実戦海外知財法務ノート

トロール/PAE、営業秘密、バイオシミラー、FRANDライセンス、反トラスト法 ...いま、グローバルな知財法務の現場で起こっていることをウォッチします

旧タイトルは『グローバルビジネスに活かす英語 - 海外法務・知財編』。 新タイトルの下、さらに実戦面に焦点を当て、グローバル知財法務の最新動向を追っていきます。

商標・ブランド

第122話・続き:最新 欧州司法裁判所判決 - 医療用品の域内並行輸入に対する商標権者の権利行使...BMS/Boehringer判決より柔軟なルールが示される(?)

第122話の続きです。ドイツ連邦最高裁から判断を委ねられた法律問題、およびそれに対するCJEUの判断を判決原文から抽出します。(Junek Europ-Vertrieb GmbH v. Lohmann & Rauscher International GmbH & Co. KG, CJEU 5/17/2018 )


付託された法律問題

≪EU商標に関する理事会規則(No 207/2009) 第13条2項は、以下の条件が満たされる場合を除き、オリジナルの内部および外部パッケージに入った医療用品に追加のラベルを貼付して他の加盟国から輸入する並行輸入業者のさらなる商業行為に対し、商標保有者が異議を申し立てることができる、ということを意味するものと解釈されなければならないのか。
      • 新たにラベルが貼付された(overstickered)商品販売に対する商標保有者の異議申立てが、EU加盟国間の市場分割に該当する
      • 新たなラベル付け(new labelling)が商品自体のオリジナル状態に影響を及ぼさない
      • 当該パッケージは、新たにラベル貼付をした者と生産者名を明記している
      • 新たにラベル貼付された商品の表示法が当該商標や商標保有者の名声を傷つけるもの(欠陥、低品質)ではない
      • 並行輸入業者が、新たにラベル貼付された商品が販売に供される前に、商標保有者に通知をし、商標保有者から要望があれば、当該商品の見本を提供する≫

理事会規則207/2009の第13条とは、商標の権利消尽に関する規定で、第2項は権利消尽の例外(商標権者が一度域内市場におかれた商標商品の並行輸入に対し権利行使できる場合)について規定しています。 

「欧州連合商標に関する理事会規則」(EC)No 207/2009 (2/26/2009) 

第13条 「商標によって与えられた権利の消尽」

      1. EU商標は、商標保有者により、またはその承諾によりEU域内市場におかれた商品に関連して、当該商標の使用を禁ずる権限を、商標保有者に与えるものではない。
      2. ただし、当該商品のさらなる商業化に対し、商標保有者が異議を唱える正当な理由が存在する場合、とりわけ、当該商品の状態が変更または損なわれる場合は、この限りではない。

CJEUの判断

≪要するに、ドイツ最高裁が知りたがっているのは、1996年7月11日のBristol-Myers Squibb and Others(C-427/93, C/-429/93, C-436/93)および2007年4月26日のBoehringer Ingelheim and Others(C-348/04)が、医療用品の並行輸入に対しても、そのまま適用される(apply without restriction)のか否か、ということだ。

商標の目的とは当該商標が付された商品の出所について保証することであり、当該商標商品に対し第三者が商標保有者の承諾なしに再包装(リパッケージング)することは、かかる出所保証に対する真のリスクを生じさせる可能性がある。

...さらに、理事会規則(No 207/2009) 第13条2項と同等の文言を有する理事会指令(加盟国間の商標法の調和に関する)(89/104/EEC(12/21/1988))第7条2項について、当裁判所は「リパッケージングに対する商標保有者の異議申し立て(本来は「加盟国間の物の自由移動」という原則に反する行為)は、それが加盟国間の取引に対する「見せかけの制限(disguised restriction)」を構成するものであれば、 受け入れられないと判断した。...ここでいう「見せかけの制限」が存在する基準として当裁判所は5つの条件を示した(BMS/Boehringer判決)。
      • ラベル付け替え商品(relabelled products)の販売に対する商標保有者の異議申立てが、EU加盟国間の市場分割に該当する
      • リパッケージングが商品自体のオリジナル状態に影響を及ぼさない
      • 新たなパッケージは、リパッケージングをした者と生産者名を明記している
      • リパッケージングされた商品の表示法が当該商標や商標保有者の名声を傷つけるもの(欠陥、低品質)ではない
      • 並行輸入業者が、リパッケージングされた商品が販売に供される前に、商標保有者に通知をし、商標保有者から要望があれば、リパッケージングされた商品の見本を提供する≫

