小説『宇宙の子供たち』宇宙シリーズ【第一部】

2013年01月07日


「そうか、そういうことだったのか……」
「そうなのよ、ニクス。あたしもママと同じで難治性の不妊症だったのよ……」
「で……、なんとかしたくて、体外受精をしたってわけか」
「ええ、その通りよ」
「ひとつ確認したいんだが……、種はハウで間違いないんだろうな?」
 ニクスはニヤニヤしながらエリスに誰何すいかした。
「あたしがそんなに不埒な女だと思ってるの!?」
「はは、冗談さ。俺はあんたの怒った顔に魅力を感じるだけさ」
 トーリのお見舞いに来たというのに、相変わらずマイペースな二人だった。
 病室にはグリークもトロイヤも来ていた。
「ねえ、お兄ちゃん! ロボ相撲して遊ぼうよ!」
「いいよ、グリ。今日は絶対負けないからね!」
「アス、スタートアップ!」
「ニケ、スタートアップ!」
 ロボペットの起動音が部屋の空気をかき混ぜた。
「なあトーヤ、名前、もとに戻してもいいんだぜ。なんていったけ、元の名前は? なんだなー、そいつの名前は俺がガキの頃のニックネームなんだよ。うーん、正直いうとな……あんまり色々命令されると気持ちが良くないんだよ……」
 トーリとエリスがクスクスと笑った。
「僕は今の名前が気に入ってるんだ。このままでいいんだ。……でも……変えた方がいいの?」
「あー、んー、そうなだあ……。ま、お前の好きにしろよ……」
 ニクスは降参した。
「クロノスだよ、元の名前は。“時”って意味だよ!」
「ふーん……クロノスかー。いい名前だな。……おいトーリ、新型のロボはいつできるんだ? そいつは俺が予約するぞ!」
「ニクス……あなたは大人でしょ!? 子供たちに新しいのをあげなさいよ!」
 エリスがすかさず突っ込んだ。
「いや、あの、ロボは後回しにしてるんだ。今は軽量化した宇宙服の開発に手一杯でね……」
 トーリが申し訳なさそうに会話に加わった。
「だ、そうよ、ニクス。残念だったわね!」 
 その時、トロイヤの溌剌とした声が部屋に響いた。
「よーし、起動が終わったぞー、グリ、準備はいい?」 
「だいじょぶー!」
「じゃ、はじめるよ! トーリ、ちゃんと見ててね!」
「もちろんだ」
 満面の笑みでトーリが返事を返した。
「ニケ、ファイト! ゴー! ゴー!」
「アス、あいつを、やっつけちゃいなさい!!」
 二台のロボペットはガチャガチャと音をたててじゃれ合いはじめた。
「アス、キックよ! キック! ……あ、ちょっとー! 後ろ足でやっちゃダメだってばー!!」
 柴犬ロボは後ろ足で回し蹴りをしようとしたが、空振りして倒れてしまった。
「よーし、僕の勝ちだー!! まだまだ新型には負けないぞ!」
「にゅーん!」
 グリークがぴょんぴょんと飛び跳ねて悔しがった。
「お兄ちゃん、もう一回!!」
 医務室エリアは再び日常を取り戻した。
 だが原子炉が故障してしまったアキレウス号は、さながら難破船のように目的地もわからずに宇宙を彷徨っていた。
 そうした状況だったから、ファザーは修理計画を立ててハウに提示した。
 クルー達はデジタル情報を読み、船内を歩きまわって出来る限りのことをしたが、状況は遅々として改善されなかった。しかし、誰一人希望を失ったり諦めるものはいなかった。

 数週間が過ぎたとき、ハウがレクルームに全員を集めた。
「諸君、良い報告だ! アキレウス号は地球に向かっていることがわかった!」
「!!!」
 クルー達は爆発するように大歓声をあげた。
「ファザーからの報告によると、暗黒物質に襲われたとき、マザーは最後の力を振り絞って姿勢制御ノズルを噴射したらしい。勿論、マザーが舵を切った先には地球があった。そういうことなんだ!」
「けど、けどさー、原子炉が動かないんじゃ、大気圏には突入できないんじゃないか?」
 カロンが興奮しながら最もな意見を述べた。
「マザーはどこまでも賢かったんだ。この船は2808付近からずっと慣性航行を続けている。だが、マザーは太陽系の各惑星の引力を実に精密に計算しいてた。つまり、我々が何もしないでいても、アキレウス号は重力ターンスイングバイやホーマン遷移軌道を繰り返して、正確に地球に向かうということがわかったんだ。マザーは……マザーは……実に偉大な母親だとは思わんかね……諸君…………」
 ハウは言いながら感動を抑えることが出来なくなって泣き出してしまった。
 そんな彼を側でみていたエリスは、すっくと立ち上がってハウの説明を引き継いだ。
「大気圏突入もそれほど問題ではないわ。それはファザーがやってくれるそうよ。多少推進力が足りないことは事実らしいんだけど、アキレウス号はそんなことで燃え尽きるようなやわな船じゃないことは、皆も知っての通りよ。詳しい事は全て手元の資料に書いてあるわ」
 エリスはそれだけいうと、ウインクして自分の席に戻った。
「ひいゃっほーい!!」
 ニクスがすっとんきょうな声をあげると、クルー達は思い思いに喜びを表現しはじめた。
 レクルームの天井には雲ひとつない青空があった。その空はとても高くみえたり、涙で滲んで水色に見えたりしていた。

