岩 崎 建 築 研 究 室 ・ 日 誌

〜京都で数寄屋を学び、建築設計を考える〜

岩崎建築研究室

奈良の茶室

四つ目垣と枝折戸

奈良の茶室の建築主様からご依頼があり、四つ目垣と枝折戸の更新に行ってきました。お茶の生徒さんでもある職人さん二人と私と、三人でトラックに乗って現場へ。


更新前の朽ちた四つ目垣。近く茶事をするので新しくしたい、とのこと。


マルバマンサクが綺麗に色づいている。


焼杭を打ち、胴縁をあてがい、その間隔と、杭からの出を相談する。


腰掛待合の下地窓。


壁に映る下地窓の影。


糸は張って、立子を打つ。腰掛待合、正客からの眺め。


作業をしている間、お茶室の細部チェック。軒先の詳細。水の付き具合などを確認し、今後のディテール設計を考える。


「このエクボは敢えて前にして見せましょうか」八年前の大工さんとの打合せが、つい先日のことのように思い出される。


茶室の中での、ご亭主とお道具談義が楽しい。ご亭主のお道具集めは、私にとって憧れでもあり、目標でもある。


ある表具屋さんは、塗り廻しの角は、紙が引っ張るので張り廻しにはしません、と言っていたけど。大丈夫そうだ。


煤竹の女竹。この茶室はいいなあと改めて思う。


荒壁に掛物面白し。壁は、左官屋さんがいくつもサンプルを作って検討してくれた荒壁風の壁。骨董のお軸が引き立つ。


躙り口から露地を見る。


朝九時に作業開始、お昼には完成。段取り良く、手際よく。お茶のお稽古は活きているかな。お疲れ様でした。


男結び。


蹲踞前から枝折戸越しに腰掛待合を見る。枝折戸を固定する輪っかは、竹のものと、棕櫚縄のものと、二通り用意してくれました。


名残惜しく、最後に一枚。素敵な茶事が、無事行われますように。

腰紙の張り替え

三年前に設計をさせていただいた奈良のお茶室へ、外腰掛待合の腰紙の張替えに伺いました。釘が抜け落ちてしまったところもあったので、大工さんと一緒に。大工さんと一緒に伺うのは久しぶりです。大工さんと一緒に初めて手掛けたお茶室で思い入れが深いお茶室ですし、なによりも、久しぶりに素敵なお施主さんご夫妻に大工さんと一緒にお会いできるのがとても楽しみ。


腰掛待合の腰張にはもともとは紺色の湊紙が張られていましたが、外腰掛待合は南向きで直射日光が射し込み、紫外線の影響ですっかり色が褪せてしまいました。


採寸して、割付計算して、裁断をして、糊付けは大工さんに手伝ってもらって、張り付け。津の茶室、岡山のお茶室に続いて、腰紙張りは三回目になりますが、結構きれいにいけてるのではないでしょうか。遠方での茶室造りの時には、経師屋さんにわざわざ来てもらうのも大変なので、これからも請負ってやろうかな。


工事終了後は、お昼をご馳走になって、その後はお茶室でお薄をいただきました。有り難うございました。つい先日お茶のお稽古を始めた大工さんも、きちんと扇子などの道具を持参して席入り。お軸は「斗南長見老人星」。「四海隆平煙浪静 斗南長見老人星(虚堂録)」。斗南とは北斗七星から南の方ということで世間一般、老人星はこの星を見た者は長寿になるという伝説の星、寿老人の星、カノープス。世の中すべてがありがたい星を眺めるというおめでたい句。お施主さんは茶室作りでも古材にこだわられたように、お道具もすべて古いもの。お茶事の正客のように、お道具を介して上手にお話するのは、なかなか難しいですが、それでも、いろいろなお話が聞けて楽しかったです。私もいつかこうしたお道具でお茶をしてみたいなぁ。

リフォームと茶室のその後

昨年開口部のリフォームをさせていただいたお宅がそろそろ竣工から一年。一度様子を伺おうと事前に連絡してお邪魔してきました。ご夫婦お二人揃ってご在宅で、その後の住み心地やその他たくさんお話を伺いました。竣工当時の様子はこちら

