2018年07月09日

ルソー『社会契約論』(4)

一応、全編読了しました。
思想・哲学書、あるいは論文といったたぐいもそれなりの数を読んできたが、最も感動した一冊になった。

もちろん、その感動は『社会契約論』という媒体についてだけでなく、ルソーという一人の人格や人柄、そしてなによりその生き方に大変感動したのだ。

『人間不平等起源論』でルソーは、人間が絶対的に肉体の面において不平等であり、不自由であることを説いた。そして『社会契約論』では、その絶対的な不平等がある肉体(物質)世界という面から成り立つ半面をもつ現実社会を見据えつつ、不平等ではない人間の中にあるもう一つの半面である精神性によって、現実社会のなかで、どのように物質的かつ精神的な平等を実現するべきかを提唱した。もちろん、その平等(社会契約)は、一人一人が自由を感じるための手段なわけだが。

そして『エミール』によって、人類の宿業である肉体的不平等を寛容に受け入れあっていける自由な精神を育てるにはどうすればいいかを提唱したわけだ。
つまり、人間の半分は肉体に左右され、そこには絶対的な不平等と不自由があり、残りの半分は精神であるから、絶対的に平等で自由だという矛盾する人間存在が、双方を両立させようとして営んでいる、現実社会のなかでどのように生きれば、自由であり平等たりえるのかを生涯にわたって思索し、またそれを社会に提示してきたのがルソーの生涯だったといっていいのだ。

こうしたことからルソーは、社会は肉体的・物質的な面では決して自由でも平等でもありえない、しかし、そうであっても精神的に自由に生きることは出来るということを人類に悟らしめようといした偉大な人物であったことがわかるだろう。

だから、この『社会契約論』を熟読すれば、理想の社会や政治体が、決して実現しないのをルソーは知ったうえで、それでもあえて著したことが明白に読みとれるわけだ。実現しないと知ってもあえてそういう理想を追い求めざるを得ない人類の宿業を、ルソーは知っており、そうした悲しみを少しでも和らげて生きていけるようにという慈悲と大きな優しさから『社会契約論』を顕しれのだと気づくと、ルソーの前に跪いて、足に接吻したくなるのではないだろうか。
それは、生れてきた以上死ぬと知ってしまう人類の宿業があったとしても、肉体に束縛された悲しい人生であっても、精一杯、楽しくいきよう! と説いた仏教のような慈悲と大きな優しさと同じであろう。


さて、内容にもどります。

Q:では、どんな政府が理想的でもっとも良い政府なのか?
A:それは、決定しえないことであるから、人は解決しえない問題を提出しているのである。あるいは、もしお望みなら、この問題は、それぞれの人民の絶対的状況と相対的状況との、ありとあらゆる組合せの数と同じだけの、正しい解答をもっている、ともいえよう。

つまり、絶対的状況というのは、誰の中にもある神聖な精神性であり、相対的状況というのは、物理的な面、政府構成員の身体的特徴だとか、一日に行動できる限度だとか、人民の数と国土の比だとかいった物理的なもの全てを指しているわけだ。
したがって、解答しえないといっているわけだ。


Q:じゃあ、その不完全でしかない政府のやるべきことって何?
A:それは、構成員の保護と繁栄である。では、彼らが保護され繁栄していることを示す、もっとも確実な特徴は何か? それは彼らの数であり、人口である。

しごく当たり前の論理ですよね。より多くの人が飢えもせず、ふつうに暮らしているうえ、生命を犯されたり争いあう危機に瀕していない。それ以外の指標で豊かさを示すものなどないだろう。より正確にいえば、人口密度のことになるだろう。

Q:でも人工密度が高まれば、人と人の距離が縮まり、争いは起こりやすくなるんじゃないの?
A:少しくらいの動乱は、魂に活動力をあたえる。そして、真に人類を繁栄させるのは、平和よりもむしろ自由である。