 三ヵ月後、<キンダーハイム・アキレウス>号は無事に地球の大気圏を突き抜けて海に着水した。
 全身傷だらけのアキレウス号は、陽光を浴びて銀色の船体を鈍く輝かせながらしばらく水上を滑っていった。
 水飛沫が砂煙に変わり、船は砂浜に打ち上げられたクジラのように、その巨体を横たえた。
 すでに大気圏に突入したとき、命の炎が消えかかっていたファザーは、アキレウス号が停止したとき天に召された。
 だが、クルー達の中にそれを嘆くものはいなかった。
 ――これでファザーは本当の意味でマザーと同じように久遠の命を与えられた。
 誰もがそう心奥で確信して疑わなかったからだ。
 手動でハッチが開かれたとき、真っ先に大地を踏みしめたのはグリークだった。
「ママ、これが地球の海!? 本物の海なんだね!」
「そうよグリ、これが地球の海よ! 思う存分楽しみなさい」
 グリークは砂浜に何かをみつけて走り出した。
「ママー! カニさんがいるよー!」
「グリ、掴まえてみなさい。そのカニは掴まえても消えないから」
「痛っ!」
 エリスは思わず笑った。
「おーい、グリー! どこだー!?」
 ハッチに奇妙な簡易宇宙服姿の少年が現れた。トロイヤだった。それはトーリが設計して作りあげた紫外線を完全にカットする非常に軽い服だった。
「むんが! 前が良く見えないぞ……」
 トロイヤの横には心配そうに見守るハウがいた。その隣には、トロイヤの家庭教師となることが決まっていたトーリの姿があった。


 それから一年後。水と緑の惑星には不似合な施設で、一隻の船が宇宙に飛び立とうとしていた。
 DOXA所属、最新型準光速宇宙船<ネーデルランダーズ・スペランツァ>号――オランダ人の希望。愛称<喜望峰>号――だった。
 空を圧するかのごとく聳え立った金色の巨大な船体。その船首には風車と赤いチューリップが描かれていた。
 ――あまりにも派手すぎる。
 その外観は、DOXAの各部門から非難の声を浴びたが、一人の男が強引に建造計画を推し進めたのだ。
 メインエンジンが長大な火炎を吐きだし、喜望峰は天空を目指しはじめた。目的地は木星軌道上の小惑星L4−2808だった。
「おい、野郎ども! この任務は重大だ。心してかかれ! いいか! 俺が伝えておきたいことはたったひとつだ。何があっても諦めるな! これだけだ!! それだけ憶えていてくれればいい。いいな、野郎ども!」
「イエス・キャプテン!」
 クルー達の声が弾けた。
 ――さあ、はじまったぜ! マザー、ファザー見てるかい! いや、ゼンタ、ダニエルって呼んだほうがいかな……。DOXAが作り出す犠牲者を俺が無くして見せる。だから、ちゃんと見ていてくれよ! 今のところ俺の本心を知っているのはこいつだけだけどね。
 男は足元に静かに鎮座している最新型のロボペットに視線を落としてから命令した。
「クロノス、スタートアップ!」
 声の主はニクスだった。

 草原を渡る風に吹かれて立っていたカロンとタラッサは額に手を当てていつまでも空を見上げていた。
「あいつ、とうとういきやがったな……。ハウの志を継いだのがあいつだなんてな……不思議な気分だよ……」
「でも、ニクスなら成し遂げるかもしれないわ。アタシは彼が宇宙の孤児にならないことを心から祈るわ」
 カロンはそっとタラッサの手をとった。タラッサのお腹は少し膨らみはじめていた。
「アイツは孤児になんてならないさ……」
「そうね、彼は宇宙の子だもんね。さようならニクス、また逢いましょう!」
 タラッサはそういって手を振った。

