勝訴当事者は、関連するIPR手続きに基づく「例外的事件」を理由として、特許法第285条に基づく弁護士費用の支払いを敗訴当事者に求めることができる。(ただし、本件における敗訴当事者の行為は「例外的」とは認められない)
(American Vehicular Sciences v. Autoliv ASP,  ED Mich. 8/30/2019)

第143話・後編では、IPR(Inter Partes Review)に関連して「例外的事件(exceptional case)」が論じられたケースをとりあげます。

アメリカの特許訴訟のあり方を変えたといわれるIPR制度。2011年アメリカ発明法(AIA)による設置後、連邦地裁に特許侵害訴訟が提起されれば、被告側は特許庁審判部(PTAB)にIPRを提起して特許の有効性を争うというパターンがかなり定着しています。

(*もちろん提訴されなくとも先手を打ってIPR申請をするケースも多いです。ここでの問題は特許の有効性が維持された場合、これを不服とする申請人によるCAFCへの控訴が難しい場合があるということです。行政機関であるPTABでは申請が受理されても、CAFCは裁判所(Art.Ⅲ Court)として『現実の争い/被害』が存在することを要求するからです。この控訴適格(appellate standing)問題については、別の機会にとり上げたいと思います)

今回の事案は、IPRによって特許無効の判断がなされた(CAFCでも確認された)後に侵害訴訟を取り下げた原告に対し、被告側が、専らIPRにおける原告(被申請人)の不当な主張や行為を理由に、IPRと侵害訴訟にかかった被告(申請人)弁護士費用の支払いを原告に請求したというものです。


事案の概要

原告American Vehicular Sciences, LLC.(AVS) は、米国特許第9,043,093号(自動車用エアバッグ・システム関連)を保有している。

2015. 9 AVSは ‘093特許侵害を理由にAutoliv他21社をカリフォルニア中部地区連邦に提訴。(後にミシガン東部地区連邦地裁に移送された)

 2015.12.17 訴外Unified Patents(UP)が ‘093特許のIPRを申請(10クレームが自明により無効と主張)
 2016.  6.27 特許庁PTAB ‘093特許のIPR開始を決定 

2016. 8.15 被告申立て -- IPR手続き期間中の侵害訴訟手続き停止を要求
2016. 8.26 地裁命令 — 被告申立て認容。侵害訴訟手続きを停止  
 
 2016. 9.15 被告による ‘093特許IPR申請(2件)
 2017. 5.19 UPのIPR申請に対するPTAB最終決定書 – ‘093特許の10クレームは無効 
 2018. 3   被告のIPR申請に対するPTAB最終決定書 – ‘093特許の全クレームは無効
 2018. 6   CAFCはUPのIPR申請に対するPTAB決定を支持
                                   ⇓
AVSは侵害訴訟の取り下げ意向を被告に告げ、裁判所に訴え却下命令を下すよう申し立て

2018.10.29 地裁命令「訴え却下。訴訟費用は当事者各自負担とする」 

2018.11.21 被告申立て --  地裁命令に不服。「勝訴当事者」として、特許法第285条に基づく弁護士費用の支払いを要求(後に他被告は申立てを取り下げ、Autolivのみが申立て維持) 

2019. 8.30 地裁判決※ -- 被告申立て却下  
  ※正確には、補助裁判官(magistrate)による判決案(Report and Recommendation)


判決要旨

285条における「例外的」の解釈方法

「例外的事件において、裁判所は勝訴当事者の合理的弁護士費用を(敗訴当事者に)負担するよう命ずることができる」特許法第285条(35 U.S.C. §285)

最高裁は、Octane Fitness, LLC v. ICON Health & Fitness, Inc.判決(572 U.S. 545(2014))において、これまでの「硬直化した、機械的な基準」を否定し、次の基準を設定した。

「... 『例外的』事件とは、単に(適用法と当該事件における事実の双方を考慮したときの)当事者における訴訟上の立場の実体的強さ(substantive strength of a party's litigating position)、または訴訟遂行方法の不当さにおいて、他より突出している場合をいう」

また、最高裁は「例外的」の証明基準として、従来適用されていた"clear and convincing evidence"基準より低い"preponderance of the evidence"(証拠の優越)基準を採用した。


被告は「勝訴当事者」 か 

Autolivは「我々は本件訴訟の勝訴当事者(prevailing parties)であり、かつ本件は「例外的事件」に該当するため、合理的弁護士費用を敗訴当事者側に負担させることができる」と主張する。
侵害訴訟の原告が「再訴不能の条件で自発的に訴えを取り下げた(voluntarily dismisses with prejudice)」場合、被告は、特許法第285条の目的上、勝訴当事者といえる。本件においてもAVSは自発的に再訴不能の条件下で訴えを取り下げている。