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そもそもの改修のきっかけは、冬寒かったので、断熱性能のある建具、開口部に替えること。そこで真空硝子スペーシアを使ってのですが、改修後は結露もせずに快適に過ごしていただけたようです(逆に言えば、これまで本当に寒い寒い思いをされていたようです)。使用した材は鴨居や柱も、建具枠も吉野桧。赤身と白太のある源平でしたが、一年経って日に焼けてしまうとほとんどわかりません。また日に焼けて落ち着いた色になってきています。杉でも国産材は良い色合いに色づいていきますが、米杉などの外材は変に黒ずんだりします。そうした意味でも、日本人の感性に相応しい国産材を使っていきたいものです。

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濡れ縁の土庇には、明るいイメージに合うよう、乳白色のツインカーボを使用しました。陽があたると、膨張して「プチプチ」と音がするのですが、ご主人曰く、音のテンポで陽射しの加減がわかって面白いですよ、とのこと。こうした感性の方ために仕事が出来て本当に良かったと思います。

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庭にはライラック。

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濡れ縁の様子。床板は青森ヒバ。綺麗に使っていただいて嬉しい限り。

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たくさんお話を伺って失礼したあとは、前から気になっていた近くのお蕎麦屋さんでお昼ご飯。蕎麦の実をそのまま挽いた「玄そば」。挽きたて、打ちたて、茹でたて、で美味しい。

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店内の天井は高く、縦長のハイサイドライトからは、外の緑がが見える。

おそばを食べたあとは、日頃の運動不足解消のため、学研奈良登美ケ丘駅まで徒歩。ちょっと遠くても下り坂、音楽を聞きながらなら足取りも軽くなります。ちなみにiPodで聴いていたのはベートーベンの交響曲第二番。一楽章の冒頭長い序奏に続くアレグロ、ヴァイオリンの早い音階は、颯爽とした風のようで、今の季節にぴったり。学研奈良登美ケ丘から生駒、生駒で乗り換えて富雄へ。途中乗り換えの生駒駅では、前の事務所の時に住宅の設計をさせていただいた建築主さんと偶然ばったり。世間は狭い。

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奈良のお茶室。こちらはまだ竣工してから三ヶ月ほどですが、自在がかかるのが四月だけ、また竣工後に石仏を求められ庭に置かれた、ということでそれらを見せていただこうとお邪魔させていただきました。ちょうど来週に茶事をされるとのこと、棕櫚箒が古くなってきたとのことでしたので、家内の実家の庭から棕櫚を伐って持参。箒にするのは建築主さん自らがされます。

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石のほとけさん。柔和な顔をされています。室町初期のもの。鎌倉時代に仏教が一般民衆に広がり、手頃な材料で出来るということで石仏の造立が盛んになったとか。

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竣工の頃、建築主さん自ら植えられたマルバマンサク。緑の葉が出て、待合いからは、葉っぱ越しに扁額が見えて、よい感じです。

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茶室工事の一部始終を庭で見て来た灯台躑躅(ドウダンツツジ)。鐘状の花も咲き、若葉の新緑も鮮やか。躙口には手掛かりが開けてあります、さあ席入りです。

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簾越しの陽射し。来週の茶事の予行演習にお邪魔して、お茶とお菓子を頂きました。有り難うございました。

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自在。釜を吊る部分は、樫の枝。ご主人が山に入って探されたそうです。二股になった部分が強いのだとか。

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障子に映る簾の影。

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畳に落ちる影がくっきりと綺麗だったので写真を撮ろうとすると、あっというまにぼんやりとなってしまいました。一瞬一瞬の時の大切さ。茶室の中にいると、陽射しの移り変わりや、風や雨の音などが、とても敏感に感じられるから不思議です。

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茶事が終わり、躙口を開けるとこの景色。石の仏さんが「はい、おかえり。おつかれさん。」とさりげなく言っているようです。

