実戦海外知財法務ノート

トロール/PAE、営業秘密、バイオシミラー、FRANDライセンス、反トラスト法 ...いま、グローバルな知財法務の現場で起こっていることをウォッチします

旧タイトルは『グローバルビジネスに活かす英語 - 海外法務・知財編』。 新タイトルの下、さらに実戦面に焦点を当て、グローバル知財法務の最新動向を追っていきます。

訴訟手続き/戦略

第144話(前編):米特許庁、司法省、国立標準技術研究所が『SEPの救済に関する政策表明』を発表 - 2013年の政策表明を撤回し、差止め救済の利用可能性を明確化

(2019年中にとりあげられなかったトピックがあまりに多いなか、まだ「いまさら」にならないものをとりあげておこうと思います)

2019年12月19日、米特許庁(USPTO)、司法省(DOJ)反トラスト局、および国立標準技術研究所(NIST)は
「FRAND宣言をしたSEPの救済に関する政策表明」を公表しました。("Policy Statement on Remedies for Standards-Essential Patents Subject to Voluntary F/RAND Commitments" December 19, 2019 USPTO, DOJ, NIST)

背景
USPTOとDOJは、FRAND宣言をしたSEP(標準必須特許)の侵害に対する救済について、2013年に共同政策表明を公表しました。この後、同政策表明に対する「誤った解釈」によりSEP侵害に対する救済(とりわけ差止め救済)が制限されるようになり、イノベーションや競争の妨げになりかねないとの懸念が生じたため、新たな政策表明を策定することになったものです。
...これは今回の政策表明冒頭に書かれていた趣旨に基づくものですが、後で記す通り、DOJ反トラスト局の最近の姿勢がかなり強く反映されているようです。

以下、2019年政策表明原文から主要部を抜粋して紹介します。

2019年SEP救済政策表明の概要

  • 2013年政策表明において、SEP侵害に対する排除命令救済(exclusionary remedy) *は、ある状況下では公益に反する可能性があり、別の状況下で適切な場合がある(たとえば、潜在的ライセンシーがFRAND条件下の交渉を拒絶したとみなされる場合)とした。(* 「2013年政策表明は主に関税法337条に基づく排除命令に焦点を当てていた」(脚注6))

  • この政策表明後、FRAND宣言をしたSEPに対しては特別な法的ルールが適用されるべき、すなわち差止め命令や排除命令といった救済はSEP侵害訴訟において用いられるべきでない、という誤った解釈がなされるようになった*。このようなアプローチは、利害関係のバランスに配慮した特許制度を歪め、最終的にはイノベーションやダイナミックな競争を阻害することになりかねない。(*「2013年政策表明に対してはさらに、FRAND紛争には反トラスト法が適用れるという誤った解釈がなされてきた。 ITC(国際貿易委員会)は、公益分析の一部として「米国経済における競争状態」について考慮することができるが、これはFRANDライセンス紛争が反トラスト法問題を生じさせることを意味するものではない」(脚注9))

  • このような懸念から、USPTOとDOJは2013年政策表明を撤回し、NISTを加えて、今回の政策表明を策定した。この新たな政策表明により、特許権者によるFRAND宣言は適切な救済を判断する際の関連要素ではあるものの、特定の救済を排除する根拠にはならないことを明確にした。
  • 現行の支配的な(判例)法の下、また各事案の背景事実と審判機関に従い、特許事件において適用可能な救済には、差止め救済、合理的実施料、逸失利益、故意侵害に対する増額賠償、ITCによる排除命令などが含まれる。これらの救済は、SEPの侵害訴訟においても同様に利用可能である。
  • FRAND等の宣言/誓約の存在や当事者の行為は、適切な救済の決定において関連を有し、情報を与えるものではあるが、救済について判断する一般的枠組みは他の特許事件と変わることはない。
  • バランスのとれた、事案ごとの背景事実に基づく分析を行い、利用可能なすべての救済を考慮することが、競争を維持し、イノベーション促進および自発的・コンセンサスベースの標準設定活動へ持続的に参加するインセンティブを保つことにつながる。

新政策表明の警告 -- SEP実施者側による「ホールドアウト」は競争阻害行為と認定される可能性も
2019政策表明・脚注3
「SEP保有者のFRAND誓約に関係なく、ある状況下においては、たとえばディスカウントを引き出す目的でライセンス合意を遅らせる協調的行為に対し、DOJは、特許保有者に対する買い手独占力の共同行使(collective exertion of monopsony power over a patent holder)を通じて競争阻害をもたらす共同行為を認定する可能性がある」

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関連情報
次回、2019年政策表明に関連する動向や同表明に対するコメントのいくつかを紹介します。
1)DOJ反トラスト局長Makan Delrahim氏のSEPに関する主な発言
2)2013年政策表明の改訂をDOJに求めた上院議員書簡(2019.10.21)
3)2019年政策表明によりSEP権利行使フォーラムとしてのITCの重要度が高まる...



