実戦海外知財法務ノート

トロール/PAE、営業秘密、バイオシミラー、FRANDライセンス、反トラスト法 ...いま、グローバルな知財法務の現場で起こっていることをウォッチします

旧タイトルは『グローバルビジネスに活かす英語 - 海外法務・知財編』。 新タイトルの下、さらに実戦面に焦点を当て、グローバル知財法務の最新動向を追っていきます。

知財マネタイゼーション/マーケットプレイス

第112話:特許資産有効活用の悩み...ライセンシー探しも容易ならず、訴訟はハードル高く、NPE利用にはまだ抵抗あり...ならばこれ!

『持てる者、持たざる者、双方のお悩みを同時解決へ』

持てる者(多くの特許資産をもつ大手事業会社) 

... 必死になって築き上げた特許資産。件数も十分で、ライバル社に見劣りするものではない。
とはいえ、すべてが自社製品やビジネスに利用されているわけではない。防衛的役割を果たしているということもできるが、明確には特定できないものも多い。
日に日に強まる経営陣からの「特許資産有効利用プレッシャー」。その経営陣もまた、アクティビスト(もの言う投資家)からのプレッシャーを受けている。

どうするか。
ライセンス供与してロイヤルティ収入を稼げばいい? しかしそのライセンシー探しが容易でない。潜在候補が見つかったとしても、彼らがすんなりライセンスを受けるか。受けないだろう。特に特許の有効性が不安定になりつつある米国では、簡単にはライセンスを受けないだろう。

訴訟を仕掛ける? 覚悟はあるか...。カウンターで無効主張されたら(これは間違いなくされる)、無効になったらどうする。

実績もあり、きちんと株式も公開しているNPEを選び利用しよう。...いや、それでも結局NPEはNPE(トロールはトロール)だ、まだ我が社としては使うことに抵抗がある...。



持たざる者(成長著しいスタートアップ) 

斬新な技術とビジネスアイデアに自信あり。起動力もある。
しかし、その活動が目立ち始めたところで、特許/権利武装した競合会社のレーダーに捉えられ、侵害訴訟を仕掛けられる。

それに耐えられるだけの特許を自ら保有するに到っていない。特許/権利武装の重要性はわかっていたが、圧倒的に防衛的権利が不足している。


あくまで特許についての「持てる者、持たざる者」ですが、このような悩みを抱える(特に特許保有)企業は日本においても少なくないと思います。

標題のように「ならばこれ!」といっていいかどうかわかりませんが、この夏、両者の悩みに答えるような「特許投資プラットフォーム」がアメリカで誕生したようです。

こんな紹介記事、プレス発表を目にしました。


新たな特許投資プラットフォーム

硬直的になりがちな特許資産の流動性を高めることを目的として設立された特許取引顧問会社Aqua Licensing,LLC(カリフォルニア州サンフランシスコ)が、8月2日(2017年)に特許投資用の新プラットフォーム "IP Investor Pool"の運用を開始しました。

このプラットフォームは、特に多くの未利用特許を保有する大手事業会社が、スタートアップ企業向けに特許を投資するための場を提供するもの。すでに、AT&T, Entegris, Lenovo, Rambusら大手事業会社が計60,000件以上の特許を提供したといいます。

大手企業側は、スタートアップ向けに防衛用の特許を提供したり、特許戦略のアドバイスを与える代わりにスタートアップの株式を取得します。

このプラットフォームが手掛けるのは、
1)大量の投資対象特許を保有する企業を勧誘すること。そのために、
2)ひも付きでない(あるいは緩い)条件を提示。自由に特許を提供、撤回も自由にする。

良質で豊富な未利用特許をスタートアップへ投資してもらうことで、知財価値最大化プレッシャーを受けつつも、NPE利用には踏み切れない事業会社にアピールする。他方、急成長が見込めるものの防衛的特許の備えが薄いスタートアップ、およびVCのニーズにも応えようというもの。

今後の課題は、提供される特許がどれだけ価値あるものか、権利者が考えるほどの利益を生み出すのか。基本的に「買い手市場」環境下で、これが成功のカギになりそうです。

なかなか一般的広がりが難しい特許マーケット、特許取引プラットフォーム... この新しい試みはどうなるでしょうか。

8/24/2017  ヨシロー



↓ よろしければ一押しお願いします。            

                                                                               