――完――

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 アキレウス号のクルー達は生きる活力を取り戻した。
 ニクスにいわせれば――
「あれは反則だ。おれが味わった極寒の世界には温風なんて無かった。まあ宇宙服のヒーターはあったんだが、共に歌いあう仲間はいなかった。だから俺が『寒さの王様』だ!」
 ということだった。
 彼はそういったあと、アンクルの声を耳にした気がしたのだが、それは心に秘めたままにしておいたのだった。
 医務室周辺エリアはいち早く機能を回復した。照明が灯りクルー達はそこにやつれた仲間の顔を見出した。だが、そうであってもやはり嬉しさが込み上げてくるのを飲み込むことは出来なかった。
 だが、アキレウス号の悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。
 事件はそのとき起きたのだ。
 発端は、まだ血色の戻りきっていない青ざめた少年の口から放たれたのだった。
「ごめんなさい……ごめんなさい。僕が……僕が、やったんです。僕がいけないんです……」
「どうしたのトーヤ? あなたは何も悪いことなんてしていないじゃない……。どうしてそんなに泣くの?」
 エリスが心配そうな顔で問いかけた。
「カロン、彼は少し錯乱してるのかもしれないわ。簡易検査器を取ってきて!」
「タラ、僕はおかしくなんてないよ……。僕が……僕がマザーを殺したんです……」
 トロイヤは銀白色の髪を揺らし、すみれ色の双眸から涙をこぼしながらいった。
「なんだって!!」
 ニクスは強い語気でそういってしまってから思わず後悔した。
「トーヤ、落ち着いて話してごらん。ちゃんと話さないと、きっと皆はわからないよ」
 トーリがそういって、トロイヤの背を撫でた。
「僕、両親の回路をハッキングしたんです。でもね、防御が厳重だったんだ。何度も何度も挑戦した。それでようやく回路の一部を占拠することに成功したんだ……」
「そうか、君だったのか……。私は手足の痺れを感じ、マザーは頭痛と眩暈を感じた。その原因は君だったんだね、トロイヤ……。ということは、質量センサーの異常も君の仕業だということかな?」
「そうです、ファザー。ごめんなさい……」
「もういいよ、トーヤ。……僕が説明するから……」
 トーリはそういってクルー達を見やった。
「マザーとファザーへのハッキング。これは巧みだった。決して入り込み過ぎることもなかったんだ。かといって、いざとなれば両親を支配できる状況でもあったんだね。ファザーの痺れは末梢神経を支配していたことになる。マザーの頭痛は中枢神経を支配していたことになるんだね。だからやろうとすれば、トーヤはいつでもこの船を乗っ取ることも出来た。そういうことだね……これで合ってるかな? トーヤ」
 トロイヤ何も言わずにうなずいた。
「おい、トーリ、お前はなんでそれを知っていて見過ごしたんだ? まずそれを説明してくれよ」
 誰もが知りたいと思っていたことをニクスが代弁した。
「すまないんだけどね、それは最後にさせてくれるかな」
「まあ、それでもいいがな……」
 渋々承諾したニクスの声を聞いて、ハウは彼がトロイヤを責めることはないだろうと安堵した。
「じゃあ、説明を続けるね。つまりね、ハッキングには成功したんだ。でもそれを実行してしまうと、自分がやったということがバレてしまうんだね。そんなときアキレウス号は暗黒物質に遭遇したんだよ……」
 トーリの音声には――誰も悪くないんだ――ということを伝えたいという気持ちがこもっていた。
「そこでトーヤは、『あーこれを利用しよう』。多分そう考えたんだと思うんだよね」
 少年は声もなくうなずいた。
「そこで質量計センサーの機能を少しずつ奪った。一気にやってしまうと、両親に見つかってしまうんだね。それは以前のハッキングで学んだことだね」
 トーリはそこまでいうと、トロイヤの手を取って、優しく愛撫するように擦りながら先を続けた。
「そしてそれは見事に成功した。だから、ファザーやマザーでさえ、暗黒物質の接近に気づけなかったんだね……。いま僕がいったことはね、全てトーヤのPCを見れば、証拠は残っているよ。機械は嘘をつけないからだね……」
 クルーの何人かが同時に溜息をつくのが聞こえた。
「さてじゃー、なぜ僕が黙っていたか。その話をするよ。……僕はこう考えた。きっと彼にはそれをしたことに理由も目的もあった、とね。でも僕はその理由を知らなかった。……それとなくトーヤと過ごす時間のなかで確かめようとは思ってたんだね。でも、少し遅かったみたいだ……すまなかった……謝るよ。……確かにトーヤのしたことは決して褒められることじゃない。だけどね、僕は理由もしらずに彼を責めることは出来なかったんだね」
「トーリ、あなたの優しさはとても広くて深いわ……あたしはそれを知っているわ……あなたは優し過ぎるくらい優しいのよ……」
 エリスが堪らなくなって感情を吐露した。
「でもね、僕のしたことも褒められたことじゃない。僕はそれを自分で知っているんだね。だから償いはするよ……」
 トーリはそこまでいうと、トロイヤのすみれ色の瞳をじっと見つめてから話し出した。
 そこには、彼自身の姿も映し出されていた。
「トーヤ、機械はね、痛みや苦しみを知らないし、死ぬということもないんだね。でも人間は痛がったり死んでしまったりする。君はそういうことをもっと一杯知らないといけないんだね。……トーヤ、今から僕が教えてあげるから、目をそむけずに見ているんだよ」
 すでに泣き止んでいたトロイヤは大きくうなずいた。
「君がマザーにしたこと。そして、僕が皆にしたこと。それはこういうことなんだよ……」
 そういった瞬間、トーリはトロイヤの手中に隠し入れていた電磁メスのスイッチを入れると、自らの腹に突き立てた。
「トーリ?……何してるの?……。 トーリ! やめてー!! 誰かトーリを止めてよ! お願いだから止めてー!!」
 エリスが絶叫した。
 カロンとニクスがトーリに駆け寄ろうとした刹那、トーリは凄まじい剣幕で怒鳴った。
「来るな!! 誰も僕に近づくな!!」
 トロイヤは大きく眼を開き、瞳をひきつらせながら、自分の手元とトーリの顔を交互に見つめた。
「トーヤ! 目をそらすな!! 手を離しちゃ駄目だ!! 自分から逃げるんじゃない!!」
 トーリはそういったあと。電磁メスをちから一杯引き上げた。
「やめてええええぇぇぇぇー!!」
 すでに気力の衰えていたエリスは、その光景を見て気絶した。
「トーヤ、人間はね……酷いことをされると、とっても痛いんだ。……そして、下手をすると死んでしまうんだね。……わかるよね? トーヤ」
 少年は涙を流しながら、無言で何度も何度もうなずいた。
「……これは血だ……赤くて温かくて少しヌルヌルするね……君の中にも僕のなかにも流れている血なんだね……そしてこれは、マザーやファザーにも流れているんだ…………わかるよね? トーヤ…………」
 トーリはそこまでいったあと横倒しにたおれて気を失った。

