第144話後編では、前編でとりあげた2019年政策表明前後の動向や専門家コメントを紹介しておきます。

1)司法省反トラスト局長Makan Delrahim氏の発言
2019年政策表明中には「USPTOとDOJは2013年政策表明を撤回し、NISTを加えて、今回の政策表明を策定した」と明記されていますが、司法省反トラスト局(DOJ・Antitrust Division)のMakan Delrahim局長自身は2018年12月に撤回の意向を公言しています。

"19th Annual Berkeley-Stanford Advanced Patent Law Institute"(12/7/2018)という会合の場でDelrahim氏が行ったスピーチの中で表明されました。スピーチのタイトルは、
“Telegraph Road”: Incentivizing Innovation at the Intersection of Patent and Antitrust Law

"Telegraph Road"とはDire Straits(ダイアー・ストレイツ)というロックバンドの曲のタイトルです(私は知りませんでした)。

...荒野をひとり切り開いて家を建てた開拓者の周辺に、別の旅人がやってき、やがて教会ができ、学校ができ、弁護士がやってきて、ルールが作られた...

スピーチ冒頭で歌詞の一部を紹介しつつ、独創的な発明者・イノベーターを取り巻くアメリカの現状を、押し寄せるインフラの波に飲み込まるTelegrapf Road開拓者の姿になぞらえます。

続いてイノベーターの開拓者精神、起業家精神を挫くことのないよう特許法が提供する排他的権利の意義について再確認したうえで本題に入ります。標準必須特許であっても侵害行為に対しては差止め救済を利用可能とすることの必要性を説き、さらに標準化団体(standard-setting organization: SSO)の現状に対する懸念や要望について述べています。

  • 2013年政策表明は、イノベーションのインセンティブを最適化するために特許法がとった注意深いバランスに制限を加えるものと解釈されるべきではない。
  • 特許が標準規格の一部を構成するからといって、排他権に対する特別なルールが存在するわけではない。FRAND誓約は、強制実施スキームを創り出すものではないし、創り出してはいけない。(この発言の後に2013年政策表明の撤回を宣言)
  • 差止め救済について議論する際には、特許権保有者が特許「ホールドアップ」をすることができるということに加え、特許実施者側もまた、イノベーターが価値ある技術開発に多大なる投資をした後に「ホールドアウト」をすることができるという事実を認識すべきである。
  • SSOのなかには、特許実施者側が協調して取り引きし、特許権保有者から非最適額を引き出すことを容易にするような場合も存在することを認識し、バランスのとれた議論をする必要がある。
  • SSOが多大な利益を消費者にもたらすことができるのは明らかだが、一方で競争者同士の協調的決定に関わる反トラスト法上のリスクも存在する...

SSOに対する警告は、前編で紹介した2019政策表明の脚注3にも記されています。   
脚注3
「SEP保有者のFRAND誓約に関係なく、ある状況下においては、たとえばディスカウントを引き出す目的でライセンス合意を遅らせる協調的行為に対し、DOJは、特許保有者に対する買い手独占力の共同行使(collective exertion of monopsony power over a patent holder)を通じて競争阻害をもたらす共同行為を認定する可能性がある」   

... monopolyは当然知っていましたが、monopsonyという単語は初めて知りました。
2018年スピーチからの抽出を続けます。

  • したがって当局(反トラスト局)は、独立のデシジョンメーキングを排除することにより競争プロセス(価格競争、イノベーション競争など)を害する行為に対しては、反トラスト法違反の調査をし、法執行手続きを実施する。
  • 競争者同士の協議の場をSSOと称することで、あるいは相互作用性に必要な特定の標準規格を実際に公開することでさえ、共通の競争脅威を減じたり、時代遅れのビジネスモデルをリスクにさらす革新的開発を妨げるための協調行為に対する、フリーパスとすることはできない。(Calling your meeting a stanard-setting organization, or even in fact publishing some standards necessary for interoperability, is not a free pass for coordination designed to reduce common competitive threats or forestalling innovative developments in the industry that put a legacy business model at risk.) * 原文の方がわかりやすいと思う(和訳にも自信がない)ので英文を併記しておきます。