にほんブログ村

                                                     にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ   


                                                                                                                         
 
ビジネス英語 ブログランキングへ

 
                                                                                 にほんブログ村 英語ブログ ビジネス英語へ             



第72話:「米国NPE v. 中国通信機器大手」 グローバル訴訟の和解で明らかになったこと(その2) - 特許市場の現実

注目のVringo v. ZTE訴訟は、ベテランPIPCO投資家の予想(1億2000万ドル)をはるかに下回る2,150万ドルのライセンス料で和解した。この数字は、しかし、昨今の米国特許市場の現実に鑑みれば、決して悪い数字ではない。

まずは第71話のおさらいです。

2015.12.7 米Vringoと中国ZTEが世界各国で係争中の特許訴訟で和解成立
  • ZTEはVringoへ2,150万ドルを一括払い(和解契約締結後15日以内)
  • Vringoは全額受領後10日以内に全訴訟を取り下げる
  • VringoはZTEへ、係争対象特許のワールドワイド・非排他的ライセンスを供与
  • 両者は世界中の特許訴訟を取り下げる

前回紹介した、この和解に対するJack Ellis氏の視点をみたいと思います("Vringo's $21.5 million global settlement with ZTE reflects the IP market's new realities"(Jack Ellis, iam-magazine 12/8/2015) 。


2,150万ドルという額が示す米特許市場の現実

今回の係争対象特許は第3世代移動体通信に関する3GPP標準の必須特許であり、Vringoがノキアから買い取ったもの。VringoとZTEの和解額については、複数のPIPCO投資家や特許ディーラーがかなりの高額を予想していたといいます。例えば、David Hoff氏(IP Hawkブログを運営するベテランPIPCO投資家)は、「1億2000万ドルはいくだろう」と予測していました。

では2,150 万ドルという額は、少なくともPIPCO投資家達にとって「まったく話にならない額、不可解な額」なのかというと、そうでもない。1億2000万ドルを予想していたHoff氏にしても、現実の和解額を聞いたときの反応は、「ポジティブ」だったそうです。
 
要するに、この額は「patent manetizationがかなり難しくなってきている」現状を反映するもの。とりわけ米国においては、「トロール対策」の名の下に、司法、立法だけでなく、社会一般に「アンチパテント」環境ができあがってしまった。このような環境下では、2,150万ドルという額も決して悪いものではない、というわけです。

ー 「トロール対策」の名の下で広まる「アンチパテント」環境の問題については、2015年に入り、トロール問題以上に広く目にするようになりました。たとえば、”第67話:「大企業による『効率的侵害』を助長しかねない特許改革法案」- NYタイムズの痛烈な批判に専門家の評価は?”(11/8/2015)ご参照。

そして、このような「アンチパテント」の環境下、そのターゲットとされるトロール/NPEも従来型スタイルの変更を余儀なくされているといいます。
 
 
スタイル変更を迫られるトロール/NPE/PIPCO

現環境下では、旧来型の権利主張・ライセンシングオンリーの形態では立ち行かず、事業会社的要素をとり入れ、R&Dや生産を行うトロール/NPEが増えてきたといいます(NPE=Non-Practicing Entityでなくなる)。本件Vringoも複数の事業会社とのコラボを展開しています。

他に、日本企業がよく利用するカナダのNPE、WiLANについて興味深い記事をやはりJack Ellisが書いています。"When it comes to monetising Japanese patents, WiLAN seems to have the special sauce" (Jack Ellis, iam-magazine 6/23/2015 )

この記事では、ご多分に漏れず、厳しい環境下で低迷する株価により投資家を失望させているものの、特許取引は活発なWiLANの近況を報告しています。

独半導体メーカー、インフィネオンから3,300万ドルで購入した約7,000件の特許(元々は破産したQuimonda社の特許)について、サムスンと広範なライセンス契約を締結し、特許の残存期間中に1億ドルのライセンス収入の見込み(6/2/2015 WiLAN発表)。その直後に日本の電気メーカーとマイクロフォン技術に関する特許ポートフォリオのライセンシング受託が成立(6/10/2015発表)。これはWiLANと契約した日本企業として3社目だそうです。

いまだNPEとパートナーを組むことを懸念する日本企業が多い中で、なぜWiLANが日本企業に選ばれるのか? Ellis氏は以下4点を挙げています。
  • 確かな成約実績
  • 財務的安定性
  • 自身のR&D投資
  • 公開企業(PIPCO)としての透明性