茶室の撮影

大工さんのお知り合いにカメラマンの方がいらっしゃる、ということで、せっかくなので奈良のお茶室の撮影をお願いしました。天気が心配でしたが、なんとか撮影できそうな様子。日曜日、お休みのところをお邪魔しての撮影となりました。

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茶室の外観の様子。簾を掛けた状態。

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躙口脇の簾、下から三分の一の所に力竹が入っていて、上に上げると、、、

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中には室外機、庭の水やり用のホースや如雨露、掛け雨戸が入っています。撮影に備えて打ち水をします。

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外観、正面から見たところ、躙口をあけると、、、

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建築主さんが、お軸とお花を荘ってくださっていました。

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水屋には釜と花入。ちなみにお花は、うちの嫁さんの実家にあった侘助を持参しました。

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さて撮影開始。床の間は、簾を掛けて初座のお軸、簾を外して後座のお花、の2カット撮ってもらいました。

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工事では、その凄腕をふるった大工さんも、今日は撮影のアシスタント(笑)

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光る茶道口。夜咄の茶事の時には、手燭を持って茶道口に座ると、ほんのり明かりが漏れる趣向。水張口の片開戸をあけると光が射し込んで、桟が浮かび上がります。

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炭の準備もしていただいています。綺麗に塗られた炉壇の壁に炭の赤い火が映って美しい。中板はおそらくどこかの座敷の床脇の地板に使われていた古材。炉縁は東大寺の古材。

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水屋から腰掛待合を見たところ。

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石垣張りの障子紙に映る簾の影。

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竹一重切りの花入に侘助。

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外観正面。

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撮影の合間、静かな茶室の中にいると、外でジャボンという音。何かと思って、そっと障子を開けると、鳥が手水鉢で水浴びをしていました。写真は躙口をあけて蹲踞あたりを眺めたところ。躙口は本来、外を眺めるための窓ではありませんが、ごろんと畳に寝転んで躙口から庭を眺めるのも、よいものです。あぁ、こんな茶室が家に欲しい(笑)

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同じく躙口から腰掛待合を眺めたところ。

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外観は、簾あり、簾なし、掛け雨戸の3パターンを取ってもらいました。写真は、カメラマンの方が正面から撮影している脇から撮った簾なしの様子。写真に音は入りませんが、なぜか撮影の時には息を止めるほど静かにしてしまいます。

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掛け雨戸を掛けたところ。

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茶室のファーストインプレッションと言えば、躙口を開けて覗き込んだ時。せっかくなので、その視点でも撮影していただきました。

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カメラマンの方の撮影が済んで、同じ視点で自分のデジカメで撮ったのがこの写真。やはり素人の写真では、実際に見たときの感動、感慨を伝えることは出来ないなあと実感します。

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お軸は、黄檗宗の僧で池大雅や伊藤若冲と親交があった聞中浄復のもの。

春の暮るる時
款冬圃大人を尋ね参らせて圃の花一枝乞いけるに手折りてたまいければ読める
散らぬ間と来つつとひなし君の宿のいかで香も深く咲くる山吹。
おしむとも岩手の春は山吹の花をかざして帰る嬉しさ 。

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花入は予楽院作、銘は村雨。床柱は伝西大寺古材。「茶席の取り合わせを誉める言葉でいままでにいちばん感銘したのは、「よぉく出会われましたなァ、、、!」という言葉である。」(岡本浩一著「茶道を深める」より)

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巾一尺四寸の古材の中板に、点前座は同材の小板を入れた向切、客座は丸畳。四尺巾、奥行き二尺五寸の畳の床の間に、床柱は見付四寸の伝西大寺古材、そして床框は建築主さん自らが挽き割った栗の古材。二帖中板という席はごくごくシンプルでありながら、調べたところでは、ここのような二帖中板で向切り床の間付き、というものはなかなかないようです。東福寺の芬陀院は向板の入った逆勝手で床なし、三渓園の蓮華院も逆勝手、床なし。野村得庵の碧雲荘にも二帖中板の席があるようですが、写真で確認する限り中柱をいれた構え。二帖と中板だけの極侘びの小間ですが、待庵のような床の間があって侘びすぎず、中板があることで客と亭主の間に待庵ほどの緊張感を強いられないし、天井に関しては平天井だけなので待庵以上にミニマム。設計に関わった私が言うのもなんですが、なかなかの席だと思います。

