2024年12月27日
民主主義とSNS
石田です
●選挙とSNS炎上商法
都知事選、総選挙、兵庫知事選と続いた選挙は、今までと様相が大きく異なるものでした。
とくにテレビや新聞を見なくなった若者に動画配信の短いメッセージを通じて直接働きかける手法が拡がり、今後の選挙に大きな影響を与える出来事でした。まさしく「SNS時代の選挙」といえます。
この状況には、「近年盛んな『推し活』の風潮が政治に流入し、『推し選挙』と呼ぶべき姿を呈した」との指摘がある一方、さまざまな課題も引き起こしました。
①真偽不明の情報の拡散 ②レコメンド機能によるフィルター・バブル化 ③過激な演説などによる炎上商法 ④広告収入を目的とした動画の切り抜き職人 ⑤他候補を応援するための炎上商法的な立候補 などです。そして残念なことに、これらは選挙運動の体を取りつつも実体は、選挙を商材にしたSNSの金儲けと思われます。
今後、SNSは幅広く大きな影響を与えるだけに、あらためてその仕組みを正確に把握しておくことは、若者のみならず万人にとって極めて重要だと思います。
●SNSが招く社会からの分断
情報通信白書などによると、SNSの重要な特性として、①アテンション・エコノミー ②フィルター・バブル ③エコー・チェンバーなどが指摘されます。しかし、これらの意味するところを全く知らずに利用している人が大多数であり、極めて危険です。
まずアテンション・エコノミー(関心経済)では、情報の優劣よりも関心や注目を集めたほうが広告収入など経済的利益が大きいため、過激なタイトルや内容、事実に基づかない憶測記事などが生み出され、偽・誤情報の拡散や炎上が助長されます。
次にフィルター・バブルとは、一度クリックするとそれに類する利用者が関心を持ちそうな情報が優先的に配信(レコメンド)されることで、異なる考え方などの情報が排除され、あたかも偏った情報の膜に包まれた泡の中にいるような状態になることです。
そしてエコー・チェンバーは、自分と似た興味や関心を持つユーザーをフォローする結果、自身と似た意見が返ってきて何度も同じような意見を聞くことから、特定の意見や思想が増幅され正しいものと信じ込んでしまう状態を言います。
これらの特性から現在、SNSを軸に世界中で過激な意見を持った集団が多く形成され、社会の分断とともに民主主義の根幹を揺るがしかねない事態になりつつあることは由々しきことです。
●情報の信頼性の担保とマスメディア
さらに、生成AIなどの普及でネットの画像や音声の真偽が非常に確認しづらくなると予想され、国民の意思決定に大きな影響を及ぼす事態が想定されます。
この対策として、技術の研究・開発が進められていますが、当面は巨大な取材網と豊富な経験や人材による編集機能を備えた放送や新聞などマスメディアを活用する必要があります。しかし一方で、テレビ・新聞離れが進み、これらが存立しなくなる事態になれば、真実を確認する術がなくなり社会的混乱は計り知れません。とくに最近の選挙では既存メディアへの不信が増幅されており、懸念しています。
私が秘書として仕えた坊秀男先生は記者の出身で、「マスコミの役割は反権力ではなく、権力の横暴に立ち向かうこと」と喝破されておられました。しかし、残念なことにマスメディアは、ステレオタイプに権力を批判することに自らの価値を見出すのみならず、最近ではアテンション・エコノミーにも流されているように感じるのは私だけではないと思います。どうかマスメディアに関わる方々には、自らの価値の源泉が中身の信頼性にシフトしているとの自覚の下、国民から評価され信頼される報道に努めていただき、民主主義を守る先兵として頑張っていただきたいと心から願っています。