「リパッケージング」と「リラベリング」

CJEUは、「上記5つの条件は、並行輸入業者が当該商標商品をリパッケージした場合にのみ適用される」としながらも、「リパッケージング」の概念には、商標の付された医薬品のラベル付け替え(「リラベリング」)も含まれることは先例が示している通り、といいます。具体的には、

Boehringer事件の場合 -- 以下のいくつかのパターンあり
  • 並行輸入業者の名称や並行輸入許可番号などの重要情報を含むラベルが貼付された。
  • 並行輸入業者がデザインした包装箱に詰め替えられ、商標も新たに作られた。
  • 並行輸入業者がデザインした包装箱に詰め替えられたが、そこには商標が付されておらず、当該薬の一般名のみが付された。
  • 上記すべてのパターンにおいて、新たな包装箱には輸入国の言語で書かれた患者向け案内冊子が当該商標付きで含まれていた。
要するに、Boehringer事件においては、「医薬品の元の包装箱の外側に追加のラベルを貼付しただけでなく、元の包装箱を開け、当該商品の出所国の言語とは異なる言語で書かれた情報冊子を挿入したなど、並行輸入業者による介入が問題となった」ということです。これに対し、

本件の場合、
  • 並行輸入業者は、医療用品の元の包装箱の印刷されていない部分(空白部分) にラベルを貼付しただけであり、元の包装箱は開けられていない。
  • 追加貼付されたラベルは小さく、それによって提供された情報も、並行輸入業者の名称、住所および電話番号、バーコード、central pharmacological number という、薬局への移動に必要な情報にとどまっている。

このような比較の下に、CJEUは、そもそも本件医療用品に対する新たなラベルの貼付はBoehringer判決でいう「リパッケージング」に包含されるものではなく、商品の出所を保証するという商標の目的に影響を及ぼすものではない、と判断しました。

そこで、ドイツ連邦最高裁から付託された法律問題に対する回答は、以下の通りとなったわけです。

「EU商標に関する理事会規則((EC)No 207/2009) 第13条(2)項は、並行輸入業者によって新たに貼付されたラベルが、その内容、機能、サイズ、表示、場所において、当該商標商品(医療用品)の出所保証へのリスクを生じさせない限り、並行輸入業者がオリジナルの内部および外部パッケージに入った医療用品をさらに商業化する行為に対し商標保有者が異議を申し立てることができない、ということを意味するものと解釈されなければならない。」


6/3/2018  ヨシロー  
第122話に追記したとおり、この判決の趣旨は「医薬品の並行輸入に関するルールはこう、他の医療用品の並行輸入に対するルールはこう」というものではなく、「医薬に関するBMS/Boehringer事件で示されたルールに対し、今回の医療用品に関するJunek Europ-Vertrieb事件では、より柔軟なケースバイケースの基準が示された」という性質のもののようです。タイトルもそれに伴い微修正しました。...まだ正確に把握しているとはとてもいえないのですが...。





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第122話:最新 欧州司法裁判所判決 - 医療用品の域内並行輸入に対する商標権者の権利行使...医薬品向け基準(BMS/Boehringer判決)より柔軟に(?) (追記あり)

EU商標に関する理事会規則((EC)No 207/2009) 第13条(2)項は、並行輸入業者によって新たに貼付されたラベルが、その内容、機能、サイズ、表示、場所において、当該商標商品(医療用品)の出所保証へのリスクを生じさせない限り、並行輸入業者がオリジナルの内部および外部パッケージに入った医療用品をさらに商業化する行為に対し商標保有者が異議を申し立てることができない、ということを意味するものと解釈されなければならない。
(Junek Europ-Vertrieb GmbH v. Lohmann & Rauscher International GmbH & Co. KG, CJEU 5/17/2018 )

冒頭の長い一文を日本語で書きだすだけでもかなり手間どりましたが、CJEUの判決文末尾を直訳しました。
医薬品のEU域内並行輸入に関するBMSやBoehringer判決の存在は記憶にあるのですが、正確な内容はほぼ忘れているため、復習も兼ねてとり上げることにしました。

事案の概要

Lohmann & Rauscher International("Lohmann")はドイツの医療用品メーカーであり、同社が販売する包帯に"Debrisoft"商標(EU商標登録8852279号)を付して販売していた。


Junek EuropーVertrieb ("Junek")は衛生用品の並行輸入業者であり、Lohmannがドイツで製造し、オーストリアへ輸出した"Debrisoft"包帯をドイツに再輸入して、販売していた。