これまで何度も出てきたPIPCOとはPublic IP Companyのこと。株式を公開しているNPEのことです。本ブログでも一番最初に取り上げました(「第1話:NPEはどこへ行くのか - PIPCO第3四半期決算が示すもの」 11/4/2014)。あるPIPCOのCEOは「日本企業は我々が公開会社であることで安心してくれる。シェルカンパニー(隠れ蓑会社)を使うような会社は敬遠していたね」と言っていました。 


さて、第1話に言及できたところで、この話はお終いとします。2015年内に書くつもりが年越しになってしまいました。このVringo v. ZTE事件、他にも特許市場の移り変わり(「本訴訟は、米国NPEが世界各国で主要な訴訟を展開した(米国はone of themに過ぎない)初のケース」)、ZTEによる独禁法反訴など興味深いテーマが満載ですが、関連トピックをいくつか挙げておきます。



1/1/2016 ヨシロー  謹賀新年 


 
↓ よろしければ一押しお願いします。            

                                                                               

ビジネス英語 ブログランキングへ

 
                                         にほんブログ村 英語ブログ ビジネス英語へ                                        
にほんブログ村

                         にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ   















本件ではZTEがVringoとの守秘契約に違反して制裁を受ける可能性があった….ZTE弁護士はホッとしているのではないか…

第71話:「米国NPE v. 中国通信機器大手」 グローバル訴訟の和解で明らかになったこと(その1)

2015年12月7日、米Vringo社は、2012年から世界十数か国で展開していた中国ZTE社との特許訴訟において、和解が成立したことを明らかにした。ZTEがVringoに対し2,150万ドルの一括ライセンス料を支払うことにより、すべての訴訟が取り下げられることとなった。

米NPEであるVringoと中国の大手通信機器メーカー、中興通訊(ZTE)の訴訟は、これまでも様々な局面で注目され、専門家によって紹介されてきました。いつかこのブログでもとりあげようと思っているうちに、最終局面となってしまいました。

和解の事実は、Vringoが米証券取引委員会(SEC)に提出したForm 8-K(株価に影響を及ぼすような重要事項に関する報告書)で明らかになりました。Form 8-Kの文言はこのようになっています。

Item 1.01   Entry into a Material Definitive Agreement

On December 7, 2015, Vringo, Inc. and its affiliates (the "Company") entered into a Confidential Settlement and License Agreement (the "Settlement Agreement") with ZTE Corporation and its affiliates ("ZTE"), pursuant to which the parties agreed to settle all and any pending litigations and proceedings between the parties relating, among others, to patent infringements and patent invalidity claims. In addition, under the Settlement Agreement, the Company granted ZTE a non-exclusive, non-transferable, worldwide perpetual license of certain patents and patent applications owned by the Company. 

ZTE will pay the Company a lump sum of $21.5 million in cash within 15 days following the execution of the Settlement Agreement. ...

Form 8-Kには和解契約(Confidential Settlement and License Agreement)について、これ以上の詳細は書かれていません。ただし、Vringoの会計年度末(2015年12月31日)後SECに提出されるForm 10-K(アニュアルレポート)には契約の写しが添付されるそうですので、秘密扱い部分を除き、関心ある方は読むことができます。

The foregoing description of the Settlement Agreement is only a summary and is qualified in its entirety by reference to the Settlement Agreement. The Company intends to file a copy of the Settlement Agreement as exhibit to its Annual Report on Form 10-K for its fiscal year ending December 31, 2015, portions of which will be subject to a FOIA Confidential Treatment Request which will be submitted to the Securities and Exchange Commission pursuant to Rule 24b-2 under the Securities Exchange Act of 1934, as amended. The omitted material will be included in the request for confidential treatment. 