撮影終了後は、建築主さんの計らいで簡単な菓子茶事が開かれました。大工さん、カメラマンの方、建築主さんのご主人、という茶道をされない喫煙者の男性三人がお客さん。急遽私が点前をさせていただいて(袱紗と足袋は常に携帯するべきと反省)、建築主さんが半東。五人入っても窮屈でもなく、親密な雰囲気のなか、和やかに時を過ごせたように思います。好奇心旺盛な建築主さんは、莨盆に煙草が入っていないのはおかしい、と刻みたばこを購入され、用意されていました。せっかくなので煙管で吸ってみようとなったのですが、火のついた小片が床に落ちて大騒ぎ、幸い畳の上ではなく大事には至らなかったのですが、楽しいハプニングでした。

息子さんから道具茶と揶揄されることもあるそうですが、それでも、こだわって、こだわって道具を集めてこられた建築主さん。そうした深い思いに引き寄せられて、西大寺の古材も、大工さんも、設計の私も、この場に集まって来たのではないかなと思います。今回の茶室の工事は、僥倖と思える出会いがたくさん重なった本当に素晴らしい経験でした。

席披き

昨年一年をかけて、計画、工事を進めてきた奈良のお茶室。昨年末に茶室の工事が終了、年が明けて露地も整い、この度、目出たく席披きをされることになりました。建築主さんのお茶の先生、社中のお仲間の方、計三名を招いての正午の茶事。設計をさせていただいたものとして、あまりお役にはたてませんが、お手伝いに行ってきました。

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腰掛待合からの朝の茶席。もしお茶室をつくることが叶わなかったら、これを持って棺桶に、との思いでつくられた扁額「半日閑」。「半日閑(はんじつのかん)」は建築主さんの好きな李渉の詩からとられたものです。

終日昏昏酔夢間  終日 昏昏たり酔夢の間
忽聞春尽強登山  忽ち春尽きると聞いて強いて山に登る
因過竹院逢僧話  竹院を過て 僧に逢うて話するに因て
又得浮生半日閑  又 浮生 半日の閑を得たり

一日じゅう、酔生夢死の言葉さながら何もせずぼやっと過していたが、ふと春はもうおしまいだなという声を聞いて驚き、むりに気をひき立たせて山に登っていった。たまたま竹林寺を通りかかったので、立寄って坊さんの話を聞いたところ、気持がすっとして、この束の間の人生のなかでひとときのんびりした半日を過したことであった。(中野孝次著「わたしの唐詩選」より)

初めて建築主さんとお会いした時に見せていただいたのが、この扁額と栗の框でした。入手された栗の古材を、框の大きさに自らのこぎりで挽き割ったという話(堅い栗の木を女性が手ノコで、しかも縦に挽き割るというのは、相当大変なことです)を伺って、建築主さんのお茶に対する思いの深さ、大きさを実感し、こうした方のために設計者としてお役にたてることができれば、まさに設計者冥利に尽きると思ったものでした。その後たくさんのお話をし計画を練り、素晴らしい職人さんたちに恵まれ、今日の日を迎えることができました。言葉にしてしまうと、あっさりしたものですが、ここに至るまでにはたくさんの紆余曲がありこの一年は本当に充実し楽しいものでした。さて、そうして出来上がった茶室は、半日の閑を過ごすのに相応しい茶席になったでしょうか。

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腰掛待合の柱にかけられた棕櫚箒。こちらも建築主さんの手作りです。

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四つ目垣と枝折戸。その向こうには織部灯籠と蹲踞。

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水張口に置かれた草履。古い瓦を使った塵穴も建築主さんの提案。

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左が躙口、関守石の向こう、正面奥は貴人口風ですが、奥は実は物入れで、巻き上げた簾が入れられます。右奥の簾の向こう側には、別室の空調の室外機や、水やり用のホース、掛雨戸の収納場所となっています。

