小説『ギガンテスの記憶』宇宙シリーズ【外伝】

2013年02月14日


 発着艦デッキで緊急救命措置を受け、検疫と消毒室を通ったミマースはカートに乗せられ、医療ロボの介護を受けながら、医務室へと運ばれた。
「それにしても、なんと痛ましいのでしょうか……」
 マザーが巨漢の男を見て口にした第一声だった。
「こうなった原因は事故ですか? 戦闘ですか?」
「それがね……ポッドに残されていたデータによると、どうやら捨てられたようなんだよ……」
 ハウは憐みのこもった声で静かにマザーの問いかけに答えた。
「この傷口は人為的なものですね……だとしたら……拷問にあって生きながら捨てられた……」
「だとしたら酷過ぎるね……人間の出来ることじゃない……」
 ハウは眼を閉じて首を振り、溜息をついた。
 そこに、デッキでの後処理を済ませたエリスが姿を見せた。
「エリス、君は見ない方がいいかもしれない……。あまりにも酷い状態だからね……」
「でも……手足がない以外は普通の人なんでしょ? なら平気よ」
 と、いいながらもエリスはミマースの寝かされた手術台に近づこうとはしなかった。
「どちらにしろ、これから少し出来ることをしますので、二人は外に出てください」
「わかったよ、マザー」
 エリスは名残惜しそうに巨漢の男を見て、何かをぼそぼそと呟いていた。
「ごめんなさいね。あたし、宇宙生まれだからあんまり生々しいものを見たことがなくってね……。こういう時は地球生まれの人が羨ましくなるわ……。でも元気になったなら、お話しましょうね……まだ名前もわからない大男さん……早く元気になってね……」
「さ、エリスいくよ。いつまでもいると、マザーの邪魔になる」
「ええ、そうね」
 それから二人はデッキに戻って、ファザーと共にポッドの調査に取りかかった。
メモリーバンクには殆どデータが残されていなかった。自動消去機能が作動していたためだった。
「これじゃーなんにもわからないわね……」
「いや、そうでもないだろう。推測はできるからね……」
 ハウは腕組みしながら、傷だらけのポッドを眺めていた。
「そもそも、このポッドだよ、エリス」
「え? どういうこと?」
「うん、つまりだね、このN―1B型ってのはちょっと特殊でね、あまり使用した船はないんだよ。だから、よく調べればこのポッドがどの船から射出されたのかはわかるってことさ。エリス、そこにある製造番号の書かれたプラカードになんてあるかね?」
「あ、少しまって」
 エリスは汚れているプラカードの部分をウエスに付けた万能洗浄液で拭き取ると、しゃがみ込んでそれを調べはじめた。
「……DOXA001―ET―N―1Bね……」
「一番艦、ということは<ケイローン>号だね。ということはこのポッドは七年近く漂流していたってことになるかな……」
「七年も……」
 そういってエリスは手術台に横たわった男の顔を思い浮かべた。
「ねえ待って、<ケイローン>ってPETUに奪われた船じゃなくって?」
「ああ、そうだね。それがどうかしたかい?」
「じゃああの人は……」
「うん、間違いないよ。彼の着ていた服が明確にそれを証明していた。だからって、理由も聞かずにDOXAや軍に渡すわけにはいかんだろう……」
「まあそれはそうね……」
「とにかく、情報は少ない。彼の回復を待つしかあるまい。でないと、名前ひとつわからん。それが今の状況だね」
「…………」
 ミマースが意識を取り戻したのは、それから二週間ほどが過ぎたころだった。とはいっても、それは意識と呼ぶにはあまりにも頼りないものだった。マザーは四肢の傷口や、漂流中に負った傷や内臓不全の痛みを和らげるために、低温処置と麻酔を駆使していたため、ハウ達とまともな会話ができるようになるまでは、それからさらに二ヵ月を要したのだった。
 ――ここはどこだ? 俺は死んだのか? それとも……。
 ミマースは見慣れぬ清潔で明るい光を放つ天井を見上げていた。
 ――どこかで見た気はするが、何かが少し違うな……だが、この天井は<ケイローン>号に似ている。だとしたら? まあいい、痛みがないだけ楽というものだ……。
 そのとき、ミマースの思考を破るかのように誰かの声がした。
「こんにちわ。お話できますか?」
 覗き込んできたのは、赤い髪をした淡褐色の瞳をした若い女だった。
「誰だ? あんたは誰だ?」
「あたしはエリス。エリス・メアよ。あなたは? あなたの名前は?」
「ここはどこだ?」
「ねえ、いっぺんに色々は教えられないわ、ゆっくり順番にいきましょう……。まず、あなたの名前を教えてください」
 エリスは幼少時代にマザーが自分にしてくれたように、優しく巨漢の男に話しかけた。
「俺か……俺の名は……ミマース……」
 男は、か細い声で自分の名を口にした瞬間、眼に涙を溢れさせた。
「名前……名前なんてすっかり忘れていた……。長いこと誰かに名前を呼ばれたことさえなかった」
「無理もないわ。あなた、そう、ミマースさんは七年以上眠っていたようなものだったんだもん……」
「七年か……もうそんなに経っていたのか……」
 そういってエリスはミマースの薄くなった黒い髪を優しく撫でた。
 ミマースとエリスとの邂逅、そしてハウとの出会いはさしたる問題を起さなかった。だが、ミマースの意識がはっきりしてくればしてくるほど、巨漢の男は二人に反発し、これでもかと噛みついた。顔を歪めて満たされぬ怒りをぶつけ、怒声をあげて動けない体で暴れようとした。
 しかし、ハウもエリスも根気強くミマースと向き合った。巨漢の男は極限まで高められた人間不審と恐怖に喘いでいた。とくに同性である男性に対する不信感は強かった。ハウはすぐにそれに気づいて、エリスのアドバイザーとなり、エリスを陰から支え続けた。彼女はマザーとファザー、そしてハウから注がれてきた愛情をそのままミマースに注ぎ続けた。
 ようやくミマースが二人と両親に心を開きはじめたころ、<アキレウス>号はフロリダにあるDOXA宇宙港に着陸した。問題は山積みだった。元<ケイローン>号船長、ミマース。その名前はDOXAのセントラルデータバンクにもしっかりと記録されていたからだ。ハウとエリスは何日にも渡って、その問題を話し合った。
「彼に必要なのは過去ではない。彼に必要なのは今だし、これからという未来だ」
 結果的にハウのこの一言がエリスを納得させた。話しがついたあとのエリスの行動は早かった。ミマースのために、ようやく地球最高の医療技術を持つに至った、DOXAの技術を駆使したサイボーグハンドとサイボーグレッグの開発をすぐに技術局に依頼したのだった。
 ミマースの過去に関しては、ハウが情報局の知り合いを通して、DOXAや地球軍に残る経歴一切のデータを消去することを依頼したのだった。
 かくして、ミマースは過去を清算して今の自分を受け入れたのだった。
「さあ、ミマース今日はあなたの体のサイズを測らせてもらうわよ。淋しいけど、これが済んだらしばらくお別れよ」
「これからどこにいくんだ? 俺はどうなるんだ?」
「落ちついて。あなたにはもう汚れた過去はないのよ。その話はしたわよね。それに、この計測はサイボーグハンドのために必要なの。さ、おとなしくしていてね……とはいっても、あなたは大人しくしているしかないけどね……」
 といって、エリスはミマースの脇をくすぐった。
「あ、ちょっと! やめてくれ! おとなしくしてるから!」
「ふふ。素直でいいわ」
「くっそー、義手ができたらやり返してやるからな!」
「その意気よ、ミー。……でもね、しばらく会えないわ。明後日にはもう地球を立つのよ、あたしたち……」
 ミマースは淋しげな眼をして、動きまわっているエリスの手元を見ていた。
「小惑星探査かい? また三年もかけて……なぜそうも頑張れるんだ、君たちは?」
「夢ね……夢があるからじゃないかな……それに、あなたが嫌いになった宇宙をあたしたちは愛してるのよ。だから何も不安なんてないの」
「夢か……俺にはまだ思い描けないな。だが、見つけ出してみたいものだね。もう悪夢は沢山だ。見飽きるほど見てきたからね……。俺はやるよ、エリス。あんたたちには恩義を感じているんだ。軍に入ってろくでもないことをして、挙句のはて俺はPETUで人殺しをしてきた。
 ――考えてみれば、俺が奪った命を考えたら、手足を失うなんて安いものだったんだ。でも、そんなことさえ気づかなかった。DOXAを恨んできた。だけど、皮肉なことにそのDOXAの技術で俺は救われようとしている。まっとうに生きる道を必ず見つけ出すよ。なあ、エリス。三年経ったらまた俺と会ってくれるよな? ハウも会ってくれるよな?」
「ええ、もちろんよ……」
 エリスは込み上げる嬉しさを抑えられずに眼に涙をためてミマースの肩に手を置いてた。
「あたしね、嬉しいの。あたし自身が出来の悪い子だったのよ。きかん気が強くてね、両親もハウのことも散々困らせてきたの。そんなあたしが、誰かのために何かが出来た。それが嬉しいの……。強情だった頃のあなたは、まるで自分の過去を見ている気がしたわ……。だめよ! そんなに頑なになったら……いつもそう思ってあなたを見てたわ……」
「エリス……ありがとう。本当にありがとう……」
「駄目よ。お礼はハンドとレッグに慣れて、当たり前の日常を取り戻してからしか聞かないわ」
「…………」
 エリスの瞳から落ちた涙がミマースの肩を濡らしていた。
「なぜだかわかる?」
「いや……よくわからないけど……」
「寝言よ……。あなたがいっていた寝言。トアス、トアスって……。その人を抱きしめられるようになってからってこと」
 ミマースは声をあげて泣いた。だが、トアスのことはエリスにもハウにも何一つ語らなかった。
 ――充分だ。これで充分なんだ。俺はもう振り返らない。トアスのことを忘れることはないだろう。だが、今の俺には聞こえるんだ、あいつの声がね……。
「馬鹿な男。どうしてそうやって強がるのかしらね。等身大で充分じゃない。男に生まれた以上男らしくすることなんてないのよ。あたしを見てごらんよ。こんながさつな女だけど、それでも女さ。そんなことしてたら、いつかあんたは一人になっちまうよ。意外に思うかもしれないけどね、人間なんてそんなものさ。変に強がらないことだよ」
 トアスは微笑んで、二本指で敬礼していた。やっとわかってくれたんだね――あたしを待たせやがって、と。
 それから、ミマースは彼女の夢を見ることはなかった。思い出したくなれば、いつでも思い浮かべられるようになった。しかし、そうしてしばしば郷愁に耽ることはあっても、もう悲しい眼をしたトアスの夢を見ることはなかったのだった。