一般に、10-Kに添付された上場企業のライセンス契約や共同開発契約などは、実施料率部分や共有権利の持ち分比率などにはマスキングがされていますが、実際の契約がどのような文言で書かれているかを知ることができ、かなり貴重な資料となります。

ある法律サイトなどでは、10-K添付の契約を収集して企業名別、契約タイプ別に分類して、正に教材として提供しています。たとえば、Findlawの契約紹介ページ "Contracts - Findlaw"。以前はよく参考にしました。いま、久々に覗いてみると、あまりupdateされていないようですが。

さて、VringoとZTEのグローバル特許訴訟和解。これについて紹介していた二つの専門家ブログ。
"Vringo's $21.5 million global settlement with ZTE reflects the IP market's new realities"(iam-magazine 12/8/2015 Jack Ellis)
"Vringo Settles with ZTE" (China IPR 12/14/2015 Mark Cohen)

いずれも非常に興味深い視点でこの事件を整理してくれています。特許市場の現状・今後の地域的展開、NPEの方向性、標準必須特許におけるFRANDライセンスと独禁法の関係、とりわけ中国企業による独禁法利用、NDAのあり方など、この事件を遡っていくと2015年知財・法務のあらゆる要素が盛り込まれている気がします。

すべてをまとめる力はとてもありませんが、次回もう少し踏み込んでの紹介を試みます。


12/27/2015 ヨシロー


 
↓ よろしければ一押しお願いします。            

                                                                               

ビジネス英語 ブログランキングへ

 
                                         にほんブログ村 英語ブログ ビジネス英語へ                                       
にほんブログ村

                         にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ   








 

第63話:Patents as Collateral: 意外と盛んな米国の特許担保融資 - スタートアップも大企業も

特許を担保とする金融機関の融資が増えている。≪とりわけ医薬やソフトウェアといったイノベーティブ産業において特許担保が普及している。有形資産こそ十分に持たぬものの、強力な特許ポートフォリオを有するイノベーティブ・カンパニーとって、いまや特許がもたらす財産権は、ファイナンス能力を生み出す重要ツールとなっているのだ≫  "Creditor Rights and Innovation: Evidence from Patent Collateral" (William Mann UCLA Anderson School 4/272015)より

特許など知的財産を担保とする融資については、日本でも一部の金融機関や銀行グループによる実施が話題になることはありますが、その成果・実績はよく知りません。アメリカでも知財担保融資についてあまり見聞きしたことがなく、利用もされていないだろうと思い込んでいたら、大きな間違いでした。かなり活発らしいです。

冒頭の論文によれば、特許を担保として融資する側の権限を強化する立法や判例の影響で、特許担保融資が盛んになってきたようです(貸し手が安心して融資できるようになった)。

さらに、より最近紹介されている特許担保融資の最新動向がこれです。
"Study reveals the most active borrowers and lenders in US patent-backed financing" (iam-magazine blog 9/29/2015 Jack Ellis) ここでJack Ellis氏が、"fascinating analysis of trends in patent-backed financings"として紹介しているのが、米IP分析会社のRelecura Inc.が最近発表した分析レポート "IP Backed Financing - Overview of Trends"(May 2015)です。

Relecura社は、米特許庁に保管されている譲渡記録(Assignment Records)のうち2009年から2014年までの6年分について、"security", "lien", "loan", "mortgage"などのキーワードで特許担保融資の案件を抽出。さらに、担保の解除(release)や執行(foreclosure)など同一取引内の記録はひとまとめにしてダブりを削除したということです。その結果、特許を担保とする譲渡・取引案件896,264件(対象特許件数333,577件 *特許出願も含む)を抽出したといいます。レポートは全53頁。一部紹介します。


貸し手: 特許担保融資の上位金融機関
(担保とした特許件数、全特許件数における割合)

1.  JP Morgan Chase (48,804件、14.63%)
2.  Bank Of America (46,897件、14.06%)
3.  Citigroup (34,658件、10.39%)
4.  Wells Fargo (32,716件、9.81%)
5.  Wilmington Trust (31,369件、9.40%)
6.  Deutsche Bank (27,172件、8.15%)
7.  Credit Suisse (18,758件、5.62%)
8.  BNY Mellon(16,142件、4.84%)
9.  GE Capital (12,774件、3.83%)
10. US Department of the Treasury (12,212件、3.66%)


借り手: 特許担保融資の上位特許権者
(担保とした特許件数、全特許権数における割合)

1.  General Motors (15,866件、4.76%)
2.  Avago (12,946件、3.88%)
3.  Alactel-Lucent (10,023件、3.00%)
4.  Kodak (8,438件、2.53%)
5.  Freescale Semiconductor (8,149件、2.44%)
6.  Seagate (5,910件、1.77%)
7.  Dell (4,609件、1.38%)
8.  Avaya (3,162件、0.95%)
9.  Chrysler (2,914件、0.87%)
10. Ps4 Luxco (2,313件、0.69%)

より詳細な分析を見ると、GMが特許担保融資を受けたのは、リーマンショックで経営破たんした2009年と2010年に集中しています。一方、クライスラーは、2009年に2,021件と過半の取引が集中しているものの、2011年に473件、2014年にも421件と、現在も特許担保融資を利用しています。


中国では知財担保融資ブームも?