 誰もが納得した。誰もがトロイヤとトーリを責める気になどならなかった。
 マザーに変わって、ファザーから適切な処置を受けたトーリは、命に別状はなかった。ただ今度は、以前より長いこと病室の住人になったことだけが違っていたのだった。
 
 何日かが過ぎたあと、トロイヤは幼い頃から、病弱だったことに強いコンプレックスを持っていたことをハウとエリス、そしてファザーの前で坦々と語り出した。
「僕はいつも自由になれないことが苦しかったんです。全身に鎖を繋がれたような感覚をいつも感じていたんです。……だから、僕にとっては何かを知るということが自由だったんです。知ればしるほど機械を理解できる。そう気づいたとき、これを続けていけば、マザーやファザー、そしてクルーの皆にも、僕の気持ちを理解してもらえるんじゃないか……。そう思うようになったんです。……でも今はそれがとんでもない間違いだったって知っています。……トーリが僕にそれを教えてくれました……。だから、僕は早くトーリに会ってお礼をいいたいんです……一日でも早く元気になってもらって、また僕に色々教えて欲しいんです……」
 トロイヤは幼い頃からずっと一人で抱えてきた苦悩をようやく開陳することができたのだ。
 彼の心を知ったハウとエリスは、トロイヤの本質にずっと気づけずに来たことを深く恥じて自省したのだった。
「でも、マザーはもう生き返れないんだよね……」
「そうだね、トーヤ……。でもマザーはきっと君を許してくれると思うよ。わたしにはそれが感じられたんだよ……」
 ファザーはトロイヤが新たに心に負った生々しい傷を優しく慰めるようにそういった。
「マザーはね、決して永遠に生きることを望んではいなかったのだよ。わかるかね? トーヤ」
 トロイヤはにはまだその意味が良くわからなかった。
「いつかきっとわかる日がくるよ、トーヤ。……どうしてもそれを知りたいなら、パパとママによーく教えてもらうことだよ」
「うん、わかったよ、ファザー。僕そうするよ。ファザーと約束するよ」
 ファザーは自分とエリスとの間に生まれた人口体外受精児であるトロイヤ――ファザーにとっては実の息子――が健やかに成長することを心から祈ったのだった。
 エリスはトロイヤの瞳から、それまでいつも感じていた暗い影がふわりと消えていったのを見たきがした。
 “きたかぜ”が去って、“たいよう”が輝きだしたことを感じたのだった。

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ipsilon at 19:39コメント(0)トラックバック(0) 

