isihara 石原都知事が、東京都で尖閣諸島を購入すると言った時、マスコミは総じて彼の意見を筋違いと叩いてはいたが、世論そのものは、全体的に石原都知事にエールを送っていた感がある。
 石原氏が国会の衆議院決算行政監視委員会で参考人として招致されたとき、「都の行為を筋違いだと言うけれど、国がやらないから代わってやったんだ」と言っていた。
 それを見たとき、「何故都知事のあなたが、そして何故今なの?、そんなことをしたらとんでもないことが起こるぞ。」苛立ちを覚えた。

 そもそも、尖閣諸島を購入した場合の、東京都の行為は地方自治法違反にあたる。形式的に見れば、都民の保養、娯楽のために、豊島園を購入しようが、釧路の大地を購入しようが、尖閣諸島を購入しようが、同じものかも知れないが、目的が完全に違う。地方自治法1条の2で言う、「住民の福祉」という目的が、尖閣諸島には完全に欠落している。9.11中日新聞もその事を突いている。東京都職員の苦しい弁明が印象的だ。
 石原氏の周辺でそれを諫めるブレーンがいないのが悲しい。彼はそれだけ尊大で、独善的なのであろう。
 
 私は床屋の主人と散髪をしてもらいながら、よく議論をする。彼はいわば、「石原慎太郎よく言った」派の人間である。話題が、尖閣諸島購入の影響で中国人が、日本人を襲撃している、日系スーパーを略奪しているといった事に及んだときも、特段、説を曲げなかったが、「もし貴方の娘がこれに巻き込まれ死んだときに、貴方は今、必要のない紛争を巻き起こした石原都知事を恨まないか。」と尋ねたとき、若干トーンが落ちた。
 現在、中国で多数の日本政府への抗議デモが頻発し、日系企業、日本人は多くの被害を被っている。この被害に対して石原氏はどう弁明するのだろうか。死人でも出たら何というのだろうか。

 石原都知事の長男伸晃氏が現在自民党総裁戦に出て、テレビの公開討論会に多数出演しているが、「東京都が悪者になって尖閣諸島を購入し、それを国に売却すると行っているのだから、速やかにやればよかった。」とか、暴動報道を聞いて、「今はクールダウンの時期」だと涼しげに話している。boudou
 彼の父親のおかげで、在中日本企業が多額の損害を被り、在中邦人が危険にさらされていると言う時に、他の言い方は無かったのか、石原伸晃氏の態度にも失望する。
 
 その自民党総裁選は、テレビでキャスターと質問形式での公開討論会という形を取っている。
 その中で「もし中国船が再び侵入してきて、尖閣諸島に上陸した場合、逮捕起訴いたしますか」といった質問がないのが歯がゆい。タカ派の候補者が多いので、「粛々と起訴し、日本の法律で罰します」といった回答が予想されるが、事はそう簡単ではないはずだ。相手国はちょっと前まで共産主義の(今でもそうだが)、法治主義の未成熟国家である。罪もない在中邦人が、報復として逮捕されることは、菅前首相の時に学習した。侵入中国人を放免しない限り、片っ端から罪なき在中邦人が逮捕され続けることも予想される。それでも尚、それを容認し、被害に遭っている在中邦人に「日本国の威信のため、辛抱してくれ。」と言うことは、国民の生命身体の安全に最大の神経を注ぐべき為政者の言う言葉ではない。キャッチアンドリリースをすれば弱腰外交と呼ばれ、石原都知事をはじめとするタカ派の姿勢に反するであろう。
 他の山積する問題は皆、似たり寄ったりの回答である。総裁選のキーポイントはこの辺にありそうである。

 9.12日本経済新聞コラム「春秋」の全文を紹介して、本稿を終わりたい。

 物理学者のアインシュタインは言ったそうだ。
 「ナショナリズムは子供の病気だ。人類にとってのハシカのようなものだ。」作家池澤夏樹さんの「叡智の断片」から引いた。池澤夏樹さんは続いてこう書いている。「確かにハシカに似ている。熱が高くなるし伝染する」
 政府が沖縄県の尖閣諸島を国有化した。そのことで中国との闇にまた緊張が高まつている。国内の土地を日本がどうしようと他国に口をはさまれる筋合いはない。「尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本の領土であり、日中間に領土間題は存在しない」という政府の決まり文旬もまったくその通り。ここまでは原則である。

 しかし、それでは納得しない国がある現実は認めねばならない。
 領土をめぐって争いがある韓国の李明博大統領は最近、「日本と話していると弁護士と話しているようだ。法律、法律と、どうしてあんなに原則に固執するのか」とこぼしたそうだ(朝日新聞)。善しあしでなく、そんな見方を知る必要もあるのかもしれない。
 領土の話は人の胸にくすぶる愛国心という火種に油を投げつけてくる。威勢良く燃えればその勢いを為政者は人気取りに使う。
 バーンズという英国の作家が、最高の愛国心を説いている。
 「貴方の国が不名誉で悪辣でバカみたいなことをしているときにそれを言ってやることだ。」      
 燃え上がるばかりが愛国心ではない。          
                                              以上