スティング(Sting)”Englishman In New York”を和訳しました。1987年発表の2作目アルバム”…Nothing Like the Sun”に収録、シングルとしては1988年にリリース。

歌詞を聴いていると、何となくトラッドなスーツに身を包んだイギリスの老紳士・・・みたいな人を想像しますが、実際にこの曲のモデルとなっている人物は、そういうイメージとはちょっと違います。
この曲のMVには、ニューヨークを闊歩するスティングの映像の合間に、老年の女性がちらほらと登場します。「なぜイギリス紳士についての歌なのに老婆が出てくるんだ」と思いますが、この女性と見える人物、実は男性で、クエンティン・クリスプ(Quentin Crisp, 1908〜1999)というイギリスの著述家・ストーリーテラー・女装家です。

日本ではあまり紹介されていない人物ですが、英語圏ではなかなか有名な人物のようです。クエンティン・クリスプは、1908年、イギリスの中流家庭に生まれますが、若くしてゲイであることを自覚し、ロンドン大学をドロップアウトしてアングラに身を投じます。同性愛が違法だった当時のイギリス社会で、クリスプはゲイであることを隠さず、女装に身を包んで生活し、第二次世界大戦時に軍隊に志願した際には「性的倒錯に罹患している」という理由で検査を不合格になりました。売春などもした青年期を経て製図技術者となりますが、1942年にはヌードモデルに転身します。一躍有名人となったのは、1968年に出版した半生の記”Naked Civil Servant”がテレビドラマ化された1975年のこと。しかし、同性愛行為が合法となって間もなかったイギリスでは、その名声は毀誉褒貶の入り混じったものであったようです。クリスプは各地でワンマンショー(前半はトーク、後半は観客とのやり取りで構成したショー)を行って好評を博し、人気はアメリカにも飛び火します。そして、そのいきさつはよくわかりませんが、1981年、71歳の時にニューヨークに移住し、そのまま1999年に亡くなるまでを過ごしました。
1970年代からのゲイムーブメントとは距離を置き、あくまで我が道を行った人物ですが、同性愛が社会的に認知される前からオープンにゲイとして生きた人物として、現在でもゲイのアイコンとして記憶されている、とのことです。

スティングは映画でクリスプと共演して知遇を得、ニューヨークに移住したクリスプを訪ねて行ったりと交流を続け、この曲を書きました。MVは、会って別れた二人がそれぞれ家路に着いた場面というようにも見えます。
以下はスティングのインタビュー記事から。

"Well, it's partly about me and partly about Quentin. Again, I was looking for a metaphor. Quentin is a hero of mine, someone I know very well. He is gay, and he was gay at a time in history when it was dangerous to be so.
He had people beating up on him on a daily basis, largely with the consent of the public. Yet, he continued to be himself. …So it's not really about being gay. It's about being yourself, never conforming. That's what the song is really about." ~ Rock Express, 1988
「これは部分的には僕自身について、部分的にはクエンティンについての曲です。僕は曲のメタファーとなる人物を探していました。クエンティンは僕のヒーローであり、親しい人です。彼はゲイで、しかも歴史上、ゲイであることが危険だった時代にゲイだった。彼は毎日のように攻撃され、その攻撃を世間は容認した。それでも彼は彼自身であり続けた。…この歌はゲイであることについての歌ではありません。自分自身であり続けること、決して長いものに巻かれないこと、それがこの歌のテーマです。」


ちなみに“Manners maketh a man.”は、14世紀イギリスの聖職者・政治家であるウィッカムのウィリアム(William of Wykeham)という人の言葉とされており、同人物の創設したオックスフォード大学ニューカレッジのモットーとなっているとのこと。和訳は「礼節が人を作る」となっていますが、中世英語辞典によると、”manners”は”a way of conducting oneself toward others; outward behavior, deportment, bearing…proper conduct, good manners”で、他者に対して、社会に対していかにふるまうか、という、「行動、ふるまい」こそがその人を作るのだ、ということで、「礼節」よりは広い意味を持っているかもしれません。



I don't drink coffee I take tea my dear
I like my toast done on one side
And you can hear it in my accent when I talk
I'm an Englishman in New York
コーヒーは飲まないもので、紅茶をいただくよ
トーストは片側だけあぶってくれたらいい
話す時のアクセントで分かると思うが
私はニューヨークに住むイギリス人なんだ

See me walking down Fifth Avenue
A walking cane here at my side
I take it everywhere I walk
I'm an Englishman in New York
五番街を歩く時は
杖を傍らに持っている
出かける時はどこへでも持って行く
私はニューヨークに住むイギリス人なんだ

I'm an alien, I'm a legal alien
I'm an Englishman in New York
I'm an alien, I'm a legal alien
I'm an Englishman in New York
私は外国人 合法的な外国人
ニューヨークに住むイギリス人
私は外国人 合法的な外国人
ニューヨークに住むイギリス人なんだ

If "Manners maketh man" as someone said
Then he's the hero of the day
It takes a man to suffer ignorance and smile
Be yourself no matter what they say
誰かが言ったとおり「ふるまいが人を作る」ものならば
彼こそはまさに時代のヒーロー
侮辱されても受け流し、微笑んでみせる
誰に何と言われても、自分を偽ってはいけない

I'm an alien, I'm a legal alien
I'm an Englishman in New York
I'm an alien, I'm a legal alien
I'm an Englishman in New York

Modesty, propriety can lead to notoriety
You could end up as the only one
Gentleness, sobriety are rare in this society
At night a candle's brighter than the sun
謙虚さや礼儀正しさのために、悪く言われることもある
結局誰にも理解されずに終わるのかもしれない
優しさ、誠実さは、この世の中ではまれなこと
夜の灯は太陽よりもまぶしい

Takes more than combat gear to make a man
Takes more than a license for a gun
Confront your enemies, avoid them when you can
A gentleman will walk but never run
一人前になりたければ、武装以上のものを身につけなさい
銃のライセンス以上のものを手に入れなさい
敵に堂々と立ち向かい、しかしむやみに争わぬこと
紳士は歩いても、決して走らないものだ

If "Manners maketh man" as someone said
Then he's the hero of the day
It takes a man to suffer ignorance and smile
Be yourself no matter what they say
Be yourself no matter what they say...
誰かが言ったとおり「ふるまいが人を作る」ものならば
彼こそはまさに時代のヒーロー
侮辱されても受け流し、微笑んでみせる
誰に何と言われても、自分を偽ってはいけない
誰に何と言われても、自分を偽ってはいけない

I'm an alien, I'm a legal alien
I'm an Englishman in New York
I'm an alien, I'm a legal alien
I'm an Englishman in New York