1/6/2020  ヨシロー  またも随分と間が空いてしまいました。今年はもう少し頻度をあげることを誓いました。...ということで不完全ながらとにかく仕事始めの日に一話無理やり載せた次第です。 


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第143話(後編):変則的な"exceptional case"事例ふたつ (1) 均等論の適用は "exceptional case"のみ? (2) IPR手続きにおける "exceptional case"とは

勝訴当事者は、関連するIPR手続きに基づく「例外的事件」を理由として、特許法第285条に基づく弁護士費用の支払いを敗訴当事者に求めることができる。(ただし、本件における敗訴当事者の行為は「例外的」とは認められない)
(American Vehicular Sciences v. Autoliv ASP,  ED Mich. 8/30/2019)

第143話・後編では、IPR(Inter Partes Review)に関連して「例外的事件(exceptional case)」が論じられたケースをとりあげます。

アメリカの特許訴訟のあり方を変えたといわれるIPR制度。2011年アメリカ発明法(AIA)による設置後、連邦地裁に特許侵害訴訟が提起されれば、被告側は特許庁審判部(PTAB)にIPRを提起して特許の有効性を争うというパターンがかなり定着しています。

(*もちろん提訴されなくとも先手を打ってIPR申請をするケースも多いです。ここでの問題は特許の有効性が維持された場合、これを不服とする申請人によるCAFCへの控訴が難しい場合があるということです。行政機関であるPTABでは申請が受理されても、CAFCは裁判所(Art.Ⅲ Court)として『現実の争い/被害』が存在することを要求するからです。この控訴適格(appellate standing)問題については、別の機会にとり上げたいと思います)

今回の事案は、IPRによって特許無効の判断がなされた(CAFCでも確認された)後に侵害訴訟を取り下げた原告に対し、被告側が、専らIPRにおける原告(被申請人)の不当な主張や行為を理由に、IPRと侵害訴訟にかかった被告(申請人)弁護士費用の支払いを原告に請求したというものです。


事案の概要

原告American Vehicular Sciences, LLC.(AVS) は、米国特許第9,043,093号(自動車用エアバッグ・システム関連)を保有している。

2015. 9 AVSは ‘093特許侵害を理由にAutoliv他21社をカリフォルニア中部地区連邦に提訴。(後にミシガン東部地区連邦地裁に移送された)

 2015.12.17 訴外Unified Patents(UP)が ‘093特許のIPRを申請(10クレームが自明により無効と主張)
 2016.  6.27 特許庁PTAB ‘093特許のIPR開始を決定 

2016. 8.15 被告申立て -- IPR手続き期間中の侵害訴訟手続き停止を要求
2016. 8.26 地裁命令 — 被告申立て認容。侵害訴訟手続きを停止  
 
 2016. 9.15 被告による ‘093特許IPR申請(2件)
 2017. 5.19 UPのIPR申請に対するPTAB最終決定書 – ‘093特許の10クレームは無効 
 2018. 3   被告のIPR申請に対するPTAB最終決定書 – ‘093特許の全クレームは無効
 2018. 6   CAFCはUPのIPR申請に対するPTAB決定を支持
                                   ⇓
AVSは侵害訴訟の取り下げ意向を被告に告げ、裁判所に訴え却下命令を下すよう申し立て

2018.10.29 地裁命令「訴え却下。訴訟費用は当事者各自負担とする」 

2018.11.21 被告申立て --  地裁命令に不服。「勝訴当事者」として、特許法第285条に基づく弁護士費用の支払いを要求(後に他被告は申立てを取り下げ、Autolivのみが申立て維持) 

2019. 8.30 地裁判決※ -- 被告申立て却下  
  ※正確には、補助裁判官(magistrate)による判決案(Report and Recommendation)


判決要旨

285条における「例外的」の解釈方法

「例外的事件において、裁判所は勝訴当事者の合理的弁護士費用を(敗訴当事者に)負担するよう命ずることができる」特許法第285条(35 U.S.C. §285)

最高裁は、Octane Fitness, LLC v. ICON Health & Fitness, Inc.判決(572 U.S. 545(2014))において、これまでの「硬直化した、機械的な基準」を否定し、次の基準を設定した。

「... 『例外的』事件とは、単に(適用法と当該事件における事実の双方を考慮したときの)当事者における訴訟上の立場の実体的強さ(substantive strength of a party's litigating position)、または訴訟遂行方法の不当さにおいて、他より突出している場合をいう」

また、最高裁は「例外的」の証明基準として、従来適用されていた"clear and convincing evidence"基準より低い"preponderance of the evidence"(証拠の優越)基準を採用した。


被告は「勝訴当事者」 か 

Autolivは「我々は本件訴訟の勝訴当事者(prevailing parties)であり、かつ本件は「例外的事件」に該当するため、合理的弁護士費用を敗訴当事者側に負担させることができる」と主張する。
侵害訴訟の原告が「再訴不能の条件で自発的に訴えを取り下げた(voluntarily dismisses with prejudice)」場合、被告は、特許法第285条の目的上、勝訴当事者といえる。本件においてもAVSは自発的に再訴不能の条件下で訴えを取り下げている。

 IPRに基づき「例外的事件」を主張することは可能か

AVSは、IPR手続きに関連した行為のみに基づき285条の弁護士費用が認められた事例はない、と反論する。
しかし、これまでも特許庁手続きに関連して提供された法的サービスに対し、「それが並行する(背景にある)特許訴訟に合理的に必要とされる、または関係する」場合は、285条に基づく弁護士費用の支払いは認められてきた。とりわけ、
1) 関連する地裁手続きが停止され、実質的に特許庁手続きが連邦地裁訴訟にとって代わるような場合、
2) 特許庁の決定が、関連する連邦地裁訴訟の結果を決定づけるような中心的役割を果たす場合、
がこれに該当する。

本件においても、地裁は、特許庁手続き中の訴訟停止を命じており、ゆえにIPRは実質的に裁判所の代替手続きとして機能した。したがって、本件が「例外的事件」であることを被告が立証できれば、IPR手続きに対する弁護士費用の支払いを原告に請求することができる。

本件における「例外的」の判断

Autolivは「2016年6月にUPによるIPR申請がPTABの手続き開始決定を受けており、被告らがIPRを申請した同年9月には、AVSは‘093特許の無効性について知っていたはずである。さらにUPのIPRにおいて10クレームを無効とする最終決定書がPTABから出された後に、被告のIPR申請に対し回答書を提出(して反論)した」ことなどを指摘し、これは『例外的事件』に該当すると主張する。

