2006年10月30日

「手だけで楽チン高収入」の求人を見て

「君、本当に19?童顔だね」
ピンクのポロシャツを着ている中年の男がタバコの煙を吐き、ニヤリとしてそう言った。
「ほ・・・、本当です・・・」
私は消え入りそうな声でそう返した。
男の吸っている煙草の煙が目に入って痛い。
「うち、どういうとこか分かってる?」
「雑誌では手でOKって・・・」
バックの中に入っている雑誌の重みをずっしりと感じる。
バックの中の雑誌の求人広告に「脱がない・舐めない・触らせない」と載せてあるのを数十分前に見たばかりだ。
[手だけでOK!手だけで楽チン高収入!]の文字を私は思い出した。
「それさぁ〜。手だけでOKな子って雑誌にバンバン出れて、顔、背、スタイル、みんな揃ってる子だけなんだよねぇ。うちは分かれてるのよ。出れる?雑誌。嫌でしょ?美人だったら手で我慢できるかもしれないけど、普通の子が手だけだったらあんた男だったら納得できる?」
男はやけに早口で口の唾を飛び散らせながらペラペラとまくしたてた。
(なんだよ。手だけなんて言って、特別な子しかダメって)
言い終わってすぐに男は本棚に置いてあった風俗雑誌を手を伸ばして取り、私によく見えるようにバサッと広げた。
茶髪で少しウェーブがかかってる女性と顔を写してない男性が裸で絡んでいる写真がたくさん載っている。
私は見たとたん、息を飲んだ。
その雑誌の男性の皮膚のいくら風呂を入っても汚れがたまっていそうな黒ずんだ毛穴や、髭の先端のプツプツの黒い頭のところや、横腹についている脂肪をで汚らわらしく感じた。
そんな男の裸に女は舌を這わせていたり、乳房を揉まれていたり---。
「できんの?」
ジロリと軽く男が私を睨んだ。
数秒、私は体をキュッとかたまらせた。
(雇ってもらえないと困る)
男の視線を見つめ返し「できます」と精一杯の声を出して私は言った。
「君さ、痩せすぎだよね。お客さんが気持ち良くないんだよなぁ、そういう体は」
男は椅子から立ち上がり、すぐ側の私のところへ来て、お尻の辺りに手を伸ばしてきた。
思わず身がすくむ。
男の手がお尻の一番飛び出しているところを軽くなぞった。
私はすぐ目の前にいる男の顔を恐る恐る見た。
男の表情は無表情とも言えるしいやらしい男と思われたくないとばかりに感情を押し殺しているかのようにも見える。
(きっとこの人、面接に来る女をみんなこういう風に触ってるんだわ)
男のそっけない表情も手つきも慣れていて日常的にこなしているように思えた。
「お願いします」
「そうだな・・・」
男の口から煙草の臭い息が吐き出され、私の顔にかかる。
私は息を止めて体内に男の息がこれ以上吸収しないようにした。
「これから講習して、調べるから。それで働かせるかどうか決める」
(講習?!)
私は男の講習が何を意味するかわからず、自分の中で「コウシュウ」という単語を繰り返した。
「君、運が良いね。送りのドライバーに任せるときもあるんだからさ。そこのソファーに座って脱いで」
私は「脱いで」という言葉に動揺して、体をモゾモゾさせた。
「調べないと働けさせないよ。お客さんに失礼だからね」
(私は売り物になるんだった・・・。でも、この従業員の前で裸になるなんて・・・)
私はうつむいて、自分の靴のつま先をジッと見つめた。
「できないの?できないならうちでは無理だから」
男が強い口調で言った。
私はギュッと目を強く閉じてから開き、横に置かれてあるソファーにゆっくりと座った。
手をTシャツにかけ少しめくるものの、それから先手が動かない。
(本当に?本当に店の人に普通に脱いだりするの?)
ぐるぐると私の頭の中に疑問がわく。
「早く」
男は面倒くさそうにせかした。
「・・・・・・」
私は手をTシャツのスソを握ってる力を強めたり弱めたりを繰り返した。
「・・・もういいよっ。君帰っていいから」
私はその男の吐き出されたような言葉に私は大きくビクンと体を動かした。
「すっすいません。今脱ぎますっ」
私はTシャツを恐る恐る震えながら体から剥ぎ取っていった。


itikawa5 at 11:27│Comments(0)TrackBack(0)小説「君が忘れても僕は思い出すから」 

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