2012年5月25日、Lohmannはデュッセルドルフの薬局で、"Debrisoft"商標が付された包帯を購入した。この包帯はJunekがオーストリアから並行輸入したもので、薬局で販売されている包装箱の左下には、「輸入業者名、その住所と電話番号、バーコード、薬品番号(central pharmaceutical number)」を含むラベルが貼付されていた。


"Debrisoft”包帯のドイツ再輸入に先立ち、JunekからLohmannへの通知はなく、ラベルを貼付した包装箱をLohmannに提供することもなかった。Lohmannは、Junekの行為を商標権侵害と主張し、当該商標の使用禁止、侵害商標商品の回収・廃棄等を求め、デュッセルドルフ地裁に提訴した。


デュッセルドルフ地裁はJunekの行為を侵害と認定し、Lohmannの請求を認めた。デュッセルドルフ高等裁判所も地裁判決を支持し、Junekの控訴を棄却した(ただし、差し止めの効力をドイツ国内に限定)。Junekはこれを不服とし、ドイツ連邦最高裁判所(Bundesgerichtshof)に上告した。


2015年10月6日、ドイツ連邦最高裁は、争点の一部が欧州連合法の解釈に関わるとして、欧州司法裁判所(EUCJ)の予備的判断を求め、法律問題について付託した。 


関連法

「欧州連合商標に関する理事会規則」(EC)No 207/2009 (2/26/2009)
第13条 「商標によって与えられた権利の消尽」

  1. EU商標は、商標保有者により、またはその承諾によりEU域内市場におかれた商品に関連して、当該商標の使用を禁ずる権限を、商標保有者に与えるものではない。

  2. ただし、当該商品のさらなる商業化に対し、商標保有者が異議を唱える正当な理由が存在する場合、とりわけ、当該商品の状態が変更または損なわれる場合は、この限りではない。

関連判例

ドイツ最高裁によれば、本件の結果は、医薬品の並行輸入に関するCJEU
判例(『事前の通知および商標保有者の要求に応じたパッケージ見本の提供が商標権利消尽の条件になる』)が、医療用品*の並行輸入にも適用されるか否かに依ってくる。
*原文では "medical device"であり、「医療機器」と訳したいところですが、対象品が「包帯」なので「医療用品」としておきました。

判例1)
「第三者が商標保有者の許可なく医薬品の再包装(リパッケージング)をすることは、出所の保証に対する現実的リスクになる。また、新たなラベルをオリジナルのパッケージに貼付する行為は、リパッケージングに相当する」
Boehringer Ingelheim and Others(C-143/00)(23 April 2002), 同(C-348/04)(26 April 2007)

判例2)
「商標保有者は、以下の5条件が満たされる場合を除き、商標の付された医薬品のリパッケージングを含む変更に対し、異議を申し立てることができる。
  1. 商標保有者によるリパッケージング商品販売への異議申立てが、EU加盟国間の市場分割に該当する
  2. リパッケージングが商品自体のオリジナル状態に影響を及ぼさない
  3. 新たなパッケージは、リパッケージングをした者と生産者名を明記している
  4. リパッケージングされた商品の表示法が当該商標や商標保有者の名声を傷つけるもの(欠陥、低品質)ではない
  5. 並行輸入業者が、リパッケージングされた商品が販売に供される前に、商標保有者に通知をし、商標保有者から要望があれば、リパッケージングされた商品の見本を提供する」
Bristol-Myers Squibb and Others(C-427/93, C/-429/93, C-436/93)(11 July 1996)
Boehringer Ingelheim and Others(C-348/04)(26 April 2007)


付託された法律問題、 CJEUの判断...は、次回「第121話・続き」で


5/28/2018   ヨシロー

追記:続きを書こうと思い、判決文を読んでいるうちに当初の標題『最新 欧州司法裁判所判決 - 医療用品の域内並行輸入に対する商標権者の権利行使...医薬品向け基準(BMS/Boehringer判決)より柔軟に』が甚だ不安になってきました...この判決の意味を取り違えているかもしれない。
「医薬品」に適用される基準に対し「医療用品」に対する基準は、といった二つのカテゴリーに関する基準のニュアンスになっていますが、この判決の趣旨はそういうことではなさそうです。...とりいそぎ、タイトル末尾に(?)を追加しておきます。...いま、時間の合間を見て、判決原文や本判決に対するコメントをチェック中です...さらりと続編を書こうと思っていましたが、難しい (5/28/2018 23:16)。


