2019年02月06日

ゲーテ『若きウェルテルの悩み』第一部・名文と所感

以下に引用するのは、岩波文庫、竹山道雄訳のもの。


第一部――。

私は現在のものを享受しよう。過去は過去としよう。(中略)
空想力をはたらかして不幸な思い出に耽溺することをしないで、もっと虚心に現在に堪えてゆきさえすれば、人の世の苦しみははるかに少ないにちがいない。



自分の意図はすこしも交えないのに、よく整って、非常に面白い絵ができあがっていた。このことから、これからはただひたすらに自然のみに拠ろうという決心をかためるようになった。
自然のみが無限に豊かである。自然のみが大芸術をつくりうる。


ありのままに見て表現する。事実だけを見て行為するとは、このようなことを言うのだろう。
このあとの文で、規則のある芸術にふれ、それはいわば社会規範のようなものであり、いうならば、そうしたものは芸術ではなく、俗世であるともゲーテはいっている。自然と俗世、芸術と俗世、出家と在家というものは、決定的に矛盾するということだ。もちろんどちらが優れているということではない。役割分担であり、各個人の本性に根ざした世界で生きればいいということだ。


読むならほんとうに自分の好みに合ったものを読みとうございます。その世界が自分の家庭の生活とおなじように胸に訴えて惹きつけてくれるような、そういう作家が一番好きでございます。わたくしどもの生活とてもべつに天国ではありませんが、なんと申してもいいしれない幸福の泉でございますもの。


これは、ロッテの言葉だ。なんとも実際的で美しい考えだ。
読書で得るべきものは知識ではない、知恵だろう。生活を溌剌とさせ、朗らかにしていくための読書でなければ、あまり意味はないのだから。


みたまえ、あのひとは全身全霊をうちこんで踊っている。体がすべて一つのハーモニーをなしている。ものおもいなく、こだわりなく、これが総てであるかのように、ほかに何事も考えず感じもせず、……あきらかに今この瞬間にあっては、ほかの一切はあにひとの前から消えうせていよう。


これが「今ここ」に生き切っている姿といえるだろう。これこそがマインドフルネスというものだろう。
歩くときはただ歩け。死ぬときはただ死ね。仏教そのものの思想だ。我欲も執着もないのだから、無心であるということだ。己が行為それ自体になりきっている。主体と客体が合一している。目的のための目的になっている。目玉で目玉を見ている。見るものと見られるものが合一している。言いようはいくらでもあるのだ。


天にましますよき神よ、あなたが見そなわしたもうは、老いたる子と幼い子とです。それだけです。


この世界の住人には、大人とか子どもという分別は本来存在しない。そういう真実をいっているだけだが、非常に感動した部分だ。わたしの中にあった、大人と子どもがあるという先入観にはっきり気づかせてくれたから感動したのだ。心という次元で見たなら、そこに差異はないのだから。誰もが完全な心をもってるのだから。まだ子どもなんだからとか、もう大人なんだからといって、人間を差別するなかれということだ。


不機嫌は怠惰と似たものです。その一種です。


この一文がでてくる7月1日付の内容はとても重要なことを教えてくれる。
不機嫌にしている人がいると、他に感染する。それまで別に不機嫌でなく、幸福であった人まで不機嫌にさせる。それは非常に罪なことだということが語られている。その逆に、不機嫌な人に対して幸福な人が何がしかをしても、不機嫌な人は不機嫌のままであるのだ、と。いなむしろ、不機嫌な人は、幸福な人に対して「俺がこんな機嫌がすぐれないのに、なに幸せぶってやがるんだ……」と、嫉妬を起こしさえするというわけ。無論、朗らかにしていれば、それもまた伝染するという原理はいうまでもないだろう。

ちょっと機嫌が悪いのなど、大したことに思われないことが多いのかもしれなが、実は大きな陥穽なのだろう。
不機嫌から嫉妬が起こるというのも重要で、不機嫌な人は、その結果自分をもっと不幸な状態にするのだとゲーテはいっているのだ。


人生には「あれかこれか」で解決できることはめったにない。感情と行為のあいだにはさまざまの濃淡の別があって、その段階は、さながら鷲鼻と獅子鼻のあいだにおけるがごとしだ。

世の中には白と黒しかないわけではない。その間には段階的に様々なグレーがあるということ。
だから白か黒かの完璧主義は自分を苦しめるだけなのだ。


ああ、うたがいもなく、幸福をつくるのものはただわれらの心だ。――愛すべき家族の一員となり、老人には息子のように愛され、子供たちからは父親のように、さらにロッテからも!


この文だけではわかりにくいだろうが、ここでゲーテが語っている思想はガンジーの思想そのものといっていい。男女関係だとか夫婦だとか自分と他人いう視点で考えるから、あれこれ問題が起こる。地球人類がすべて自分の兄弟姉妹、父母、祖父母とみれば、性欲すら制御できるという思想に近いものだろう。
恋人にしたいと思って見るから欲がわく。すべての異性を実の姉や妹、実の兄や弟として見るならば、性欲や所有欲など問題にならないという思想を述べているところだ。

こうした思想は、仏教にもあるしキリスト教にもあるので、特段新しい思想ではないのだが。


第一印象は入りやすい。人間はどんな荒唐無稽な話でも、聞いているうちに自然とこれがあたりまえと思うようにできている。そして、それがすでにしっかり根を下ろしてしまう。だから、これを削ったり抹殺すると、とんでもない目にあう。

幼少時代における体験がいかに重要かがわかる文だろう。親に教わったことは容易に疑えないのだ。それが実は間違っていたとしても。この信心は絶対正しい。幼少時代にそんな思考を植え付けられることの不幸ははかり知れないだろう。それを否定しようとするには、過酷なまでの自己破壊をともなう再構築の作業が必要なのだ。
何でも自分で選ばせてあげる。そういう大らかさが大事なのだろう。それで怪我をしたりとか色々あるのだろうが。


おおよそ何人が何事について「それは存在する」と確信することができようぞ?
すべてのものは過ぎさってゆくではないか? 万有は稲妻のごとくにはやく推移してゆくではないか? 存在がその全き力を保ちつくすことも稀に、ああ、流転の奔流の中に引き入れられ、沈められ、ついには岩にあたって砕かれてしまうではないか? 君と君の愛する者をいつくさぬ刹那は一瞬もなく、君が破壊者にあらず、たらずしてすむ時間は一刻もない。心なき散歩のあゆみに、われらは数千の虫の命をうばう!(中略)
わが目に映ずるのは、ただ永遠に啖いつくし、永遠に反芻する、怪物にすぎない!


ipsilon at 22:57コメント(0)  

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