「ママ、寒いよ……とっても寒い……」
 病弱なトロイヤが真っ先に気温の異常を告げた。
 だが、ハウたちに出来ることは、限られていた。
 エリスとトーリが暗闇の中、持てるだけの毛布をかき集めては来たが、そんなことでは我慢できない寒さだった。
 カロンとニクスが医務室の扉をくぐったとき、船内の温度はもうかなり低下していた。
 汗だくになった二人は異様な寒さで青紫になった唇が小刻みに震えることを抑えられなかった。
「おい、ここは酷えことになってるな……」
 ニクスは部屋に入るなりそういった。
「船長、戻りました……。少々失敗しましたが、なんとかやりましたよ。……でも、この状況はマズイですね……」
「アナタ、お帰りなさい……」
 タラッサはカロンの側にいこうとした。しかし、かじかんだ手が車椅子のハンドリムに触れたとたん、刺すような冷たさを感じて、手を離してしまった。
「2808で味わったあの寒さ。もう二度とあんなのはご免だ。そう思ってたのに、またこれかよ……たまらんな……。それにこの暗さ。あそこじゃー星空が見えたけど、ここはそれさえ見えやしないときた……いやな感じだね……」
 ニクスは皆を励まそうとして、必死に喋った。だがそのその言葉は酷寒のせいで、聞き取りづらかった。
 ――このままでは遅かれ早かれ、体力の無い者から順に凍死する……。
 ハウにはそうしたことがすぐに理解できた。しかし、朦朧とする頭。やたらに重く感じる体のせいで、何かをしようという気力を湧かせることが出来ないでいた。
 暗黒物質のウイルスは船体を突き抜けて、クルー達を脅かしていたのだ。
「ママ、眠い……。でももう寒くないよ……。とっても眠い……」
 グリークのか細い声がエリスの耳に届いた。
 りんごのような頬を誇っていた少女の顔からは、血の気が完全に失せていた。
 エリスは毛布にくるんだ手で、必死にグリークの体を擦っていた。
 彼女は哀願するように、ニクスに何かを訴えようとしたが、声にならかった。
「今、俺に出来ることはこれだけだ……」
 ニクスはそういうと、着ていた革ジャケットを脱いで少女の体に被せた。
「船内を歩きながら、寒さを防ぐものはないかと探しながらここまで来たんだけどな……目ぼしいものは無かった……。こういう時は無理してでも喋るしかない。……俺が2808で学んだことは、そういうことだ。さあ、みんな何でもいいから喋れ! 黙ってたら死ぬぞ! 死にたくなかったら喋れ、話せ、声を出せ! さあやれよ!」
「とはいっても、何を話せばいいのか思いつかないよ……」
 トーリが弱々しくそういった。
「俺は口の減らない男だ。だけどさ……俺をあの寒さの中で救ったのはその口の悪さだったのさ。俺はあの時くらい自分の持ち味が活かされたって感じたことはないんだ! おいエリス、毒を吐けよ! いつものようにだ!」
「……なんであなたはいつもそうなの。どこかに脳みそを落としてきちゃったんじゃない! こんな時に呆れるわ! ノータリン!」
 エリスが不自由な口を開いて大声を上げた。
「お前と娘は似て非なるものだ。大体にして、違い過ぎるんだよ。いいたくはないが、娘は特別出来がいい! そしてあんたは格別出来が悪いんだ! しかも、娘は美人、あんたは不細工ときた。それで親子とか笑わせるな!」
 ニクスは憎まれ口を叩きながら、グリークの体を擦るのを手伝いはじめた。それから、目で『そっちはトロイヤを擦ってやってくれ』とカロンに合図した。
「こらトーヤ! 勉強ばかりじゃダメなんだ。おれと相撲を取ってみるか! まあ百遍やったって負けないけどな! おい、ちょっとまて! お前怪力ロボットで勝負しようなんて汚いじゃないか! この卑怯者め!」
 カロンがニクスの思いに応えて、トロイヤを温めながら叫んだ。
「…………」
「ハウ、アタシの才能を認めないっていうの! あーそうですか、そうですか。あなたは人を見る眼がないわ! このコチコチ頭め! しかもアナタは女たらしで、女に甘い! これは女の直感よ! だから間違いないわ!」
 タラッサがハウを罵倒しはじめた。
「おいトーリ、オレはお前の機械への偏執ぶりが、大嫌いだったんだ。いい加減に気づけよ。自分の良さにだ! でないとこれからは名前で呼ばないぞ! この人間嫌いめ! そういうお前が人間だってことに気づけってことだ! わかったか! この機械頭野郎め!」
 カロンが非難の声をあげた。
 部屋はクルー達の罵詈雑言に包まれた。
  おおかたは冗談や皮肉ではあったが、中にはここぞとばかりに本音を披瀝した言葉もあった。だが、この時はそんなことに気づくものは誰もいなかったのだ。
 ただただ生きようと必死だったのだ。
 彼らはあらんかぎり互いを罵りあった。そうした行動が暗黒物質ウイルスをいち早く体内から消滅させる方法だということなど誰ひとりとして知らなかった。だがクルー達を救ったのは、まさにこの誹謗中傷合戦だったのだ。
「いいたいこともいわずに死んでたまるかー! クソッタレめが!」
 ニクスが誰にいうとでもなく、そう暴言を飛ばしたとき、部屋に常夜灯がともった。
「…………あーみなさん……何をされているのですか……。さっきから何だか悪口をいいあっていますが……なぜそうなってしまわれたのだか……まあ想像はつきますが、困った方々ですね……」
 それはファザーの声だった。
「!!」
 ファザーはシャットダウンされる寸前に、自動再起動のプログラムを実行していたのだ。
「寒くてどうしようもない。そういうことで、そうなったのだとは思いますが……。方法は他にもあります。私が手本を見せましょう……。もう少し我慢してください。何とかヒーターを作動させますので……」
 ファザーはそういったあと、大きく深呼吸をしてから、朗々としたバリトンボイスで高らかに歌いはじめた。

