2013年03月

2013年03月31日

あらすじ

第1話〜第4話
第5話〜第9話
第10話〜第14話
第15話〜第19話

第20話〜第24話
第25話〜第29話
第30話〜第34話

―第1部― アキレウス号と上陸隊――緊急事態発生!
第1章 第1話〜第3話
・小惑星L4―2808への着床
・ハウ船長の思惑
・緊急事態発生!

第2章 第4話〜第8話
・少女エリスとウサギの縫いぐるみ
・解析不可領域――暗黒物質
・個人プレイ――マザーとグリーク
・決断!――ハウとエリスの絆
・寒さの王様――ニクス

―第2部― 確執の中で――救出作戦発動!

第1章 第9話〜第13話
・打算か? 理解か?――カロンとタラッサ
・秘めた親心――エリスとマザー
・コードネームはウーマン――タラッサの智謀
・グリーク鏡をじっと見る
・それぞれの欲望――虐待の記憶

第2章 第14話〜第16話 
・病弱な少年――トロイヤ
・眩暈と痺れ――マザーとファザー
・郷愁――保育士タラッサ

第3章 第17話〜第21話
・出し惜しみは無しだぜ
・殉職するコンピューター――アンクル
・逆噴射――重力加速度の恐怖
・ブラックアウト、レッドアウト、そして……
・溶解する確執

―第3部― 人間への回帰――迫りくる暗雲

第1章 第22話〜第24話
・静と動
・宇宙鬱の大人とアルビノの少年
・迫りくる恐怖――暗黒物質

第2章 第25話〜第28話
・医務エリアの風景
・消毒液の香り――キス
・海のある風景
・エベレストを眺めながら

―第4部― 時こそ創造者――新しい黒き船長の旅立ち

第1章 第29話〜第32話
・金槌を振りおろせ!
・カラスとみずがめ
・ファザーとマザーの黙示録
・ヨホホエ! ヨホホエ!――さまよえるオランダ人

第2章 第33話〜第34話
・きたかぜとたいよう
・時はめぐる――安住と放浪

あとがき

執筆期間:2012年 12月26日〜2013年 1月7日
改訂履歴:2013年 4月2日(罫線の見直し)
文字数:約121,604文字(文庫本約164ページ分・約244分)
段落数:未集計
特記事項:2013年 4月2日に「小説家になろう」に投稿

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ipsilon at 20:09コメント(0)トラックバック(0)小説「もくじ」 

 それでは、この男の経験した、もうひとつの「あたたか〜い極寒」を見ていこう。
 当時、男は二十代の前半だった。一人暮らしを満喫しつつ、仕事もそれなりに順調だった。日々に白いカバーロール――つなぎの作業着――に痩せた身を包んで、つま先に鉄板の入った黒い安全靴をはいて、航空関係の整備という仕事に従事していたのだそうな。毎日が肉体労働であり頭脳労働であったそうな。面白おかしい先輩や個性的な上司に囲まれて楽しく働いていたんだそうだが、なにか物足りなさを感じていたこともまた確かだったのである。
 おうおうにして、そうした職場にあっては女子が希少である。まあそうした他愛のない理由がこの男の抱えていた物足りなさだった。して、そうした小さな虚無感を埋め合わせるために男はスナックに通うようになったのだ。
 わが城の主人として――一人暮らし――の視線で見てみれば、天守閣の居心地だって決して悪かったわけではない。しかし、本能には逆らえない。まあ、そういったことだったのだろう。
 ともあれ、夜な夜な店に通うということは、この男にとってはマイナスであったわけではなかったのだ。
「今日こそはユキちゃんに逢うぞー! おっしゃ、効率よく仕事を終わらせて飲みいくべさー!」
 てな具合に、作業の励みになっていたこともまた事実だったのである。しかし、仕事はハードだった。できるかぎり頑張って天守に帰ると、とたんに眠けに襲われて――
「ちょっと寝る。起きたら店いく……」
 などといって起きると、深夜……などということもあったのだそうな。かとおもうと――
「今日は塗装かー。シンナー臭い体で店いきたくないんだよねぇ」
 とボヤキながら仕事を終わらせると、部屋にもよらずに店に直行するなどという日もあったのだ。