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躙口は、古い雨戸の板を利用したもの(枠は新材)。貴人口の建具も古建具。京都の古建具屋さんでも、ほとんど出ない茶室用の古建具、今回運良く手に入れることが出来ました。こうした縁も建築主さんの思いの深さが通じた結果。

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水屋の様子。

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沢庵宗彭(1573-1646)のお軸。床柱は伝西大寺古材。落掛は神代杉。

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簾越しの日差し。初座は若干暗かったようですが、後座に簾を巻き上げると、はっとするほど明るくなったそうです。私自身は簾を巻き上げていましたので(ちなみに簾は内巻きで巻き上げ)、残念ながらその様子を伺うことはできませんでしたが、簾を外すだけでこれほど明るくなり、小間でこそこうした演出が効くというところに、先人の知恵というものの素晴らしさを感じた、という先生のお言葉が印象的でした。

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水屋から茶道口を見たところ。左に見える棚は大工さんにつくってもらった折りたたみ式のもの。懐石の時にも重宝したようです。先生との一亭一客を目標とされている建築主さん、懐石の準備もすべてご自分でされ、分刻みのスケジュールをたて、ひとりだけお手伝いの方に来ていただいてスムーズに進行していったのは、さすが。

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後座の花。まだ簾を巻き上げる前で、ずいぶんと暗いですが、躙口をあけて、この光景が飛び込んでくるインパクトはなかなかのものだったと思います。

さて今回は建築主さんからのお声掛けもあって、僭越ながら半東をさせていただきました。露地の水打ちや、火入れの灰、腰掛待合への案内、簾の巻き上げなどをさせていただきましたが、こうして実際に裏方として茶室を使うことほど、茶室の設計の勉強になることはありません。こうした機会を与えていただき本当にありがとうございました。また薄茶の替え茶碗をお出しするタイミングで席に入らせていただき、薄茶をお相伴させていただいたのは望外の喜びでした。正客をされた先生には、計画の初期の段階で相談にのっていただき、建築主さんと私の間で、ほぼ下座床の案で固まっていたところ、貴重なアドバイスをいただき、結果、上座床となった経緯がありました。こうして出来上がってみると、なるほど、この場所に建てるならば、また建築主さんが望まれる雰囲気を持つ茶席にするならば、この間取りしかなかったとつくづく実感をしていましたので、こうして席披きの席中で先生にお会いできたのは本当に嬉しいことでした。

それにしても、一般的に世の中で茶道が封建的だと言われたり、形式が形骸化しているなどと言われているなかで、こうした心づくしのもてなしの茶事が行われている、というのは本当に素晴らしいことだと思いますし、これこそお茶のあるべきすがたであるように感じました。こうした席を作ることは、亭主の夢を叶えることであると同時に、客として来られる方にも喜んでいただけることなのだ、ということも今回改めて感じたことでした。出来ればいつかは自分も客として、この席を体験してみたいところですが、それにはまだまだ勉強しなければならないことがたくさん。それを目標に日々精進したいと思います。この度は本当に御目出度うございました。そして有り難うございました。

茶室の簾

今日は、奈良のお茶室の簾の打合せ。簾と言えば琵琶湖の葦。ということで、大津の老舗の簾屋さんへ。

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駅まで歩いて、電車で大津・比叡山坂本へと向かいます。北山も比叡山も真っ白。比叡山を越えていけると距離としては近いのですが、そうもいかず。電車で東山を迂回して向かいます。

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茶室の簾は糸掛けが基本。上桟の竹に穴をあけて掛けるのではなく、編み上げた糸が上部で繋がった部分で釘に掛けます。そのため、釘の位置にきちんと編糸のセンターがこなければならず、きちんとした採寸、設計が必要です。現場の釘の位置を改めて採寸、今回作成する五枚の簾すべてについて、詳細な図面を作成して、打合せに臨みます。

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皮付き葦の簾。こちらは明治元年の老舗なので、近年あまり採れなくなったとも言われる琵琶湖の良質な葦のストックがたくさんあります。打合せでは、左右のクリアランスや、経年変化による伸びなどを確認して、最終の仕上り寸法を決定、製作をお願いします。