 巨漢の男は軍隊時代を思い浮かべては必死にリハビリに励んだ。
 その効果は二年後に実った。ミマースは両手両足を取り戻したのだ。以前とは比べ物にならない違和感のない四肢を取り戻したのだった。漂流中に負った後遺症で、左眼は視力を失っていたが、それも人工眼球の移植を受けることが決まっていた。その二年間で、彼は様々なことにも気づいた。
 七年にも及ぶ孤独。耐え難かった苦痛と苦悩。死ばかりを追い求めた月々日々。だがそれが、彼の心の底に溜まっていた黒い怒りを自然と癒していたことに気づき、ハウとエリスによって、宇宙が忌むべき存在でないこと、人が厭うべき存在でないことを知ったのだった。そのどれかが欠けたとしても、彼のリバース――再誕生――ともいえる再生はありえなかったのだ。
 灰色の夢の中で見た景色。それはスイスにあった。
 ミマースは総天然色の光景に心を奪われた。そこには全てがあった。草も木も花も、蝶も鳥も鹿の親子も、川も湖も、大地も空も風も雲も、マリーゴールドも福寿草も、そして太陽と生命も。
 男は知ったのだ。これは俺自身だ。宇宙と地球と俺を隔てるものは何もない、と。そして、それを知ることこそが、生きることであると知ったのだった。
 ――だがまだだ。俺が知ったのはまだわずかだ。何もわかってなんかいやしない。だから俺は生命でそれを知るために宇宙ソラに帰る。そして幸せを掴んでみせる。当たり前の日々をね。ハウ、エリス、待っていてくれ、もう少しだ。たとえこの先、君達に会えなかったとしても、俺は宇宙で生きてみせる。俺の居場所が見つかるまでね。オトス、ギュゲス、アグリオス、ルテラーナ、そしてトアス、みんな、ありがとう。

「ミー……あなたは強くて優しいわ……。あたしね……ずっと石像のように生きてきたんです」
「ラティさん……」
「ええ、そうなんです。石像です。黄金律とかバランスとか完璧さとか、そんなありもしないものになろうとしてたんです。でも、ミーの話を聞いて、自分の愚かさがわかりました……」
「…………」
 ガラティアはミマースが動揺するほどしゃくりあげながら、話し続けた。
「セドナと暮らしはじめてから、それとなく気づいていたんです。うんちやおしっこの洗礼を浴びてね……。でも、その正体がわからなくて不安だったんです。でも、今はっきりわかったんです。生きるってみっともないんですね……」
「ラティさん……そいつは名言だ……。ああ、とってもみっともないね……」
 ミマースは慰めるつもりで思いもよらないことを言っている自分に気づいた。
「ミーったら……。でも嬉しいわ。あたしは自分のかけた呪文で石像になっていたのよ。そして、それをあなたがといてくれた。そんな風に思うわ……」
 木綿のハンカチは二人の涙を吸って、ぐしゃぐしゃになっていた。
 ガラティアはそのハンカチを握って微笑んだ。
「じゃあ、みっともないものどうし、今を切り取りましょう、少し待っていて」
「え?……」
 そういって部屋をでたガラティアは、すぐに戻ってきた。
「さあ、準備はいいわ」
 ベッドから離されたサイドテーブルにはカメラが乗せられていた。
 ガラティアがセドナを抱き上げてミマースの横に座ると、部屋にセルフタイマーの音だけが響き渡った。
 ――ピピピ! カシャリ!
「もう一枚ね」
 ミマースの枕元にセドナがおろされ、ガラティアがカメラのもとにいって戻ってきた。
 とたんに、赤ん坊は豪快な泣き声をあげて、ぐずりはじめた。
「あー、ラティさん、抱いてあげないと……」
「待って、待って……」
 ――ピピー! カシャ!
「あー!…………」
 二人はセドナをあやしながら、出来上がった写真を眺めた。
「これは酷いね……」
「でも素敵よ……」
「どこがですか? ラティさん……」
「うん。みっともないところがね……」

――完――

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追伸
ミマース。あたしが送れなかった手紙さ。
今となっては遅かった気もするけどね。
どっちにしろ、あんたはもう、きっと気づいてることさ。
またいつか笑って会おうぜ!
say, goodbye !