 そんなある夜、男はあさちゃんに出逢ったのである。あさちゃんは、男より六つ七つ年上であった。細い茶色がかった髪は軽くウェーブを描いて背中まで流れていた。眉にかかる前髪はストレートで美しい曲線を描いて額に垂れかかっていた。そのしたにある瞳はブラウン。日本人であるからこれは普通のことである。ぱっちりとした目は優しさとともに、生きていることにたいする楽しさがいつも宿っていた。笑うと目がなくなる。そういった印象を強くあたえたのである。背丈は男より少し低く、どちらかというと、ぽっちゃり系の美人といえるだろう。
「でもね、あの夜どんな服を着ていたかとか、ぜんぜん覚えてないんだなぁ。瞼に浮かぶのは、白地に小さな花がプリントされたワンピースなんだよね」
 それは、男があさちゃんと一緒にうつった写真にある服装である。まあ記憶とはえてしてそんなものである。
「あの晩も凄い雪だったんだよ。店にいるときは全然気づかなかったのね。ほら、雪ってさ、降ってるときはやたらと静かじゃん」
 で、ラストまで飲んで終電を逃したわけですね。
「それもあるんだけどね、店から家まではさ、歩いて二駅だったのよ。だから、あの当時は終電とか考えて呑んでなかったんだなぁ」
 そして、あさちゃんの住む場所は店と男の家の中間にあったのだそうな。中間地点。どっちつかずの距離。こうしたものは、人の恋愛感情を揺さぶるものだ。例に漏れず男も恋心を夜毎にぐらつかせたのだそうな。
「うわーすごい雪! あさちゃんどうします? タクシー拾うならそこまで送りますよ」
「どうしよう。でもここまで積もっちゃうとタクシー乗り場にいってつかまえるだけでも大変そうだね」
 典型的な呑み屋のお姉さんと、その女に惚れている客の会話である。にしても同意を求める女性の心理とはいかがなものであろうか。某とて、「だね」とか言われたら……である。
「どうしますぅ? まあ僕はどっちみち歩いて帰りますけどねー」
「じゃああたしも歩こうかなぁ。一駅だしね」
 そういう展開でしたか。意外といえば意外ですね。女心が滲み出ていますね。このあさちゃんという方は。理屈は間違ってないんです。大雪という状況で、タクシー乗り場までいって帰るのと、歩いてしまうのとはさして時間的な差はなかったと言えるのだから。
「でも、この積もりかたですし、それ以前に寒いですよ、これは」
「だいじょうぶ。誰かと歩いてればそんなに寒くないと思うし」
 そうですか、そうですか。そうきましたか。それはあれですか? あさちゃんは暗に男のことは「嫌いじゃないよ」と言ったということですね。
「じゃ、歩きますか。というより、歩きながら途中でタクシー拾ってもいいですしね」
「うん、そうね」
 嫉妬深いお雪さんは、そんな二人にを見て、情け容赦なく体当たりやら、膝蹴りを加えて翻弄したのだそうです。
 ――これは口で言うほど楽じゃなかったなぁ……。
 それでも男と女は幹線道路の歩道に積もった新雪を鳴らしながら足を進めていた。
「タクシーぜんぜん走ってないね……」
「うん、拾う前に着いちゃいそうだね」
 道路を行く車はまばらで、忘れたころにチェーンが雪とアスファルトを踏みしめる音をさせていた。二人の吐く息は白く、手は真赤になっていた。足元はずぶ濡れになり、タクシーを掴まえても乗車拒否されそうな有様だった。
 男はなぜそうなったのかもすでに覚えていないのだそうだが、いつしか二人は寒さをしのぐために一つの傘にはいって、体を寄せ合っていたのだそうな。しかしそれでもお雪さんの嫉妬と羨望で血走った眼は見逃さかったのだ。
(こうなったら、肩にのしかかってやるわ……)
 そうして、一つの傘にはいった二人は互いに違うほうの肩を濡らしながら深い雪道をせっせっと、とは言えないまでも、歩き続けていたんだそうな。