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第114話・続き:BREXITの話 (1)"BREXIT"商標が認められる (2)"BREXIT"後の知財権取り扱いポジションペーパー (3)"BREXIT"決定後のUPC状況

第114話 "BREXIT"商標の話に続き、BREXIT後の知財取り扱い、UPC(欧州統一特許裁判所)実現に向けた現状についてとり上げます。

(2)"BREXIT"後の知財権取り扱いポジションペーパー

2017年9月7日、欧州委員会は、英国によるEU離脱後の知的財産権の取り扱いに関するポジションペーパーを発表しました。(Position papertransmitted to EU27 on Intellectual Property rights (including geographical indications))


これは、2019年3月末に予定されている英国のEU離脱後に影響が生ずる知財権の取り扱いについてEUの考えをまとめたものであり、全5頁という比較的短いもの。英国以外のEU加盟27カ国で協議された後、英国に提示される予定です。ペーパー骨は以下の通り。


EU離脱により不確実性が生ずる3項目
  1. 特定の知的財産権の英国における保護範囲
  2. 特定の権利における出願の取り扱い
  3. 権利の消尽

英国とEUとの間で締結される離脱協定(Withdrawal Agreement)においては、この不確実性により生じうる双方の不利益を最小限にすべく、以下の取扱いを確保すべきである。

  • 欧州単一効をもつ知財権(intellectual property rights having unitary character, 以下「単一効知財」)の英国またはEU加盟27カ国の保有者が、英国の離脱日前にEU法に基づき英国で享受している保護は、離脱によって弱められることがないようにする。* 離脱日以降、これらの知財権は英国において、追加の費用負担なしに自動的に確認されるものとする。
  • 離脱日時点でEU内で係属中の単一効知財権における、手続き関連の権利(優先権など)については、対応する英国知財権の英国出願に際し、失われることがないようにする。
  • 離脱日前に英国で係属中の補足保護証明書(SPC)またはその期間延長の申請は、EU法で定められた条件に基づき遂行されるようにする。
  • 離脱日前に英国およびEU加盟27カ国において保護されているデータベースは、離脱後も保護を享受できるようにする。
  • 離脱日前にEU域内で消尽した知財権は、離脱によって影響を受けることはないものとする(離脱日以後も消尽したまま)。権利消尽の条件は、EU法で定義されたものに基づく。
 
定義「欧州単一効をもつ知財権」とは以下を含む。
  • 欧州連合商標
  • 登録共同体意匠
  • 未登録共同体意匠
  • 共同体植物新品種権
  • 地理的表示保護/原産地表示保護

以上の通り、内容自体は特に想定外のものもないようですが、欧州連合商標などEU全域に効力の及ぶものとして認められた知財権については、英国の費用負担と努力により維持されるべきことを要求しています。英国政府としてはどのように応ずるのか、英国側ポジションペーパーはまだ公表されていません。


(3)"BREXIT"決定後のUPC状況

UPCの進捗については、いろいろなところで紹介されているので手短に。

BREXIT投票後の英国政府によるUPC批准意向を受けて、2017年初めにはUPC準備委員会も、2017年12月1日のUPC開始、オプトアウト申請の先行受付(sunrise period)を2017年9月1日からとする暫定スケジュールを発表していました。

当初予定の2017年12月1日UPC運営開始は消滅。2018年へずれ込む

しかしその後、英国では総選挙などにより批准が遅れ(2017.12.1 開始のためには3月には批准される必要があった)、さらに必須批准国のドイツで遅延要素が発生しました。2017年に入り、UPC協定の批准を憲法違反とする訴訟がドイツ連邦憲法裁判所に提起され、独大統領による批准承認の署名直前で待ったがかかってしまったのです。

これを受け、2017年6月27日、UPC長官も12月1日の運営開始は不可能になったことを表明しました


ドイツ違憲訴訟がポイントに

その後、英国でもUPCでも、それぞれ批准、運営開始に向けた手続きや作業が進められていますが、2018年中に開始できるか否かは、ドイツの違憲訴訟の進展如何によりそうです。

 この違憲訴訟を提起したのはドイツ人弁護士。以前からUPCの反対論者として知られていた人物だったらしいです。憲法裁判所は、訴えを受理するか否かの判断に先立ち、ドイツ司法省、ドイツ弁護士連合会、欧州特許弁護士協会などに意見書の提出を要請しているということです。(参照:Complainant against UPC ratification in Germany confirmed as Ingve Stjerna (Mark Schweizer IPKAT 9/7/2017)) 

