書籍販売のAmazonが電子書籍端末「Kindle」の新製品を発表、機能だけではなくその価格にも注目が集まっている。電子インクを利用したモノクロ画面の新・Kindleは広告配信を受けるWi-Fiモデルで79ドル、画面のタッチ操作に対応し3Gを搭載したモデルは同じく広告配信モデルが149ドル。通勤や移動中に電子書籍を利用し、購入は自宅などでと考えている消費者にとって、100ドルを切るWi-Fiモデルは魅力的なものに映るだろう。

また新しくAndroid OSをベースとしたカラー画面モデル「Kindle Fire」も発表された。こちらは199ドルで、見た目は他社の7インチタブレットと類似したものになる。

Amazonが提供する全てのサービスも利用可能で、書籍のみならず動画や音楽、そしてゲームなども利用できる。単純にハードウェアスペックを比較すればAppleのiPadには及ばないだろうが、目的がはっきりしていればこの価格でこれだけのことが出来るKindle Fireは十分満足できる製品だ。

カラー画面になったKindle Fire

Kindleは2007年11月に初代モデルが発売され、399ドルという価格にも関わらず販売直後5時間半で初回入荷分が完売したという。電子書籍しか利用できない製品がどれだけ売れるのかと販売前は疑問を投げかける声が多く聞かれたが、むしろ用途が明確化された製品であることから一般の消費者に広く受け入れられた。

またAmazonが提供する豊富な電子書籍もKindleの購入意欲を十分にわかせるものになっている。2010年7月にはAmazonで販売する電子書籍の数がハードカバーの書籍を超えたほどだ。今や話題の新刊を買うために書店に行ったりAmazonからの宅配便を待つ必要は無く、発売初日に自分のKindleに書籍が配信されるのを待つだけでよいのである。

このようにKindleはAmazonが提供する電子書籍、すなわちコンテンツを利用するための端末として販売数を延ばしている。端末のデザインやスペックではなく、端末で利用するコンテンツそのものに大きな魅力があるのだ。もちろんカバンに入れやすく手軽に持ちやすい7インチクラスの本体サイズも、ちょっとした時間が空いたときにすぐにKindleを取り出して書籍を読もうという気を起こさせる。「いつでもどこでも書籍が読める」これがKindleの魅力であり、製品の基本コンセプトなのである。

そのKindleのカラー&フルタッチ対応版となるKindle Fireも、同様にAmazonのコンテンツサービスを利用する製品だ。スペックはOSがAndroidベース、CPUはデュアルコアで速度は不明、画面は7インチ、1024x600ピクセル、内部メモリは8GB。利用可能時間は電子書籍の利用で8時間と従来の電子インク利用のKindleよりは劣るものの、1日の利用時間を考えれば十分許容できるレベルだろう。

他社のタブレットと比較するとカメラやマイクが無かったり、画面の解像度が低いなどスペックは劣る部分が多い。だがKindle Fireは単体で利用するタブレットではなく、Amazonが提供する豊富なサービスを利用するための端末なのだ。Amazonアカウントさえあれば、あとは読書もビデオも音楽も簡単に利用できる。さらにはWEBブラウザも搭載していることから、WEBページの閲覧だけではなくソーシャルサービスの利用なども可能になるだろう。そしてWi-Fiモデルとはいえ、これだけの機能を持っていて価格はわずか199ドルなのである。

タブレット市場はAppleのiPadの一人勝ち状態が続いており、複数の製品で追いかけるSamsungのGalaxy Tabでさえその販売数は半分にも満たない。また各社のタブレットはiPadの価格を意識したものとなっており、7インチモデルで300ドル、10インチモデルで400-500ドルにほぼ横並びしている。

これに対してKindle Fireはそれらを大きく下回る価格であり、しかもAmazonのサービスを手軽に利用できる。ハードウェアスペックだけで勝負しているタブレットでは、Kindle Fireに勝てないだろう。

一部のメーカーはタブレット向けに動画などのコンテンツ配信サービスを始めているが、細切れ時間に好きなページだけを読める書籍と違い、数分単位での視聴が困難な動画は利用の手軽さに欠ける。

Kindle Fireは「書籍も、そして動画や音楽も」というアプローチであるからこそ、利用者は様々なコンテンツを利用しようと考えるだろう。つまりコンテンツを用意するだけではなく、そのコンテンツを利用したいと思わせる動機を与えることも重要なのだ。

Kindle Fireはクリスマスシーズンに発売されることもあり、各社のタブレットは大きな影響を受けるだろう。特にブランド力の無い製品は価格の安さでも太刀打ちできず、市場からの撤退を余儀なくされる可能性も高い。またハイスペックの高価格タブレットを出しているメーカーも、ラインナップに低価格モデルを加える必要に迫られるだろう。

例えばSamsungは9月に7インチモデルの「Galaxy Tab 7.7」を発表、HSPA対応や有機ELディスプレイを搭載した高機能モデルだが、価格を引き下げたWi-Fiのみ&TFT液晶モデルの投入は必須だ。
7インチでハイスペックのGalaxy Tab 7.7。低価格モデルの投入も必要だろう

またこれまで市場を独占してきたAppleのiPadの販売にも大きな影響を与えるだろう。例えばiPadはPCの代わりになるほどの高機能な製品だが、その一方ではPCを母艦として必要とする。

これに対しKindle Fireは機能で劣る面があろうとも、単体で必要十分なことができる。しかも価格は「買ってみよう」と思わせるレベルだ。もしもKindle Fireが大ヒットすれば、iPadも価格を引き下げざるを得ない状況に追い込まれるかもしれない。


Kindle Fireはまだアメリカ国内のみの販売であることから、タブレットメーカー各社はひとまず一安心しているところだろう。だがそれもわずかの期間であり、いずれは世界中から自由に購入できるようになるだろう。

Kindle Fireはタブレット市場の勢力図を大きく変えることになりそうな、この冬最も注目すべき製品なのである。

山根康宏
著者サイト「山根康宏WEBサイト」

ITライフハック
ITライフハック Twitter

【世界のモバイル】の記事をもっとみる
日本市場でブレイクの可能性大!Galaxy Noteの新概念
スマホもデザインと価格の勝負へ!Xperia rayがもたらす新市場
首位Appleを急追するSamsung!新ビック3に引き離されるNokiaにみる世界激変
いよいよ日本登場か!成功が期待できるWindows Phone 7スマートフォンの実力