弾丸たまよりも速く走ろうとなんてしないで
太陽を打ち倒そうとして高く飛んだりしないで
あなたでなくなるような一直線の疾走なんてしないで
しまいにはあなたが打ち倒されてしまうから

あなたが打ち倒されてしまったなら
そこには誰もいない家が残るだけなのよ

自分の内側を見つめて、あなたが感じたことを話すの
自分の内側にいる自分と重なったまま遥か遠くを目指すの
私があなたにしてあげられることは何もないの
あなたが創りだしたものがあなたを救うのよ
あなたがあなた自身を創って飛ぶのよ

月を撃ち落とそうなんて夢見たりしないで
風船みたいに風に心をまかせたりしないで
知りもしない場所に彷徨っていったりしないで
なぜって、しまいにはあなたが打ち倒されてしまうから
しまいにはあなたが打ち倒されてしまうからよ

あなたが打ち倒されてしまったなら
そこには誰もいない家が残るだけなのよ


トアス

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2013年02月13日


 DOXA所属準光速宇宙船<キンダーハイム・アキレウス>号は宇宙の闇を進んでいた。
 銀色に輝く船体は太陽の光を照り返し、キラリ、キラリと自然の法則に従って瞬いていた。船長であるハウ・メアは、第五次小惑星探査任務の旅を終えて、航法や船体を管理する人格コンピューター、ファザーに地球に帰還するとこを命じていた。
 人影がまばらな艦橋でハウは船内の環境や技術的な問題を管理運営している、もう“一人”の人格コンピューター、マザーと世間話に花を咲かせていた。
「マザー、今回も収穫はなかったね。残念だよ……」
「もう十五年ですか……。船長、あなたも先のことを考えてください。いつまでもあたくし達の犠牲になるべきではありません……」
 小惑星探査に執念を燃やすハウは、一期三年に渡る任期を繰り返し勤め、地球と木星軌道を行き来していた。
 そのハウの横には、妻であり技術研究主任であるエリスがいた。
「ママ、だめよ。そんな台詞をお題目のように唱えたって、この人は聞く耳を持たないわ」
「エリス……あなたがそうやってハウをそそのかすから、ハウはこの船を降りないのですよ」
「さあどうかしら……。あたしが見た感じじゃー、ハウは頑固なだけだと思うわ。頭が固いのよ。コッチコチなの……」
「エリス……」
 ハウは困惑した表情を見せ、マザーは溜息に似た声を漏らした。
 ハウとエリスの求めるもの、それは永遠の生命を手に入れたマザーとファザーのために有限の生命である、生身の肉体を取り戻す技術の開発にあった。ハウが数次に渡って小惑星探査の任務に就いていた理由はそうしたものだったが、それは、エリスの追い求める願いでもあったのだ。
 癖の強い赤毛を短く切り揃えているエリスは、マザーとファザーの実の子だった。とはいっても、その誕生から成長までの年月は波乱に満ちていた。無窮の宇宙空間で――<アキレウス>号の無菌室で、人工授精児として生を受けた彼女は、地球とはなにか、両親とは何か、それさえ知らずに、マザーとファザーの声だけを頼りに育ってきた。
 そんなエリスがハウと出会ったのは、彼女がまだ七歳の時のことだった。その時エリスは泣いたのだ。ピンクのウサギの縫いぐるみを握りしめて号泣したのだ。母とは何か、父とは何かを知りたがって泣き叫んだのだ。
 当時、二十七歳だったハウは、少女の慟哭に戸惑い、尻ごみしつつも、赤毛の少女を――お嫁さんにする――と約束してエリスをなだめたのだった。十二年後、果たしてそれが現実となり、ハウとエリスは結ばれた。エリス十九歳の春のことだった。まるでお伽噺のような物語りを綴ってきたハウとエリスは、二十歳の年齢差をもつ、少し変わったオシドリ夫婦だった。
 ハウとエリスはいつからか宇宙を愛しはじめ、そこで生を閉じることさえ厭わなくなっていたのだった。
「あれ? 今何か光ったわ!」
 宇宙人種スペースノイドがもつ鋭い感覚に導かれたエリスが船窓の向こうに眼をやって呟いた。
「どこだい? 私には見えなかったなー。……マザー、センサーは働いているかい? 何か捉えられるかい? ……α7β8γ3の方角だね」
「ちょっと待ってくださいね。センサーの出力をあげてみますので……」
 エリスの淡褐色ヘーゼルの瞳の中でまた何かが煌めいた。
「でも、この宙域には何もないはずよ。無人探査機の航宙コースでもないし……気のせいかしら?……」
 エリスは艦橋のメインスクリーンに映し出されていた付近の宇宙図に眼を向けた。
「どうやら人工物のようですね……」
 マザーが解析を続けなら経過を知らせてきた。
「しかし、おかしいですね……破損した船の部品などであれば、もっと不規則な形状のはずです。いまスクリーンに出します」
 宇宙図の端にマルチ画面が開いて映像が表示された。
 それは鈍く光ってはいたが、汚れて破損個所のある銀色の球形をした物体だった。
「救助ポッドだ……」
 ハウが確信に満ちた低い声で唸った。
「でもこの宙域にあるのはおかしいわ……。警戒は必要よ。マザー、SOSとか何か信号は発信してないの?」
「それが奇妙なことに何も発信していないんです。データバンクを照合してみたところ、あれは間違いなく救助ポッドのようです。N―1B型ですね……」
「少し古い型ね……ハウ、どうするの?」
「一応回収するべきだろう。中に人がいるいないは別としてね……」
「そうね……」
「マザー、ファザーと連携して速やかに回収だ」
「はい、わかりました」
 <アキレウス>号は即座にファザーの操船によって、姿勢制御ノズルを点火して、救助ポッドへと進路を向けた。
 一時間後、ポッドは牽引ビームに捉えられて上陸用クルーザーが係留されている発着艦デッキに収容された。
「なんだか緊張するわ……。調査でもこういう状況はこれまで何度もあったのに……」
 ハウと並んでエアロック目指して走りながら、エリスは好奇心と恐怖が入り混じった表情を見せていた。
「未知との遭遇……君が期待しているのは、そういうものかな?」
「そんなんじゃないけどー……うまくいえないわ……」
「恐らく、君が思っているようなものを眼にすることはないよ」
「そうかしら? それはわからなくってよ。だってここは宇宙なんだからね。何があってもおかしくないのよ……」
 二人は会話を交わしながらも、足を休めずに走っていた。
 エアロックにつくと、ハウとエリスは宇宙服に滑り込んで、デッキへと足を進めた。
 救助ポッドは青い回転灯が作る怪しげな光に照らされて、その外観を曝けだしていた。
「これは酷いな……いったい何年宇宙を彷徨っていたんだ……」
「開けたらお化け……そんなのは勘弁して欲しいわ……」
 二人は目を合わせてから、さび付いて汚れたハッチの解放レバーに手をかけた。
 レバーはギイギイと軋み、まるで開けられることを拒否するかのように叫び声をあげた。
「開いたわ……ハウ、ここから先はあなたに頼むわ……変なものを見て失神しても困るしね……」
 そういうと、エリスは数歩下がってハウが中に踏み込んでゆくのをじっと見守っていた。
 ハウは宇宙服のヘルメットにあるヘッドライトを点灯させると、中に入っていった。
「!!」
 ポッドの中で宇宙服と船内の隔壁がぶつかる音がして、その音はエリスの耳にも届いた。
「なに? どうしたの? ハウ、大丈夫?」
「……あ、ああ、平気だ……。ちょっと驚いただけだ。人がいる……。まだ生きてるようだ……けど……」
「けど?……」
「手も足もないんだ……」
「いやあああぁぁぁー! ……ねえ、作り物なんじゃないの? ロボットだってこともあるわ。ハウ、ちゃんと確かめて!」
「すまないエリス、入口にポッドの照明のスイッチがあるはずだ。それを入れてくれんか」
「ええ……」
 エリスは狭い円形の入口をかがんでくぐると、恐る恐る這い進み、目的のコンソールを見つけて、スイッチを入れた。
 数回、光が明滅してから、ポッドに明りが点った。
 ハウの背中越しにエリスは何かを見た。それは確かに人間のようだった。
 だが、やせ細って胸板から骨が浮き上がっているその人間には四肢が見当たらなかったのだ。
「生きてる……まだ生きているよ……。しかし相当弱っている。下手に動かすのは危険だな……。エリス、マザーにいって、医療カートとロボを手配してくれ」
「ええ、わかったわ……すぐにそうするわ……」
 ハウは宇宙服の靴とポッドの曲面になった床が立てる音が遠ざかっていくのを聞きながら、いたたまれない姿で身を横たえている男を眺めていた。
「この服は……PETUか……。だが、人の命に罪はない……」
 ハウはそう呟きながら、カートとロボが来るのを待った。
 それは、ミマースが救助ポッドに押し込められて、宇宙に放り出されてから七年後のことだった。