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釘に掛ける部分。竹の上部は、糸のあたる部分がきちんと欠き込みがされています。

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平竹を二枚合わせた丁寧な仕事。

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右が簾屋さん、左は建具屋さん。奥に見えるのは簾を編む機械。こうした機械も、簾屋さんご本人が製作・改良したりと、とても研究熱心。また最近は延暦寺の阿闍梨さんの箕を作られたとか、楽しい話題に事欠きません。

仕事納め

今日は奈良のお茶室の現場に、畳屋さんと大工さんに来ていただいて、最終の工事。席被きまでには、まだ細々としたことはありますが、一応今日で切りをつけて、最後に扁額をあげて仕事納めとする予定です。

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畳屋さんが到着してさっそく搬入。水張口から茶道口の斜めのラインが唯一の搬入経路。茶室はどうしても入り口が狭くなる上に、年に二回は必ず畳替えがあるので、設計の段階から畳の搬入経路の検討が必要です。

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大工さんが他の細々とした手直しをしている間に、建築主さんと相談して残っていた釘類の位置決定。水屋では実際に茶筅(表千家は煤竹)や釜据えを持って来ていただいて、実際にあてがって位置を決定。青い紙テープを貼って位置を出していきます。

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向こう側の腰板には茶筅用の竹釘。棚板があるので、実際に掛ける動作をしてみて、邪魔にならない高さを決定。

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床柱には座付きの花生釘。こちらも実際に花入を持ってきていただいて、畳の上に座って、花が生けられた様子を想像しながら、また床柱の節とのバランスにも注意をしながら、位置を決定していきます。

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床の間にも畳が入り、さっそく、というか、いよいよ、というか、建築主さんが是非これを、と以前からおっしゃっていた、沢庵宗彭(1573-1646)のお軸を掛けてみます。直接軸釘に掛けているので、ちょっと位置が高いですが、それでもやはり軸が掛かるだけで床の間の雰囲気がガラリと変わります。

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床の間の裏には畳が縦に置ける物置を用意しています。

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大工さんが花生釘を取付けています。釘を傷めないように当て木をして。躙口から見たところ。

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茶道口を見ると、障子からの光で、塗り廻しの縁が柔らかく光っています。

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建築主さんのお気に入りの壁。横からの光で絶妙な風合いの壁が美しく照らしだされます。お茶事の時には、この壁を背景としてのお点前となります。

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障子を開けると、樫の木漏れ日、連子の竹越しの光が、土壁に様々な影を映し出します。

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水屋の炭入。

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蓋を開けて、、、

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中箱を出したところ。

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中箱の取手。

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水屋の無目に取付けた二重折釘には、、、

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後入を知らせる銅鑼を吊るします。実際に叩いて見て、どれだけ動くか実験。当初想定していたところでは、「大・小」の「大」を叩いた時、揺れた銅鑼が後ろの壁に当たってしまうかも、という事で写真の位置に。使用後は物入に収納。

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竹釘が取付けられました。実際に掛けてみます。

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茶筅も掛けてみます。

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写真右は、竹釘が入っていた竹(全部使ったので空ですが)。以前作業場にお邪魔した時に「竹釘は僕が作ったものがあるので使ってください」と大工さん。いつもは金物屋さんで買ってきますが、竹を削ったものですから、作れないものではありません。そうしたところに、大工さんの心意気、本当に物を作るのが好きなんだなあ、ということを感じます。左は、竹釘を打ち込む時に角度の確認に使っていた道具。おそらく誰かから教わったことではなく、自分で考えた結果。どうしたら、確実に、無駄なく、綺麗に、出来るだろうかと常に考えながら作業されていることがよくわかります。

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畳が入ったので、畳の上にカメラを置いて天井を撮影。古材の床柱、神代の落掛、煤竹の廻り縁、へぎ板に煤竹女竹の竿縁、と、新築の茶室とは思えない雰囲気。

