ashigara_may_1937_UK

ジョージ六世戴冠式記念観艦式式場に仮泊する
重巡洋艦妙高型足柄
(昭和12年5月 英国スピットヘッド沖)

May 1937
Myoko-class Heavy cruiser "Ashigara" at Spithead U.K.


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観艦式に招待された『足柄』が、イギリス人に「飢えた狼」と呼ばれた事は有名です
正直、イギリス人のユーモアはよく分かりませんが
遠方に植民地を持たない日本は「クルーザー」に居住性を求めておらず
攻撃的な機能を追及した設計を「飢えた〜」などと評価したと言われています

ではそのイギリスの巡洋艦はどんなものだったのか?
『足柄』と同世代の条約型重巡洋艦『ノーフォーク』は以下のようなシルエットを持っていました


HMS_norfolk01
HMS_norfolk02


端正な様式美のある艦影だと思います


対する「飢えた狼」、条約型重巡『足柄
ashigara_may_1937_UK_2


軍艦色も欧州のそれより浅黒く、大きなシアーをもつ艦首から続く、波形の船体を持っています
また、船体の抑揚のため見る角度によっては上の面(甲板)が視界に入りますが、直線的な『ノーフォーク』の船体では、あまり甲板は見えません

立体は「違う面が見える」時がもっともダイナミックに印象を変化させます
海面上の視点でぐるりと英日の両艦を見ると、静と動のとても対照的な造詣である事がわかります


条約型重巡洋艦は多くの制約がありました
以前のように自由に設計されたわけではありません
それでも不思議な事に、各国の巡洋艦にはそれぞれの美意識が表現されていて個性的です

軍艦ですから要求された機能が形に表れているともいえますが
機能に従った結果というだけではないような気もします
丹精込めた設計の結果、風土が育んだ美意識が、艦影の端々に現れて来るのではないでしょうか

もしかしたら『足柄』は、イギリス人にとって深い意味ではなく素直に「飢えた狼」のように見えたのかもしれません
それくらい『足柄』にある美意識は彼らには無いものです

どちらが美しいかという競争では無く、火薬と血で勝負を決めること
そして歴史上それを実践したという事が
少し残念な気がします




追記:
手元に大型の公共建造物の写真がこれしかなかったのですが
東大寺大仏殿です
todaiji



追記2:
足柄は狼
では当の英国の巡洋艦は何だったのでしよう
条約の制約から足柄が切り捨てたもの (いや、そもそも必要としなかった)
英国が切り捨てなかったものがあります

一つは軍艦としての威厳です
ロイヤルネイビーの軍艦は、垂直水平を貴重にしたビクトリア様式を崩しません
美しく、気高く"見せなければいけない"
もう一つは先にも書いた長期の航海に耐えるホテルのような居住性です

軍縮条約の元で、火力を犠牲にしてでも守った機能
紅茶を飲みながら現地を威圧する、植民地経営の為のツール
これが英国の巡洋艦です