訴えが受理されれば、ドイツによる批准がさらに先延ばしにされることになり、「結局UPCの運用開始は、英国がEUを離脱する2019年3月29日以降になるだろう」という根強い声の通りになりかねません。

予断を許さない、という状況だと思います。今後もタイミングを見てとり上げるつもりです。


10/8/2017  ヨシロー




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第114話:BREXITの話 (1)"BREXIT"商標が認められる (2)"BREXIT"後の知財権取り扱いポジションペーパー (3)"BREXIT"決定後のUPC状況

久々に"BREXIT"の話をとり上げます。当ブログでとり上げたのは、"BREXIT"を決定したイギリス国民投票の直前でした。『第87話: "Brexit"か"Bremain"か...イギリスのEU離脱/残留決定が欧州統一特許制度に及ぼす影響』(6/13/2016) そして、まさかの離脱決定。それから約1年3ヵ月経過後の出来事をいくつかとり上げます。

(1) "BREXIT"商標が認められる
2017年6月28日 欧州連合知的財産庁(EUIPO)審判部は、英法人Brexit  Drinks Ltd.(BDL)による"BREXIT"商標登録を不適格とする根拠はないとして、出願を拒絶した同庁審査官の決定を取り消しました。
(Decision of the Second Board of Appeal of 28 June 2017  In Case R 2244/2016-2) 

BDLによる"BREXIT"商標出願の区分は、第5類、32類、34類で、食品サプリメント、エナジードリンク、ビール、タバコなどを指定商品としていました。

審査官の拒絶理由:欧州連合商標規則7条(1)(b)および(f)に基づく不登録事由に該当する
  • 規則7条(1)は不登録事由を列挙しており、(b)は「識別力に欠ける商標」、(f)は「公共政策や、一般的に受け入れられている道徳原則に反する商標」を登録不適格としている。 

≪"BREXIT"という語は、英国による欧州連合の離脱を意味しており、すべての欧州市民によく知られている。国民投票をめぐりネット上でも広く議論の対象になり、イギリス国民だけでなく欧州社会全体に大きな影響を及ぼした。

規則7条(1)(f)の適用において、出願対象のマーク自体が違法であったり侮辱的である必要はないが、そのマークを商標登録し、独占させることが違法あるいは侮辱的とみられる場合がある。

"BREXIT"という語が、作られた本来の意味ではなく、ダイエット用サプリやエナジードリンクなどの単なる「商品の表示」として欧州連合商標の登録を認められたならば、欧州連合の市民の感情が強く害される可能性がある。本件マークは、欧州の平均的な消費者、とりわけEU残留に投票した48%の英国民の感情を害しかねない...。

"BREXIT"という語は、様々なメディアを通じて集中的に使用されたことによって、英国によるEU離脱を意味する標語としてのみ認識され、本件指定商品の出所表示となりえない≫


審判部の決定: 以下の理由により、審査官の決定を取り消す

規則7条(1)(f)について

(f)項は、登録出願されたマーク自体に内在する性質によって評価されるべきであり、出願人の行為に対する平均的消費者の認識などといった外部状況によって評価されるべきではない。

(f)項でいう道徳原則とは、悪趣味、正しいマナー、あるいは個人的感情とは何ら関係がない。
"BREXIT"という語は、リスボン協定に従い、かつ英国憲法要件を満たした、主権国家による政治的決定を体現したものであり、道徳的意味合いは一切もたない。

欧州の平均的消費者、とりわけEU残留を支持した市民の感情を害しかねない、という審査官の認定には、証拠による裏付けがないことが明らかである。さらに、このような理由で商標登録を拒絶することは、EU基本権憲章(Charter of Fundamental Rights of the European Union)第11条で定める表現の自由に反する恐れもある...。

*審判部は、"BREXIT"という語から、より強く感情的影響を受けるであろう英国においてさえ、すでにいくつかの"BREXIT"商標が登録されている例を示している。
  • "BREXIT THE MUSICAL" (第41類)
  • "English Brexit Tea" (第4類, 30類)
  • "BREXIT BLUE" (第29類)
  • "BREXIT" (第9類,21類,25類,35類)

規則7条(1)(b)について

"BREXIT"は英国によるEU離脱を意味する標語としてのみ認識されいるため、当該商品の出所表示になりえないという審査官の判断は誤り。むしろ"BREXIT"商標は、先例によって確立されたすべての基準を満たしている。

