眠れない。また目の前が涙でかすむ・・・俺も今夜だけは冷静ではいられない。
 小説家桑原穣太郎が死んでいた。俺にとっては文学座の研究所での同期生。入所時は二十代のはじめ、生意気盛りの二人は互いに所内一を争う体力派、奴に言わせればマッチョで、互いに意識しあいガン飛ばし合い、けれど最初に仲良くなった奴だった。芝居が下手なのも似ていた。とはいってもクワはハチャメチャなパワーはあったが。

 それから十年、三十代のクワは小説家になっていた。仲村トオル主演「新宿純愛物語」小泉今日子主演「僕の女に手を出すな」の原作者として次々に作品を発表していた。俺が滝田栄主演「リア王」を演出し,初監督映画「MUSASHI]を撮った直後、クワは突然俺の前に姿を現した。彼に言わせると、「今は小説家の身分だが、俺は元々演劇畑の出身なので、どうしても大勢でケンケンガクガクしながら物を創りたい。小説家だけでは寂しいよ」と言うことだった。

 十数年ぶりの再会に「それにしても、よりによって何で俺たちが作家と演出家だよ」と笑いあい、痛飲した。
 四十代、どうしても二人で何か創ろうということになり、数多くの彼の小説を読み、選び出したのが「飛び出せ新撰組」であった。二人でこの作品の映画化を企画したものの、金集めの下手な俺たちにはなかなか作品の立ち上げはむずかしかった。

 ところが昨日、これを今年中に映画にするという製作者が現れた。それならと、この数年間音信不通だったクワを探し出そうと俺はインターネットを検索した。そして出版社に問い合わせても、同期生皆に聞いても分からなかった奴の居所がやっと分かった。

 桑原は昨年の8月1日、仙台の病院で食道がんで亡くなっていた。享年58歳。九州男児のクワがどのような変遷を経て仙台に流れ着いたのであろう・・・。だがその最期は二人のお嬢さんに看取られたという。
 離婚したクワは二人の小さな娘のことだけは、いつも目を細めて語っていた。彼の最期を、愛した二人が看取っててくれたことだけでも、「良かったな」と言う他ない。


 俺とは同期生にして同じ年、同じような人生を経てきた二人は、よく酒を飲みながらプライベートのことも話し合った。その度に誓い合った言葉は「男なら何もかも、どんな重荷でも、どこまでも黙って担いでいくのが人生だ」・・・だった。クワよ、もっともっと担ぎ続けて欲しかったぞ。

 ・・・弔い合戦だ!