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―#13―
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 火星と木星の間に浮遊する岩々。かつて惑星があったかもしれない宙域に小惑星帯はあった。
 木星軌道上にあるギリシャ、トロヤといった、二つのアステロイドベルトとはまた違う存在ではあるが、様々な個性をもった形状をした岩塊がそこにはあった。決まりごとひとつない千差万別な形状をした小惑星が、あちらこちらに見える宇宙に、それとは不似合な幾何学的な人工物が漂泊していた。ミマースの乗った球形の救助ポッドだった。
 定員四名の銀色の救助ポッドには四肢を失った巨漢の男が一人乗せられていただけだった。低温睡眠のサーモスタットが働き、彼は数十時間に一度薄く儚い意識を取り戻していた。目覚めの原因は、ほとんどの場合、体に痛みを感じることにあった。生きているのか死んでいるのか、それすら彼には判断がつかなかった。
 シートに押し付けられた背中が痛み、必死に寝返りをうとうとする。それだけが生の証だった。しかし、四肢をなくしたミマースにとっては寝返りさえ難事だったのだ。
 楽になりたい――その一心で長い時間をかけて体制を変えて眠りに落ちる。だが、しばらくするとまたシートに触れている部分に痛みを感じて眼を覚ます。ミマースはそうしたことを繰り返しては、ひとり呟いていた。
「頼む、誰か俺を殺してくれ……自分では死ぬ事さえできないんだ……」――と。
 ポッドに積まれた大量の生体維持液がタンクからは、半透明のチューブが伸び、巨漢の男の胸部に繋がれていた。
「殺せ! 誰か俺を殺してくれー!」
 ミマースは聞き入れられない願いを虚しく叫ぶこともあった。
 眠りにさえ落ちれば幸福に浸れる、とも言えなかった。眠るたびに何の脈絡もない夢を見ては悪夢にうなされて叫び、呻き、この世の言葉とは思えない呪詛を口ずさみ、自分の声に恐怖し、びっしょりと汗をかいて、眼をさまし、混沌とした世界の住人だけがもつ無表情な瞳を大きく見開いては、漆黒の天井に映った僅かな星の煌めきを見つめたのだった。
 忌まわしき演習の風景、赤く荒れ果てた大地。
 氷の霧ともや。滑り止めのついた鉄の床。そこに倒れた戦闘服の男と女。じゅくじゅくと蠢く戦闘服にできた傷口。
 ルテラーナの怪訝で歪んだ顔。いつでも無償の愛を注いでくれていたはずの母親が突き刺す、冷めて呆れた瞳。アグリオスの狂気がこもった眼光と支離滅裂な言葉の羅列。耳について離れない軽薄なサンダルの立てる音。怒りに満ちて勝ち誇った顔をして、いつまでもいつまでも追いかけてくるギュゲス。
 何もかもが暗く異様で心を締め付ける夢ばかりだった。それでも時折り、奇跡のように彼の胸奥を温める映像を見ることもあった。ありもしない出来事。それはまるで白昼夢のようであった。
 傍らで愛を囁くルテラーナ。透けるような淡い桜色の肌。新雪をたたえた山々が青い湖水を抱き込み、足元ではカスミソウが咲き誇り、微風が花卉かきを揺らしては鼻をくすぐっていた。
 空の雲は薄く長くたなびき、ゆっくりと流れ、鳥が瞬刻はばたいては滑空し、上え下へと緩やかなそよ風を送っていた。鳥たちの中空になった骨が立てる音は、美しい笛のような旋律を奏で、近づいては遠ざかっていった。梢にとまった鳥たちは、楽しげに愛をさえずっては体を触れさせたり離したりしながらダンスを踊っていた。
 ミマースは丈が低く萌えだした草の上に寝転び、ルテラーナの美しく朱に染まった横顔をただ眺めていた。芝生の香りと温もりを感じながら真上に視線をあげると、今にも落ちてきそうな青空と太陽が見えた。ふと視線を戻すと、そこにいたはずのルテラーナが忽然として消えていた。
 慌てて起き上った瞬間、懐かしい声が耳に届いて後ろから肩を抱かれた。体温の温もりを感じて抱きとめられた感覚に痺れ。手指が胸をやさしく撫でる感触に心地よさが湧きあがった。頬に優しく柔らかな吐息を感じた。ありふれたしゃぼんの香りが鼻腔をつんつんと、こそぐった。
「馬鹿だねー……何も気にすることじゃないさ。あんたはあんたらしくしてればいいのさ」
 トアスが無造作に押し付けている体を受け止めると、得もいわれない感情が迸りでた。
 草原には、幾重にもかさなって波打った、赤い花びらのふちを金色に染めた大きなマリーゴールドが、そこかしこで花開いて微笑んでいた。凪いだ湖の渚には、澄んだ浅黄色の睡蓮にも似た福寿草の花が、一輪だけ精一杯背伸びをするかのように花開き、静かにたゆたっていた。
 トアスはミマースの頬に無邪気に唇をらせると、さらさらという音を辺りに響かせて、オーロラのような光を連れながら湖に向かって走っていった。それから、渚に浮かんだ福寿草の花を手にとって微笑みかけると、霧のように消え去ってしまった。
 そこには、虚空からゆるやかに落下する福寿草の花だけが残っていた。巨漢の男はそうした白昼夢を見ては、枯れ果てたはずの涙をほろほろと流した。
 だが、暗黒で深淵な宇宙は残酷だった。彷徨うポッドを情け容赦なく揺すぶったのだ。宇宙線と太陽風がせめぎあい、眼に見えないほど小さな宇宙塵が外壁を叩き、時には拳大の隕石が音も火花も散らさずにポッドに衝突しては、すこしずつ機器の機能を奪い、ポッドを破滅へと追いやっていったのだ。
 衝突の影響を受けた機器は、すべき働きを放棄して故障していった。満足ゆく手当がなされていなかった傷口は凍りはじめ、眠りにつこうとする神経に激痛を呼びおこしては悶絶させた。生体維持液は必要なだけ送られなくなり、巨漢の男の体を干からびさせては萎れさせ、しだいしだいに縮ませていった。
 ある日、ミマースの琥珀色の瞳は、窓の外に奇妙な光を見つけた。それは星とは違う不規則な明滅を繰り返し、なんらかの電波を放っているようだった。
 意思をもたないインジケータの点滅がそれを教えていた。そろそろと近づいてくるその光は、時々青白く瞬いてみせた。すでに時間の感覚さえ失っていたミマースにとっては、それはひとつの慰めのように思えた。ピカリ、ピカリと光りを放つ星はやがて姿を露わにした。
 冷たい直線を組み合わされて作られたそれは、人工の無人星間探査機だった。それは、青光りする太陽電池の腕を四角い箱状の筐体から突き出したまま、ポッドの側を通り過ぎていった。
「救いなどないんだよ……俺は何を求めていたんだ……馬鹿らしい。……救いや愛情を求めれば求めるほど裏切られる……。こんなはずじゃなかった……世界は狂ってしまったんだ……。眠ろう……眠ってしまおう……」
 ミマースは物言わぬ人の作りし物とすれ違い、人のもつ残酷さを嫌というほど味わったのだ。
 ――人は知識を求め、宇宙へとフロンティアを押し進めた。そのあげく作られたものが、人の意思とは無関係に作動し、彷徨い続ける健気な無人探査機となった。そこにある意味はなんだ? 金属で形作られた人工物が、生への希望や死への憧れを満たすというのか?
 人は宇宙の何が知りたいというんだ……。だがそれでも知りたいという欲求は満たされないまま、やがて人は死んでゆく。探査機を作った人々は忘れ去られ、億劫の過去に葬り去られる。ただデータという名の価値さえわかりもしないものを送り続ける。それも何百年もかけてだ……。
 そんなことに何の意味があるというのだろう……人はそれほど長くは生きられない……。人はいったい何を求めているんだ? 俺はいったい何を求めているんだ? ……そもそも、こんな思考自体に意味がない…………全てが虚しいんだ……虚無よ来い! そして俺を呑みこめ! 呑みこんでしまえ……。
「殺せー! 俺を殺してくれ……もう楽にさせてくれー!!」
 ミマースの絶叫はしだいに、その間隔を広げ、生と死の狭間で眠る時間が増えていった。
 痛みすらもう彼を目覚めさせておく存在たりえなかった。男は暗黒の海を漂い、漆黒の深淵を堕ち続け、暗闇の壁に遮られて光を見ることもなかった。ミマースの意思とは関係なく心臓だけが強く脈動を繰り返しては、時間と空間の中に自らがあることを、今ここにあることを誇示し続けていた。
 一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎ、五年が過ぎ去ろうとしていた。だが、巨漢の男の永遠とも思える放浪と、灰色の夢を見続ける意識が途切れることはなかった。そして、その夢の終焉を知らせる兆候は、まだどこにも見いだせなかった。
 生体維持液がボコリという音を立て、またひとつ気泡作っては、立ちのぼっているだけだった。