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細々と色々な作業をしている内にすっかり日が暮れてしまいましたが、最後に、扁額を取付けて、今年の作業は終了。茶室を作るのは大変だから、せめて扁額だけでも、と作っておられた建築主さん。ご縁をいただき、茶室の設計をさせていただき、素晴らしい職人さんたちに協力していただき、こうして建築主さんの並々ならぬ思いが詰まったお茶室が無事完成したということは、私にとってもこれほど嬉しいことはありません。また茶室造りを通じて、本当にたくさんの事を学ばせていただきました。改めて、こうした仕事をくださった建築主さん、素晴らしい仕事をしてくださった職人の皆さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。

経師屋さん

奈良のお茶室、今日は経師屋さんが、紙貼りをした障子や襖を持って来て、現場では腰紙貼りをしてくださる予定。昼から、が多かった現場監理ですが、今日は朝から。

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朝の陽射し。

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躙口を開けて、茶室の中へ。


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土壁の詳細。写真ではなかなかお伝えできませんが、何度見ても、なんとも言えない風合い、味わいに感心します。今回の工事にあたり、左官屋さんは、なんとか良い壁ができないか、と作業場で20枚以上のサンプルを作って試行錯誤をしてくれたとのこと。桂離宮や京都御所の修復で使われた白漆喰塗りのパラリ仕上げの、あの風合いを、なんとか土壁でも出来ないか、という挑戦でもあったようです。藁が入りながらも、それを上からごく薄い土でコーティングしたような、柔らかく、なおかつ深みのある壁。刻々と変わる日の光が土壁に映す影というのは、とても美しく、見ていて飽きません。茶室に限らず、住宅や店舗などでも、ここぞという箇所には是非使ってみたい壁です。

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掛け雨戸が閉まっている状態。夜咄の茶事では、雨戸を閉めたままで茶事を行います。また、建築主さんに見せていただいた本には、紙貼障子を外してそこへ「笹戸」を入れる、となっています。

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経師屋さんが到着したら、さっそく打ち合わせ。使用する紙と、腰紙の割付けの確認。こちらの意図している割付けを図面で提示して、経師屋さんのこれまでの経験もお聞きして、最終を決定。割付けが決まれば、採寸です。

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採寸に基づいて紙の大きさを計算中。

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点前座の後ろは白の奉書紙。奉書紙は楮を原料とする和紙。西ノ内紙は茨城県那珂郡山方町原産で、水戸藩主の水戸光圀が紙名を与え奨励したとのこと。大きさは一尺四寸×一尺八寸。高さ九寸にカットして、長さ一尺八寸で貼り継いでいく場合もあるようですが、やはりその場所に応じて割り付けたほうがよいように思います。

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腰紙は左から張り始め。継ぎ目のところで右が上になります。経師屋さんの話では、「左前」というのがお商売されている方には嫌われるから、とのことですが、現場での作業を見ていて感じるのは、右利きを前提とすると、左から貼ったほうが確実に貼りやすい、ということ。左手で継ぎ目にあて、水平を注意しながら貼る、という作業は、やっぱり利き手の右でないと難しいように思います。勝手に想像するに、江戸時代の気の利いた職人が、貼りやすい方法に何か理由をつけようとして、左が不浄で、死に装束が左前だから、商売が傾くことを「左前になる」というのに結びつけたのではないかな、と思います。

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点前座の角は塗り廻しになっているのですが、できればそこは、腰張りの紙も継ぎ目を設けず、貼り廻して、茶道口の塗り廻しも、同様に貼り廻して、床柱から水屋にある方立てまでをうまく割り付けたいところ(待庵もそのようになっています)。事前に図面化したものを提示してお願いしました。経師屋さん曰く「言われなかったら、角で継ぐところでした」。ちょっとのことでイメージが変わりますので、そんなところに設計監理の意味があるように思います。

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客座の後ろは紺色の湊紙の二段貼り。湊紙は現在の大阪府堺市の湊村で漉かれた和紙で、鳥の子系統の下等な漉き返し紙。ちなみに鳥の子紙は、雁皮を原料とした和紙で、紙の色が鳥の子、鳥の卵の殻の色に似ていることから。現場では、布海苔を塗る人と壁に貼る人、で手際よく貼られていきます。