これらの主張は受け入れられない。
ある事件が「例外的」か否かは、地裁の裁量により、「当事者における訴訟上の立場の実体的強さ」が他より突出しているか否かを検討しつつ、ケースバイケースで判断できる。ただし、「通常の訴訟遂行者であるならば勝訴できるとは思わないであろう」ほど、訴訟上の主張や請求が不合理でない限り、(弁護士費用支払い判断目的において)その主張が客観的に根拠のないものとみなすことはできない(前出Octane Fitness最高裁判決)

この基準に照らしたとき、本件は「例外的」と判断されるべきではない。
そもそも認可された特許のクレームは有効であることが推定される(35 USC §282)。PTABが '093特許のIPR手続き開始を決定した際も、「いずれかのクレームが無効である合理的蓋然性が存在する」と述べたとはいえ、最終判断ではないことをPTAB自身が述べている。... 

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かなり端折りましたが、大方このような判断が示されました。詳細はこちらの専門家コメントを参照ください。判決原文へのリンクが張られています。
"Exceptional” IPRs And § 285(Kerry Barrett,  John Evans Ph.D.,  Jones Day,  PTAB LITIGATION BLOG, JDSupra 9/16/2019)
Matthew G. Hartman and Rubén H. Muñoz,  Akin Gump Strauss Hauer & Feld LLP  (monaq.com 9/26/2019)

なお、正確な訴訟記録チェックはしていませんが、この判決案(Report and Recommendation)はその後、9月27日にミシガン東部地区地裁判事により正式採用されたようです。(ORDER ADOPTING REPORT AND RECOMMENDATION [60]  https://docs.justia.com/cases/federal/districtcourts/michigan/miedce/5:2016cv11531/310493/61)

Octane Fitness最高裁判決(2014)は、司法・立法・行政すべてがパテントトロール対策に集中していた時期に下された判決であり、「例外的事件」認定のハードルを下げたといわれていますが、
やはり訴訟費用・弁護士費用は各自負担という原則を覆す基本的ハードルは高いのだと思います。

ただ、本件ではIPRにおける特許権者側の行為が問題とされましたが、昨今の反動/揺り戻しの動きを見ると(「IPRによってアメリカの特許が弱体化した」、「悪意の大企業がいざとなったらIPRで対抗すればいい、という考えのもとに『効率的侵害(efficient infringement)』を行っている」etc.)、IPR申請者側に対し「例外的事件」認定に基づく弁護士費用支払いが要求されるケースも出てくるのでは...と思います(もう出ているかもしれません)。


10/2/2019  ヨシロー  後編も簡単に書けると思っていましたが、予想外にことばづかいに迷い、一度書いた内容に自信が持てず、判決を読み返し、書き直すうちに、前編から月をまたいでしまいました。...基礎知識不足ですね。でもひとつ知識の幅が広がりました。
10/3 朝(8:00) さらに「本件における「例外的」の判断」第一段落を大幅に修正しました。



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第143話(前編):変則的な"exceptional case"事例ふたつ (1) 均等論の適用は "exceptional case"のみ? (2) IPR手続きにおける "exceptional case"とは

今回は最近目にした米国の”exceptional case"事例をふたつとり上げます。"exceptional case"=「例外的事件」ですが、通常目にする「例外的事件」とはちょっと異なる「例外的事件」例です。(Amgen v. Sandoz, CAFC, 9/3/2019;  American Vehicular Sciences, LLC v. Autoliv ASP, Inc., ED Mich. 8/30/2019)


通常の「例外的事件」

最初に、米国知財の文脈において「例外的事件(exceptional case)」といわれれば、すぐに思い浮かぶのは特許法第285条の規定だと思います。

「例外的事件において、裁判所は勝訴当事者の合理的弁護士費用を(敗訴当事者に)負担するよう命ずることができる」特許法第285条(35 U.S.C. §285)

何が「例外的」かの基準は裁判所によって定められ、たとえば、単なる特許侵害ではなく、かなり悪質な故意侵害の場合、あるいは原告特許権者が、特許が本来無効であることを明確に認識していながら権利行使した場合、などだったと思います。
弁護士費用は各自負担を原則とするなかで、相手方当事者に負担させるというのはかなりハードルが高かったはずですが、
2014年のOctane Fitness v. ICON Health & Fitness事件において、連邦最高裁は例外的事件認定のハードルをかなり下げる判決を下しました。
... この頃は、立法・行政・司法すべてがパテントトロール対策を強化していた時代だったといえましょう。(この少し後にこんなこともありました第98話:ついに出た、米FTCの「トロール」分析レポート。遅きに失したのか、待望の提言書か10/17/2016)

通常の「例外的事件」について簡単に記したところで、少し異なる文脈での"exceptional case"2事例を紹介します。


変則的「例外的事件」

1. 均等論と"exceptiona case" (Amgen v. Sandoz)


最初に、本件は実に懐かしい事件です。これは米FDA承認バイオシミラー第1号をめぐり法廷闘争を展開していたケースで、当ブログでも頻繁にとりあげていました(『第108話:アムジェン v. サンドのバイオシミラー訴訟アップデート ...連邦最高裁の判決間もなく』(6/11/2017)』『速報! アムジェン v. サンドのバイオシミラー訴訟、連邦最高裁判決下される。-- 180日前の上市通知はFDA承認前でもよい!』(6/13/2017)他)。

「パテントダンス」(*上記記事ご参照)を経て、アムジェン特許非侵害という判決を勝ち取ったサンドですが、この勝訴判決の一部に「ケチが」つきました。サンドによる文言通りの侵害とともに均等論に基づく侵害も否定した2019年5月8日の判決において、CAFCは次のように述べたのです。