 そのとき、男は温かい光景を見たのである。
「リンガーハットがありますね」
「うん、あそこね、よく息子と行くんだよ」
 ちょっと待って!? あさちゃんはそういう人なの? 某ちょっとびっくりしましたよ……。
「へぇー、ユウくんと行くんだぁ。なんかいいですねー」
 ――無視すんなよ……。まあよい。
 ともかくも、少しずつ少しづつ近づいてくる赤くとんがった塔とそこにある看板が、男の目にはやけに温かくて明るく見えていたのだ。深夜だというのに、真昼の光景で思い出せるのだそうな。真白の世界。暗い星空にぽっかりと浮かんだ赤い塔と黄色い看板を。
「ねえねえ寒くない? まだ一駅歩くんでしょ。少し温まっていったら」
「え、でも時間とか平気なんですか?」
 男の記憶は風化し、本当のところ、どちらがどう誘ったかは覚えていないのだそうな。だが、互いにあり余る寒さをどうにかしたかったことだけは事実だったようである。
 何を注文してなにを食べ、何を話したかもすでに塵とかしてしまったが、とにかくあの赤い塔と、すぐそこにあった、あさちゃんの弾んだ声と笑顔だけは忘れられないのだそうな。
「もう二十年近くたつけどね、あれほど寒い思いと、あれほど、あたたか〜い心が一体になったことってないんだよねー」
 で、そのあさちゃんとはどうなったのでしょうか?
「それなりの期間それなりに良い関係だったよ。けどねー決定的に無理だ……と思うことがあってさぁ。そのときのことも忘れてないけどね」
 男から聞いた話はこうである。
 初夏のある日、男とあさちゃんは公園デートをしたのだそうな。ですが、その日は二人だけではなく、あさちゃんのお子様であるユウくんがいたのだそうな。
「珍しいなぁ。ユウね、人見知りがすごく激しいの。でも懐いたね」
「え!? そうなの」
 公園にあった軽食喫茶で会計をしようとしていた男は、レジの近くにあるお菓子を物色しているユウくんに目を向けた。
「ユウだめよ。今日は買わないからね」
 男は母子がしばらくお菓子をめぐって争っているのを見ながら言った。
「なんか一個買ってあげますよ。ユウくん、どれ欲しいのかなぁ?」
「だってよー、ユウ。良かったねー。どれ欲しいの?」
 お目当てのお菓子を小さな掌にのせて伸ばしているのが見えた。
「ほんと珍しいんだよ。この子初対面の人にはほとんど懐かないから……凄いね」
「…………」
 男が別れを決めたのはこのことがあったからだそうな。気弱といえば気弱な理由なのだ。でも、わからないでもない気もする。
「だってさぁ、当時はまだ若かったしねー。俺……こんな可愛い子の親になれる自信も責任感もないや。なら傷口が大きくならないうちに……」
 とまあそうした理由だったのだそうな。
 けれども、そのあともそれなりにあさちゃんとは友達の関係はつづけたのだそうな。
「なにしろね。歳の差もあったし、別居はしていたんだけど、旦那さんと離婚していたわけでもなかったからねぇ……。もしも俺がそのことを言いだすとしたら、それなりの責任感、つまり、ユウくんも含めて絶対に幸せにするという責任感がないとだと思ったしねぇ」
 切ないですな。大人な判断といえば大人な判断ですが、色恋というものは勢いでもありますからね。
「そうなの。でも後悔してないよ。俺も惚れっぽかったけど、あさちゃんもそうだったしね。だからどっちかがしっかりしてないでいたら、いつかは暴走したと思うしね。まあ当時は子供だったのさ。でも、あたたか〜いことに変わりはないってとこだね」
 もしも、このあと男と女が泥沼になるようなことがあったなら、赤い屋根も長崎ちゃんぽんも、見たくもないものになっていたのだろう。人の心は機微である。
 そして、過ぎ去った恋とは儚くも美しいものである。

