前から一度見てみたいと思っていた谷口吉郎のホテルオークラ・メインロビー。所用で東京へ行ったので、ようやく見ることができました。今回も夜行バスを利用したので、早朝6時頃に霞ヶ関で下車。人気(ひとけ)のない官庁街を歩いて、虎の門のホテルオークラへ。


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ホテルオーークラ東京は、官庁街に隣接する丘陵地に計画され、日本の伝統的なデザインモチーフを巧みに用いた都市型大型ホテルの草分け。谷口吉郎がメインロビー、小坂秀雄が外観および大宴会場、清水一が和風客室、伊藤喜三郎が中宴会場を担当した合作となっています。


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正面玄関から入ったところ。古代の首飾りをイメージし切子をデザインしたとされる「オークラ・ランタン」。右手がカウンター。渡り廊下で緩やかに分節されたその奥に、メインスペースが静かに佇んでいます。

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階段で四段、約60センチほど掘り下げられた空間に、適度な間隔で配置されたテーブルと椅子は、長大作の作。正面の開口部は、雪見障子と、麻の葉組子。東からの朝日を受けて美しい陰影をつくりだします。


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紙張障子一枚の巾は五尺八寸(1757)高さは七尺八寸(2363)。縦桟の見付は一寸三分(40)、組子の見付は三分(9)とどれも気持ちの良い寸法。麻の葉組子も素晴らしい。近現代の建築家の仕事の中で、こうした伝統的なディテールの寸法や配置、用法などを適格に捉えて、これほど見事に空間演出に用いている例というのは、それほど無いように思います。


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吹き抜けの開放的な気持ちよさと対照的な、少しこもった居心地のよさ。ここでも四段の階段が効果を発揮しています。これがもしフラットだったらと考えると、空間体験はまったく違ったものになることが想像できますので、いかに見事な空間構成であるか、がわかります。


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障子に写る竹の影。こうした美しさは、もっと現代の住宅、日常生活に取り入れていければと思います。


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ロビーの椅子に座って、玄関を見返したところ。適度な天井高、入口からも適度な距離があり、渡り廊下で緩やかに分断されている上に、少し掘込んであることが、この落ち着いた雰囲気を決定づけているように思います。また喫茶などのサービスをせずに、あえてなにもない空間にしている、というホテル側の方針もこの空間の雰囲気をより良いものにしているように思います。


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二階部分は意外にも天井高さが低い。梁の下端で2100。手摺も低く、880。


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照明器具の詳細。何気なく平天井から釣り下げるのではなく、あえて手間をかけてルーバーから釣り下げているところに、ディテールまでこだわり抜いた様子が伺えます。


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建築主の大倉喜七郎はホテル設計に関して谷口吉郎に平家納経模本を見せ、「藤原期の雅を建築によって再現せよ」と難題を出したそうです。一流の文化人だった大倉喜七郎が、建築家の出したこの解答にどれほど満足したかわかりませんが、そうした施主と建築家の真剣勝負が、日本の建築史に残るような名作を作り出したと言えるように思います。


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麻の葉組子の詳細(良く見ると一ケ所欠けてますね、、、)。いつもお世話になっている建具屋さんに組子の上手な方がいらっしゃるので(以前のブログ参照)、いつか、こうした組子の仕事をご一緒したいなあと思います。


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渡り廊下からの見下ろし。テーブルと椅子のセットは、梅の花をイメージしているのだそうです。あとでネットで調べて知ったのですが、その場で感じ取れるように感性を磨いておかなければなりません。まだまだです。


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2階バルコニー部分と、その下のスペース。


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人が入るとこんな感じ。スケール感も素晴らしい。


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約80センチ角の柱の表面は、入口から見て見込方向は、写真のように、松の練付になっていて、何気なく和の雰囲気を感じさせるのに、一役買っているように思います。ちなみに見付方向は南洋材(詳細は不明)。見込方向と見付方向とで仕上を変えることが、空間構成に見事に呼応しているようでした。

オークラのホテルマンは、「おはようございます」と挨拶をしながらも、詮索はせず、きっとあやしい人物だったにもかかわらず(夜行バスから寝起きで来て、デジカメとスケールを持ってウロウロしてますから、どう考えても怪しいですよね)適度な距離を保ってくれていました。実はこのあと、東京ミッドタウンのリッツカールトンのロビーにも行ってみたのですが、なんだか居心地が悪く長居はせずに早々に帰って来ました。そう考えると、あのオークラのメインロビーのホスピタリティーに溢れた雰囲気は、ホテル側の接客のポリシーと建築家の造り出した空間と見事な調和によるものだったのだなあとも思います。次回は、是非一度宿泊してみたいと思ってます。



追伸
この記事を書いてから7年後、ようやく宿泊することができました。残念ながらホテルオークラ東京は2015年9月からの建替工事のため取り壊しとなってしまうようですが、宿泊したときの様子をブログにまとめてありますので、よろしければご覧ください。

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