2019年05月11日

ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』

ロビンソン・クルーソー (岩波少年文庫)
ダニエル・デフォー
岩波書店
2004-03-16



 ルソー『エミール』において、「はじめに子どもに読ませてあげたい本」と紹介されていたのを読み、いつかは手に取りたいと考えてきた一冊。
 だが、第一部、第二部、第三部のあるわりと大分の作品だっただけになかなか機会が掴めなかったのだが、本屋で岩波少年文庫を手にとり、その解説にあった「普通、『ロビンソン・クルーソー』といえば、この第一部をいい、第一部の人気によって書かれた続編の第二部、第三部は云々」とあったことに力を得て、即座に購入、読了となったもの。

 また本作は「英ガーディアン紙が選ぶ『死ぬまでに読むべき』必読小説1000冊」に選ばれている一冊でもある。そしてまた「英ガーディアン紙が選ぶ――」のジャンルに関しては、これまで約60冊を読んできたが、今のところいわゆるハズレに当たったことはない。ということでお勧めの一冊だし、未読のかたはなるだけ早く読むことをお勧めする。

 冒頭、主人公が自身と両親のことを書いていくが、もうこの時点に学ぶべきことがでてくる。
 それは、主人公ロビンソンが父親に諭される言葉である。
 
 さいわいおまえはその中間におかれている。自分の長い人生経験からみて、これは人間の幸福にいちばん適した身分なのだ。われわれは低い身分の人間に起こりがちの苦難な辛さにさらされることもないし、高い身分のものにつきまとう高慢、贅沢、野心、妬みに悩まされることもない。貧乏も富もともにさけたいと願った賢者がいたが、かれの言葉こそは本当の幸福がどこにあるのか教えてくれる。

 つまりこの『ロビンソン・クルーソー』は、テーマが冒頭2ページ目に提示されているということである。
 それは東洋哲学的にいうならば老子の「知足者富、強行者有志」であり、西洋哲学にそうしたことを当てはめるなら、神やイデア、自然の摂理という思想の正しい理解と実践であるのだが、実際に本作は無人島に漂着してたった一人の生活を営んでいくあいだに、ロビンソンがそのような神、イデア、自然の摂理を実践的に感得していく物語になっているのである。無論そのあたりの表現は、キリスト教プロテスタンティズムとして表現されているのだが。

 ともあれ、わたしのように堅苦しく読む必要もない。俺はわくわくする漂流譚を娯楽として読みたいのだという人の期待にも十二分に応えてくれるので、そのように読んでもまったく構わないだろう。
 一枚の板を作るまで散々苦労をしたり、丸木からカヌーを作ったはいいが、重くて海まで運べないドジをしたり、体調を壊し、食物を確保するために外に出ることもできず、煙草で空腹を紛らわそうとしたり(実際、古代人はそのような目的で煙草を吸っていた事実がある。大麻などで酩酊して空腹を忘れたり、その後祭儀のときに使用したりシャーマン的な用途に使われてゆく)。そして麦の栽培に成功し、苦労に苦労をかさねてパン作りに成功したときの場面など、読んでいるこっちも涙ぐみたくなるほど感動すること、請け合いだ。
 現代の文明社会にあって当たりまえのものは、人類の永年の辛苦があって出来てきたということを知るだけでも、物や道具に対する見方が変わることは間違いないのである。

 ともあれ、そのように物語を読んでいけば自然と生きて行くこと、また「知足者富、強行者有志」や「神や信仰」とはどういうものかがわかるようになっている優れた一冊なのだ。
 そのようにして、ロビンソンはこういう結論に達する。