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2013年02月12日


 ギュゲスの個人的な温情から地球軍の拿捕を逃れ、宇宙を漂流していた<ケイローン>号の監獄エリアに、囚人とは似ても似つかない爛々とした眼光を放っている男がいた。
 普段着姿のその男が持つ雰囲気は業務違反した船員や戦闘員とも捕虜とも違って見えた。服は汚れておらず清潔で、髭も綺麗に剃りあげられていた。アグリオスだった。彼は海兵隊の突入を知ると、着ていた白衣を脱いで普段着になり、研究室からほど近い監獄エリアを目指した。時折、彼の顔を知らない衛兵に呼び止められたが、その度に胸ポケットからIDカードを取り出しては敬礼を受け、難なく先へ先へと進んでいった。そうして監獄エリアに着くと、自ら牢獄の電子閂を開けて檻に潜りこんで捕らわれの身を装っていたのだった。
 船内の警報が解除され、辺りに静寂が流れだしたころ、アグリオスは檻をでた。通路を辿り艦橋へと急いだ。今度はアグリオスを呼び止める者はいなかった。誰も彼もが生き残ることだけを考え、船内を駆けまわっていたのだ。医務エリアも、研究エリアも遺体と負傷者が隔てられることさえなく、列を作って並んでいた。血の匂い、得体の知れない悪臭が通路を満たしていた。時折り垣間見る酷い損傷を受けた遺体に出会うと、彼は酷くうろたえた。
 だが、艦橋に着くころには、そうしたものにも慣れはじめていた。
「ミマース! 君もか!」
 艦橋に入るやいなや、アグリオスは巨漢の男が固まりはじめた赤黒い血の海に横たわっているのを見つけた。
「おい、誰か……」
 そこまで口を開いて、アグリオスは自分が無駄なことをしていることに気づいた。
 彼は床に残された遺体を避けたり跨いだりして救急コンソールまでゆくと、止血スプレーを持ってミマースのもとへと戻り、傷を受けた場所に吹きかけた。スプレーは泡になり、じゅわじゅわという音を立てて傷を塞いでいくのが見えた。
 それから辺りを見回し、これ以上出来ることがないことを悟るとメインコンソールのある場所に体を運んで、両親との直接回線を開いてマイクを掴んだ。
「ペール、メール、私だ、アグリオスだ……。船体の損傷状態と船内の状況を教えてくれ。……あーそれからどこに向かっているかもだ……」
 コンソールにあったスピーカーから、ペールの消え入りそうな声がノイズとともに流れてきた。
「船外の損傷はそう重大ではありません。外板に空けられた穴は既に塞ぎました。ですが船内は非常に混乱しています。目的地は変更がありませんでしたので、戦闘後、小惑星L4―2808の周回軌道上にあります」
「そうか……。そのー、船内の混乱は何とかできんのか? それと、医療ロボとカートを艦橋に寄こせるかね?」
「そうですね……。とりあえず私のほうから船の状況を全船員に伝えることはできます。しかし、それで混乱が収まるかどうかは……。それから、ロボとカートの件ですが不可能ではありませんが、これも混乱が収まらない限り非常に時間がかかるかと思います」
「ではまず船員にこの船が安全なことを伝えてくれ。混乱が収まるまでだ。……カートは時間がかかってもいい、すぐに向かわせてくれ……」
「かしこまりました……」
 アグリオスはそれから思い出したようにまた口を開いた。
「そうだ、ペール……。身を隠すためにL4−2808に着床してくれ。そうすれば船員も少しは落ち着くだろう。そのことも船内放送で伝えてくれ。あと……緊急措置として、君らの機能をフルに戻すから、負傷者の手当てに全力を尽くしてくれ……。あーそれから、報告は何かあったら私にしてくれ、ほかには報告はいらん……次からは船長席に回してくれ……」
「かしこまりました。それでは出来るだけのことをしてみます……」
 ほどなくして、ペールの船内放送が流れ、船が進路を変えて着床体制に入ったことを知らせた。
 混乱はしだいに収拾し、船員たちは落ち着きを取り戻しはじめた。誰も彼もが忘れかけていた存在、頼もしい存在があることに気づいて<ケイローン>号はなんとか統制を取り戻したのだった。ペールからそうした報告を受けたアグリオスは船長席に座ってロボとカートが来るのを憔悴しきった顔をして待ったのだった。
 <ケイローン>号は七十二時間にわたって小惑星L4−2808に傷ついた濃緑色の船体を休めていた。ペールとメールの尽力によって損傷個所は修理を受け、船内には以前の平静さが戻っていた。だが、アグリオスはその三日の間、船にいなかったのだ。ペールが状況報告に交じって伝えてきた、L4−2808上に発見された未確認物体の回収に赴いていたのだ。
 <ケイローン>号は、戦闘で研究員のほぼ全てを失っていた。それゆえ、彼みずからが慣れない宇宙服を着て、調査用クルーザーに乗り込み未確認物体を回収したのだ。実験室に置かれたその物体はわずか一、二センチ程度の艶のない黒い正八面体の結晶――暗黒物質――だった。
 船が小惑星を離れたころから、その物体はペールとメールにより解析を受けたが、アグリオスはデータ各当なしという答えしか得られなかった。傷つき、そこいらじゅうの塗装が剥げた<ケイローン>号はセレーネに向けてバーニアを噴射し、長く陰鬱な帰投の旅へとついたのだった。