≪...The doctrine of equivalents applies only in exceptional cases and is not “simply the second prong of every infringement charge, regularly available to extend protection beyond the scope of the claims.” London v. Carson Pirie Scott & Co., 946 F.2d 1534, 1538 (Fed. Cir. 1991);...≫(太字 ヨシロー)

「均等論は、例外的事件においてのみ適用されるものであり、『あらゆる侵害請求において(文言侵害の次に)当然に適用されるものではない...』」というくだりに対し、「ここで特許法上の専門用語である "exceptional cases"を用いるのは大変問題だと思う。本判決は先例の裏付けなしに均等論の新たな要件を設けることになってしまう...」とすぐに指摘したのが、ブログPatently-Oを運営するDennis Crouch教授。'Federal Circuit: “The Doctrine of Equivalents Applies ONLY in Exceptional Cases”' (May 8, 2019 Dennis Crouch)  

アムジェンは、同教授のブログ記事を引用して、すぐにCAFCに再審理を請求。
2019年9月3日、CAFCは理由を付すことなく「先の判決から "applies only in exceptional cases and"を削除する」命令を下しました。(Amgen v. Sandoz, CAFC, ORDER Sept. 3, 2019


まあ、本件は法律上の実体的影響を及ぼすものではなく(問題の文言が削除されなければかなり影響ありですが)、ひとつのトピックとしてとりあげました。実体的影響というか戦略的影響という面でいえば、次のIPR(Inter Partes Review)手続きにおける"exceptional case"事例("American Vehicular Sciences, LLC v. Autoliv ASP, Inc.")だと思います。

いまや米国特許訴訟におけるほとんど必須の要素となり、特許訴訟のあり方を変えたIPR制度ですが、いろいろと問題点や「巻き返し/揺り戻し」も起こっているようです。

次回「後編」でとり上げます。


9/23/2019  ヨシロー  第142話で紹介したFTC v. クアルコム控訴審命令(地裁の差止め命令執行停止を認める。第9巡回区控訴裁 8/23/2019)後、各方面から意見書(amicus brief)が提出されています。いまのところ、そのほとんどがクアルコム側支持! 第144話でとり上げる予定です。




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第141話:IoT時代のSEPライセンス最新事例 -- 米独「SEPホルダー v. 自動車メーカー/Tier1 サプライヤー」訴訟、米国内法廷地をめぐる駆け引き

第139話から紹介しているIoT時代のSEPライセンス最新事例、締めくくりは、米国内での法廷地選択の駆け引きです。

2019年5月10、「インプリメンター」側であるコンチネンタル(ダイムラー等自動車メーカのTier 1サプライヤー)が、FRAND誓約違反を主張して、アバンシ(ライセンシング・プラットフォーム)とノキアらSEPホルダーをカリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴しました(Continental Automotive v. Avanci et al., NDCA, filed 5/10/2019)

その後すぐに、コンチネンタルとノキア間でAnti-Sjit Injunctionの応酬が展開され(第140話参照)、さらに続いたのが米国内での法廷地をめぐる駆け引きです。(*正確にはまだ、駆け引きはこれから)


アバンシらによるカリフォルニア地区からテキサス地区への事件移送申立て

2019年7月31日  被告アバンシらは、事件移送(venue transfer)の申立てをカリフォルニア地裁に提出しました。
本件訴訟を最初に提起されたカリフォルニア北部地区連邦地裁(NDCA)から、テキサス北部地区連邦地裁(NDTX)へ移送するよう申し立てたのです。

申立ての理由として、「カリフォルニア地区には主張されている違法行為との接点がなく、被告や証人の多くはテキサス北部地区に居所を有する」などが申立書に記されています。

しかし、本当の理由は別の所にある。SEPホルダーにとって厳しい判断を下すNDCAのルーシー・コー判事を避けて、SEPホルダーに有利なテキサス地区で裁判をしたいのだ、と指摘するのは Florian Mueller弁護士です("Avanci, Nokia trying to escape Judge Koh's jurisdiction over Continental case: motion to transfer venue from San Jose to Dallas" Florian Mueller, FOSS Patents 7/31/2019)。

とりわけ本件訴訟提起後にルーシー・コー判事が下したFTC v. Qualcomm 判決(NDCA, 5/21/2019)の厳しさを指摘するのはMueller弁護士だけではありません。この判決については当ブログでもとりあげましたが、手短な「速報」で終わっていましたので、ここで少し追加しておきます。

ルーシー・コー判事のFTC v. Qualcomm判決

「クアルコムによる以下の行為は反トラスト法(FTC法第5条)違反」
  • 特許ライセンス契約の締結をモデムチップ供給の条件とした("No License, No Chip" policy)
  • 競合するモデムチップ・サプライヤーにはSEPライセンスを拒絶した(refusal to license to rivals)
  • アップルその他のスマホメーカーと事実上の排他的取引を行った(de facto exclusive dealings)
この判断に基づき、コー判事は、直前の司法省反トラスト局による意見*にも一切影響を受けることなく、厳しい差止め命令を下したのです。*参照『第137話:FTC v. クアルコム反トラスト法訴訟 --- DOJの意見書に対しFTCが回答。SEPをめぐる米独禁当局間の食い違いが顕在化?』(5/12/2019)

