やぶいの医療解説

栫井 雄一郎の解説

2014年11月

TPP アメリカンスタンダード(改訂版)

まずは、現在協議中のTPPについて、主な条項を御紹介します。

ラチェット条項(Ratchet条項)
先行して決まったものについては、今後それよりも企業利益を損なうような不利なものには出来ないというものです。
歴史的には、1990年前後にharmonization として推進されたものが、多国間投資協定(MAI)などでうまくいかず、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓FTAなどの経済協定で採用されています。

投資家保護条項(ISD条項:Investor-State Dispute Settlement)
日本に投資したアメリカ企業が日本の政策変更により損害を被った場合は、世界銀行傘下の米国人だけで構成される国際投資紛争仲裁センターに提訴できるという条項。
実質の裁定は、密室で行なわれ、しかも再審などが許されない絶対的なもので、日本の政策変更が不可能になります。

NVC条項(Non-Violation Complaint条項)
米国企業が日本で期待した利益を得られなかった場合にも、TPPの内容に関係なく米国政府が国際機関に対して日本を提訴できるという非違反提訴も可能にする条項。

スナップバック(Snap-back)条項
米国に深刻な影響ありと判断するときは、関税撤廃を反故にできるというもので、米韓FTAにも盛り込まれている米国の利益優先の明文化。

未来の最恵国待遇(Future most-favored-nation treatment)
将来日本が他の国に米国よりも条件の良い最恵国待遇を与えたときは、自動的にその最恵国待遇はアメリカにも付与・適用されるというもので、米韓FTAでは、採用されている。

ネガティブリスト方式
明示された非開放分野以外は、全てが開放されるとするもので、新規の事業や日本側の戦略的な展開が制限されます。

規制必要性の立証責任と開放の追加措置
日本が規制の必要性を立証できない場合は、無条件に市場開放のための追加措置を取ることを義務付けるもので、今回のエアーバッグのタカタに対するNHTSA(米運輸省高速道路交通安全局)のリコール(回収無償修理)にたいしては、日本側で何らかの法令による規制で待ったをかけることが困難になります。

米国の手法は、世界でも日本でもいろいろな事例が氾濫していますので、そのやり口はかなり明らかです。

まずは、大多数の人に受け入れられるような表の大義名分を大々的に打ち出します。
戦後のGHQは、「民主主義」という看板で日本国民を引きつけ、
今回のTPPは、「例外なき関税撤廃」という看板です。

日本が国際社会復帰したサンフランシスコ講和条約は、豪華なオペラハウスで1951年(昭和26年)9月8日に調印されました。
一方、同じ日に調印された日米安保条約は、前日の7日夜11時に明日調印と日本側に通達され、それから英文の原本を渡されて和文の作成にはいり、8日の夕方5時に陸軍施設内(第六軍下士官クラブ)で調印されました。
つまり、日米安保条約の内容については、日本側は最初から議論や検討の余地すらなかったのです。

サンフランシスコ講和条約と日米安保条約は、1952年(昭和27年)4月28日に発効されますが、この同じ日に外務省の庁舎の中でひっそりと日米行政協定が発効し、1960年の安保改定に伴って日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定というわかりにくい名前の日米地位協定となり、そこには日本の国会の承認が不必要な細かな密約が盛り込まれ、最近のオスプレイの岩国配置や普天間問題なども、米国側からすると当然の権利なのです。

TPPでは、サンフランシスコ講和条約にあたるものが12カ国による表の交渉で、日米安保条約にあたるものが日米並行協議ですが、いづれも秘密交渉です。

TPPにおける日米行政協定にあたる部分は、「アメリカンスタンダード」ともいわれる運用上の取り決めや規制にあります。

TPPには、ラチェット条項がありますので、後戻りできません。
ISD条項では、国家利益より企業利益が優先されます。
紛争解決は、米国人による非公開の仲裁委員会で裁定されますので、公平性は保たれません。
TPPの運用では、米国は合衆国であって州法が生かされますので、日本から見るとこれが規制になります。

米国が日本の経済を法的な枠組みで支配するには、通貨や言語や特許などの制度を超えて、TPPに入れ込まれたような広範囲に網をかけるあらゆる取引口座の「アメリカンスタンダード」が必要なのです。

TPPが不平等条約であることは、日本が加入申請したときに明らかになったように、加盟国の中で米国議会だけが90日間の加入審査期間があるということだけでもわかります。

TPPの本当の目的は、現在のWTO(世界貿易機関)による途中経過も情報公開する貿易ルールから、秘密交渉による「米国の利益最優先」という米国中心のブロック経済への制度変更です。

米国自体は、1913年12月23日に議員不在の中でほとんど審議されずに成立したFRS(連邦準備制度)により、議会に通貨発行権がなく、それ以降はモーガン・ロックフェラー・ロスチャイルドといった国際財閥に経済を牛耳られ続けました。

