ブルース・スプリングスティーンについて熱く語る人はたくさんいるが、彼の影響を受けた作品が驚くほど数多く作られたあの時代の”現象”について語る人が誰もいないことに疑問を感じて(ちょっと憤りもしながら)、この「ストリート・ロックの時代」というブログを書いた。
長い間ほとんど更新していなかったのは、正直もう書き尽くしたと言う気持ちになっていたからだけど、ただ、2021年11月にまさに”究極のストリート・ロック”作品がリリースされていながら取り上げていなかったので、それをご紹介してこのブログの最終回にさせていただきます。
スプリングスティーン・ファンにはお馴染みの”ノー・ニュークス・コンサート”だ。
ノー・ニュークス(No Nukes)とは、1979年3月のスリーマイル島の原発事故をきっかけに、原子力の危険性を訴え、反核を掲げるミュージシャンの団体「MUSE」が開催した慈善コンサートで1979年9月19から23日にNYマディソン・スクエア・ガーデンで開催された。
スプリングスティーンは9月21日、22日の2日間出演しトリを務めている。
彼がまさに30歳の誕生日を迎えようとするタイミングでのパフォーマンスだ。年齢的にも体力がまだあり、音楽の完成度も高まってきているとてもいい時期だったのではないだろうか。
1978年に「闇に吠える街」のツアーを行った彼は、少しオフを取った後「ザ・リバー」のレコーディングに入っている、予想よりレコーディングが長びいたため、それを一度中断してこのコンサートに参加することに決めたらしい。
今では、政治的な問題にしっかりコミットすることで知られている彼だが、実は初めてそういうアクションを起こしたのがこのライヴだった。それまでにミュージシャンが公に政治的な発言をすることに慎重だった彼は、このライヴでも、原発に関する発言はせずあくまでも演奏に徹するという条件で出演依頼を受けたと言われている。
なんといってもこの作品の目玉は、DVDの収録されたライヴ映像だ。
彼のYouTubeには多くのライヴ映像がアップされているが、その中でも1978年の「闇に吠える街」ツアーと1980年の「ザ・リバー」ツアーの動画がやはり飛び抜けてカッコいい。発散されるエネルギーも、キレの良さも破格だ。
そういう意味でもノー・ニュークスは1979年だから最高の時期で、彼自身もこのライヴについてはバンドのキャリアのピークの一つと言い切っている。
(ちなみに、1979年は、ジョン・キャファティ率いるビーヴァー・ブラウン・バンド、この当時は単にビーヴァー・ブラウンというバンド名だったようだが、スプリングスティーンの地元であるアズベリーパークのライヴハウスでよくライヴをやっていたらしく、そのステージにスプリングスティーンはちょくちょくゲスト出演していたようだ。それもぜひ観てみたかった、、、)
しばらくライヴ・パフォーマンスから遠ざかっていたので充電もできていたのだろうし、ライヴの持ち時間が一時間半という通常のステージの半分なので、よりエネルギーを集中させることができたのかもしれない。本当に彼の猛烈なエネルギーに圧倒される。
僕はまだ中学生だった1979年にFM雑誌の中の目立たないモノクロのニュース記事で、スプリングスティーンのライヴ写真(うち2枚はクラレンス・クレモンズと絡んでキメているもの)を見て、一目惚れして大ファンになった。どんな音楽をやっているかも知らずに、だ。その写真を切り取って壁に貼って2,3ヶ月の間ただただ眺めていた(その後お小遣いを貯めて「闇に吠える街」を買ってやっとどんな音楽なのかを知った)。
スプリングスティーンのついては、僕は音楽以前にその”ビジュアル”のファンだったのだ。そんな人は後にも先にも彼だけだ。
で、この作品でまさにその当時の、彼の動く映像を40年以上経って初めて見たわけだから。ただもう泣くしかなかった(笑。
(ライヴの最後の方でスプリングスティーン、ジャクソン・ブラウン、トム・ペティがステージ上に並ぶ光景を見て、また胸が熱くなった)
現在のロック界屈指の偉人になってしまった彼だから、今ではみんな彼の音楽性や歌詞についてしか語らない。でも、この時代の彼はそれまでになかった”新しいかっこよさ”を、ビジュアルやアクションでもすごいインパクトと共に示したのだということを忘れてほしくない。
それは同時代のロバート・デ・ニーロやスタローン、日本ではショーケンや松田優作にも通じる、”ワル”でやり場のないエネルギーを暴発させる、新たなヒーロー像だった。
彼の場合はE.STREET BANDが彼のキャラを一段と際立たせてくれる。このライヴでのバンドの面々のビジュアルもバッチリだ。こんな若いイタリアン・マフィア(?)みたいな見てくれのバンドは、他にはいなかったのだ(今もいないがw)。
このライヴが大変な評判になったおかげで、彼は翌年のアルバム「ザ・リバー」で大成功を収めることになるわけだから、”ストリートロックの時代”が大きな発火点だったことになる。
結論を言えば、”ストリート・ロック”とは何かと聞かれたら、この映像を見てもらえばいい。
というわけで、長い間ご愛読ありがというございました!
ブルース・スプリングスティーン & ザ・E ストリート・バンド
SMJ
2021-11-19