差止め命令 (Injunction)
    1. クアルコムは顧客の特許ライセンス締結をモデムチップ供給の条件としてはならない。クアルコムは、モデムチップ供給や付随する技術サポートへのアクセス制限や差別的提供といった脅威のない条件下で、顧客と善意のライセンス交渉/再交渉を行わなければならない。
    2. クアルコムは、FRAND条件下で、権利消尽効果をもつSEPライセンスをモデムチップ・サプライヤーに申し出なければならない。またFRAND条件についての判定は仲裁または司法紛争解決に付さなければならない。
    3. クアルコムは、明示的または事実上の排他的モデムチップ供給契約を締結してはならない。
    4. クアルコムは、法執行や規制問題について顧客が政府機関に相談することに対し干渉してはならない。
    5. 上記差止め命令に対するクアルコムの順守を確保するため、当裁判所は、クアルコムが以後7年間、順守監視手続きに服することを命ずる。具体的には、クアルコムは、上記差止め命令の順守について毎年FTCに報告するものとする。

ロイヤル・ティベースに関するルーシー・コー判事の判断

そして今回の訴訟においてコンチネンタルがFRAND違反と主張しているロイヤルティ・ベースについてもルーシー・コー判事は判決(FTC v. Qualcomm, "FINDINGS OF FACT AND CONCLUSIONS OF LAW")の中で述べています。

≪さらに、クアルコムが端末デバイスをロイヤルティ・ベースとすることは特許の分配ルール(patent rule of apportionment)に反する。このルールでは、特許権者は侵害する特徴部分についてのみ合理的実施料を得る資格をもつ。この原則に基づき、CAFCは、Laser Dynamics, Inc. v. Quanta Computer, Inc.事件において「一般に、ロイヤルティは製品全体に対してではなく、最小販売可能特許実施単位(smallest salable patent-practicing unit: SSPPU)に基づくことが要求される」と述べたのである。

... 当裁判所は、別件において「ベースバンドプロセッサ(モデムチップ)は携帯端末における適切なSSPPUである」と判示している...。本件において、クアルコム自身の文書が、いまや端末の価値は「ユーザー経験」に帰するところが主であり、「モデムにおけるリーダーシップ」によるものではないと述べている以上、端末全体をベースとしてロイヤルティを徴収するクアルコムの行為はSSPPUに関するCAFCの判例に反することになる≫

なお、この判決は現在、この地区を管轄とする連邦第9巡回区控訴裁判所(CA9または9th Cir.)で控訴手続き中です。ちなみに、このCA9に対しても司法省反トラスト局が意見書を提出し(今度は、国防総省やエネルギー省の供述書付き)、米国独禁当局同士の食い違いがますます強くなってきています。


テキサス地区の最新SEP判決 

最後に、カリフォルニアでFTC v. Qualcomm判決が下された2日後に下されたテキサス東部地区連邦地裁のSEP判決を手短に。HTC v. Ericsson(EDTX, 5/23/2019)

ギルストラップ判事(Rodney Gilstrap, J)の判決
SEPのロイヤルティベースについて

「標準化団体であるESTIの知的財産ポリシーは、必ずしもロイヤルティベースをSSPPUにすべきとはしていない。あるライセンスがFRAND条件であるか否かは、個々のケースによって異なる。... エリクソンによる最終製品(4Gスマホ)をベースとしたロイヤルティ($2.50または1%. 下限$1、上限$4)はFRAND条件といえる。...業界内のライセンスが、ベースバンドチップ(「最小販売可能特許実施単位」とHTCは主張)に基づいて交渉されたという証拠がない。証拠によれば、本件SEPの価値はチップの価値を上回っている」


要するに、いわゆる「FRANDルール」にはまだ定まったものがなく、IoT時代のSEPライセンシングに際しては、本件を含む個々のケースをしっかりウォッチしつつ対処してゆくことが肝要。ということになりましょうか。


今回の参考記事
"Avanci, Nokia trying to escape Judge Koh's jurisdiction over Continental case: motion to transfer venue from San Jose to Dallas" Florian Mueller, FOSS Patents 7/31/2019
"Texas Court Declares Licensing Offer Based on End Device Is FRAND, Diverges from California Court in Qualcomm" Anthony Ferrara, Stefan Meisner, Lisa Peterson (McDermott Will & Emery)  JDSupra 6/5/2019
"Judge Gilstrap rules Ericsson’s licensing offers were FRAND-compliant (HTC v. Ericsson)"
David Long, Essential Patent Blog 5/25/2019
いずれも判決や移送申立ての原文にリンクが張られており、細部の確認などにも有益です。



8/19/2019   ヨシロー


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第140話:IoT時代のSEPライセンス最新事例 -- 米独「SEPホルダー v. 自動車メーカー/Tier1 サプライヤー」訴訟で"Anti-Suit Injunction"の応酬

前回(第139話)は自動車メーカーのTier1 サプライヤーであるコンチネンタルが、米国でSEPホルダーおよび彼らの特許を「プール・ライセンス」するアバンシによるFRAND誓約違反を主張して提起した訴訟をとり上げました(Continental Automotive v. Avanci et al.NDCA, filed 5/10/2019)。

今回はこれと並行してドイツで行われている訴訟 -- SEPホルダーであるノキアが、コンチネンタルの顧客であるダイムラーを訴えた訴訟 -- についてとりあげ、それぞれの法廷で行われている"Anti-Suit Injunction"の応酬について紹介します。

前話と一部重複しますが、まずは米独の手続き経緯を記します。


米独の訴訟手続き
    
2019
3/21 (ドイツ)
提訴 Nokia v. Daimer(ミュンヘン第1, マンハイム, デュッセルドルフ地裁)
SEP侵害主張「ダイムラー車のTCUがノキアの2G~4G特許を侵害する」