1) このマークは「記憶しやすい(memorable)」というより、極めて記憶しやすい。"BREXIT"商標のついたエナジードリンクやタバコを買った人々は、将来同じ物の購入を避けたり、繰り返したりするうえで迷うことはないであろう。

2) このマークは「賞賛的な(laudatory)」ものではない。他者の競合製品と比べ品質において優位にある、といった意味合いを含むものではない。販促要素を含む"made in Britain"のようなことばとは区別されるべき。

3) "BREXIT"は、遊び心も備えた造語(coined word)であり、本件指定商品に関連づけて使用されると、要求されるレベル以上の識別力を有する。(注:ここはかなり意訳しています)

4) 商標の識別力判断に際しては、第一に指定商品に照らし合わせて評価し、次に関連消費者の認識に基づいて評価しなければならない。"BREXIT"という語は、当該指定商品やその品質について何らかの情報を伝えるものではなく、称賛的メッセージを記述するものでもない。

以上の理由により、本件商標は出願対象の商品について明らかに識別力を有していると判断できるため、審査官の決定を無効とする。



"BREXIT"商標審決の紹介はここまでとしておきます。次回、9月7日に欧州委員会が発表したBREXIT後の知財権扱いに関するポジションペーパーと、欧州統一裁判所(UPC)実現への動向について、少し触たいと思います。


10/1/2017  ヨシロー  ... 審決書を読んでいるうちに、私も"BREXIT"商標の登録申請をしたくなってきました。新橋辺りの店で『居酒屋 BREXIT』なんてどうでしょう。欧州店よりさらにdistinctivenessが増すこと請け合い!?




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第92話:商標・ブランド管理者の悩みどころ - "bullying"といわれるのはイヤだけど、"genericide"は阻止せねば

久々に「商標・ブランド」カテゴリーのトピックをとりあげます。先日、専門(家)サイトをチェックしていたところ、見慣れない"genericide"ということばが気になったからです。 これなんですか?

"Genericide:  a word that strikes terror in the hearts of any trademark owner or brand manager" Joel T. Beres, Stites & Harbison PLLC, mondaq.com 7/26/2016


商標殺し

読んでみたところ、商標実務、ブランド管理のご担当者にはお馴染みの、「商標の普通名称化」のことでした。当初は自他商品・サービスの識別標識として使われていた商標が、あまりに広く知られたがゆえに、徐々に当該商品・サービス自体を表す一般的名称/普通名称(generic term)として認識されてしまい、商標としての出所表示機能を失ってしまう(葬り去られてしまう)ということです。 商標世界での"homicide"(殺人)、それが "genericide"というわけです。

What exactly is genericide?  It's the trademark equivalent of homicide.  It is when a mark becomes so successful and  well known for a given product or service in that it no longer is source identifying.  Rather, the mark identifies the class of product or service and has become generic – thus killing the trademark. 

記事の全体内容は、普通名称になってしまった商標の代表例を挙げ(オーチスエレベータ社のエスカレーター、バイエル社のアスピリン、デュポン社のセロファンなど)、このような普通名称化を回避する方法について提言するもので、特に新たな動向などを指摘するものではありません。(ただし、≪普通名称化を防ぐための世間への教育法≫におけるゼロックス社の有名な広告例≪"You can't Xerox a Xerox on a Xerox. But we don't mind at all if you copy a copy on a Xerox® copier."≫(自社商標を、動詞としても、名詞としても使わせない。あくまで形容詞として使うよう教育)の紹介など、非常に面白い話が多いです。...もっとも、いまどき「コピーとって」の代わりに「ゼロックスとって」などという人はいないので、これを面白いというと齢がわかってしまいますね)

とにかく、この"genericide"ということば、私にとっては新しく、また一つ勉強になりました。...と思っていたのですが、間違い。忘れていただけでした。2年半ほど前から気になるトピックを拾い、とりあえず放り込んでいるEvernoteのすべてのノートを"genericide"で検索したところ、いくつか出てきました。


「商標によるいじめ」か正当な商標保護か...ブランド管理者のジレンマ 

最初の記事に出てくる"trademark bullying"ということばは、以前からよく見かけていました。有名ブランドをもつ大手企業などが、自社ブランドを保護するための正当な権利行使や取り締まり行為をしていても、大企業であるがゆえの「ダビデ vs. ゴリアテ」パターンをあてはめられ、「商標によるいじめ」として糾弾される例がよくあるようです。