 この時期のわたしは、この世にあるすべての邪悪から離れて暮らしていた。たとえば、所有の欲望はまったくない。自分が現在得られるものはすべて手にしているからだ。わたしはこの島全体の領主である。わたしが望むならば、王あるいは皇帝と呼んでもかまわない。この全領土には、主権を争いあう敵も競争相手もいない。船に積みこめるだけの穀物を収穫しようと思えば、それも可能である。だが、そんな必要がないので、自分の食用に足ると思われる分量しか種をまかないのだ。ウミガメも多数見つかるが、ときおり一匹つかまえるだけである。それでじゅうぶんなのだ。船隊をひとつ建造するほどの材木もあり、そこに積みこむワインや干しブドウをつくるに足るだけのブドウもじゅうぶんにある。その必要がないだけだ。
 利用できるものだけが、わたしにとって価値のあるものだった。(中略)

 わたしは自分のかたくなで罪深い過去をふりかえって、数か月のあいだ悲嘆にくれていたことがあった。そのとき、自分の周囲をながめて、この島に流されて以来、いかに自分が神の恵みを受けているのかを悟った。神はわたしの犯した罪を罰するよりも、むしろはるかに大きな慈悲をあたえてくださったのである。


 文明社会に暮らすということは、この逆の思いを人間に起させるということである。自分より下に人を見ては、そういう人を馬鹿にしていい気になる。あるいはまた自分より上の人には媚びへつらい、その影で嫉妬して悔しがる感情を湧かせ、自分の生命を維持するために働いている自然力、大気や気象や、食物や自然の材料で作られた道具によってどれだけ生かされているかを忘れるというわけだ。つまり、文明生活は感謝を忘れさせるということである。


 だが、運命はべつの道を用意していた。人生でしばしば生じることだが、われわれは自分がもっとも避けたいと願っている災難におちいることで、かえってそれから救いだされることがある。わたしは自分の人生でたびたびそうした体験をしたが、この島での孤独な生活の最後の数年こそは、まさにその適切な例だった。

 いうなれば、これも正しい信仰のありかたであるのだが、文明社会にあっての信仰では、このようにはならないわけだ。自分より豊かな人を見れば嫉妬し、「ああなりたい」と思い、自分より窮している人を見れば、「ああはなりたくない」といったように、本来あるべき信仰を忘れ、「御利益信仰」に堕落するのが文明社会における信仰であるというわけだ。
 

 新米の教師である以上、わたしはフライデイを導くにあたって、知識よりも誠実をもってした。わたしは神の摂理によってあわれな蛮人の魂を救い、イエス・キリストを教えるという役割をあたえられたのだ。こうしたことを考えるとき、魂のあらゆる部分に喜びが走った。かつてはこの島に流されてきたことを自分の最大の苦難とみなしていたけれども、今ではしばしば喜びを感じた。
 このように感謝に満ちた気持ちで、この島での残りの時間を過ごした。この世に完璧な幸福がありうるとすれば、フライデイと過ごした三年間だった。


 まさにこのような気持ちで生きられることこそ、完璧な幸福であろう。
 フライデイを蛮人と表現し、己の信仰を押しつけたロビンソンを非難するような感想を持つ人も見かけたが、どのように読めばそのような感想になるのか、わたしには不思議である。字面しか読んでいないのだろうし、結局のところ読み手の差別感情の反映なのだろうが、そういう感想しか持てないことは可哀想で気の毒なことだと思う。
 
 どこぞの仏教徒などは、聖書を馬鹿にして嘘しか書いてないとか批判していたが、愚かなものの見方だと思う。例えば、『捏造された聖書』という本があって、これは元は敬虔なキリスト教徒で棄教した人が書いたものでるが、アマゾンのレビューで非常に優れた感想を記している人がいた。

 正しいとか間違っていると口角泡を飛ばすのは馬鹿げたことである。

  何かを拠り所としてしか生きられない弱い人達もいる
  キリスト教を光として生きている人達もたくさんいる
  多くの人が光がなければ生きられないはずだ
  この本の読者は言うだろう、それなら読まなければよいと
  しかしネットでこの本の題名が出た時点で
  不安に迷う人も大勢いるのだ
  希望の光を分かって欲しい
  どうか理解して欲しい。


 こうした感想にこそ真実があろう。調子にのって高慢になり、他人の信仰を非難したり批判することが一番馬鹿げた信仰であるというこだ。

ipsilon at 22:41コメント(0)  

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