セックス・ピストルズを結成するアイディアの元だったと言われているニューヨーク・ドールズ。
 パンク・ムーヴメントのルーツとしても知られているわけだが、このブログで取り上げているストリート・ロッカーたちとも繋がりがあり、デヴィッド・ヨハンセンやジョニー・サンダーズのソロ作品もここで紹介してきた。

 が、ドールズのメンバーの中で、最も音楽的にストリート・ロックと共鳴していたのは、このシルヴェイン・シルヴェイン、だった。(今頃気づきました。勉強不足でした、すみません!)

 ドールズの中では”第三の男”だったわけで、ストーンズで言うならロン・ウッド、本人はかつてインタビューで”ドールズのジョージ・ハリスン”と冗談まじりで言っていたことがある。

 ジョージもロンもそうだが、第三の男の宿命として、バンドの中で自身の個性を全面に出せず、その本領はソロの作品によってはじめてベールを脱ぐことになるのだが、シルヴェインもまたこの初めてのソロ・アルバムでようやくその才能を炸裂させている。
 
 さて、ストリート・ロックの最大のルーツはエルヴィス・プレスリー(スプリングスティーンもトム・ペティも最初に受けた衝撃はプレスリーだ)である。
 そして、シルヴェインもプレスリーに最大の影響を受けていいて、他にもリッチー・ヴァレンス、バディ・ホリー、シャングリラス、ロネッツなど、ドールズでは思う存分には出せなかった自分の好きなスタイルのロックンロールをここで全開にしている(こういうルーツは、パンクよりストリート・ロッカーたちと共通点が多い)。

 1970年代後半にロックンロール・リバイバル・ムーヴメントがあったことはこのブログで何度も強調してきたけれど、その中でもこれは屈指の傑作だと僕は思う。

 ニューヨーク・パンクの都会的で危険な匂いを纏いながら、パワー・ポップやパブ・ロック的なオーセンティックなロックンロールをやると、それはすなわち”ストリート・ロック”になる。
 (なるほど、そういうことだったのか、と、このアルバムを聴きながらいまさらながら僕は妙に納得してしまった)

 彼のプロフィールからしても、当時はパンクを愛好する人たちのみに認知され、パンク好きの耳にはポップでオールディーズっぽ過ぎると思われたはずだ。結果、知る人ぞ知るアルバムとして今に至る、これは残念な事だ。なので、僕は、ストリート・ロックの傑作としてあらためて強く推薦したい。

 注目したい曲は「14th Street Beat」。これは先日、ガーランド・ジェフリーズの来日インタビューの企画で彼が選ぶストリートロック15選にも選ばれていて、ジョニー・サンダーズも取り上げている、ドールズのファンにも知られている曲だ。

 曲に電車の音や車内のアナウンスがSEっぽく入ってくるのだが、調べてみるとニューヨークの14丁目は地下鉄の駅があるところだ。マンハッタンのストリートの中では広い通りで、ユニオンスクエアの南側、グリニッチヴィレッジやウェストヴィレッジにも近い。ビリージョエルの52th Streetとは相当様相が違うはずだ。若くて貧しいアーティストやミュージシャン、パンクたちも集うエリアだったのだろう。当時のストリートの生のリアルな空気感がこの曲から時を超えて今でもダイレクトに伝わってくるようだ。

 アルバムのプロデュースは、 シルヴェイン本人と、ランス・クウィンとトニー・ボンジョヴィ。トニーは名字でわかる通り、ジョン・ボンジョヴィの従兄弟で、80年代洋楽ファンだったら誰もが耳にしたことがある有名なレコーディング・スタジオ「パワー・ステーション」の経営者でエンジニアだった人。ランスとトニーのコンビはボン・ジョヴィのデビューアルバムをプロデュース(ランスはセカンドも)している他、トーキング・ヘッズのファーストなどを手がけている。またトニーはラモーンズの「リーヴ・ホーム」「ロケット・トゥ・ロシア」も手がけている。
 もちろん、このアルバムもニューヨークのパワー・ステーションでレコーディングされている。


シルヴェイン・シルヴェイン(紙ジャケット仕様)
シルヴェイン・シルヴェイン
BMG JAPAN
2008-04-09