冒頭で「あまり見聞きしない」といいましたが、よくよく見ると、知財担保融資や特許担保融資の話も結構ありますね。少し前には中国の話も紹介されていました。

  • 担保としての特許("Patents as Collateral" Patently-O 6/1/2014 Dennis Crouch) -「融資を受ける際の担保として通常想定されるのは不動産などの有形資産。しかしながら、融資を受けるために自社特許ポートフォリオの担保価値に頼る企業が増えつつある」*Crouch教授が冒頭のWilliam Mann論文を紹介したブログ記事

最後に、英語ブログとしてひとつ。"collateral"... ここでは「担保」という意味で使われていますが、判例などを読んでいると、"collateral estoppel"ということばが出てきます。これは「争点(排除)効」という意味ですね。本ブログでも一度とりあげました。

第35話:米連邦最高裁が商標事件で重要判決 - 誤認混同争点に関するTTAB決定は侵害裁判所を拘束する』(3/31/2015)ご参照 ≪...「争点排除効」(issue preclusion)。争点排除効については、"collateral estoppel"という語もinterchangeablyに使われています。≫


10/17/2015  ヨシロー


   ↓ よろしければ一押しお願いします。            


                                                                      
ビジネス英語 ブログランキングへ

 
                                   にほんブログ村 英語ブログ ビジネス英語へ                                  
にほんブログ村

                             

にほんブログ村 経営ブログ 法務・知財へ
にほんブログ村

第57話・続き: 実験的特許マーケットプレイス"PPP"の成功。そしてスタートアップ向け"PSP"提案... グーグルの最終ゴールは何処に

特許購入マーケットプレイス"Patent Purchase Promotion"で成果を上げたグーグルが、次に打ち出したスタートアップ企業支援プログラム "Patent Starter Program"とは。そしてその先にあるものは?

第57話続きです。"Patent Starter Program"については、以下2つのブログ記事で知りました。

"Google offers start-ups free patents, but also begins to roll-out patent sales" (iam-magazine 7/24/2015 by Richard Lloyd); 
"Why Google Wins by Giving Away Patents to ‘Startups’ Willing to Join the LOT Network"

(ipwatchdog 8/2/2015 by Kevin A. Rieffel)


"Patent Starter Program"が発表されたのは7月23日。スタートアップ企業を特許の側面から支援をしようというもの。グーグル自身のPatents Siteへ行ってみると"Patent Starter Program"のページがあり、次の5つの資料にアクセスすることができます(*下記の事情でSign-Up Formはダメ)。

  • Program Announcement 
  • Sign-Up Form 
  • Details of the Program 
  • FAQs 
  • Program Agreement  

まずは「プログラム・アナウンスメント」にプログラムの趣旨と概要が記されています。


趣旨: 

スタートアップ企業が最初に直面するであろう二つの特許問題(1.パテントトロールによる攻撃、2.投資家による特許保護の要求 - 「事業アイデアを保護するための特許をもっていないだって?!」)に対応できるための支援を提供する。


サポート内容


1. 特許の無償提供

グーグルが保有する特許ポートフォリオから2件の特許ファミリーを無償で提供する。最初にグーグルが本プログラム参加企業の事業に照らして選択した3件~5件の特許ファミリーを提示し、うち2件を参加企業自ら選択。


2. LOTネットワークへの参加

本プログラムに参加する企業は、LOTネットワークへの参加が義務づけられる。最初の2年間はネットワーク参加費が免除される。
 

LOT(License On Transfer)ネットワークとは、メンバーが特許を移転する際に無償のクロスライセンスを生じさせる仕組みで、キヤノン、ドロップボックス、グーグル、SAPらによって開始されたもの。その後多くの企業が参加し、LOTネットワークの対象特許は現在32万5千件を超えている。LOTネットワークへの参加企業は、他の参加企業に対し自社特許のライセンスを許諾することになるが、このライセンス許諾は特許が参加企業以外に移転/販売されたときにのみ発効する」*アナウンスでの説明。
LOTネットワークのメンバーいずれかの特許がトロールの手に渡ったとしても、移転と同時に発効したライセンスのため、トロールはネットワーク・メンバーに対して権利行使できないような仕組み。