「ヨホホエ! ヨホホエ! ホエ! ホエ!――フイーサ!」
 それはかつてアントンの死を悼んで流された曲。『さまよえるオランダ人』の一節だった。
 ファザーは一小節だけ歌ったあと、語りかけるようにいった。
「歌詞などわからなくても良いのです。今は私と共に歌ってください。それでは、はじめます」

ヨホホエ! ヨホホエ! ホエ! ホエ!
フイーサ!
嵐は陸へ向かって吹く
フイーサ!
帆を降ろせ! 錨を投げよ!
フイーサ!
入り江の中に船を入れよ!
黒き船長よ上陸せよ
七年は過ぎ去った
ブロンドの乙女の手を求めよ!
ブロンドの乙女よ貞節を誓え!
今日は愉快に フイ!
花嫁よ フイ!
嵐は結婚の音楽を奏でし――大洋は踊る!

フイ!――耳を傾けよ、彼が口笛を吹いているぞ!――
――船長、もうお帰りですか?――
フイ!――帆を上げろ!――
あなたの花嫁はどこに!――
――フイ!――沖へ出ろ!――
船長よ、あなたの愛は成功しなかったのですか!
ハハハ!
嵐よ、わめけ!
我らの帆は休ませておくのか!
悪魔が我々を嵐に対して不死身としたのだ
我々は永久に死なぬのだ!
ホホエ! 永久に!

ブーンブン、可愛い車よ
元気よく回れ!
千の糸を紡いでおくれ!
可愛い車よ、ブーンブン!
私の恋人は海にいて
貞淑な乙女に思いを馳せる
可愛い車よ、ブーンブン!
おまえが風を起こさせりゃ
あの人も早く帰れるの
紡げよ! 紡げよ!
力を込めて娘たち!
ブーンブン!
かわいい車!
トラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・!

フイ!――耳を傾けよ、彼が口笛を吹いているぞ!――
――船長、もうお帰りですか?――
フイ!――帆を上げろ!――
あなたの花嫁はどこに!――
――フイ!――沖へ出ろ!――
船長よ、あなたの愛は成功しなかったのですか!
ハハハ!
嵐よ、わめけ!
我らの帆は休ませておくのか!
悪魔が我々を嵐に対して不死身としたのだ
我々は永久に死なぬのだ!
ホホエ! 永久に!

(歌詞対訳:渡辺 護)

 歌はアキレウス号全体に響き渡り、船とその周囲の空間を揺るがした。
 全ての詞を歌い切ったとき、部屋の壁にあるスリットから温かい風が吹き出した。
「良かった……これで助かる」
「ああ……もうこれで死んでもいい……」
 それぞれが抱えた感情は様々だったが、それは生を実感するものだったことだけは確かだった。

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2013年01月06日


 <キンダーハイム・アキレウス>号を取り囲んだ暗黒物質の黒雲は、船体に接触すると光の彩をつくった。
 暗雲から銀色の船殻へと稲妻が走り、様々な大きさの光輪が瞬いた。赤や橙、黄や緑、青や紫、まれに金や銀、銅、白金色の光が線香花火のように炸裂して跳ねまわった。
 薄くなった黒雲からは、さんざめくように光の雨が船体を打った。それは時折、風に煽られたかのように、左に揺れ右に吹かれ、時には暴風雨のごとくアキレウス号を叩いた。
 光の饗宴は暗黒物質の雲が消え去るまで、終わらなかった。
 フェルト生地の艶のない黒布に星々が散りばめられた宇宙を背景にして、暗黒物質とアキレウス号が織りなした、“光彩の舞踏会”を目撃したものは、『この世にこれほど美しいものがあるのか……』。そう感嘆し、息をすることさえ忘れて、その光景に見入ったことだろう。だが、この“光彩の舞踏会”を眼に焼き付けられたものは一人もいなかったのだ。
 船は突起物という突起物のすべてを焼き尽くされ、アンテナやセンサーは根元からへし折られて宇宙に漂う塵とかした。
 主動力源の原子炉と人格型コンピューターが搭載されたセントラルエリアは、外板も焼き尽くされて剥がれ落ちた。宇宙の海へと流れだした破片は時々火花を散らしてアキレウス号から離れていった。
 それでも船は完全に機能を停止していなかった。眩いスパークに交じって、何度か姿勢制御ノズルから青白い炎が噴き出されていたのだ。どんなに繊細な視覚をもち、感受性が高い人であろうと、そうした瞬間に気づくことは困難だった。
 黒雲と銀色の船が作りだした極彩色の夜宴はそれほど荘厳だったのだ。