――完――


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―#3―

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ipsilon at 06:05コメント(2)トラックバック(0)小説・短編『あたたか〜い極寒』 
 久しぶりにヘッセを読みました。やはりいいですね。じわじわきます。あとからきます。スルメイカです。噛めば噛むほど味がしてきます。

 学生時代の夏季休暇。そんな抒情風景を描いたものです。『青春は美わし』は、一九一六年版と一九三〇年版があるそうです。私が読んだものは、当然一九三〇年版です(新潮文庫:高橋健二訳)。
 あいかわらずサラリとしてるなあ。それが第一印象でした。でも、一九一六年版はもっと直接的な表現があったのだそうです。そう言われると、読みたくなりますね。まあ、ヘッセは清涼感や透明感が味なので、新版でも充分に味わえますけれどね。

 夏季休暇で出会った二人の娘への恋心。母親との会話。メインはここです。
 ヘッセを自死願望から救ったのは彼の母親。それを知っていて読むと、後半部分にある母親の言葉が胸に沁み入ってくるのです。以下引用します。

静かに安心して死ぬことができたとすりゃ、それは賢かったからではなく、心持も良心も清かったからだよ。それでいいんだよ、その数人の人達(ソクラテスなど)はめいめいそれぞれに正しかったわけだ。だけど、私たちの誰がその人たちと同じようだろう? この小数の人たちに対し、他方に数しれぬ哀れな平凡な人がいるんだよ。その人たちはそれなりに救世主を信じていたばかりに、喜んで安心して死ぬことができたのです。おまえのおじいさんは、救われる前に十四か月も寝床で苦しんで悲惨な日を送ったのだけれど、救世主に慰めを得ていたので、ぐちも言わず、苦痛と死をほとんど楽しく耐え忍ばれたのだよ。(中略)信仰というものは、愛と同様、分別によるものじゃありません。だが、いつかは、分別だけですべてに間に合うものではないということが、おまえにもわかるでしょう。

 一読すると、ふつうの庶民感覚の母親の話なんです。でも深い部分があるんです。
 この前段ではソクラテスとかみたいな人は……という話があるので、ここの段はそことの対比なのですね。
 それにしても、分別(つまりは理性)だけでは……という一文は重いですね。そのとおりだと感慨するばかりです。

 つまり、哲学をした(自分の頭で考え、今できるベストを尽くした)人なんかは、死に対したときにも静穏でいられる。そう言っているんです。で、この段では、でなくても(ソクラテスのようでなくても)、謙虚に物事を見たままに信じていた人たち(数しれぬ哀れな平凡な人)でも、死に面したとき静穏でいられたんだよ、とまあそう言っているんですね。ようするに、ベストとベターがある。おまえにも、いつかそれがわかるよ、と言っているんですね。
 おじいさんが十四か月……というところも意味ありですね。十三はキリスト教圏では不吉な数字ですから、それを乗り越えた。そういう意味でしょう。まあ私が同じような文章を書くなら、ここは八か月にするでしょうね。八葉蓮華がその意味です(笑)。

 ヘッセの凄いところはこの後なんです。このあと、ヘルマンはとある娘に恋の告白をしようとするんですが、まあその娘の言葉に納得するんです。
 ヘルマン、このとき妹と娘という三人でいたんですが、ある策を練って娘と二人になって告白しようとするのです。
 (えー、そういうのは駄目だよー・・・)とまあ、娘に上手にあしらわれるというか、うまくかわされるんです。
 ようは、妹と娘とヘルマン。今は三人の時間なので、二人の個人的な時間ではないので、「私はあなたの妹さんを裏切れません……」といわれて、やんわりと告白を半ば阻止されるんですよ。
 娘……謙虚で誠実ですなー。
 こういう状況ってありますよね。ちょっと二人になれた瞬間に告っちゃうなんてのはね。
 でも良く考えると、卑怯じゃないですか? それにまず相手に失礼ですよね。
 いわばこのとき娘はソクラテス的であり、ヘルマンは数しれぬ哀れな平凡な人という構図になってるんです。

 つまり……あーあー、お母さんの言ったとおりじゃねーか! となるのです。
 さすがヘッセですな。ここ読んだとき、「やられた……」って思いましたね(笑)。
 ここの奥の部分にはですよ、ヘッセのこういう言葉が隠されているんですよ。
 (母さんがいってたのは、こういうことだったんでしょ。当時はあまりよくわかってなかったけど、今はわかるようになったよ)という心の声がね。

 なんて、清々しいんでしょうか! ビューティフール!
 そんな娘の名前がね、キリスト教圏では聖女の名前である「アンナ」というんです。
 読んでてこっちが赤面したくなるくらい清々しい。それがヘッセですね(笑)。