なかには、本当にいじめ、いやがらせ的行為もあり、問題視されているようですが、上記記事の通り、なかなか「正当な権利行使か、いじめか」の線引きが難しい。最近では、正当なブランド保護のための取り締まり行為に対し、SNSを利用して対抗するケースも増えているようです。そこで、とりわけ消費者イメージを重視する大手ブランドメーカーのジレンマが生ずるのです。

自社商標の不正な使用の取り締まりを怠ると、普通名称化(genericide)や放棄扱いを引き起こし、商標保護を失うことになりかねない。商標所有者が商標権侵害者に対し、積極的に権利行使しなければ、権限なき者が当該商標を商取引において使用することを排除できる商標所有者の権利と、この無形財産の価値は、あっという間に浸食されてしまうのだ。(前出Roxana Sullivan & Luke Curran)


このように、"trademark bullying"と"genericide"という語は至極当然にセットで登場してくるわけですね。
それにしても"trademark bulling"、なかなか厄介な問題らしいです。"genericide"絡み以外で他に拾ってあるいくつかの記事を挙げておきます。



最後に、"genericide"の意味について、普段は一般的用語の辞書として利用している"英辞郎 on the WEB"で、念のため調べたところ、『〈俗〉一般名称化による商標権の消滅[制限]◆【語源】genericize + -cide』と、ほとんど完璧な説明が出ていました。まさか、「英辞郎」にあっさりと出ているとは思いもよらなんだ...失礼いたしました。


7/31/2016  ヨシロー



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第35話:米連邦最高裁が商標事件で重要判決 - 誤認混同争点に関するTTAB決定は侵害裁判所を拘束する

≪商標登録手続きにおいて、商標審判部(Trademark Trial and Appeal Board:TTAB)が誤認混同のおそれについて下した判断は、後の侵害訴訟において同一の争点を判断する裁判所を拘束しうる。この「争点排除効」は、裁判所で争われている当該商標の使用態様が、TTABが判断した使用態様と実質的に同一であるかぎり生じうる≫ (B&B Hardware, Inc. v. Hargis Industries, Inc., USSup.Ct., 3/24/2015)
 

2015年3月24日、連邦最高裁は7対2の多数決で、今後の商標紛争の解決方法に大きな影響を及ぼすであろう判決を下しました。ここ数年は特許事件を取り上げることに積極的で、しかも特許権者に厳しい最近の最高裁の動きにばかり注意をとられ、最高裁の商標事件は久々に見た気がします.....と思ったけど、そうでもないですね。

ついこの間、重要そうな最高裁商標事件の判決が出て(Hana Financial, Inc. v. Hana Bank, USSup.Ct. 1/21/2015)、面白そうなケースコメンタリーも出ていたので、ここで取り上げておこうか迷ったことをすっかり忘れていました。「連邦最高裁が商標"Tacking"について判決 - 商標を現代風に変える際のリスク」 Supreme Court Holding Emphasizes Risks In Modernizing Trademarks(mondaq.com 2/2/2015 Michael D. Hobbs Jr Troutman Sanders LLP)

さて、このB&B判決、冒頭の一説は判決原文から引いたものではありません。米弁護士の紹介記事です。英語学習材料としても、キーワードがコンパクトな一節の中に詰まっていて感心する、否、ありがたいのです。

In a 7 – 2 decision issued March 24, 2015, the U.S. Supreme Court held that decisions of the Trademark Trial and Appeal Board (TTAB) on the issue of likelihood of confusion, made in registration cases, can be binding on courts in deciding the same issue in subsequent infringement cases. Such "issue preclusion" will likely arise if the uses of the marks before the court are materially the same as the uses considered by the TTAB.  

キーワードとしては、類似する商標により(関連)消費者が商品やサービスの出所等について「誤認混同するおそれ」(likelihood of confusion)。この「おそれ」というひとつの争点に対するTTABの判断が、後に侵害訴訟について判断する裁判所を拘束する(再度争うことを排除する)「争点排除効」(issue preclusion)。争点排除効については、"collateral estoppel"という語もinterchangeablyに使われています。...その使い分け方法? 私は知りません...  そして最後に出てくる「実質的に...」(materially)、といったところでしょうか。 
* 用語についてはもうひとつ、昔大学の先生に「trademarkは商標、markは標章と訳す」と教わったような気がしますが、どうもその通りにするのがしっくりこなくて...正確でない使い方を続けています。

最高裁の判決原文(全40頁)、冒頭Syllabus部分では次のように表現しています。

So long as the other ordinary elements on issue preclusion are met, when the usages adjudicated by the TTAB are materially the same as those before a district court, issue preclusion should apply......

