2018年6月13日、「IPRによって歪められた」(という指摘の多い)ブランド薬メーカーとジェネリック薬メーカー間のバランスを取り戻すため、オリン・ハッチ上院議員が「ハッチ・ワクスマン法」を改正する法案を提出しました(‘‘Hatch-Waxman Integrity Act of 2018’’)

歪められたバランスを取り戻す方法とは、ジェネリック薬メーカーがブランド薬の特許有効性を攻撃できる手段として、(1)ハッチ・ワクスマン法に基づく「ANDA訴訟」プラス (2)AIA(アメリカ発明法)によって新設されたIPRという二つを利用可能にしている現行法制を改め、「(1)ANDA訴訟か、(2)IPRか、いずれかひとつを選択せよ」というものです。


ハッチ・ワクスマン法の立法意図およびその後の効果
そもそも改正対象となったハッチ・ワクスマン法とはなにか。いかなるバランスをとろうとしたのか。ちょうど1年ほど前の当ブログ記事で説明しているので、これを利用します。

≪Hatch-Waxman Amendments(ハッチ・ワクスマン法)とは、「1984年薬価競争および特許期間回復法(Drug Price Competition and Patent Term Restoration Act of 1984)(Pub.L.98-417)」のこと。

1984年、第98連邦議会で成立した法律で、FDAの新薬承認審査によって浸食された先発医薬の特許期間の回復(期間延長)を認める一方で、ジェネリック薬の上市が遅れないよう簡易新薬申請(ANDA)手続きを新設するという、新薬開発インセンティブと安価なジェネリックへのアクセス促進のバランスを図る立法でした。≫
『第111話:米FDAが注目のパブリックミーティング開催 - 「新薬開発イノベーションと低コスト薬アクセス促進のバランス」』(7/23/2017)


今回の改正法案の概要については、ハッチ議員自身のプレス発表から見ておきたいと思います。


2018.6.13 オリン・ハッチ上院議員のプレス発表

本日、オリン・ハッチ上院議員は、ジェネリック薬の開発インセンティブを高めるために注意深く作り上げたバランスを取り戻すべく、ハッチ・ワクスマン法の改正案を上院司法委に提出した。                            
ハッチ上院議員の改正案 "Hatch-Maxman Integrity Act of 2018"は、医薬特許の有効性を争う手段が、(後に設置された)代替手続きにより、ハッチ・ワクスマン法の意図に反する手段にに偏ることを回避することを目的とする...。

背景
ハッチ・ワクスマン法はジェネリック薬メーカーがブランド薬メーカーの特許有効性を争うための特別な訴訟手続きを設置した。このハッチ・ワクスマン訴訟は、ジェネリック薬メーカーがブランド薬のリバースエンジニアリングを合法的に行うことを可能にすると同時に、ブランド薬メーカ―に対しては、その投資を回収するため特許独占を一定期間回復(延長)することを可能にした。

しかしながら、最近になって、特許の有効性を争う代替的手段 - IPRとして知られている - ができたことにより、ハッチ・ワクスマン法が注意深くとったバランスが歪められる脅威が生じている。主にパテント・トロール問題への対応策として設置されたIPRは、従来型訴訟に比べ、迅速かつ低価格で特許有効性を争う手段を提供する。IPRは、テクノロジーカンパニーにとって非常に有益であることは明らかだ。

しかし、医薬開発の世界においては、ハッチ・ワクスマン法がすでに設けた手段に加え、さらなる訴訟プレッシャーを医薬特許に与えるものであり、ハッチ・ワクスマン訴訟で負けた後もなお、有効性をめぐる争いを仕掛けることを可能にする。まさに意図せざる結果がもたらされたのだ。

法案概要
ブランド薬特許の有効性を争いたいジェネリック薬メーカーは、以下のいずれかを選択すること。

1)  ハッチ・ワクスマン訴訟(ANDA訴訟)  — ジェネリック薬メーカーがFDA承認を得るために提出した医薬の安全性と有効性に関するデータに依拠することができる、などの利点あり

2)  
IPR  — ハッチ・ワクスマン訴訟より迅速で低価格だが、簡略承認手続きを利用できない)

本法は、ジェネリック薬メーカーがブランド薬特許の有効性を争う標準手段としてハッチ・ワクスマン訴訟を維持する一方、他の理由によりIPRを利用するオプションも残すものである。また、テクノロジーカンパニーによるIPR利用に影響を及ぼすものではない。


確かに、特許法改正というやり方では、医薬バイオメーカー、自動車メーカー、テクノロジーカンパニー、それぞれの立場にかかわりなく、一律に適用されるので立法化は難しい(ハッチ議員も他業種におけるIPRの有益性を認めている)。本法案は、食品医薬化粧品法の改正という形をとっているので、利害関係の対立はかなり絞られたものになるということなのでしょう。

まだまだ正確に把握していないのですが、本法案はバイオシミラーも対象としているようです。
ジェネリック薬の場合、ANDA訴訟か、IPRかの選択が求められるのに対し、バイオシミラーの場合、BPCIA訴訟(「パテントダンス」)か、IPRかの選択が求められるそうです。

参照 "Senate Moves To Exclude Orange & Purple Book Patents From PTAB" (Scott A. McKeown, Ropes & Gray LLP, mondaq.com 6/18/2018);   "The Hobson's Choice Of The Hatch-Waxman Integrity Act"(Courtenay C. Brinckerhoff, Foley & Lardner, mondaq.com 6/22/2018); "Senator Hatch files Amendment to Fix IPRs for Pharma, Save Hatch-Waxman" (Gene Quinn, ipwatchdog 6/14/2018)

...このような法があれば、「特許をインディアン部族に譲渡し、部族の主権免除を利用しIPR回避を図る」などという変則技に頼る必要がなくなるのかもしれません(第113話:IPRから特許を守る新テクニック? 特許権を譲渡されたインディアン部族が主権免除を理由にIPRの却下を申し立て』参照。なお、部族の申立ては2/23/2018に特許庁PTABにより退けられています。その後CAFCへ控訴され、6/4に口頭弁論が行われました)。


なお、現在の米国議会は第115議会第2会期で、残り会期はあと半年。さらに中間選挙もあるので、ほとんど時間がないと思いますが、他の関連法案に組み込むなど、立法テクニックを使っているようです。... 詳細は把握しておりません。

本記事後半は、いま外出先のiphoneで書いているため、細かな引用などは省いています。後ほど追記予定です。(*上記の通り、米国弁護士たちのコメント記事を3つ紹介しておきました 7/1/2018)


6/27/2018 ヨシロー