「ストリート・ロック」のエッセンスは「明日なき暴走」、「闇に吠える街」、「ザ・リバー」、この時代の作品にすべてある。(「青春の叫び」も入れたい気持ちもあるが)そして、1回目にあげるのが、敢えて「闇に吠える街」。前後の2枚のアルバムがあまりに有名なために、語られる機会が少ない気がするが、ものすごく重要な作品だ。ただ、歌詞カードを読みながら、聴き通せばいい。一本の映画を見たような気持ちになる。貧しい主人公は皆、報われない生活の中、わずかな希望を求め、もがき、一瞬のスリルを求める。(例えば「RACING IN THE STREET」は路上のレースに生きる男の話で、彼も、そしてレースによって勝ち取ったという彼女もすでに暮らしに疲弊しているのだが)これは、「ストリート・ロック」の普遍的なテーマだ。その後さまざまなアーティストがこの設定で安直に、単純化して歌うことにより、結局、やがて風化し陳腐にものになっていってしまった。しかし、本家スプリングスティーンの作品はもちろん今もリアリティをまったく失っていない。後に映画のタイトルにもなる「STREETS OF FIRE」。あらためて歌詞を読むと、ここで歌われる"STREET"は、生きていくにはあまりにシビアな場所だ。この絶望的な労働者階級の現実を、内包しながらも音楽として高揚させていくところに一瞬のカタルシスがあり、そこが「ストリート・ロック」の最良の形なのだろう。
「明日なき暴走」で一躍英雄視されることになった反動、そしてマネージャーとの長期にわたる裁判などもあって、このアルバムでは意識的に人間の影の部分、「負」の要素を描いているように思える。そして、そういったトーンによって、都市の"ダークネス"がより効果的に色濃くなっていると思う。
 それから印象的なのが、今とは違ってガリガリの彼のジャケット写真。そう、70年代の彼はアンチヒーロー的なヒーロだった。まったく個人的な意見だけど、僕はプレスリーに対するスプリングスティーンを、石原裕次郎に対する松田優作やショーケンのようにとらえていた。70年代というのはアンチヒーロー的ヒーローに多くの若者が憧れる、そんな時代だったのだ。

闇に吠える街