2018年07月08日

ルソー『社会契約論』(3)

Q:なぜ立法者が必要なのか?
A:個人については、その意志を理性に一致させるように強制しなければならない。公共については、それが欲するところのことを教えてやらなければならない。そうすれば、公衆を啓蒙した結果、社会体の中での悟性と意志との一致が生まれ、そこから、諸部分な正確な協力、さらに、全体の最大の力という結果が生まれる。この点からこそ、立法者の必要が出てくるのである。

『社会契約論』(1)のところで述べたが、立法者という存在がいかに神がかりな者であるべきかは、上述のルソーの言葉から容易に理解できよう。
政治に「悟性(換言すれば良心)」という概念を見ているあたりが、実に高邁だといえよう。
理性が善悪の判断であるならば、悟性はそれより高次元の精神であり、善悪を超えた判断を悟性と解釈しているわけだ。
残念ながら、多くの人がこの概念に到達しない以上、政治はいつまでたっても善悪、つまり損得でしか動かないままだということだ。

ルソーは民主主義は最も「徳」が必要とされる政治形態だともいってますからね。
もちろん、ここでいわれている「徳」は「悟性」のことだ。善悪や損得や利害を判断する低次元のものではない。
アリストテレスのいっている「徳」のことだ。

すべての人々の最大の善は、あらゆる立法の体系の究極目的であるべきだ。それが正確には、何から成り立っているかとたずねられるなら、われわれはそれが二つの主要な目的、すなわち自由、、平等、、とに帰すことを見出すであろう。自由――なぜなら、あらゆる個別的な従属は、それだけ国家という[政治]体から力がそがれることを意味するから。平等――なぜなら、自由はそれを欠いて持続できないから。


Q:では翻って、優れた立法者をもつにはために人民に必要とされている資質があるのか?
A:ある。人民に必要とされる資質はあるし、要約もできる。

例えば、土地と人民の比率(人口密度)であるとか、人民と気候風土の関係性だとかルソーは述べているわけだが、とりわけ重要なことは以下の一点に集約されている。
その全構成員が構成員の一人一人をよく知りぬいており、一人の人間にたええないような大きな負担を、一人の人間に負わせなければならぬことのない人民、他の人民なしにすますことができ、他のすべての人民もそれなしにすますことのできる人民、金持ちでも貧乏でもなく、自給自足できる人民、要するに、古代の人民の堅実さと近代の人民の従順さとをあわせもった人民こそ、それである。

つまり、個人が個人として自立しつつ協調性をもって全体に奉仕する意志があり、そうした意志からおこる行為によって貧富の格差を是正し、全体が衣食住に窮しないように配慮できる、高い精神性をもった人民ということだ。
ようするに、いかに神がかった立法者がいても、自分のことしか考慮しないような人民ばかりであれば、まともな国家運営は不可能だとルソーはいっているわけだ。

民主制、もしくは人民政治ほど、内乱・内紛の起こりやすい政治はないということをつけ加えておこう。


Q:立法者と人民の関係はわかった。では、実際にはどのような法が必要なのか?
A:大きくわけて4つである。

第一には、自分自身に働きかける全体[政治]体の行為、すなわち、全体の全体にたいする関係、いいかえれば、主権者の国家に対する関係である。
つまり、「憲法」がそれにあたる。主権者が国家権力(立法者)を縛るための法がまず第一ということだ。

つづく二つは、いわゆる立法者が国民に対して課す法だ。
つまり、刑法と民法がこれにあたる。

そして最も重要なのが4つめの法であるとルソーはいっている。
人民にその建国の精神を失わしめず、知らず知らずのうちに権威の力に習慣の力をおきかえるものである。わたしのいわんとするのは、習俗、慣習、ことに世論である。
つまり、この4つめの法というのは、言語によって成文化されるものではなく、「民主共和制とは、あるいは一般契約にもとづく国家運営とはいかなるものか」をつねに忘れず、立法者(執行権をもつ権力)が暴走を防ぐために、習俗、習慣、とくに世論(知識人やマスメディア)によって、主権者がつねに、共和民主制(一般契約)とはいかなるものかを自覚しているために啓蒙にあたってゆくという法になるわけだ。
繰り返しになるが、この4つめの法は、成文化されておらず、常に人々が自覚し自らを啓蒙してゆくという“流れ”の中にあるというところを肝に銘じるべきだろう。