 

3. その他のグーグル保有特許へのアクセス

本プログラム参加企業は、他に販売可能なグーグルの「non-organic特許ポートフォリオ」(グーグルが第三者から購入した特許)ポータルへ無償でアクセスでき、購入を希望する場合、グーグルは公正な価格を提示する。



プログラム参加資格


「今回のプログラム参加は50社で締め切ります。どうぞ遅れないように」とアナウンスメントに書いてありますが、いま参加申し込みフォーム(Sign-up Form)を入手しようとしてクリックしても開くことができません。とうに受付終了したようです。


本プログラムの参加資格は、2014年の収益が50万ドル~2000万ドルのスタートアップまたはデベロッパー(startups or developers having 2014 Revenues between US$500,000 nad US$20,000,000)としか書いてありません。


これについては、FAQで「5年以上ビジネスをやっているけど、現在の収益はこのレンジに入ります。資格はありますか」という質問に対し、「要件は二つだけ。1.この収益範囲に入ること、2.グーグルと似たビジネスをやっていること(ビジネスに関連した特許を提供できるようにするため)」と答えています。



支援プログラムの真の狙いは?


いろいろ推測されています。スタートアップ企業にとってどれだけのメリットがあるのか。とりわけLOTネットワークへの参加は「諸刃の剣」になる(メンバーになれば、グーグルから譲り受けた特許だけでなく、自社の特許も他者に売る際にはLOTメンバーへのライセンスが自動的に発生することになるため、特許という売り物の価値減少につながる)などは誰もが指摘していて、グーグル自身も「プログラム参加前に弁護士とよく相談して決めて欲しい」といっています。


今回のスタートアップ企業支援プログラムのカギは、LOTネットワークへの参加を促し、ネットワークを拡大するところにポイントがありそうです。少なくともグーグルは自ら煩わされているトロールたちに特許が流れ込んでいかないようにすることおいては、相当本気のようです。

この点については、前出ipwatchdogへ寄稿しているKevin A. Rieffel氏がグーグルの戦略としてかなり明確にいい切っています。あくまでRieffel氏の見方で、氏も「グーグル内部者から聞いたわけではない」といっています。 


Google's Bigger Strateguy - the LOT Network

 

Step 1: Buy patents (i.e., Patent Purchase Promotion)

Step 2: Give patents away in exchange for participants joining the LOT Network

Step 3: Enjoy defending fewer patent infringement lawsuits

 

トロールの手に渡る前に特許を買い取る(PPP) ⇒ (このように買い取った特許も含め)手元にある豊富な特許を与える代わりにLOTネットワーク参加者をどんどん増やす ⇒ LOT傘下の特許(買い取った時点で権利行使できないライセンシーがかなり存在)が増えることによりトロールの「トローリング」意欲が減退してくる。


こんないい方もしています。「とりあえずPatent Purchase Promotionで "今日明日のNPE特許問題"を除去し、Patent Starter ProgramでLOTネットワークの輪を広げることにより "将来のNPE特許問題"解消を図った」と。


なるほど。LOTネットワークが今後どれだけ拡大し、有効に機能するかがカギになりそうですね。一方で特許としての排他権を一部制限する「諸刃の剣」的要素があるだけに、取扱いは結構難しいのではないでしょうか。

とにかく今後の展開に目が離せませんね。

8/9/2015 ヨシロー


 





 

 

第57話: 実験的特許マーケットプレイス"PPP"の成功。そしてスタートアップ向け"PSP"提案... グーグルの最終ゴールは何処に

グーグルの実験的特許マーケットプレイス "Patent Purchase Promotion:PPP"は「大いなる成功を収めた」という。2週間という短い期間内に、当初の予想をはるかに上回る数千件の特許売込みがなされた。これは、現行の特許売買システムのハードルが高く、トロールに依存しがちな中堅・中小特許保有者を、よりよい特許マーケットに導くことができる可能性を確認するものとなった。
----------------------