 そんなこともあったよ。ゆえに、『青春は美しい』。そう言ってるんです。

 楽しの時の命は美し。
 青春は美わし。そはもはや来たらず。
 されば重ねて言わん。
 青春の年々は美わし。
 青春は美わし。
 そはもはや来たらず。
 (民謡)


 歳くっても青春です! 今という一瞬は、そはもはや来たらず。そういうことですね。


谷間に咲いた百合の花。青春てなーそんな感じですかね。自分でいってて恥ずかしいわ(笑)

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ipsilon at 03:14コメント(0)トラックバック(0)小説「資料・追記・忘備録」 

2013年03月30日

 約四ヵ月のあいだ、小説を書いて学んだことを考えてみた。書きはじめたころ、読むということにあってはH・ヘッセであった。したがって、ヘッセのように書く。まずこれを目指した。だが、これは困難を極めた。抒情にまずつまずいたのだ。
 心情、心中、心境、心持ち、そういったものを主軸に書くということ。これはもしかしたら一番難しいかもしれない。
 ヘッセを読めばすぐにわかる。主人公が歩いてどこかにいった。なにかを食べた。そういった表現にすら心情がこもっているからだ。これは簡単ではない。たとえばこう。

 そのよく日わたしと弟はマッキンリーに登った。

 まあ、普通の文章だ。
 けど、ヘッセの場合、そのあとに、登ることになったいきさつやら、登っていたときの心境をまくしたてるように綴っていくのだ。
 そういうことで、「マッキンリーに登った」という一文の意味がじわじわと悲喜こもごも入り混じったものになってしまうのだ。恐らく、日本人はこういう心理描写は苦手だ。わたし自身もヘッセ風をまねしてみて一番苦労したのはここだったから、そう思うのだ。でも、これが出来たら最強かもしれない。
 もちろん、欠点もある。世界観の大きいものや群像劇には不向きだというところがそれだ。

 で、太宰。
 太宰に関しては一言では語れない。なにしろ文体を駆使している人ですからね。
 当時としてはハイカラであったことだろう。カタカナ英語も使えばアルファベットだって使う。芥川なんかもそうですけどね。
 なので、一言では語れないのだ。「――」ひとつ使わない文体もあれば、「――」を使うときもある。
 太宰もヘッセも、基本は一人称視点が多いのだが、そういう意味では抒情派なのであろう。
 裏二人称視点。太宰の一番大きな特徴はここだろう。これは言葉で説明する気にはならない。
 あえて言えば、読者に話しかけてくるという書き方だ。「なんとかんでね、なんとかだったんです。それでああいうこともあってね」といった文体ですね。
 「あんた、俺に同意を求めるな! あんたの小説だろう!」と、言いたくなるんですがね、この裏二人称は実に凄いんです。
 だよね? 違う? そうじゃない? と問いかけ続けて、そのあと筆者が登場したり、いきなり一人称になって、だからこうなんだよ! と言われてしまうと――うんそうだ! と思わず不思議と納得してしまうのだ。
 散々同意を求められたことで、読者は自身のなかで答えを探しつづけてるんです。で、そういう状態で「こうだろ!?」と言われるとですね、太宰と同じ心境になっていたひとは頷くしかないんです。
 けれども、太宰と考えを異にする人は――「はぁ? 太宰なにいってるん? 阿呆ちゃうか?」となるんですね。
 ゆえに、太宰の場合は、ファンとアンチがはっきりしているのでしょう。わたしはファンですけどね。
 ま、かわいいんですわ。この人。一生懸命やってるの。ほんとだよ。嘘じゃないよ。けどうまくいかないの。なんでだろうね。でもやるだけやってるんだよ。うん、つもりかもしれないけどね。いや、頑張ってる。努力してるんだ。けど自信はない。でもそれなりじゃない? そうでもない? とまあこうして肯定と否定を繰り返したりするんです。
 これ、二律背反です。弁証法になってるんです。ゆえに、読んでいるうちに読者は自然に真理に近づこうと考えているんですよ。
 ふはは。太宰トラップですよ、これは。
 そうして、読者に物事を深く考えさせておいて、でも僕はこう思ったよ――と終わるんです。
 まあ見事な誘導尋問的文体です。
 ですがこうした弁証法を展開するには、その物事、モチーフを相当に観察して研究していないと出来ません。
 太宰はそういう努力を惜しんでいなかった。読んでいるとそれが理解できます。でも苦しかったと思うなあ。
(これ……いつか作品になるのかしら? 本当に作品になるの? 無駄なことしてない? なんだかなあ…… はあー…… でもまあやるか…… 頑張るか。けど疲れた。でももう少し……)
 なんて思って、長い時間をかけて調べてメモして調べてメモしてを繰り返したんでしょうからね。