5/10  提訴 Continental Automotive v. Avanci et al. (NDCA)
   FRAND違反主張

6/12  コンチネンタル、暫定差し止め命令申立て (NDCA)
   ノキアがコンチネンタルの顧客にドイツで提起した侵害訴訟の遂行を禁ずるよう要求
    -- Anti-Suit Injunction (「外国訴訟差し止め命令」) 


7/9   (ドイツ)
ノキア、暫定差し止め命令申立て(ミュンヘン第1地裁)
コンチネンタルによるAnti-Suit Injunction申立てを禁ずるよう要求
-- Anti・Anti-Suit Injunction
 
7/11 (ドイツ)
ミュンヘン第1地裁命令 -- ノキアの申立て認容
*ドイツ初のAnti-Suit Injunction
 地裁はコンチネンタルのヒアリングなしで申立てを認容


7/24 コンチネンタルの申立てに対するノキアの回答期限(NDCA)

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先にコンチネンタルがノキアのドイツ訴訟遂行を止めさせるようカリフォルニア地裁に請求すると、すぐにノキアがミュンヘン地裁にカウンターの差し止め命令("Anti・Anti-Suit Injunction")を請求し、暫定命令を得ています。それぞれの言い分は次の通り。

コンチネンタル、Anti-Suit Injunction 申請の言い分
「ノキアのドイツ訴訟は、ダイムラーに圧力をかけ、高額なnon-FRAND条件を要求することを目的とするもの。包括的FRAND裁定を求めるものではない」

ノキア、Anti・Anti-Suit Injunction申請の言い分
「この申請は、ノキアによるドイツ裁判所での権利行使に関する現状維持を求めるもの。コンチネンタルによるAnti-Suit Injunction申請のように(ドイツ)訴訟自体の停止を求めるものではなく、Anti-Suit Injunction申請の停止を求めるもの」 

そもそも、”Anti-Suit Injunction"とは何か。調べると「外国訴訟差し止め命令」という訳語がもっともよく使われているようです。(専門的解説については各自ご確認ください)
カリフォルニア地裁で先に提出されたAnti-Suit Injunction申請の差し止めを求めているため、ドイツにおけるノキアの申請をAnti・Anti-Suit Injunctionと呼んでいるようです。


今後のAnti・Anti-Suit Injunction展開
・ドイツ … 暫定差し止めは認められたものの、コンチネンタルによる控訴可能性あり
・米国 … まだ申請に対するヒアリングも行われておらず、裁判所判断はこれから。ドイツ訴訟の方が先に提起されているゆえに、「国際礼譲(comity)」の観点から差し止め命令は出しづらいか…。


次回は締めくくりとして、「米国での法廷地選び -- カリフォルニア地区 v. テキサス地区」というテーマで、コンチネンタルが提出した事件移送(venue transfer)申立てについてとりあげます。これもSEPライセンシングに深く関わる問題です。


今回の参考記事:
"German Court Issues First-Ever Anti-Suit Injunction" Christian Dölling, Dr. Henrik Holzapfel (McDermott Will & Emery) JDSupra 8/2/2019
"Anti- Antisuit Injunctions" Thomas F. Cotter,  Comparative Patent Remedies  8/1/2019
"Nokia persuades Munich court to issue anti-antisuit injunction against Daimler supplier Continental, pre-empting decision by Judge Koh" Florian Mueller, FOSS Patents 7/30/2019
とくにFOSS Patents, Florian Mueller弁護士の記事には、コンチネンタルによる申立書原文やノキアがカリフォルニア地裁に提出した独訴訟に関する説明書簡などにリンクが張られていて、とても有益です。 


8/16/2019  ヨシロー



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第139話:IoT時代のSEPライセンス最新事例 -- 米独「SEPホルダー v. 自動車メーカー/Tier1 サプライヤー」訴訟が示すもの

今回とり上げるのは、今後頻発するであろう「コネクテッド」技術に関する標準必須特許保有者(SEPホルダー)と実施者(インプリメンター)側の、ライセンシングをめぐる駆け引きを象徴するような事件です。
2019年5月10日にカリフォルニア北部地区連邦地裁に提起されたContinental Automotive v. Avanci et al.事件を中心に、おおよそ以下の構成で紹介してゆきます。

IoT時代のSEPライセンス最新事例2019
  • 米国  Tier1 サプライヤー v. SEPホルダー/licensingプラットフォーム
  • ドイツ SEPホルダー v. 自動車メーカー
  • 米独 並行訴訟における”Anti-Suit Injunction”の応酬
  • 米国 法廷地選び -- カリフォルニア地区 v. テキサス地区

最初に米国訴訟の紹介から。まだ、判決や中間命令などが出ているわけではないので、事案の概要は訴状に書かれた内容に基づいていることをお断りしておきます。

米国訴訟 Continental Automotive v. Avanci et al.
カリフォルニア北部地区連邦地裁 (ルーシー・コー判事)
Case 5:19-cv-02520 filed 5/10/2019
 
原告 コンチネンタル … 自動車用無線通信デバイス(本件では”TCU”)*のTier 1サプライヤー
被告  アバンシ … 2G, 3G, 4G無線通信等の標準必須特許(SEP)ライセンシング・プラットフォーム
他被告 Nokia, Conversant, PanOptis … SEPホルダー、アバンシ・メンバー(SEPライセンス委託)

* TCU(Telematic Control Unit) コネクテッドカーに搭載される無線通信デバイス。コンチネンタルのようなTier 1サプライヤーが自動車メーカーに納める。TCUの中にはNAD(network access device)があり、これはコンチネンタルがTier2サプライヤーから購入する。さらにNADにはベースバンドチップが含まれており、これはTier2サプライヤーがTier3サプライヤーから購入する。