 IPRに基づき「例外的事件」を主張することは可能か

AVSは、IPR手続きに関連した行為のみに基づき285条の弁護士費用が認められた事例はない、と反論する。
しかし、これまでも特許庁手続きに関連して提供された法的サービスに対し、「それが並行する(背景にある)特許訴訟に合理的に必要とされる、または関係する」場合は、285条に基づく弁護士費用の支払いは認められてきた。とりわけ、
1) 関連する地裁手続きが停止され、実質的に特許庁手続きが連邦地裁訴訟にとって代わるような場合、
2) 特許庁の決定が、関連する連邦地裁訴訟の結果を決定づけるような中心的役割を果たす場合、
がこれに該当する。

本件においても、地裁は、特許庁手続き中の訴訟停止を命じており、ゆえにIPRは実質的に裁判所の代替手続きとして機能した。したがって、本件が「例外的事件」であることを被告が立証できれば、IPR手続きに対する弁護士費用の支払いを原告に請求することができる。

本件における「例外的」の判断

Autolivは「2016年6月にUPによるIPR申請がPTABの手続き開始決定を受けており、被告らがIPRを申請した同年9月には、AVSは‘093特許の無効性について知っていたはずである。さらにUPのIPRにおいて10クレームを無効とする最終決定書がPTABから出された後に、被告のIPR申請に対し回答書を提出(して反論)した」ことなどを指摘し、これは『例外的事件』に該当すると主張する。

これらの主張は受け入れられない。
ある事件が「例外的」か否かは、地裁の裁量により、「当事者における訴訟上の立場の実体的強さ」が他より突出しているか否かを検討しつつ、ケースバイケースで判断できる。ただし、「通常の訴訟遂行者であるならば勝訴できるとは思わないであろう」ほど、訴訟上の主張や請求が不合理でない限り、(弁護士費用支払い判断目的において)その主張が客観的に根拠のないものとみなすことはできない(前出Octane Fitness最高裁判決)

この基準に照らしたとき、本件は「例外的」と判断されるべきではない。
そもそも認可された特許のクレームは有効であることが推定される(35 USC §282)。PTABが '093特許のIPR手続き開始を決定した際も、「いずれかのクレームが無効である合理的蓋然性が存在する」と述べたとはいえ、最終判断ではないことをPTAB自身が述べている。... 

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かなり端折りましたが、大方このような判断が示されました。詳細はこちらの専門家コメントを参照ください。判決原文へのリンクが張られています。
"Exceptional” IPRs And § 285(Kerry Barrett,  John Evans Ph.D.,  Jones Day,  PTAB LITIGATION BLOG, JDSupra 9/16/2019)
Matthew G. Hartman and Rubén H. Muñoz,  Akin Gump Strauss Hauer & Feld LLP  (monaq.com 9/26/2019)

なお、正確な訴訟記録チェックはしていませんが、この判決案(Report and Recommendation)はその後、9月27日にミシガン東部地区地裁判事により正式採用されたようです。(ORDER ADOPTING REPORT AND RECOMMENDATION [60]  https://docs.justia.com/cases/federal/districtcourts/michigan/miedce/5:2016cv11531/310493/61)

Octane Fitness最高裁判決(2014)は、司法・立法・行政すべてがパテントトロール対策に集中していた時期に下された判決であり、「例外的事件」認定のハードルを下げたといわれていますが、
やはり訴訟費用・弁護士費用は各自負担という原則を覆す基本的ハードルは高いのだと思います。

ただ、本件ではIPRにおける特許権者側の行為が問題とされましたが、昨今の反動/揺り戻しの動きを見ると(「IPRによってアメリカの特許が弱体化した」、「悪意の大企業がいざとなったらIPRで対抗すればいい、という考えのもとに『効率的侵害(efficient infringement)』を行っている」etc.)、IPR申請者側に対し「例外的事件」認定に基づく弁護士費用支払いが要求されるケースも出てくるのでは...と思います(もう出ているかもしれません)。


10/2/2019  ヨシロー  後編も簡単に書けると思っていましたが、予想外にことばづかいに迷い、一度書いた内容に自信が持てず、判決を読み返し、書き直すうちに、前編から月をまたいでしまいました。...基礎知識不足ですね。でもひとつ知識の幅が広がりました。
10/3 朝(8:00) さらに「本件における「例外的」の判断」第一段落を大幅に修正しました。



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