2015年10月27日

小説『ケイローン奇譚』宇宙シリーズ【外伝】――いて座#16

 戦団が合同したきっかり24時間後、アルナブの率いる小戦団は、ヒドラと<ケイローン>に別れを告げた。目的地は地球だった。
 ハウ・メアを探しだし、真相をつかむこと。高水準にあるDOXAの宇宙工学に頼み、<ケイローン>の超光速航行システムを修理できる見通しをつける使命をおびて。
 ほんの数か月前まで砲火を交えていた相手との実質的な平和外交といえた。だが核の惨禍や厖大な被害を受けてきた地球圏の人々が、そう簡単に外交ルートを開くとは考えられない。しかし、アルナブには切り札と呼べるものがあった。
 かつて戦火やまぬなか、停戦を呼びかけてきた人物がいることを思いだしたのだ。ユピテール・オラニエ、DOXA最高副議長だった。当時は戦意旺盛な暗黒崇拝教だっただけに、停戦などもってのほかと判断し、情報を握りつぶしたのだが、いまはそれに懸けるしかなかった。
 アルナブはスクリーンの捉えた<ケイローン>を悲しい想いで見つめつづけた。その彼女の乗る<ウェルキエル>を見つめる目があった。<ケイローン>艦上のヒドラだった。黒真珠色ブラックパールのまだ若い星と、橄欖緑色オリーブグリーンの壮年期の巨星が無言のうちに遠ざかってゆく。 
 アルナブにとってヒドラそのものといえる<ケイローン>がスクリーンから消えたとき、小戦団は超光速航行に移った。ときを同じくして、アズライール団も超光速航行に突入した。たった一隻となった<ケイローン>は、ノズルから火炎を迸らせ、通常空間を海王星へと進んでいったのだった。
 宇宙は静寂につつまれていた。
「報告申し上げまず」
 <サリティエル>艦橋には疲労困憊しきったフォルクマールの姿があった。
「万事完了です、問題はありませんよ、臨床結果も良好です」
 ニハルはひとまず博士を手近にあった椅子に座らせた。
「よくやってくれました、礼をいいます。これから少々うるさくなるやもしれませんが……」
「いよいよドンパチですかい、もう慣れっこですが、あんまりいいものじゃあないですな」
「すぐに終わります。いや、終わらせなければならんのです。とにかくあなたは休んでください」
 そういうとニハルはフォルクマールを立たせて、艦橋の入口まで送っていった。
「では、お言葉に甘えて酒でも飲んでしばらく寝入りたいのですが、そのーなんですなァ……」
「待っていてください」
 そういうとニハルは小走りに去ってゆき、やがてウォッカとブランデーを一本ずつ手にして戻ってきた。
「お口にあいますかな? 兵に見つからないようにしてください」
「これはこれは、かたじけない」
 フォルクマールは目を細めて瓶を撫でていた。
「実はまだお願いしたい事があるのですが、まあいいでしょう、それは今度ということで」
「全くあなたの人使いの荒さには目が回ったよ、けどこいつのお礼はさせてもらいますよ」
 フォルクマールは手にした瓶を掲げて見せた。
「それじゃあまた」
「ええ、それじゃあまた、ごきげんよう」
 ニハルは地球圏の挨拶を交わした自分が滑稽に思えた。だが、指令席に戻った彼の顔は戦士そのものだった。
「全艦に通達せよ、アズライール団到着と同時に作戦を開始する。地上戦を覚悟の戦いになろう、心残りなきよう神に礼拝をなせ、これは命令である。予てから伝達してあるとおり、無為の虐殺、略奪はこれを禁ずる。ここはわれわれの母なる大地であることを忘れるな」
 こうして海王星降下作戦は開始された。
 疾風のごとき戦闘だった。調べつくされていた海王星防御砲火を避けて四方八方から同時に降下をはじめたクルアーン団に対して、ヘルメルは為すすべを持たなかった。戦闘艦を発進させてBH砲を撃つ暇もなく、核ミサイルは強襲降下した上陸隊によって発射管制室を占拠され、ようやく使用可能な防御火砲も駆けつけてきたアズライール団のピンポイント砲爆撃によって沈黙させられたのである。
 ヘルメスに撤退の場所はなかった、降伏か死という選択肢しか残されていなかった、彼は降伏を選んだ。混乱に乗じた小規模の暴動もあったが、すぐに鎮圧された。海王星は驚くべき短時間でニハルによって完全に掌握されたのである。

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―#16―


ipsilon at 06:53コメント(0)小説『ケイローン奇譚』宇宙シリーズ【外伝】――いて座  

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