[事案の概要]
2017初頭 アバンシがコンチネンタルの顧客(ダイムラー)他、自動車メーカーにコンタクト開始。搭載するTCUについてライセンス契約を求められたダイムラーは、TCUサプライヤーであるコンチネンタルに通知した。

2018初頭 コンチネンタルがアバンシ(およびノキア他被告)にFRAND条件でのライセンスを求める。
*ダイムラーら自動車メーカーとコンチネンタルの契約には侵害問題に対する補償条項(indemnity)あり、コンチネンタルは直接権利者と権利処理することを望んでいる。

アバンシはコンチネンタルへのライセンスを拒絶。アバンシ曰く、
「メンバーとの契約により、ライセンスできるのは自動車メーカーに対してのみ。サプライヤーには直接ライセンスできない」 
「コンチネンタルがアバンシのウェブサイトに示されたロイヤルティ・レート(自動車価格をベースとした固定額)を受け入れるならば、直接ライセンスの余地あり」

2019.5.10 コンチネンタルは、アバンシらによるFRAND宣言違反を主張し、カリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴。*アバンシは直接、標準化団体にFRAND宣言したわけではないが、ノキアらメンバーからFRAND宣言を承継(維持)する義務があると主張。 

FRAND宣言違反
  • 最終製品(自動車)メーカーのみを対象にし、サプライヤーへのライセンスを拒絶している
  • SEP技術が実施されるチップに対してでなく、自動車をベースにして法外なロイヤルティを請求している  
「本件SEP対象となる無線機能を提供するのはベースバンドチップ。自動車1台につき15$(2G~4Gおよび緊急コール使用の場合)というロイヤルティは、1個$20のチップにとっては75%のロイヤルティに相当。TCUをベースにした場合($75)も、20%になる。これは、とてもFRANDレートとはいえない。」


今回はここまで。
次回は、ドイツで並行して進んでいるノキアとダイムラーのSEP侵害訴訟や、(私は)初めて耳にした”Anti・Anti-Suit Injunction”についてみてゆきます。


今回の参考記事:"Continental Automotive v. Avanci: Wireless SEP Licensing Presents Challenges for Automotive Industry" by Alexander Middleton, Steve Pepe, Kevin Post   Ropes & Gray LLP (6/4/2019) この記事の中でコンチネンタルの訴状にリンクが張られています。訴状中に、Tier1サプライヤーとしてのSEPライセンシングに対する考えや立場がかいま見られ、かなり興味深いです。


8/14/2019  ヨシロー



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第129話:バイオシミラー・メーカーのIPR利用戦略アップデート --- FDA申請前に控訴できるか、それが問題

次々と新たな重要判例などが出てきて、すべてをカバーすることがなかなか困難な米国IPR(Inter Partes Review)の動向ですが、最近バイオシミラーとIPRに関する注目のトピックを目にしました。バイオシミラー・メーカーの戦略を左右しかねない新たな法律問題が高裁で争われ、その判決が待たれているということです。キーワードは "Article Ⅲ standing to appeal"(あるいは単に"Standing")です。 
(Momenta Pharmaceuticals, Inc. v. Bristol-Myers Squibb Co., Fed. Cir. argued 12/5/2017)


実はこの新たな法律問題に直結するトピックをちょうど3年前にこのブログでとりあげていました。『第60話(3):カイル・バス、フォルクスワーゲン、バイオシミラー、M&A ... (最近)これらに共通するものは?』(9/15/2015) --- こんなことを書きました。

バイオシミラー・メーカーによるBPCIA訴訟代替手段としてのIPR利用 

...このブログでもバイオシミラーと特許のトピックはしばしばとり上げていますが、IPRとの関係でバイオシミラーが出てくるとは意外でした(私には)。こんな形で紹介されていました。

"Biosimilar Makers' IPR Strategy Yields Mixed Results" (mondaq.com 9/7/2015 Zhiqiang Liu and Irena Royzman Patterson Belknap Webb & Tyler LLP)

『多くのバイオシミラー・メーカーが、FDAへバイオシミラー承認申請を提出する前に先発薬特許にチャレンジする手段として、IPRに目を向け始めた。IPRはバイオシミラー・メーカーにとって魅力的なものとなっている。なぜなら、特許有効性にチャレンジする手段として、手続き上、実体法上の利点を有することに加え、IPR申請には、先にバイオシミラー承認申請を提出しておくことが要件とされないからだ。

その結果、バイオシミラー・メーカーは、生物製剤・価格競争イノベーション法(BPCIA)下では訴訟を提起できる段階にないときでも、特許に関する不確実性を解消でき、IPRの結果次第では、訴訟を完全に回避することも可能になる』
実際にこのような目的でIPRを申請したメーカーとして、Hospira, Boehringer Ingelheim, Celltrion, Amgenの名が挙げられています≫

*注:下線はいま(9/24/2018)つけたものです。


IPR申請時の利点。控訴時は...

上記の通り、バイオシミラー・メーカーにとってIPRとは、FDAにバイオシミラーの承認申請を提出するかなり前の段階で先発薬メーカー/対照薬スポンサー(Reference Product Sponsor: RPS)の特許にチャレンジできる、非常に魅力的な手段として活用されてきたといいます。

たとえば相手方特許を無効とする確認判決(Declaratory Judgment)を求めて連邦裁判所に訴訟提起する場合、合衆国憲法第3条に基づき「現実の事件または争訟(actual case or controversy)」が当事者間に存在するという要件を満たさなければなりません(”Article Ⅲ standing" ...「第3条(当事者)適格」と訳しておきます)。

しかし、特許庁審判部(PTAB)に対するIPR申請においてはそのような要件がありません。そこで、FDAへの販売承認申請という(紛争のモトとなるような)具体的行為などがなくとも、IPR申請することができたのです... PTABに対しては。