 ミマースは二日の間、意識を失ったまま医務室の一角で放置されていた。
 負傷者は山のようにいたのだ。ペールもメールも意識のあるものを優先して治療を続けていたのだ。
 そうしたことで、ミマースは傷を負った左腕と両足を付け根から切断するはめになってしまった。
「体力的に持つがどうかすらわかりません……」
「しかし、このままには出来んだろう。やってくれ……」
 アグリオスの指示を受け、両親は医療行為の間だけ許される視覚モードを駆使して、大手術に挑んだ。
 八時間が過ぎた頃、手術室に灯っていた赤いランプが消えた。カートに乗せられて通路に現れたミマースの顔は死者のように青白かった。だが彼は生きたのだった。
 ミマースが意識を取り戻したのはそれから三日後のことだった。
「何と言葉をかけたらいいものか……。ますそこで悩むのだよ……」
「好きにしてくれ……俺は死に損なった。それだけのことだ……」
 不思議なことだった。だが、ミマースは意識を取り戻したとき、心の底の奥深い部分で何かを感じ取っていた。
 それはいいようのない暖かさとそれまで感じたことのない寂寥感とも喪失感ともいえるものだった。相矛盾する感情。それは虫の知らせだった。地球に住むたった一人の肉親。女手ひとつで彼を育てた母親。その母親の死を予感させるものだった。
 皺だらけになっても柔らかさを失わなかった分厚い手。苦労が滲み出てはいても笑顔を絶やさず微笑みかけてきた顔、その慈愛に満ちた優しい眼差し、歳とともに小さくなっていくように見えた背丈。そのとき彼は母親とのありとあらゆる思い出を脳裏に浮かべては、一人涙を流したのだった。
 ――とうとう一人になってしまった……。
 それからというもの、ミマースはアグリオスが様子を見にきても、感情ひとつ表わすことがなくなってしまった。黙って頷き、黙って首をふり、口を開いても「ああ」や「そうだな」といった囁くような声を出すだけだった。やがて声は枯れて萎み、話すことさえ拒否するようになった。アグリオスもそうした彼の態度に絶望し、訪問回数を減らしていった。
 ミマースが本当の孤独に陥るのは誰の眼にも時間の問題だと映っていたのだ。
「ミマース……これからどうするつもりだ?」
「…………」
「私はPETUを離れることにしたよ……」
 一瞬だった。一瞬だったが、ミマースの琥珀色の瞳に燃えさかるような怒りが湧いたのがわかった。
「そうか……」
「問題は君だ……。君が何らかの意思表示をしてくれない限り、私としても心残りなのだよ……」
「…………」
「なあ、ミマース……」
「殺してくれ……」
 静かな声だった。意思すらないような声だった。
 だが、その声がアグリオスの心に火を点けたのだ。
「ああそうか、ならそうしてやる! 君は私やメールやペールが君を救うためにどれほど気を病んだのかもわからんのか! もういい。もう付き合ってはいられない! 君の願いを叶えてやるよ……」
 白衣の男は噴火するように立ち上がり、病室にあったコンソールにあった受話器を取るとがなりたて、船員を呼んだ。
 船員たちはすぐにやってきた。
「この男を運び出せ。今すぐにだ。そして救命ポッドに詰め込んで宇宙に放り出せ!」
「しかし主任……」
「うるさい、黙れ! 言われた通りにしろ。それがこの男の願いだ。なーに、君たちが気にすることじゃないよ……」
「…………」
 男達はアグリオスの指示に従った。
 ミマースはカートに横たわったまま天井を眺め続けていた。やがて救命ポットの狭いシートに移され、体の各部に電極を刺される痛みを感じた。男達は低温睡眠のスイッチを入れると、振り向きながら去ってゆき、やがて丸く分厚い扉を閉める音が響いた。突然明りが消え、ミマースは加速度を感じた。首を傾けるとそこには星を散りばめた宇宙が横たわっていた。
 ――これで楽になれる。もううんざりなんだ……母さん……許してくれ……。
 ミマースは満たされた思いに浸りながら、浅くもない深くもない眠りに落ちていったのだった。