 全身に焼けるような熱さと、刺すような痛みを感じながら、マザーは最後の力を振り絞って、CPUに指示を送っていた。
 もしも自分が宇宙と同質化する日が来るなら……。そうしたことを考えないでいたマザーではなかったのだ。
 黙示録ともいえる、そのデーターは光の速さで船内の回路を突き進んだ。マザー自らが書いた預言書の内容はファザーにさえ伝えていなかった。
 彼女はそのデーターをファザーと医務室のコンピューターへと伝送し続けた。そうすればそうするほど、マザーは自分が焼き尽くされて崩壊してゆくことに気づいたが、息絶えるまでデータの送信を止めようとはしなかった。

 カロンはコンソールの前を離れて、円筒形の容器が設置された床に座っていた。
 ――こいつは何なんだ……。両親の肉体は残されていない……。そうじゃなかったのか!?……。
 カロンは目の前にある物体がマザーであると信じたくなかったのだ。容器は液体で満たされ、物体は全周から緑色の微弱な光を受けていた。そして、その物体自体が素早く光の筋を描き出していたのだ。
 カロンは長いことそれを眺め続けていた。だが、それが人間の脳ではない……と、どうしても否定することが、出来なかったのだ。
 ――なんて、なんて残酷なことをしやがるんだ……。
 マザーの脳はしだいに形が崩れはじめた。規則正しくゴボゴボと気泡が上がる容器の中で、粉々になりながらゆっくりと容器の底へ向かって落ちていった。
 ――これが俺たちのマザーだっていうのか……。信じたくない……。だが……信じるしかないんだ……。酷い……酷過ぎるじゃないか……。たとえ彼女が望んだのだとしても、周りには彼女を制止する人はいなかったというのか!?……。
 カロンは暗黒物質ウイルスのせだろうか、やたらに体が重くて、頭がぼんやりしてくるのを感じた。
 ――こんなところで死にたくはない……。オレはタラのところに戻るんだ……。たとえ死ぬとしても、オレの死に場所はここじゃない……。タラの側だ……。
「ニクス……おいニクス、聞こえるか?」
「ああ、聞こえるさ……」
 轟音のように唸るノイズに交じって、ニクスの野太い声がした。
「医務室に戻ろう。まだ死ぬとも生きるとも決まっちゃーいないが、ここにいても出来ることは何もないだろう……もう直ぐ船内通話も不可能になるだろうしな……」
「そうだな……」
「医務室で会おう……」
「わかった……」
 二人は重い体を引きずるようにして、両親の部屋を後にした。
 暗がりの中をひたすら走り抜けてファザーをシャットダウンさせたニクスは、ファザーを直視することはなかった。
 それが幸運だったのか、不幸だったのかは、その時は誰にもわからなかったのだった。

 マザーが望んだもの。それは夢であり、未来への希望そのものという子供だった。しかし、彼女は不妊症だったのだ。マザーは高額の治療費を払い続け、何年も病院へと足を運び続けた。だが、彼女はいつまでたっても子宝に恵まれなかった。
 治療費は家計を圧迫し、ついには借金が増えはじめた。それでも彼女とその夫は諦めなかった。すでに逼迫した経済状態では、最後の望みとなる体外受精を受けることも出来なかった。
 そこにもたらされたのが、DOXAからの提案だった。
 これまでの借金返済は全額DOXAが保障する。人工体外受精の費用はDOXAが全額負担する。その条件を持って、人格型コンピューター研究への協力として検体となる……。
 提案の内容はそうした内容だったのだ。
 マザーは夫と相談して了承した。ただし、夫と共に検体になること。そして、生まれた子と夫から引き離されないことを約束して欲しいという条件をそえて……。
 こうして生まれたのが、エリスであり、人格型コンピュータ搭載、準光速宇宙船<フライング・ダッチマン>号であり、のちの<キンダーハイム・アキレウス号>だったのだ。
 そのアキレウス号は、船体の三分の一を焼き尽くされ、無残な姿となりながらも、物音一つたてずに宇宙を滑るように進んでいた。
 目的地もわからぬまま、八人のクルーを乗せて。