ひとつ留意すべきは、常にTTABの判断に争点排除効が生ずるとはいっていないこと。排除効が生ずるか否かは、争われているそれぞれの商標の現実の使用態様が、商標出願や登録手続き時に特定されていた使用態様と「実質的に異なって」いないかによる、というわけです。
これについて最高裁は、「争っている商標の市場における現在の使用態様について、TTABが検討していなかったのであれば、TTABの判断に、後の訴訟に対する排除効をもたせるべきではない。訴訟の場では、まさに市場における実際の使用が重要争点になっているのだから」と述べています。

時間の関係でここで止めますが、とにかくこのB&B事件(紹介順序がすっかり逆になりましたが、航空宇宙産業で使われるメタルファスナー用”Sealtight"登録商標を有するB&Bが、Hargisのメタルスクリュー用"Sealtite"商標登録申請に対し異議申立てをし、後に侵害訴訟も並行して行われていた事件です)、判決直後からそのインパクトの大きさが指摘されています。

TTAB手続きの重要性が増し(コストも)、後の裁判への影響を鑑み、TTAB段階での記録をしっかり構築し、保管しておくことなど、これまでと取り組みが変わってくるだろうということです。

上でいくつかキーワードを挙げましたが、今後は、”After B&B”というものが商標・ブランド担当者にとっては重要なキーワードとして加わることになりそうです。

3/31/2015  ヨシロー



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第8話: ハードルが高くなった商標ケースでの「回復不能な損害」証明

今回は初めての商標ネタです。アメリカの商標侵害についての話。

The High Hurdle Of Irreparable Harm In Trademark Infringement Cases ( mondaq.com.  11/26/2014 Barnes & Thornburg's Intellectual Property Law Department,  Barnes & Thornburg)

"irreparable harm"ということばは、特許侵害訴訟の判決を読んでいるとよく見かけましたが、商標事件ではあまり見かけませんでした(というより、商標事件の判決文をあまり読んでいなかったので、何ともいえません)。

とにかく、"irreparable harm"というのは、法的救済の一つとしての「差し止め命令(injunction)」を求める場合に立証すべき要件の一つです。差し止め命令という特別救済が認められるためには、通常の救済である「損害賠償(damages)」だけでは「回復しえない損害」が生ずることを証明しなければならない、ということだと思います。

ただし、特許事件の場合、特許侵害の事実さえ立証されれば、自動的に「回復不能な損害」が推定されるという特別扱いをされていました。ところが2000年代に入り、「パテント・トロール」が台頭し始め、差し止め命令という強力な武器をテコにした事業会社への脅迫が問題視されるようになったため、2006年のeBay事件最高裁判決により、修正されたのです。... 確か、そうだったと思います(かつて一生懸命読んだ記憶に頼っています)。

要するに、eBay事件において連邦最高裁は、もはや特許事件を特別扱いにはしない、特許事件でも他の事件と同様、「回復不能な損害」について個々に立証する必要がある、という旨を述べました。

以上の知識のみを背景に、今回初めて商標事件の事情を読んでみました。

Due to the reputational harm caused by trademark infringement, courts historically held that infringement led to the presumption of irreparable harm. This presumption afforded trademark owners the advantage of not having to produce evidence that the loss of goodwill would be irreparable in order to obtain an injunction. With recent Supreme Court and circuit court decisions, the presumption has gone away, leaving trademark owners with a much more difficult battle in staving off infringements.


商標侵害は名声/評判に傷をつけるので、伝統的に裁判所は、侵害があれば回復不能な損害が推定されると判断してきた。この推定により、商標権者はグッドウィル(のれん、信用)の喪失が回復しえないことの証拠提出責任を免れるというアドバンテージを得ることができた。最近の最高裁と巡回控訴裁判所の判決により、この推定はなくなり、商標権者は侵害阻止の戦いにおいてより困難な立場に置かれることになった 

要するに商標の場合も、特許の場合と同様の特別扱いがされていたところ、eBay判決により特別扱いがなくなってしまった、ということのようです。
In 2006, the Supreme Court changed the injunction landscape with its decision in eBay Inc. v. MercExchange, L.L.C ,547 U.S. 388 (2006). eBay rejected the automatic presumption of
irreparable
harm in patent infringement cases,...... After eBay  and Winter, courts began to address the issue in the trademark context.

ここまでにしておきます。元ネタは事例についてもより具体的に紹介してくれていますよ。

12/2/2014 ヨシロー








 
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