中小企業の法務のポイント

司法書士法人名南経営 岩本直也 公式ブログ

2017年12月

 株式会社の特別決議は、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(会社法309条2項)。

 
有限会社の場合は、会社法第309条第2項中「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2」とあるのは、「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の4分の3」とする(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律14条3項)。

 
ざっくり言うと、株主総会にどれだけ出席したかに関係なく、「総株主」の頭数の半数以上、かつ「総株主」の議決権の4分の3以上の承認が必要ということです。

(必然的に出席要件(定足数)も重くなります。)

 
株主に相続が発生した場合、株主の人数が増加して頭数要件がクリアできない事態が生じ得ます。

 
有限会社は、新たに設立することができないため、有限会社を維持したほうがメリットが多いと説明されることもあります(例えば、決算公告が不要:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律28条)が、特別決議を考えると、できるだけ早く株式会社へ移行したほうがよいと思います。
 
なお、株式会社への商号変更の手続きは、特別決議が必要ですので、手遅れになる前にご検討を。

法人の設立手続完了までに要する時間です。
エストニア18分、英国24時間、日本1週間?、イタリア18カ月…。

【エストニア】
https://courrier.jp/news/archives/105820/
http://www.jeeadis.jp/jeeadis-blog

【英国】
英国で会社を設立するには

https://invest.great.gov.uk/jp/
「英国に会社を設立するには、基本定款と付属定款が必要です。これらの文書は、登記の際に定められている必要があります。登記に際し、モデル定款を採用するか、あるいは専門アドバイザーらに貴社の条件に合わせて定款を誂えるよう委託することも可能です。」


【日本】
法人設立手続きのオンライン・ワンストップ化について
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/hojinsetsuritsu/index.html


本人確認手続の簡素化に関する方向性につい
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/bukai/20171120/agenda.html
 「行政手続の電子化(デジタル・ファースト)を徹底するため,押印を不要とし,「紙から電子へ」を推進する。また,電子化の環境を整備するとともに,電子署名(厳格な本人確認が必要な手続を除く)を極力省略し,簡易な認証方式を導入する。」
 「
厳格な本人確認が必要な手続においても,電子証明書の利便性の向上あるいはセキュリティに見合う適切な認証方式(ID・パスワード方式)の導入等により,書面方式(印鑑証明書の添付)からオンライン手続に転換する。」

行政サービスの100%デジタル化
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai72/gijisidai.html
 「具体的な取組として、まずは、個人のライフイベント(転居、死亡・相続等)や法人のイベント(法人設立、役員変更等)において、既に行政機関が保有している情報について、行政が添付書類を求めることの廃止を徹底する。」
 「
このため、マイナンバー制度等を活用し、特に多くの手続で添付が求められている登記事項証明書(商業法人)や戸籍謄抄本などの添付を不要とするための所要の法令改正作業に関係閣僚が直ちに着手し、順次関連法案を国会に提出する。」


 純粋な手続業務はなくなることがないにせよ、報酬をいただいて行う業務ではなくなるでしょう。
 
「専門アドバイザーらに貴社の条件に合わせて定款を誂えるよう委託することも可能」という部分は、私自身がもっともっと意識しておかなければならない。

 
先日、司法書士試験の合格者向けに事務所説明会を行った際に、「近い将来、法務局はなくなってしまうかもしれない。国民の財産の帰属・移転、会社の基本情報(登記簿・定款・株主名簿)の変更を保証・公証する役割を我々(司法書士)が担う日がきっと来るので、一緒にワクワクする仕事をしませんか。」とお話をさせてもらいました。
 
 ちょっとぶっ飛んだことを言ってしまったかな、とも思いましたが、国の検討内容からも待ったなしの状況のようです。

=その2=
http://blog.livedoor.jp/iwamoto_naoya/archives/51185007.html

①「払込金額」…会社法199条1項2号
②「現物出資財産の価額」…会社法199条1項3号
③「払込み又は給付を受けた財産の額」
  …会社法445条1項、会社計算規則13条の資本金等増加限度額

