ミンク・デヴィルにも曲を提供している、隠れた名ロックン・ロール・ソングライター。

 彼の曲を聴いた佐野元春が伊藤銀次に「銀次はムーン・マーティンだよ」と言って、彼にその存在を教えたという逸話があるらしい。伊藤銀次本人はどこが似ているがさっぱりわからなかったと言っているが、ギターがメインのポップなロックンロールをやっているのは一緒だし、何より押し出しの弱いやさしげな歌声が似てるかもな、と思う。


 さて、今回ご紹介するのは彼のファースト・アルバム。ミンク・デヴィルや元ママス&パパスのミッシェル・フィリップスに楽曲提供したことがデビューに繋がったらしい。
 元のタイトルを真面目に訳した邦題が、かえって妙にヘビメタっぽくなってしまったのは残念だが、この時期のロックンロール・リバイバルを象徴する好盤として、マーシャル・クレンショウやデイヴ・エドモンズあたりが好きな方に是非お勧めしたい。
 ミンク・デヴィルに提供した「Cadilac Walk」のセルフ・カバーもしっかり入っている。この曲のピアノは、ルー・リードが脱退してからヴァルベット・アンダーグランドに参加した、ウィリー・アレキサンダーがピアノを弾いている。
(ちなみに、ウィリーはウィリー・アレキサンダー&ザ・ブーン・ブーン・バンドというバンドを組んでいて、彼らが1978年に出した「Willie Alexander&the Boon Boon Band」というアルバムはネットで数曲聴いただけだが、ストリート・ロックの匂いが濃厚だった。情報、音源お持ちの方是非お知らせください!)

 一番聴きどころは、ロバート・パーマーで大ヒットした「Bad Case Of Lovin' You」(全米最高14位)。日本でも「想い出のサマー・ナイト」なる邦題がついて、そこそこラジオでもオンエアされた。
 僕も当時すごく好きで、エアチェックして(懐かしい)繰り返し何度も聴いた記憶があるけれど、オリジナルがムーン・マーティンだったこと、というかムーン・マーティンというアーティスト自体ずいぶん長い間知らなかった。

 この人、この時代にいたロックンロール・リバイバリストの中でもソングライターとしてのセンスは相当なものではなかったのだろうか?惜しむらくは、シンガー、パフォーマーとしての勢いやエネルギーが足りないこと。やはり、作家、裏方気質なのだろう。彼が売れなかった理由はもうこれに尽きると思う。曲はいいのに、、、という見本のようなアルバムだ。


 先にちらっと書いたが、ミッシェル・フィリップスという女性シンガーが1977年に出したアルバム「Victim Of Romance」にムーン・マーティンはでタイトル曲含め3曲を提供していて、3曲ともすごく良い。その中のタイトル曲「Victim Of Romance」はフィル・スペクター風、クリスタルズ風だったが、彼はこの「悪夢の銃弾」ではシンプルなギター・ロック・サウンドでセルフ・カバーしている。あと、「Paid The Price」という曲は後にニック・ロウがカバーしている。

 ニック・ロウと言えば、デイヴ・エドモンズも彼の4作目のアルバムに入っていや「Don't You Double」という曲をカバーして、デイヴのオリジナルかと思ってしまうほどしっくりハマっていた。パブロックの2代巨頭が取り上げることからも、ムーン・マーティンの曲作りは”その筋”からすごく高い評価を得ていたことがわかる。

 1978年。音楽史的にはディスコ・ブームの最盛期だ。しかし、このブログでは、それと、同じ時期にロックンロール・リバイバルが”都会的な装い”で活発に起こっていたことを主張し続けている。パンク、パブ・ロック、パワーポップなどとジャンルを分けて表現してしまったために、散漫になってしまっていたのだ。

 そんな時代の隠れた好盤がまさにこれだ。

悪夢の銃弾(紙ジャケット・生産数限定)
ムーン・マーティン
ヴィヴィド・サウンド
2013-01-16