グーグルが、広く特許保有者から特許を買い取る実験的マーケットプレイス " PPP"の開設をGoogle Public Policy Blogで発表したのが2015年4月27日。大きな反響を呼び、同年5月8日から5月22日の2週間という受付期間中に売込み(所定の書類提出)が殺到しているらしい...というところまではここでも取り上げました。

第42話:特許マーケットプレイスは死なず...グーグルの実験的特許マーケットプレイスは如何?』(5/14/2015) 『第43話: 続・特許マーケットプレイスは死なず ー グーグルのPPPに売込み殺到!(らしい)』(5/20/2015) 

その後どうなったか気にはなっていたのです。グーグルが提示していた"Timing of Events"によれば、

5/23 - 6/26: 売込み案件に対するグーグルの検討および結果報告
7/8までに: グーグルが暫定的な購入意思を示した特許の保有者に更なる情報開示の要請
7/22までに: 開示された更なる情報を検討の上、購入を決定した特許についてはグーグルの署名済み契約書を特許保有者に送付。この後30営業日以内に支払いがなされる。

ということで、この話が出てきそうな専門家サイトをちらちらチェックはしていたのですが...ついに出てきました。こんな感じで。
InsideCounsel 8/1/2015 RICH STEEVES

どちらも Inside Counsel誌電子版のブログライターRich Steeves氏が紹介しています。それによると、グーグルのシニアカウンセル・John LaBarre氏が InsideCounsel誌のインタビューに答えてくれたようです。


PPPへ寄せられた売込みと結果
 
数千件の申し出(販売価格を提示)のうち、最低額は満了後特許の1ペニー、最高額で300兆円というものもあったが、多くは真面目なもの。47%は10万ドル以下、中央値は15万ドルだった。100万ドル以上の売値がつけられていたのは21%。

ブローカーからの売込みが35%、個人が25%、企業からの申し出は40%だった。

グーグルが関連性ありと感じた特許の28%を実際に購入した(*この情報だけ別ソース)。購入価格は最低3000ドル~最高で25万ドル。今回のように極めて短期間の審査プロセスでは、最初からミリオンダラー特許資産はターゲット外とのこと。

LaBarre氏コメント: 「やはり市場はよりよいソリューションを求めている。PPPの発表後、特許マーケットプレイスを手掛ける他社も、我々と組んで同様のことをやりたいが、PPPのような短期間のうちに処理することは不可能だといってきた。将来的にグーグルはこれをさらに広げ、グーグル主導のプログラムだけでなく、より広く産業界のサポートのもとに展開したい」


PPP誕生秘話

Inside Counsel誌の記事"PPP v. NPE"ではさらに、PPP構想が生み出され、具体化するまでの興味深い裏話を紹介してくれています。

エンジニアの20%ルールは法務チームにも

グーグルのポリシーとして、同社のエンジニアは仕事時間の20%を自由な独創的プロジェクトのために費やすことになっているそうですね。同社の法務チームもこのルールを利用して、トロールと戦うための独創的なプロジェクトについて真剣に取り組んだというのです。その結果生まれたのがこの Patent Purchase Programというわけです。

弁護士のように考えすぎるな
チームメンバーで議論をし、何度も練り直して出来あがったPPP。ただし、弁護士のように考えすぎないようにした"... a team brainstormed and refined over time, eventually deciding to launch the PPP and not "overthink it, which can happen with lawyers,"

PPPは決してパーフェクトな解決法ではない。この種のモデルを実施することによって何が起こるかを見る一種の実験と考えた、ということです。

長引かせずに短時間決定
2週間の売込み受付期間、1ヵ月の結果報告という短期処理により、売込み側が気をもむ時間を極力減らす。これこそ、特許保有者にアピールするものとチームは考えたといいます。

グーグルに売ること自体に価値を見出してほしい
パテント・アグリゲーターに売るよりも、グーグルに売る方がより有用なのではないかと思ってもらいたい。グーグルは我々の保有する特許ポートフォリオについても "evil things"はしないという歴史がある。
"We like to think it's appealing that people would be selling up to Google, and it would be perceived as doing something more useful than selling to a patent aggregator. We have a history of not doing ‘evil things’ with our patent portfolio."   ... うーん、これはどうですかね(ヨシロー)


