2018年07月06日

マキャベリ『君主論』を読んだ

E・ギボン『ローマ帝国衰亡史(普及版)』の訳者あとがきに、『君主論』と併せて読んでもらえれば、一層理解が深まるだろうとあった。
そういうことで手にとったのが本作だ。そうして読んでいくなか、彼の訳者がなぜそういっているのかがよくわかった。
両タイトルを読むことによって、政治と宗教の歴史的実例を、『ローマ帝国衰亡史』では物語性を通して、『君主論』では箇条書き的かつ論理的に要点を知れると実感できたからだ。

もちろん、世界の政治と宗教にはローマ以外にも豊富な実例がある。
だが、人類が勃興させ、衰亡したあらゆる国家と比較したとき、ローマ帝国という版図の広大さ、国家が維持された長い期間を見れば、いきおいローマ帝国の体制や政治の変化とそれへの対応や衰亡過程を眺めておけば、人類文明国家への理解はほぼ十分なわけだ。

ともあれ、ローマ史を『ローマ帝国衰亡史』のような物語を通してで学んでいくと、人物像がくっきり浮き上がってくるという印象があった。
だが他方で政治や文明の進歩・維持に対して何が大事かということの要点がぼんやりしてしまう面もあった。そして、そうした点をくっきりさせてくれるのが、この『君主論』だといっていい。

だから『君主論』は、非常に読みやすかった。
全26章だてなのだが、短いものだと1章が2頁ほど、長くとも10頁ほどなのだから。よって全体の分量も少なく、マキャベリ本人が「小冊子」と呼んだことも納得できる。岩波文庫版は、『ブッダのことば』やビンドゥーの聖典『バガバッド・ギーダー』のように、厚みの半分が注釈に費やされているので、『君主論』の場合、本編は200頁にすぎない。

内容を簡素に述べるなら、政治とは性悪なものだが、君主となるからには、ここを押さえておけば名君と呼ばれるということを、実に端的かつ簡潔に語っているものだ。
詳細をここで語るつもりはないが一例を出すなら、こういう感じだろう。

軍隊こそ政治上最も重要である。なぜかなら、最終的に統治や支配を確実にする力は軍隊であるから。
だが、その場合注意が必要である。軍は自軍であるべきだ。軍には傭兵、同盟軍などがあるが、傭兵や同盟軍は戦いに勝とうが負けようが、結局は我が身のことしか考慮していないのだから。ゆえに軍隊は自軍であらねばならない、と。

例えば、強力な同盟軍の援護によって戦いに勝利した場合。勝ったところで、同盟軍に「俺たちみたいな強力な助っ人がいたから勝てたんだから、この外交政策を受け容れろ!」などと干渉され、結果、自国の利益を脅かされるからだ、といった調子だ。


なんだかどこかで見たような構図ですな。
そう、まさにそうだ。現在の日米同盟の構図がこれなのだ。

では、マキャベリの言う如く、日本は強武装中立を確保するため、優れた自軍を持てばいいのか?
わたしの考えでは否だ。なぜかなら、我が国にはそうした強武装化をするための資源もなければエネルギーもないし、そのうえ強武装化するためには、民需を軍需にふりかえ、国民に負担を強いることになるからだ。
富国強兵! そんなことを叫んで、物資を配給制にしてまで歩んだ過去の歴史を顧みてみればいい。そこまでやっても、戦死より病死・餓死を多く生んだ軍しか持てなかったことを思い出せれば、わたしがなぜ「否だ!」と判断したかは理解できるだろう。

ならば資源やエネルギーを恒久的に確保するための輸送路、つまりシーレーンを厳重に確保すればいい。
さてそうでしょうかね。その為にまた軍事力が必要ですから、そういうことをすれば、民需はなおさら圧迫されて、国民の暮らしはやせ細る一方じゃあないんですか?
いや、やせ細るどころか、軍が巨大化すれば当然それに見合った人員の確保が必要になり、徴兵制ということもまた当然になることも視野に入れておく必要があるだろう。

つまりこのように、日本という資源やエネルギーのない国土国家が軍事力に頼って云々しようとすればするほど、国民は貧しくならざるを得ないということだ。だから、日本という国土国家の使命は、軍事力ではなく、強力な同盟軍に頼って同盟軍に隷属するでもなく、知的なソフトパワーでもって世界の平和に貢献する生き方を選ばざるを得ない、わたしはそう考えるわけだ。
こうしたことを思考できない人々は平和安全法制に賛成されたんでしょうがね。


いかに人がいま生きているのかと、いかに人が生きるべきなのかとのあいだには、非常な隔たりがあるので、なすべきことを重んずるあまりに、いまなされていることを軽んずる者は、みずからの存続よりも、むしろ破滅を学んでいる

マキャベリもまた、政治においてすら「今ここ」が重要だと言っている部分だ。
立法するにあたって最も重要なのは立法事実があるかだと言っているわけだ。
我が国は情けなや、明確な立法事実もなく、それがあったように見せかけ、検証のためのデータをねつ造までして働き方改革法案を押し通したわけだ。政治家ってのは本当に馬鹿だ。どうやらこの国を破滅させたいらしい。
もちろん、そういう政治家を輩出している主権者の国民に最大の責任があるわけだが。


君主たる者は、わけても新しい君主は、政体を保持するために、時に信義に背き、慈悲心に背き、人間性に背き、宗教に背いて行動することが必要なので、人間を善良な存在と呼ぶための事項を何もかも守るわけにはいかない。

M・ウェーバーの言った政治にある「悪の倫理」をマキャベリは、上述のように言っているわけだ。
この抜き書きから、すでに政治と宗教の両立や一致がいかにまがい物かは垣間見れるのだが、マキャベリはそのことを「第11章 聖職者による君主体制について」で、よりはっきり述べてもいる。

では結局、政治とは(君主、あるいは政治家とは)どうあるべきなのか?
マキャベリはこう述べている。

もしある者が慎重かつ忍耐強く統治して、時代と状況がその統治を良とするように回るならば、彼は栄えてゆくであろうから。だが、もしも時代と状況が変われば、彼のほうが行動様式を変えないかぎり、滅びてしまう。


時代の変化に敏感であり、なおかつ柔軟であれ、そう言ってるのだ。
ローマ帝国というのは、そういう意味で、相当に柔軟だったとわたしは見ている。
そもそも帝国には現代のように込み入った法律体系というものは存在せず、ある事態が起こったなら、それに対応して法令をその度ごとに出し、必要がなくなったらなら、法令を撤回し、ローマ市民の良識をある程度維持しようとしてきたわけだ。
ここにローマ人の大きな智恵があると、わたしなどは思うのだ。

つまり、民主主義というのは、民衆自身が政治や政策を意識しなくても、国家運営があるていど維持されてゆく高度なモラルがない限り、政治家連中の作った法律でがんじがらめにされるだけだ、ということだ。
ところがどっこい、民衆がもっともやりたがらないのが、自主的に良心をもってモラルを維持するということなのだ。

ゆえに、英国首相だったチャーチルなどは、こう言ったわけだ。

民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが。

まあもうこの一文からして、政治というものがいかに醜悪なのかはわかる。
しかしチャーチルが凄いのは、政治家でありながら、政治の醜悪さをきちんと理解していたということなわけだ。

どこぞの国の馬鹿政治家のように、「われわれの政策に間違いはないのだ!」と口綺麗なことを言いもしないのが名政治家だというわけだ。

ipsilon at 22:00コメント(0)  

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