いただきもの紹介『哲学入門』(1)

April 11, 2014

いちから聞きたい放射線のほんとう



菊池さんからいただいた。ありがとうございます。お礼が遅くなりました。

本書は菊池さんの良心がつまった本だと思う。そもそも「放射能」というのが何かよく分からないけど気になる、という知識レベルの人に菊池さんが伝えなくてはいけないと思ったことが、そういう人に伝わるような言葉で簡潔にまとめられている。このレベルの平易さを保つのにはそうとう苦労されたと思う。

第一部の前半では放射線そのものについての基礎知識、後半では等価線量と実効線量の違いなど生体への影響についての放射線医学の基礎知識がまとめられている。第二部はどのくらい何について心配しなくてはならないのかについての菊池さん流の答えが整理されている。

第一部の内容は、わかりやすく単純にしてはあるものの、現在の放射線医学を信頼するならば文句なしに定説といっていい内容だと思う(もちろん、放射線医学について素人のわたしがここ3年間に勉強してきたことから分かる範囲で、という話なので、この評価自体の信頼性はそれほど高くないが)。ただ、世の中にはこのレベルの放射線医学に対しても信用できない、と思う人、放射線医学の関係者など全員御用学者だから都合の悪いことを隠しているにきまっている、と懐疑的になっている人がいる。そういう人たちが菊池さんの説明を読むと、かえってその端的に事実を述べるスタイルの語り口に反発するだろう。

#そうなってしまった人たちとの間でなお共通の社会的意思決定をするにはどうしたらいいのだろう、
#というのはこの本の範囲を超えた話だが、誰のどういう情報を信頼するかのレベルで対立する人が
#お互いを理解すること自体非常に難しいし、何かデータを出して白黒がつくというものでもない(その
#データの信頼性についても意見が分かれるだろうから)ので原理的にも対立の解消はむずかしい。

第二部は甲状腺がんについての調査結果の解釈やICRPの勧告の解釈など、はっきりしたことを言うのがもっと難しい領域に踏み込んでいる。その難しい話題についてもかなり立ち入って、低線量被曝についてどう考えればいいかについての菊池さんの見解が展開されているが、これは対話相手の小峰さんが菊池さんから言質を引き出したという面もけっこう大きいのではないだろうか。

甲状腺の方については、現在あつまっている証拠からは菊池さんのように判断せざるをえないと思う。今の証拠で甲状腺がんを福島の事故と結びつけるのは無理がある(くどいがこれも素人のわたしが勉強した範囲でそう思わざるをえないという話である)。他方、ICRPの勧告の意思決定手続きの面が日本できちんと生かされていないことを問題視する人にとっては現状を追認しているように見える菊池さんの口ぶりは不満だろうし、わたしもちょっとその不満を共有する(このことについてはコラム的な形で少しだけ言及がある(p.186)が、大変控えめである)。「政府が何をしなくてはならないかとかどうでもいいから自分はどうするのが一番なの」という問いに答えているからこうなるという文脈は分かるが。

また、リスクをどうとらえるかは人それぞれ、と菊池さんは繰り返し言うけれど、そこで提供されている情報から見ると、菊池さんは読者がリスク-コスト-ベネフィット計算(リスクを考慮した上で一番期待利益の大きい結果を生む選択肢を選ぶための計算)をする方向へ誘導しているようにも見える。たとえば「リスクは大きさじゃない、タバコで肺がんになるのは本望だが原発事故が原因でがんになる確率はほんの0.001%上がるのすら我慢できない」という価値観は実際ありうる(し、それに類する価値観をもっているとしか思えない行動をとる人は実際多くみてきた)。そういう価値観の持ち主にとっては、自然放射線と比較して「ちょっと気にしすぎ」(p.184)と言われてもとても承服できないだろう。

ただ、これは、単にそういう人たちはこの本の想定読者ではない、というだけのことだろう。どんな原因のがんでもがんはがん、という人、リスク-コスト-ベネフィット計算をしたいのでそのための情報がほしい、あるいはそのための情報をあつめてみたけど難しすぎてわからなかったというような人にとっては、まさにこの本は目的にかなった良心的な本だと言っていいのではないだろうか。

#これもまた本書そのものから離れた感想になるが、第一部に反発する(であろう)人と違って、
#第一部での菊池さんの解説の妥当性をみとめつつ第二部の菊池さんの口ぶりに反発する(で
#あろう)人と菊池さんの間には、もっと相互理解が成り立ってもよさそうな気がする。問題意識
#や関心の違う人がそれぞれに誠実に活動した結果、違うところにたどりついているということを
#お互いにもっと認め合えるはずではないだろうか。事故から三年がたって、そうした相互理解が
#進むどころか、対立が固定化しているように見えるのが大変残念である。

この本を必要としている人は世の中にたくさんいると思う。その人達にこの本がきちんと届くことを願う。


iseda503 at 03:35│Comments(0)TrackBack(0)

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