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 一足先に医務室についたハウは船窓の遮光シールドを次々に下ろしはじめた。タラッサも不自由な体で作業を手伝った。彼らは、黒い雲のような物体が白紫色を稲光りを放ちながら、近づいてくるのを見た。
 普段であれば、一声かければマザーかファザーが窓のブラインドの開閉など一瞬でやり遂げることが出来た。しかし、マザーは医務室周辺の機械装置を真っ先にシャットダウンしていた。だから、全てマニュアルでやるしかなかったのだ。
 マザーがみんなを守ろうとしている。ハウもタラッサもすぐにそれに気づいた。
 遅れて医務室に駆け込んできたエリスとトーリが、作業に加わった。
 トロイヤとグリークは部屋の中央で抱き合いながら、全身を震わせていた。
 部屋は暗闇に包まれた。お互いの顔さえ見分けられない暗黒がその場所を支配した。
 ハウたちは体を寄せ合って、体温と声だけで自分たちをみとめあった。
 やれることはやった。そう判断したハウは思い出したように大きな声で叫んだ。
「カロン、ニクス、聞こえるか?」
「ああ……聞こえるぞ……」
 二人が答えた。
「両親のシャットダウンスイッチは同時に押さなければ作動しない! ボタンは二つある。片方がマザー用、片方がファザー用だ。二人で同時に二つのボタンを押す。そうしないと両親を同時にシャットダウンすることは出来ない。二度失敗すると、ロックがかかる。カンウントダウンは君らに任せる。焦らずに落ち着いてやってくれ!」
「了解だ!」
 カロンとニクスは苦しそうな息づかいをさせながら返答してきた。
「あとは彼ら次第だ……」
 ハウはそれだけいうと、皆のもとに戻った。ようやく闇に慣れてきたことで、誰がどこにいるということが、かろうじてわかるようになってきた。
 その時、エリスが静かに語り出した。
「あるところに、いちわのカラスがいました……」
 それはイソップ童話の『カラスとみずがめ』だった。

カラスはのどがかわいて、くるしくて、いまにもしにそうでした。
よわったからだで、あたりをとびまわっていたからすは、みずがめをみつけました。
カラスはうれしくなって、みずがめにくちばしをつっこみました。
でもカラスのくちばしは、水にとどきませんでした。
それでも、なんどもなんども、くちばしをつっこみました。
カラスは「あきらめるしかない」と、とてもかなしくなりました。

カラスはかんがえました。
たいそうながいことかんがえました。
おひさまがしずみはじめました。
もうすぐよるがやってきます。

やがて、なにかにきづいたのか、カラスは小石をひろいはじめました。
あっちにいってひろい、こっちにいってひろっては、みずがめのなかに小石を落としました。
みずがめのなかにあった水がすこしずつあがってきました。
それでもカラスは小石をひろっては、みずがめのなかに落としました。

みずがめの水があふれそうになったとき、カラスはうれしそうに水をのみはじめました。
おなかがいっぱいになるまでのみました。
こうしてカラスは生きのびることができたのです。

 エリスが語り終えたとき、グリークとトロイヤの震えはおさまっていた。
 その時、ニクスの声が聞こえた。
「カロン、こっちはついたぜ!」
「こっちも大丈夫だ!」
「カウントダウンはそっちでやってくれ、カロン」
「じゃあ確認しよう。……三、二、一、ゴー!でやるぞ。いいな!」
「了解だ……」
「カウントダウン! 三、二、一、、ゴー!!」
 二人は両手で同時にボタンを押した。
 羽虫が飛び回るような音がして何かが止まったようだった。
「まずい……。マザーの方のタイミングが合わなかったぞ! ニクス、もう一回だ!」
「三、二、一、ゴー!!」
 二人は今度は一つのボタンを同時に押した。
 刹那、身も縮み上がるようなマザーの絶叫がアキレウス号全体を鳴動させた。
 それは死への恐怖と戦慄、苦痛と崩壊を全身で感じたマザーの悲鳴だった。
 エリスは耳を塞いでマザーの声を聞こうとしなかった。
 ――いや! いや! いやあああぁぁぁー!! 聞きたくないの! 聞きたくないのよ! あたし聞きたくないの!! もうやめてえええぇぇぇー!! お願いだからもうやめてえええぇぇぇー!!
 マザーの悲鳴は、途切れ途切れにいつまでも続いた。
 それでもエリスは気を失うことなく、漆黒の暗闇の中で耐え続けたのだった。

(つづく…… 前へ 次へ 第一話へ この記事の最初に戻る

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