ケインズが書いた手紙(スキデルスキー・ケインズ伝)には、「アメリカ人は、国際協力という観念を持たず、事実上あらゆる点で思いのままに振舞う権利を持つと考えていると書かれています。
サヴァナ会議(Savannah conference)では、国際通貨金融問題国家諮問委員会(NAC)の決定に従ったアメリカ代表コラードの表決権を使った提案により、米国の農産物輸出業者を脅かせないために世界銀行からの融資が途上国の農業的基盤の整備に貸付されず、そのために南北格差が増大し、米国は膨大な利子収入を得ました。

TPPは、「アメリカンスタンダード」という論理と、経済と政治が癒着した「コーポラティズム」という市場原理主義の複合体の完成品なのです。

日本とTPP交渉参加国との関係は、米国、カナダ、ニュージーランドを除く8カ国とはすでにEPA(経済連帯協定)が成立しています。

必要な国との自由貿易は、FTA(自由貿易協定)やEPAなどの形でお互いに納得した上で情報を公開して堂々と協定したらいいのであって、不平等な内容が含まれたTPPを急いで締結する必要性はどこにもありません。

エマニエル・ドットは、自由貿易と民主主義は長期的に両立しないといっていますが、そういった質の高い民意が反映する社会が実現することを願っています。

戦後レジームからの脱却 (改訂版)

2014年10月20日、政治資金問題で小渕優子経済産業相は辞任し、同日松島法務大臣も辞任しました。

この背景には、さまざまな駆け引きがあり、両大臣が時間差で辞任したこと一つをとっても、綿密な計算があります。

この捜索などをやっているのは、東京地検特捜部(東京地方検察庁内特別捜査本部)であり、戦後のこの組織は、戦前の特高警察組織をGHQが日本国内の隠蔽資産を暴くために使ったことから始まっており、今も特捜部に配属される検察官のほとんどの方は在日米国大使館勤務を経ています。

第一次安倍内閣では、5人の閣僚が立て続けに辞任して、その火付け役も、東京地検特捜部でした。

2007年(平成19年)1月26日安倍首相施政方針演説参照
第166回国会における安倍内閣総理大臣施政方針演説
私は、日本を、21世紀の国際社会において新たな模範となる国にしたい、と考えます。
 そのためには、終戦後の焼け跡から出発して、先輩方が築き上げてきた、輝かしい戦後の日本の成功モデルに安住してはなりません。憲法を頂点とした、行政システム、教育、経済、雇用、国と地方の関係、外交・安全保障などの基本的枠組みの多くが、21世紀の時代の大きな変化についていけなくなっていることは、もはや明らかです。
 今こそ、これらの戦後レジームを、原点にさかのぼって大胆に見直し、新たな船出をすべきときが来ています。「美しい国、日本」の実現に向けて、次の50年、100年の時代の荒波に耐えうる新たな国家像を描いていくことこそが私の使命であります。

1956年(昭和31年)の経済白書では、「もはや戦後ではない」と明記されましたが、これは単に経済面を指しているだけで、ほかの面を検討しているわけではありません。

戦後の日本を支配したのが事実上米国であったことは、紛れもない事実です。

日米間では、日米構造協議とか、日米包括経済協議とか、少しずつ名前を変えながら、継続的に米国から日本にさまざまな要求が出続けており、今TPPでラチェット条項やISDS条項を盛り込もうとしています。

現在の日本は、米国の支配下にはないのでしょうか?

少なくとも、軍事面では、日本は米国の笠の下にあります。

精神面ではどうでしょうか?

戦前の日本は、和魂洋才ということばがあり、高い精神文化を保とうとしていました。

たとえば、便所には、はばかりとか厠(かわや)というような別の言い方があり、それぞれが使い分けられていましたが、今はどこにいってもトイレで通用します。

戦後の日本は、GHQから歴史教育を禁止するなどの明らかに文化に働きかける政策を受け、その結果としてエコノミックアニマルと世界からいわれるような精神文化の貧弱な国になりました。

戦後は、土地神話というのがあり、土地を買って置けば値段が上がると平成2年(1990年)のバブル崩壊までは強く信じられていましたが、これは、すでに崩壊しました。
平成23年(2011年)3月11日の東日本大震災までは、原発安全神話というのもありました。

戦争直後に作られた日本の現在の民法は、英国のような慣習法がなく、今回の中国漁船による組織的な領海侵犯でもわかるように、変化の激しい今の時代の新しい事態に対応できません。

戦後レジームとは、戦後に存在していた広い分野に渡る制度や考え方や空気を含めたすべてなのです。

2013年(平成25年)12月26日の安倍首相の靖国参拝は、明らかに精神面での戦後レジームからの脱却 を目指したものです。

靖国参拝したジャスティン・ビーバーさんは中国や韓国から激しく批判されましたが、日本では、死者の霊を弔ってはいけないのでしょうか?

現在の米国の日本に対する最大の懸案は、TPPを米国に有利な条件で妥結することで、10月29日に自民党の谷垣禎一幹事長が安倍晋三首相が早期の衆院解散に踏み切る可能性を示唆したことは、一連の流れの一環です。

今、私たちは、戦後の体制や考え方など広い分野にわたって再構築するべき時期に来ているのではないでしょうか?


月別アーカイブ
QRコード
QRコード
最新コメント
  • ライブドアブログ