より遠大な構想 ... PSP、そしてのその先へ

このように、自由闊達に作り上げられたPPPですが、これはトロール対策プロジェクトの一部に過ぎない...らしいです。ご存知の方も多いと思いますが、グーグルは7月23日、スタートアップ企業向けに自社の特許を無償提供するPatent Starter Programの開始を発表しました。

PPPに次いでPSP... これが一体何を意味するのか、しないのか。いろいろ言われていることを、とりあげておきたいと思います。次回。


8/6/2015 ヨシロー


 ↓ よろしければ一押しお願いします。            


                                                           
ビジネス英語 ブログランキングへ

 
                              にほんブログ村 英語ブログ ビジネス英語へ                            
にほんブログ村

                       

にほんブログ村 経済ブログ 世界経済へ                   
にほんブログ村                 



 

第43話: 続・特許マーケットプレイスは死なず ー グーグルのPPPに売込み殺到!(らしい)

グーグルが試験的に開設した特許購入マーケットプレイス "Patent Purchase Promotion:PPP" 5月8日の受付開始から10日以上過ぎたが、かなりの勢いで特許販売の申し出(Patent Offer Submssion)が寄せられているという。 

前回取り上げたグーグルの"PPP"(『第42話:特許マーケットプレイスは死なず...グーグルの実験的特許マーケットプレイスは如何?』 5/14/2015)、かなり盛況のようです。

申し出のあった特許の価格(特許保有者が提示した売り値)は1ドルのものから最高23億ドルまで。全体の40%の価格が4万ドル未満だったそうです。--- その後この情報は更新され、申し出の額は1ドルから最高35億ドル、全体の41%が10万ドルより低い額。申し出の受付期間は5/22までですから、この数字はまだまだ伸びていきそうです。
 
この情報の出所は iam-magazineブログ("The PPP may be great news for Google, but less good for the blood pressures of its patent team members" iam-magazine 5/17/2015 Joff Wild)。 5/12〜14に開催されたLES(ライセンス協会)USA, Canadaの春季ミーティングのパネルディスカッションにパネリストとして参加したグーグルの特許取引担当主任Kirk Dailey氏が語ったとのこと。

さて、Joff Wild氏のブログ記事のタイトル...要は、こういうことを言っているのです。 
 
≪このPPPは、グーグルにとって、今後いずれかのステージで問題となる可能性のある特許の大よそを把握し、真に問題のありそうな特許については手を打っておく、うまいやり方なのであろう。しかし、これらの特許についてこれから解析をし、購入するか否かを決定する担当者(無論グーグルのことだから、解析のかなりの部分が自動的に処理されるだろうが)にとっては、実に気の重い、プレッシャーのかかる作業になるだろう。ここで見落とした(ふるい落とした)特許が、後に数千万ドルの損害賠償やライセンスフィーの元になったらどうしよう、と…≫ 


なお、Joff Wild氏のブログに寄せられたコメントに、私も第42話で触れた「"Patent Notice"効果(主張)の放棄」というグーグルの条件について指摘したものがありました。法律家にとっては当たり前のことなので特にコメントする人はいなかったのかもしれませんが、初めて同じ部分に注目する人を見つけて少し嬉しかったですね。

Comments
I wonder how many of those submitting read point 8 in the Patent Purchase Promotion Agreement:
8. Submissions of patents to Google through this process do not serve as notice to Google
or provide knowledge to Google of such patent for any purpose (including, e.g.,
assertions of willful or indirect infringement). Any party submitting through this process
agrees to waive any such argument with respect to such patents.
Matthew Rappaport, IP Checkups Inc on 18 May 2015 @ 19:35
コメント
一体、特許販売の申し出をした者のどれだけが、特許購入プロモーション契約の第8項*を読んだのだろう。…… このプロセスに基づいて申し出をした者は、対象となる特許について「特許通告」の効果を主張する権利を放棄することに同意したことになるのですよ。

*グーグルの"Patent Purchase Promotion - Additional Information"の第8項のこと。正規の"Patent Offer Submission - Terms and Condition"の第4項と同様の内容です。 

5/20/2015  ヨシロー


 ↓ よろしければ一押しお願いします。            

                                       
ビジネス英語 ブログランキングへ

 
                    にほんブログ村 英語ブログ ビジネス英語へ                  
にほんブログ村

             

にほんブログ村 経済ブログ 世界経済へ         
にほんブログ村          

  

 



 
プロフィール

花村ヨシロー

記事検索
  • ライブドアブログ