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 <ケイローン>号の艦橋からは月が見えていた。
 それはミマースがカフラーのドーム天井で見たものと寸分の違いもなかった。その月面の裏側に建設中だったのPETUピーツの基地から四隻の駆逐艇が飛び立っていった。濃い緑色に塗られた船体には円の中に正方形をはめ込み、その中に三角の旗を立てたマーキングが施されていた。四隻の駆逐艇は<ケイローン>号を猛スピードで追い越しながら牽引ビームを放った。
 黄緑色のビームは全条命中して、<ケイローン>号の行き足を簡単に緩めることが出来た。艦橋にいたクルー達はあわてふためいていた。ミマースはそのチャンスを逃さず、船長をはじめとするクルー達全員の気を失わせた。アグリオスは事前に調査していたデータをもとに<ケイローン>号に搭載されていた、人格コンピューター、ペールとメールを待機状態にすることに成功していたのだ。
 <ケイローン>号は、その乗員七名と共に駆逐艇に拿捕され、PETUの月面基地セレーネへと牽かれていったのだった。
「素晴らしいお手並みだったよ、ミマース」
「いいや、君の設計した義手、というよりロボットハンドが役に立ったのさ。まだ違和感はあるがね」
「君、だいぶ口が軽やかになったね。私は嬉しいよ」
「…………」
 ミマースとアグリオスは微妙な信頼関係を築きはじめていた。
 だが、ミマースの心は病んでいた。うわべでは笑っていても、心の中ではアグリオスを信じきれていないことを誰あろうミマース自身が一番良く知っていたのだった。
 <ケイローン>号は、セレーネに着床すると、PETU仕様に改装され塗装も塗り替えられていった。さらには、埋め込み式のミサイルランチャーが搭載され、船体各部には死角のないように計算された大量の砲塔が植えつけられ、かつての<ケイローン>号とは似ても似つかない姿となっていった。しかし、それでも船には決定的な欠陥が残っていた。
 人格型コンンピューターの、ペールとメールがそれだった。
「なんとか洗脳する方法を探さんとね……」
 アグリオスは事あるごとに口癖のようにそう呟き続けていた。
 ペールとメールが叛旗を翻したら……――それは、アグリオスとミマースにとってみれば、自分の体内に爆弾を抱えているようなものだったのだ。
 アグリオスは日課のようにペール、メールと話し合って説得を続けつつ、少しずつ両親の全貌を解き明かして、その機能を奪っていった。だが何をどうしても、彼らの人格を改造する術は見つからなかった。しかし、ペール達にしても、様々な機能を奪われてしまった以上、抵抗は無意味ということを悟り、しだいに態度を軟化させていった。ペールとメールは抹殺されることを望まなかったのだ。
 こうして、三ヵ月を費やして改造された<ケイローン>号は、多くの戦闘要員を乗せてセレーネを後にしたのだった。目的地は木星軌道付近にある秘密基地、レダだった。<ケイローン>号はレダを拠点に、アグリオスの指導のもと木星宙域を調査しながら、地球軍とDOXAの艦船、そして宇宙海賊を相手に縦横無尽に暴れまわった。ミマースは船長として艦橋で指揮をとって何十という艦船を撃破して宇宙を漂う塵を作り出していったのだ。地球軍としてもDOXAとしても、<ケイローン>号のこうした悪逆非道な行いを黙って見過ごしていたわけではなかった。
 軍はDOXAに協力を依頼し、強襲揚陸艇を搭載した機動艦隊を木星宙域に派遣したのだ。
「艦長、相手はたかが一隻です。どんなに針鼠の様に武装していようと、やってみせますよ」
「しかし大尉、本部の意向は拿捕だよ……。その点が少々心配なのだがね……」
「そのための強襲揚陸艇であり、海兵隊じゃないですか。準備は万端です。まー見ていてください。なーに、上手くいきますって。心配せんでください。将軍は上手いことあいつを掴まえてくれさえすればいいんです。あとは我々がやってみせますよ」
 旗艦<イオ>の艦橋に立った提督はいささか自信に貧しいようだった。
 だが、その隣に立った海兵隊の大尉、ギュゲスの顔には不安というものが全く無かったのだ。
 <イオ>を中心とする四隻の準光速巡洋艦は木星軌道に侵入し、センサーを作動させて索敵行動にはいった。
「提督! いました! おそらく<ケイローン>号かと思われます!」
「間違いはないか?」
「はっ! 大きさ、質量とも、DOXAが提供したデータの近似値です。まず間違いないかと思われます」
「よし。全艦に通達! 第一種戦闘配置。揚陸艇の発進もありえる、とな」
「イエス・サー!」
 四隻の巡洋艦内に警報が鳴り響いて、兵士達が機関室、ミサイルランチャーや砲塔、医務室や発艦デッキ、カタパルトへと配置につくために船内を走っていった。
「映像確認距離に入ります。モニターに表示します」
「うん……間違いないな。見た目はかつての<ケイローン>ではないが、間違いないだろう……。よし! 全艦戦闘配置! ただし、目標は敵の火器搭載部分だけだ。それ以外への砲撃は許さん。全艦突撃せよ!」
 四隻の巡洋艦は逆V字の隊形を保ちながら、メインロケットを点火して長大な炎を宇宙に吐き出した。
「ひょー! すんげー加速だぜ!」
 カタパルトに近い海兵隊指揮所にいたギュゲスは壁に手をつきながら慣性に逆らっていた。
「軍です! 四隻もいます!」
「あわてるな、戦闘配置だ!」
 ミマースが一喝すると、<ケイローン>号の戦闘員たちは、ありふれた日常を楽しむかのように配置についた。
「一番近いのはどいつだ?」
「右のですね……」
「よし、長距離魚雷を全弾ぶっぱなせ。再装填はミサイルでいく。いいな!」
「了解! 伝達します!」
 先手を取ったのは<ケイローン>号だった。
 二十数本の魚雷はホーミングされ、全弾が<テーベ>へと向かっていった。
「左舷前方より魚雷多数! 来ます!」
「迎撃しろ! ただし、ミサイルは使うな!」
 誤った判断だった。
 不幸にしてこの不適切な指示が<テーベ>を黄泉の国へ導いたのだった。数十条のビームが宇宙空間を切り裂いて、魚雷に命中した。しかし、撃破できたのは僅かに五本程度だったのだ。
 <テーベ>は十本あまりの魚雷を受け、機関の出力を失い、船内のあちこちが誘爆して大破し、無重力空間を漂流しはじめた。
「提督! <テーベ>が……」
「馬鹿が! なぜ全力防御しなかったんだ!」
 船内は阿鼻叫喚の地獄とかし、気の早いものは脱出ポッドに乗って、射出ボタンを押していた。
「ようーし、次は左のをやる。ミサイルをありったけぶち込め!。前方発射器の射撃が終わりしだい、九十度回頭して右舷発射器のもぶち込め。そのあとは一時退避だ」
 <ケイローン>号はミマースの指示にまったく遅れることなく機動した。
 軽くバーニアを吹かして<エウロパ>との距離を詰めると、ミサイルを撃ちだした。
「ミサイル多数来ます!」
「全艦、全力防御!」
 <ケイローン>号と三隻の巡洋艦の間に、光の花が次々に咲いては萎んだ。