問題は、IPR手続きの結果、特許の有効性を支持する決定がPTABから下されたときです。申請人(パテント・チャレンジャー)がPTAB決定を不服とする場合、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)に控訴することは特許法上認められていますが、連邦裁判所であるCAFCでは控訴人に対し「第3条適格」が求められます。FDA承認申請をする前にIPRを利用したバイオシミラー・メーカーが、まさにこのような事態に直面したケースが、Momenta Pharmaceuticals, Inc. v. Bristol-Myers Squibb Co.事件です。


Momenta Pharmaceuticals, Inc. v. Bristol-Myers Squibb Co.の場合

Momentaは、関節リューマチ治療に用いられるBMSのバイオ医薬”Orencia"に関する特許に対しIPRを申請し、手続きは開始されました。このときMomentaは、自身のバイオシミラーに対する販売承認申請をFDAに提出していません。

PTABがBMSの特許有効性を支持する決定を下すと、Momentaはこの決定を不服としてCAFCへ控訴しました(2017.2.22)。MomentaはCAFCへの控訴において、特許の有効性を認定したPTABの実体的判断の誤りを主張しましたが、BMSはMomentaが「第3条適格」の要件を満たしていないと主張して、控訴の却下を求める申立てを提出しました。

(2017年12月5日の同申立て口頭弁論において)BMSは、Momentaが当該特許の対象になるという製品を実際に販売しておらず、FDAへの販売承認申請も数年先であることを指摘しました。これに対しMomentaは、当該バイオシミラーの開発にすでに相当の投資をしており、PTABの決定がこの投資に対し具体的な経済的損害をもたらすことを主張しました。

口頭弁論後、数ヵ月内に出されるだろうと思われていたCAFCの判断はまだ出ていません。その間もPTAB決定に対する「第3条適格」をめぐる重要判例が相次いで出され、Momenta、BMSのそれぞれが新判例に言及し自らの立場を補強する書簡をCAFCに提出する事態となっています。
例えば、"New Arguments in Momenta On Standing to Appeal IPR Loss Before Filing a Biosimilar Application" Benjamin F. Jackson, Jordan M. Engelhardt, BIOLOGICS BLOG 9/12/2018参照 -- Altaire Pharmaceuticals, Inc. v. Paragon BioTeck, Inc., 889 F.3d 1274 (Fed. Cir. 2018), JTEKT Corp. v. GKN Auto., Ltd., 898 F.3d 1217 (Fed. Cir. 2018)について両当事者弁護人が書簡提出

そもそも、「35年前の(CAFC)設置以来、特許庁PTABのような行政機関の決定を不服とする控訴における当事者適格の判断基準など確立されていない」とCAFC自身が認めているくらいですから(Phigenix, Inc. v. Immunogen, Inc., 845 F.3d 1168 (Fed. Cir. 2017))、簡単には結論を出せないのかもしれません。


より広い「PTAB決定に対し控訴するパテント・チャレンジャーの権利」問題

今回は、バイオシミラー・メーカーのIPR戦略アップデートという形でとりあげましたが、PTAB決定に対するCAFC控訴Standingに関して現在論じられている問題は、より範囲の広いものです。

バイオシミラー以外の分野で争われている重要事例において、「特許権者側はほぼ自動的にPTAB決定に対するCAFCへの控訴が認められるのに、特許チャレンジする側の控訴に対する当事者適格要件が厳しすぎるのではないか」という議論がなされています。
たとえば、"Undue Process: You Can Ask the USPTO to Review a Patent, but if They Blow it, You may be Powerless to Appeal" Bryan Wheelock,  Harness, Dickey & Pierce, PLC (JDSupra 8/14/2018);   "JTEKT V GKN Lacking Standing, Competitor Cannot Appeal PTAB IPR Ruling" Nina Srejovic, Charlene M. Morrow,  Fenwick & West LLP (mondaq.com 9/4/2018)

より重要な論点ですが、今回はここまでとしておきます。


最後に、冒頭に紹介した2015年専門家記事タイトル "Biosimilar Makers' IPR Strategy Yields Mixed Results"の"mixed results"についてつけ加えておきます。

当時のIPR利用の利点として、FDA承認申請前の早い段階で特許有効性を争えることは記述の通りですが、不利な点、留意点として次のような指摘がなされていました。

≪... ただ、このIPR利用も、決していいことずくめではないようです。2014年にBoehringerが、Biogen IncとGenentechのブロックバスター抗体"Rituxan"をカバーする3件の特許に対して提出したIPR申請では、1件の特許につき特許庁PTABが申請を受理したものの、他の1件については申請対象クレームの半分についてのみ受理、もう1件については不受理とする決定を出しました。

IPRが一部でも受理されない場合、少なくともそれらの特許はBPCIA訴訟を回避することができず、FDAへの承認申請提出前に特許の不確実性を解消したいというBoehringerの望みは叶わないこととなります。

しかも、IPRの申請が受理されない(not to institute)ということは、特許を無効にするために提出された資料が不十分という判断が示されたことになり、攻撃対象の特許をより強固なものとしかねない懸念もある、ということです。

この問題については、確かOil States最高裁判決と同じ2018年4月24日に下されたSAS Institute Inc. v. Iancu最高裁判決(「特許庁(PTAB)は申請された特許クレームすべての有効性について判断しなければならない」)によって解消されましたよね。

したがって、Momenta事件のCAFC判断がバイオシミラー・メーカー側に有利になれば(第3条適格要件の緩和)、IPRの魅力がさらに増すことになりますが、どうなるでしょう。引き続き、Momenta事件は要注目です。

 
9/24/2018   ヨシロー 



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