以上は、Makan Delrahim反トラスト局長スピーチのごく一部を切りとったものですので、是非全文をご確認ください。
 

2)2013年政策表明の改訂をDOJに求めた上院議員書簡(10/21/2019)   
書簡差出人は、Thom Tillis 上院議員(共和党、ノースカロライナ州選出)とChristopher A. Coons上院議員(民主党、デラウェア州選出)のふたり。Tillis議員は上院司法委・知的財産小委員会の委員長、Coons議員は同小委員会の少数党筆頭幹事です。

DOJのBarr長官とDelrahim反トラスト局長に宛てた書簡のなかで、両議院は、SEPやFRANDライセンスへの反トラスト法適用に関する独禁当局同士(DOJとFTC)の対立に懸念を表明するとともに、DOJがUSPTOと組んで2013年政策表明に代る新たなガイダンスを策定するよう要請しました。

*DOJとFTCの対立についてはこちらをご参照ください。
『第142話(後編): FTC v. クアルコム反トラスト法訴訟、クアルコムに対する差止め命令の執行停止が認められる -- 二つの独禁当局間の見解相違がより鮮明に』(8/26/2019)

*両議院の書簡の原文は以下の記事にリンクが張られています。
"Tillis and Coons Nudge DOJ to Provide Revised Joint Statement on SEPs" IPWatchdog 10/23/2019


3)2019年政策表明によりSEP権利行使フォーラムとしてのITCの重要度が高まる...    
これは以下の記事で指摘されていました。
Andrew DeVoogd, Matthew Galica, Michael Renaud, James Wodarski,  JDSupra 12/24/2019

骨子は次の通り。
  • 2019年のSEP救済に関する政策表明により、SEP保有者でも差止め救済を利用できることが明確になった。
  • とりわけ、最近の関税法337事件(337-TA-1089, In the Matter of Certain Memory Modules and Components Thereof)における行政法判事(ALJ)仮決定と併せ考えれば、SEP保護フォーラムとしてのITCの重要性がますます高まるであろう。
  • 2019年10月21日に下された337-TA-1089事件仮決定において担当ALJのBullock判事は、2013年の政策表明後初めてSEP侵害に対する救済として排除命令を提言した。*記事を書いたMinz事務所は337-TA-1089事件の申立人(Complainant)側代理人です。
  • 2019年政策表明により連邦裁判所とITCにおける差止め/排除命令救済の利用可能性が明確にされたわけだが、連邦裁判所ケースでは最近TCL v. Ericsson事件においてCAFCによるFRAND判断が期待されたのだが、陪審審理を求める形で地裁に差し戻し(TCL v. Ericsson, Fed.Cir. 12/5/2019)、関係者の多くをがっかりさせた。この点からも、SEP保護フォーラムとしての優位性はITCにあるといえよう。

仮決定後すぐに、ITCは排除命令に関する公益の観点からのパブリックコメントを募集する告示を出しています。"Certain Memory Modules and Components Thereof; Notice of Request for Submissions on the Public Interest"  A Notice by the International Trade Commission on 10/29/2019

これに対しFTCはコメントを提出し(12/11/2019)、前述の通り、DOJとは異なる見解を示しています。この点については次の機会にとりあげたいと思います。

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Delrahim局長やTillis議員、Coons議員の発言、考えが正しいのか否かはわかりません。少なくとも、このような考え方がかなり前面に出てくるようになったと感じます(「ホールドアップだけでなく(いやそれ以上に)ホールドアウトが問題だ」という発言がアメリカだけでなく日本でも耳に入ってくるようになりました)。
企業の担当者としては、このような「振り子の揺り戻し」が現実の交渉の場や法廷などでどのように反映されてくるのかを注視し、弁護士・アドバイザーと戦略を立てることが重要なのだと思います。



1/13/2020  ヨシロー  

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