2012年07月

2012年07月31日

~大津波は故郷をどう壊滅させ、住民はどう行動したか~

昨年の東日本大震災からもうすぐ1年4ヵ月が経とうとしている7月8日(日)
被災者が、直接被災経験を語る講演会が東京の中野サンプラザ15階の会場で開かれました。
被災者の生の声を通して大震災の実相を見つめ直すとともに、復興や防災について
考える機会になればと、石巻支援三七会が企画したものです。
講師は、石巻市長面(ながつら)の自宅を巨大津波で流された元高校教師・堀込智之
(ほりこみ ともゆき)さんと元小学校教師・光子(みつこ)さん夫妻。
夫妻は、「今回の津波の振る舞いと被害の様子を記録しておこう」と去年の秋、
単行本『海に沈んだ故郷』
(連合出版/A5版 1,890円)を出版しています。


8講演会ほか 174004
    掘込光子さん    掘込智之さん  

午後1時半から始まった講演会には、被災者の声に接するのは初めてという人を含め、
およそ70人が集まりました。
夫妻は、「巨大津波は北上川河口の故郷をどう壊滅させ、住民はどう行動したのか」
というテーマ沿って想像を絶する被災体験や実験装置を使った津波のメカニズムの
実演を交えながら1時間半にわたって熱心に語りかけました。

8講演会122

北上川は宮城県に入って二つに分かれ、一方が東へと流れて太平洋に大きく開いた追波湾(おっぱわん)に注ぎます。
夫妻の自宅のあった長面は、その追波湾に面して拡がる150戸程の景色の美しい地域
で、牡蠣の養殖が盛んなところでした。


<堀込光子さんの話>
講演会S

・3月11日の大震災当日は自宅にいた。
・避難所になっているお寺に避難した方がいいか?と振り向いたとき黒いけむりのような津波が押し寄せてきた。
・お寺も津波で倒壊しかけてしまった。
・駐車場・墓地などが水没し、何が起きたか分からなかった。
・津波の圧倒的な破壊力にさらされ、人間の力でどうにかできるという状況ではなかった。


・墓地の奥の急勾配な坂を登り山に逃げた。道幅の狭い雪道だった。
・2泊3日の野宿が始まった。
・夜、山鳴り、余震が起こる。

・山には燃やすもの(杉の間伐材)があった。
・ライターを持っていた人がいて、たき火ができた。
・その夜、口にしたのは、山に避難した人々で分け合って食べたパール柑ひと房のみ。

・ひたすら逃げること。それが唯一の有効な手立てだった。
・命が助かった私たちはただ運良く逃げのびることができただけ。
・生死は、ほんの紙一重の差で分かれた。


<堀込智之さんの話>
8講演会149

・高校では物理を教えていた。専門は波の研究。
・巨大津波がどのように振る舞い故郷を壊滅させたかを解明するため、追波湾周辺から
 河口を20キロ上流に遡った地域までを中心に、聞き取り
を含めた現地調査を行った。
・併せて、追波湾の地形(V字谷状)と北上川の水深との関係や津波の進み方による
 波のエネルギー、津波の波形変化と破壊力などの分析も試みた。

・講演では、水槽の実験装置を使い津波のメカニズムの実演を交えながら、
 それぞれの集落の地形とどんな津波に襲われたのかなどについて、データと
 映像を使い科学的に解説した。

講演会AE
 
・津波の振る舞い
 *津波は5メートル程度の波高で追波湾に進入。
 *V字谷状の地形の入江が波を強め、波高は10メートルを超え湾奥の集落を破壊。
 *北上川に入った津波も波高が10メートル程度に高まり、新北上大橋の橋桁を流し、
   堤防を決壊させ、周辺の集落を呑みこんだ。
 *津波の一部は河口から20キロ上流の河口堰に達した。
 *長面に上陸した津波に一部は廻り込んで長面を襲い集落を壊滅させた。
 *長面浦では三波の津波が重なり、三角波が発生した。

・平野とV字谷を襲う津波の実験と現地調査の結果
 *実験では、平野を襲った津波は海岸付近で水位が高く、奥に侵入するに
  従って水位が下がった。
  疑似津波の垂直壁での跳ね上がりの高さは海岸近くで最も高く、
  奥に侵入するに連れて低くなった。
 *V字谷を襲った津波は、V字谷の奥に侵入するに従って水位が高くなった。
      疑似津波の垂直壁での跳ね返りの高さは、海岸からV字谷の奥にかけて高かった。
 *現地調査の結果、石巻市の平野を襲った津波の水位は海岸で約7m、
      奥に侵入するに連れ水位が下がり、約2km奥まで侵入した。
      海岸近くの工場は大きな被害を受けたが、海岸から約1km以上離れると
   津波に流されずに残った民家が多くなった。
 *V字谷の女川町を襲った津波の水位は海岸付近で18m、V字谷の奥で22mと
  V字谷の奥ほど高くなった。
  V字谷内のほとんどの家屋が津波のよって壊滅した。
 

<講演会の反応>
当時を振り返る光子さんの静かで優しい語り口や智之さんの淡々とした解説ぶりは、
聴いている人たちの心を打ちました。
被災者の生の声を聞いたのは初めてという人からは、「TVや新聞の報道では判らなかった被災者の本当に姿に触れることができた」という声が聞かれました。
また、仲間にも夫妻の講演を聞かせたいと新たに講演会の企画を検討する人やミニコミ誌で紹介したいという連絡も寄せられるなど反響は上々でした。

8講演会161

なお、会場で即売した『海に沈んだ故郷』は30冊が完売したほか、一部の方からは
石巻支援三七会に寄付金を寄せていただきました。
改めて御礼申し上げます。




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