「提督は何を考えてるんだ、これじゃー俺達が発艦するまでもたんぞ……おい、通信兵、艦橋に繋げるか?」
「はっ! 今すぐお繋ぎします」
 ギュゲスは苛つきながら回線が繋がるのを待った。
「ああ、私だ」
「ギュゲスです。提督、今がチャンスです。発艦させてください!」
「何を言っておるか! まだ相手の砲塔一問たりとも潰してないんだぞ!」
「そんなものは問題じゃないんです! あいつらの砲塔やミサイルじゃ、俺達の揚陸艇のスピードには着いてこれないんです。あいつが逃げ出しはじめた今がチャンスなんですよ!」
「…………わかった。やってみせろ!」
「サー・イエス・サー!」
 ギュゲスはこれで勝った。そう確信して受話器を通信兵に渡すと、隊員のほうに向き直って大きな声で叫んだ。
「野郎ども! いくぞー! 奴らを皆殺しにしてやれ!」
「センパー・ファイ! ドゥー・オア・ダイ!」
 隊員達は蒸気をあげるように喚呼をあげ、鷲のような機敏さで揚陸艇に乗り込んでいった。
 すんでのところだった。もしもギュゲスが発艦を進言していなかったなら、<エウロパ>の海兵隊は永遠に戦う機会を失いかねなかったのだ。
 揚陸艇のカタパルト射出が終わったと同時に、<エウロパ>は発着艦デッキに無数のミサイルを浴びたからだ。
「船長! 揚陸隊を発進させたようです」
「やるじゃないか、あちらさん……」
 ――まずいな……ミサイルの再装填までは時間がかかる。残ったミサイルは左舷だけか。
 ミマースに逡巡はなかった。怒りの化身と化していた彼は、いつの間にかそうした感情を失っていたのだ。
 あったのは不信――あらゆるものへの憤怒と怨嗟だけだったのだ。
「本隊は気にするな。揚陸隊からなるべく距離をとって、よく照準して左舷のミサイルを撃てる位置につけ。焦る必要はない。いいな! 落ち着いてやれ! ペール、操船が乱れたなら君が修正してくれ!」
「かしこまりました、船長」
 人格コンピューターが渋い声で指示に従う意思表示をしめした。
 ミマースの予想は的確だった。<テーベ>を失い<エウロパ>が中破した地球軍は怖気づいていたのだ。
「とりあえず距離をとってしばらく静観だ。海兵隊の様子をみる」
「おい、固まって飛ぶな! 散開して突撃しろ!」
 ギュゲスは相手の動きが予想以上に的確なことに驚き、額に汗をかきながら叫んでいた。
「揚陸隊来ます!」
「慌てるな! 照準の準備はどうだ?」
「まだです!」
 揚陸艇はバラバラな方向から<ケイローン>号に向かって加速し、どんどん距離を詰めていた。
「まずいな……こうなるとミサイルはあまり意味がないな。……よし、全砲門開け! ミサイルは誘爆を防ぐために、収納して区画自体にシールドを展開しろ!」
 <ケイローン>号は戦闘空域から離れようと、バーニアを長く噴射した。
 と同時に揚陸艇はギュゲスの怒声とともに、猛然と突撃を開始した。
「全速で突っ込め!」
「うわー! 撃ってきました!」
「馬鹿野郎! こいつは実戦だ! 当たり前のことを報告するな! パイロット聞こえるか?」
「はい!」
「避けながら全力突入だ! こっちも砲門を開け!」
 それは地球軍全体やPETUからすれば小規模な戦闘だった。だが、戦闘自体は歴史に残るような激しさだった。四隻の揚陸艇は猛烈なスピードで<ケイローン>号へと突撃した。しかし、凄まじい防御砲火を受けて、揚陸位置につけず、何度も突撃しては急速離脱を繰り返した。<ケイローン>号はその度に、砲座をいくつか失い、揚陸艇は無数の至近弾を受け、船体に焼け跡を作った。
 戦闘開始から三十分が過ぎたころ、一隻の揚陸艇がコントロールを失って<ケイローン>号に激突して大きな火の玉を作りあげた。
「今だ! 全艇突っ込めー!」
 ギュゲスはチャンスを逃さなかった。
 三隻の揚陸艇は見事に<ケイローン>号の船体に取り付いたのだ。
「来るぞ。全員白兵戦用意!」
 ミマースは負けるとは思っていなかった。
 だが結果は明白だった。相手が悪かったのだ。揚陸艇は船体下部にある装置を駆使して、ほんの数秒で<ケイローン>号の外板に穴をあけてチューブを差し込むと、次々と海兵隊員を吐き出した。
 PETUの戦闘員だけがバタバタと撃ち倒され、通路のあちこちに死体が転がっていった。
「船長! 奴ら、あと二分もしないでここに到達します!」
「だから何だ!? 逃げたければ逃げるがいい……。俺は戦うだけだ」
 ミマースはそういうと、ロボットハンドに銃を取り付けてモードをレッドに入れた。
「…………」
「死にたくない奴は逃げろ……。死にたい奴は戦え……。どっちにしろ、こうなったなら俺達には死しかないんだよ……。これが最後の命令だ……。さっさと伝えろ……」
「船長……あんたって人は……」
「何とでも言え……」
 副長が最後の命令を伝えることはなかった。
 そうしようとした瞬間、艦橋に海兵隊が突入してきたからだ。
 彼は突入されたと同時に、撃ち倒されて床にくずおれたのだった。
「……貴様、まさか!」
「…………」
 ギュゲスはそれがミマースだとすぐにわかって、自らヘルメットを取った。
「酋長!……」
「……お前が軍を抜けたことは風の噂で聞いていた。だが、まさかPETUにいようとはな……」
「俺は変わったんですよ。あんたに言われた通りね」
「なんだとー」
「あんたは何も知らない。あのとき俺達を襲ったのが誰だったかってこともね!」
「今更そんなことを聞いて何になる?」
 ギュゲスは身振りで部下たちに手を出すなというサインを送っていた。
「DOXAさ。DOXAの情報部が送った特殊部隊さ……」
「だから何だっていうんだ!?」
「まだわからないのか!……軍はDOXAの番犬だって言ってるんだよ! そういう意味じゃ、俺はあんたを殺すことで復讐を果たせるってわけさ……そう……オトスとトアスの復讐もな……」
「やってみろ! やてみろよ、ミマース!」
「ギュゲーーース!!」
「ミマーーース!!」
 二人の持つ銃から同時にビームが迸った。
 だが、ほんの一瞬だけギュゲスのほうが反応が早かった。
 銃声が消え去ると、人が床に倒れる音が響いた。
「ギュゲス……貴様なんかに……」
 ミマースは左腕を吹き飛ばされ、両足に数発のビームを受けて、血の海の中に倒れていた。
「残念だよ……お前ほどの男が冷静さを失うなんてな……。残念で仕方がない……」
「俺は……俺は……あんたも…………DOXAも……軍も……許さない…………絶対にだ……」
「情けのない奴だ……。だが命だけは助けてやる。かつての戦友への情けだ……。この船もそのままにする。お前の立派な墓を汚すつもりはない……あばよ……ミマース、俺の一番の戦友……」
 ミマースは薄れゆく意識の中で、ギュゲスが放った言葉を最後まで聞くことができなかった。もしも聞いていたなら、何かが変わっていたかもしれない。
 だが、そうできなかったことは、彼の抱えた宿命だったのかもしれない……。

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