Q:じゃあ政府って何?
A:簡単に言えば、これまで述べてきたように、主権者の意志に従い、それを現実に執行するための人間集団のことだ。

政府とは何か? なぜ政府が必要かは、ルソーの言葉を引用すれば、もっとわかりやすいだろう。
どんな自由な行為にも、それを生みだすために協力する二つの原因がある。一つは精神的原因、すなわち、行為をしようと決める意志であり、他は物理的原因、すなわち、この行為を実行する力である。

わたしが何度も政治とは「力」であると言ってきた意味はこういうところにある。政治が物理的「力」であるからこそ、暴走したり、支配を(あるいは力による屈服を)強いようと働いたときに恐ろしいことが起こると述べてきたわけだ。
したがって、政治の最終手段は物理的な力、つまり、警察力や軍事力に訴えるということは自明の理なわけだ。
ゆえに、わたしは政治を信用していないのだ。なぜなら、わたしは非暴力主義者だからだ。

またルソーは政府について、こうもいっている。
人間において魂と肉体との結びつきが果たすことをば、いわば公人において果たす、適当な代理人が必要である。これが、国家において政府が存在する理由であり、この政府は不当にも主権者と混同されているが、政府は主権者の公僕にすぎないのだ。

当たり前のことだ。個人における意志が個人の手や足を動かすのが当たり前なのだから。
個人の意志の思いどおりに手足がしたがわなかったなら、どういうことになるだろうか。
だから、政府は主権者の意志(実際には憲法や世論)に従って行為しなければならないのだ。
でなければ、意志に従わず、あるいは逆らって手足が動くという、人体ではありえなことになってしまうのだ。

わたしからすれば今更の話なんだが……。
安保法制のときに、この点については散々記事を書いたわけで。


ということで次は、実際の政府国家の形態にうつっていく。
いわゆる、専制制、貴族制、民主制だ。
それぞれに長所短所があり、完全な政体は存在しないとルソーは述べている。

無論、そこには先に述べてきたとおり、人民の資質や国土の広さ、人口密度、気候風土、土地の肥痩、産業化できる限度、自給自足の可否(現代の視点を入れれば資源・エネルギー)など、様々な項目が影響を及ぼすので、簡単に、民主制がよいとか、専制制がよいとはいえないと分析している。
いわば、その国にみあった制度を採用するのがよかろうとルソーは述べているわけだ。

しかし、制度だけ眺めて一応順位をつけるならば、どれも悪いところが払拭できない制度だが、一番まともなのが民主制であろうと結論している。

また、単純に考えてしまう人は先制は先制の制度だけ、民主制は民主制の制度だけで執行されていると考えがちだが、実際の政府や政体は、それらが同居したものだと述べている。
だから、現実には元首の人数、貴族院の人数、人民の人数の比率を考慮しなければならないとも述べている。
国会議員は国民の人口を考慮して、時代時代にあわせて変えなさいということだ。
ま、日本はそこも顧慮されておらず、一票の格差問題すら抱え続けているというわけだ。

ともあれ、日本の政体を制度として見ればこうなるだろう。
先制君主(内閣総理大臣)、元老制(大臣や内閣官房)、貴族制(衆議院・参議院)、民主制(国民主権、全国民への参政権の付与)という併存に実際はなっているわけだ。

従って、先に述べた「第四の法」の精神を人民が維持できなければ、日本のような議院内閣制民主主義は、容易に、専制制にも貴族制になりうるということだ。

実際の昨今の日本は、そういうことになっており、それも最悪の形、内閣(安倍首相)と国会(自公過半数+維新)が一体化、つまり行政官と立法官が一体化してしまっているわけだ。
こともあろうに、それにおまけして、司法までもが国民に対してスラップ裁判を平気でおこない、一体化した内閣と国会に忖度して媚びているわけだ。

まあ、今の日本の民主政治なんてそんなものです。

ルソーのいった第四の法が失われれば、一気にゴミ政治になるというわけだ。
そしてまた現在の日本は、その第四の法を取りもどすべく勢力になりうるミドルクラスがほぼ壊滅し、そうした階級同士の共同体もほぼ壊滅してしまったので、政治の力学は予算を獲得するために富裕層有利にしか舵を切っていないというわけだ。

ルソーの思想は鋭敏で、きちんと中間階級が多ければ多いほど、民主政治は安定すると述べてたんですがね。

ipsilon at 22:03コメント(0)ルソー『社会契約論』  

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