 ③は、甲社に裁量の余地はなく、会計慣行や会社計算規則によって算定される額です。
 多くの場合(企業結合会計基準等においてパーチェス法が適用される場面又は企業結合会計基準等の適用がない現物出資)、現物出資財産の「給付期日」における「時価」によって算定されることになります。

 
現物出資財産が、日々価額が変動する例えば上場株式だったとします。
 
物出資財産の価額を100万円(@1,000円×1,000株)と決議しましたが、給付期日における時価が120万円(@1,200円×1,000株)になっていた場合、増加する資本金の額はいずれの額とすることになるのでしょうか。

 
他の決議事項(会社法199条1項5号)である増加する資本金及び資本準備金に関する事項を固定額で決議していた場合、さらに取り扱いに悩んでしまうように感じます。

 
このように現物出資財産の時価が日々変動するような場合、「資本金等増加限度額に2分の1を乗じて得た額(1円未満の端数を切り上げる)を資本金の額とし、その余りは資本準備金とする。」というように文章で表現しておくことも必要だと思います。

おわり

=その1=
http://blog.livedoor.jp/iwamoto_naoya/archives/51154441.html

 では、具体的な事例に当てはめてみます.。

 時価1000万円、簿価500万円の財産を甲社に対し現物出資して、甲社から100株の株式(1株あたりの時価10万円)の発行を受けた場合、①②③をいくらとすればよいのか。

 

 ①「払込金額」…会社法199条1項2号

 ②「現物出資財産の価額」…会社法199条1項3号

 ③「払込み又は給付を受けた財産の額」…会社法445条1項、会社計算規則13条の資本金

  等増加限度額

 
①は、金銭出資か現物出資かに関係なく、単に数字として1株当たり何円で株式を発行するかを定めるものです。
 
甲社は、自らの財務状況や資金調達の必要性等を考慮して、自由に決定することができます。
 
もっとも、この払込金額は当該株式の時価と比較して有利発行になるか否かの基準になり、それ以上に中小企業においては税法上の評価も十分検討したうえで決定されることになります。
 
この事例では、時価と同額の1株あたり10万円とします。

 ②は、例えば払込金額が1株当たり10万円としている場合に現物出資財産を1000万円に設定すれば1000万円の金銭が払い込まれた場合と同様に、100株が発行されることになります。時価や簿価に拘束されることなく、現物出資者との交渉で甲社の裁量で自由に決定することができます。ただし、①と同様に、税法上の制約は受けるでしょう。

 
この現物出資財産の価額が500万円を超える場合、検査役の調査が必要になります(会社法207条)。たとえば、検査役の調査を省略するために、現物出資財産の価額を500万円として定めたとします。すると、時価1000万円の財産を出資して、500万円分の甲社株式(現物出資財産の価額500万円÷①の1株あたり10万円=50株(1株あたりの時価10万円))しかもらえないため経済合理性がなく、この条件では現物出資者は現れないと思います。
 そこで、①の払込金額を1株あたり5万円とし、100株(1株あたりの時価10万円)を発行するか、②の現物出資財産の価額を時価と同じ1000万円とするか、を甲社は選択できることになります。
 
前者は時価1株あたり10万円の株式を払込金額1株あたり5万円で発行するため、有利発行の規制を受けることになります。一方、後者は有利発行の問題はないが、検査役の調査が必要になります。また、給付期日に現物出資財産の時価が下落し、1000万円に著しく不足する場合には価額填補責任(会社法212条)が生じます。
 
甲社は、これらの論点を含めたて現物出資財産の価額を決定することになります。

 
③は、甲社に裁量の余地はなく、会計慣行や会社計算規則によって算定される額です。
 
多くの場合(企業結合会計基準等においてパーチェス法が適用される場面又は企業結合会計基準等の適用がない現物出資)、現物出資財産の「給付期日」における「時価」によって算定されることになります。

 

つづく

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