何いってんの? ルソーさん……と思うだろう。だが正しいことをいっている。
魂が活動的になるということは、つまり他者との差異を受けいれる寛容性の発露――それこそが双方にとっての“自由”――だからだ。


さて、ここから先が難しい。
主権者は、政治体(政府)を一般意志から設立させようとするのだが、ここに大問題があるとルソーは述べている。
非常に難しい論理展開なので、二回読んだのだが、正しく解釈しているかどうかは知らない。
なので、興味のある人は、自分で著作を手に取って確認して欲しい。

つまり、主権者が主権を行使して政府の構成員を決めるということは、一般意志に反するということなのだ。
わかりやすくいえば、主権者が主権を行使するということは、自分が正しいと思ったことを行為し、した行為を自分で正しいと判断しているということだ。つまり、こうした形で一般意志が行使されると、それは独裁そのものに落ちぶれてしまうということだ。

したがって、こうした事態を避けるためには、自分が正しいと思ったことを行為し、した行為を自分で正しいと判断するのではなく、その行為を他者によって「それは正しい」とされる承認を得るべきだとルソーはいっているわけだ。

日本の場合でいえば、このような制度は一応行われている。
例えば、内閣や大臣が組閣され天皇によって承認・任命されるのがそうであり、政策を協議するときに、主権者にとって重要な政策を審議する場合、国会や内閣だけでおこうのではなく、第三者という特別委員会を組織して、その政策や審議過程が一般意志に叶っているかを確認するということだ。

まあ、日本は今やそういう委員会も内閣が人事権を振り回して、御用学者を集めて、内閣や国会過半数による恣意的運用がされちゃってるんですけどね。

他には内閣の組閣や総理指名というのも、主権者が主権を行使している例にあたる。
だから、日本の場合、内閣が組閣されると、一応は主権者の代表として天皇が承認して任命しているが、いわばこれは形だけなわけだ。天皇はあくまでも国の象徴であって、一般意志の代弁者での代表でも下僕でもないですからね。

したがって、現在の日本のような政府の作り方は、ほぼ一般意志から逸脱して、特別意志を作り出してしまっていることになる。
また、このように主権者がどんなに細心な注意をしても、政府の人員を決めるとき、あるいは政府による行政が行使されるときには、主権者が主権を行使するという、いわば独裁に陥る部分をほぼ払拭できないのが共和制だとルソーは解明しているわけだ。
つまり、俗にいう「権力の魔性」というのはまさにこの部分にあるわけだ。

こういうことをルソーが、人間の肉体に喩えて説明している部分があるので、引用しておこう。

政治体の生命のもとは、主権にある。立法権は国家の心臓であり、執行権は、すべての部分に運動をあたえる国家の脳髄である。脳髄がマヒしてしまっても、個人はなお生きうる。バカになっても、命はつづく。しかし心臓が機能を停止するやいなや、動物は死んでしまう。

つまり、主権というのは一般意志であるから、あくまでも意志であって行使力はなく、その意志にもとづいてあれこれ考えるのが政府という脳髄であって、それら政府さえ束縛するのが憲法(正確にいえば、政府の行動範囲を決める立法)だといっていいだろう。

そして政府という脳髄は、ときに主権者の意志を無視して暴走する危険性が非常に高いということだ。
つねに脳や自律神経を思いどおりにできる人間(意志)など存在しないのであり、もし仮にそういう意志があるのだとしたら、すべての生きとしいけるものに働いている意志といっていい。つまり、一般意志というのは、悟性に近い意識だということが、この辺の論理から窺われるのだ。


ここまで述べてきたことをより簡単にいうなら、政府人員その他、執行権をもつ人事を行うさい、主権者の一般意志である「世論」の介入なしに済ませてはならないとルソーはいっているわけだ。
ルソーのいっている「法」といのは、われわれがふつう思い描く「法律」という概念でないことに注意がいるのだ。


