の浪費」を回避するためにも、自発的に争点排除効を認めるのである≫

*1)
ここで引用されているB&B Hardware, Inc. v. Hargis Industries, Inc.判決は、当ブログでもとり上げました。商標事件で、特許庁TTAB(商標審判部)の決定に争点排除効を認めた事例です。

『第35話:米連邦最高裁が商標事件で重要判決 - 誤認混同争点に関するTTAB決定は侵害裁判所を拘束する』 (3/31/2015)  ≪商標登録手続きにおいて、商標審判部が誤認混同のおそれについて下した判断は、後の侵害訴訟において同一の争点を判断する裁判所を拘束しうる。この「争点排除効」は、裁判所で争われている当該商標の使用態様が、TTABが判断した使用態様と実質的に同一であるかぎり生じうる≫)


多数意見判決がこれほど気にするニューマン判事の反対意見とは、...ここまで長くなってしまったので手短に。

ニューマン判事の反対意見

争点排除効に関する本件多数意見において、とりわけ懸念されるのは、別の当事者(non-mutual parties)に対して下された行政機関の判断が、司法権に対して排除効を有するという点である。これは合衆国憲法が採用する三権分立に対する懸念を生じさせる。また、両当事者への通知なしに、互いの見解を提示する機会を与えることなく、裁判所が自発的に排除効をつくり出すという行為は、法の適正手続き(デュープロセス)をないがしろにしたものともいえる

 

後段の、当事者の意思/要請にかかわりなく裁判所が自発的に争点排除効を認めた行為について、ニューマン判事は”appellate surprise"ということばを使って批判しています。「当事者のいずれかが排除効は適用されないと思っていることを示すものは何もない」という多数意見(「排除効が適用されるものと思っていたはずだ」という論法)に対しては、古い最高裁判例の一文を引用しています。

"The fallacy of the argument consists in assuming the very ground in controversy." Trs. of Dartmouth Coll. v. Woodward, 17 U.S. 518, 697(1819)(Story, J., concurring)

(...軽々しく和文にすることは控えさせていただきます。自信ないので) 

 


本判決の多数意見とニューマン判事の反対意見については、以下のブログ記事がよくまとめてくれています。判決原文へのリンクも張られています。
XY, LLC v. Trans Ova Generics, L.C. (Fed. Cir. 2018), By Kevin E. Noonan, Patent Docs 5/29/2018 




6/17/2018  ヨシロー


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