 で、いわゆる日本人好みはどういうものかといえば、多分三人称視点なのだと思います。
 映画を観ている感じに近いもの。そういう文体でしょうね。わたしの作品でいえば【宇宙シリーズ】ですかね。
 情景描写と心理描写と的確な比喩が散りばめられていて、わかりやす。これですね。
 銀エイデンなんかはこれの典型です。ただ、エイデンの場合「語り」が筆者の主張になっているので、筆者の思想と合わない人は受けつけないでしょう。

 そうした面をカバーするのが、いわゆる「語り」の部分を「推量」にする手法ですね。
 歴史作家なんかが使っている文体ですね。
 ……そのとき義経は、憎く思ったであろう。そのわけを言えばこうなる。云々……。
 といった文体。
 押しつけ感が薄く、読者と筆者がともに人物の心理などを推理しながら読みすすめられるので、まあ人気があるのでしょう。当然、うまい作家は「であろう」を連発しながらも自分の心情はしかっり披瀝してるんですね。
筆者からすれば(ふへへ。上手いこと言えた。これは同意してくれるだろうな……)
 という風にして読者を罠に落として、コッソリ閲にいれる手法ですね。

 結局のところ書き手としては、どの程度の圧力で自分の心理を読者にぶつけるか。これで文体を選べばいいだけであって、そこをテクニックとして書きわける必要はないということだろう。
 むろん、一人称と三人称の視点を混ぜるのは、いまの時代にあってもすっきりしない評判を生み、読者を混乱させるのでやるべきではないのですがね。
 三人称の場合、三つの視点が混在しているのでそういう評判を生むのでしょうね。なので、そこを理解していれば、何でもありだと私は思いますけどね。

 ですが、そうした作法を知らずして好き勝手をするのはどうかと思いますね。
 ルールを知らなきゃ、野球は出来ない。そういうことですね。
 ルールを知ってやってれば、文章の場合、「反則してますよ」ということを伝えればいいんです。でも、その伝えることが意外に難しいので、あまりやるべきではないのですがね。文体の説明を伝えようとすることで、物語の流れや、描写を断ち切ってしまうからです。でも、超一流の人は、これをさりげなくやるんですな。困っちゃうくらい上手いことやるんです。参ります。

 一応もうひとつ、叙事という書き方もあるのですが、わたしはこうしたハードボイルド的な手法には、今のところほとんど興味がないので、あまり関心がありません。
 もしこの手法を使うとしたら、歴史的事件などの伝記を書くときでしょうね。わたしの描きたいものは人間とその周囲なので、ここにはあまり興味がないのでしょう。
 それでも、部屋の間取り図なんかも完璧に描いたり、実地を取材して事件を考察するというノンフィクション好きな方のためには、こういう文体が必要なことままた確実でしょう。

 ま、練習あるのみです。感想を肥やしにするしかないのです。

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ipsilon at 15:28コメント(2)トラックバック(0)小説「資料・追記・忘備録」 
吾輩はハムスターである。名前は一応ある。小説を読むとわかるよ。ボクがボクの言葉でハムスターの一生というものをお喋りしてみました。げっし類に興味のある人もない人も、生き物なら似ているところがあるので、多くのヒトに読んで欲しいなーと思っています。ボクの生き方と人間さんの生き様の違い、そっくりなところ。そんな部分を知って欲しくて、お兄ちゃんに筆記してもらいました。どうぞ楽しんで読んでみてください。本当はお兄ちゃんに話して聞かせてくれって、たのまれただけなんだけどね。

読んでみる
(6話完結・10,109文字・文庫本約13ページ分・約21分で読了)

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ipsilon at 03:07コメント(0)トラックバック(0)小説「あらすじ」 
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