Q:ていうか、政治なんかにそんなに熱中して何か意味があるの?
A:国家について誰かが「わたしに何の関係があるか?」などといい出すやいなや、国家はもはやほろびたものと考えるべきである。

まあ、日本なんて国は、衆参の投票率が60%を切ってしまうことさえあるので、その時点ですでに政治に一般意志が適用されているとすらいえないわけで、日本のそういう投票率を見ただけでも、日本が独裁国家であることは容易にわかるわけだ。絶対得票率で見れば、政権与党は30%台とかですからね。


天皇による内閣の承認と任命もおかしな制度ですしね。
なぜなら――
主権は代表されえない。主権は本質上、一般意志のなかに存在する。しかも一般意志は決して代表されるものではない。
と、ルソーは述べているわけだ。

代議士を国民の「代表」だとか思ってるような国民ばかりだと、共和民主制は成り立たないのだ。代議士は主権の下僕なのだから。


Q:じゃあルソーは一体どんなかんじの政治体が理想だといってるの?
A:はっきりいえば、直接民主制なのだ。

ということで、ここから先ルソーは古代ギリシャからはじまり、ローマ帝国に引き継がれ改善された共和政治がいかなるものだったかを詳細に述べている。
だからといってローマの共和政治が完璧なのではないが、一番まともだとルソーは語っている。

昨今の国々であればスイスが直接民主主義の例でしょうがね。

ただまあ、このローマの共和制っていうのは、相当程度に初期ローマ帝国の政治を知っていないと、多分ルソーのいっていることは理解できないだろう。
地区ごとに分けるとか、貧富の差で分けるとか、軍と民の関係とか、貴族と平民、賤民、奴隷の関係とか、元老院とか、護民官、独裁官、様々あるローマの政治の歴史を知らないと、ほぼ理解できないと思う。

とはいえ大事なのは、護民官、独裁官あたりの概念なのだろう。
護民官というのは、平民の権利を守るために、拒否権をもつ役職のことであり、独裁官というのは、国家が存亡危急の事態に非常時特権といったものを発動させられる官職だ。
またこれらの職権は直接民主主義の欠点である、非常時なのに決めるのに時間を要するという欠点を補ったりもし、平時はそうした欠点を補うために貴族制(議会)も持っておくという風にふつうはなっているわけだ。

またこの非常時特権というのは、とてもセンシティブな性格をもち、昨今の日本の政治でいうならば、自民党が提出した「緊急事態条項案」にあたろう。
つまり、独裁官の権限というのは、かつてナチスドイツが憲法を停止させて独裁に走った経緯をもつような、大変にセンシティブなものだと思っておけばいいだろう。


で、この先でルソーは宗教を徹底的に批判している。
読んでいて、すぐに思った。これは発禁になるよね……と。
それぐらい凄まじく、宗教というものが社会契約にとって害あって益なきものだと批判しているというわけだ。
詳細を説明してもいいが、ここの部分は是非とも自分で手にとって読んでもらいたい。宗教には三種の形態があるんだという理論は相当に鋭いわけで。
だからといって、ルソーが宗教を全否定していたのではなく、彼は「寛容な宗教」であれば、一般意志に相当することもきちんと認めていることに注意が必要だろう。


結論するならば、ルソーの思い描いた共和民主主義を実現させる鍵は、政治参加しようとする意志をもち、実際に政治参加してゆく、人民の政治的資質という部分なのだろう。
考えてみれば至極あたりまえなわけだが。
多くの人が多くの人の自由と平等を考え、実際に行動を起こす、それが政治参加するということなのだから。



個人的には、ルソーが『社会契約論』で提唱したような国家が現実化するには、500年、1000年単位で見ていかなければならないだろう……と思いましたがね。



結局のところ、自由と平等! それがすべてなのだ。

ipsilon at 14:21コメント(0)ルソー『社会契約論』  

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