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腰貼りの作業はできるだけ明るいほうがよいので、障子はまだ入れていなかったのですが、「一度見てみますか」ということで、昼前に一度障子をいれてもらいました。写真は十一時半頃の様子。庭からの安定した光が入る頃。障子の外に打ち付けられた竹の連子を回折して白い障子紙に色がついています。

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虹窓現象の詳細。石垣貼りの障子紙と相まって美しい景色を創り出します。

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引違の紙張障子、右手前は、竹との距離が長くなるので、色の出方が違います。

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両方を見比べるとこんな感じ。写真中央が召し合わせ。左では色がよく見えますが、右側はぼやけています。

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下地窓の影も刻々と変化します。眼鏡は経師屋さんの。

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躙口上の連子窓の虹窓現象の詳細。障子を開けてみると、、、

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直径六分五輪の白竹。障子紙から竹までの距離は六分(18ミリ)。

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障子の竪框は見附四分五厘。鴨居の見附は八分。大工と建具屋のコラボレーション。

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午後二時頃になると直射日光が射し込み始めます。日が射し込む部分は、障子紙が明るく輝き、光が拡散し辺りを柔らかく照らします。障子がなく日が射し込む場合には明暗のコントラストがきつくなりますが、障子紙が入ることで、室内は柔らかい光に包み込まれます。

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外部の様子。躙口は古建具の板のみを再利用。

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午後三時を回ると、庭にある樫の木の木漏れ日が、ピンホール現象を起こします。障子が入る前は、それが土壁に映っていましたが、障子が入り白い紙のスクリーンにその影が映し出されます。あとは畳を入れて、ゆっくりこの景色を眺めてみたいところ。月曜日には、畳屋さんと大工さんが来て最終の工事、仕事納めの予定です。

子連れ現場監理

せっかく奈良にいったので、子連れですが、お茶室の現場を見に行こうと、息子を誘ってみると、なんとか同意が得られたので、電車とバスを乗り継いで現場へ。今日は建具屋さんが建て込みの予定でしたが、もうすでに現場におらず。電話してみると、今日は三人で来たので早く済んだとのこと。順調に終わったようです。

突然の訪問(しかも子連れ)で恐縮でしたが、建築主さんご夫婦にもてなしていただいて、お菓子をいただいたり、ジュースをいただいたり、好物のリンゴをいただいたりして息子もご機嫌。最初は猫をかぶっていた息子も、だんだんと化けの皮がはがれ、回転椅子でぐるぐるまわったり、持参したショベルカーやダンプを取り出したり、何か傷つけたり、ものを壊さないかヒヤヒヤでした、、、

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掛け雨戸が取付けられ、室内が暗くなっています。

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掛け雨戸。

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雨戸を掛ける花蔓割足釘。

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古い雨戸の板を再利用した躙口。

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水張口の板戸も、古い雨戸の板を使用。枠は新材です。それにしても子供(しかもやんちゃな男の子)を連れての茶室の現場監理は、壁を傷つけないか、何か壊さないかと、ヒヤヒヤしてダメですね。集中できません、、、次は土曜日。障子や太鼓襖の建て込み、腰紙貼りの予定、もちろん一人で来ます。

電気器具取付け

奈良のお茶室の現場。今日は電気屋さんによる器具取付け。早朝東京から帰ってきて、10時から息子が通う幼稚園(家から徒歩1分)でのクリスマス会、10分ほどビデオカメラマンをしてすぐ奈良へ。乗り換え駅構内の立ち食い蕎麦屋で天ぷらそばを食べて、最寄り駅に着くと、建築主さんがお迎えに来てくださっていました。いつもありがとうございます。

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エアコンの取付け。慣れていない業者さんですと、土壁を傷つけたりしてしまうこともありますが、ここの業者さんなら大丈夫です。

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腰掛けからの眺め。建築主さん自ら植えられたマルバマンサク。

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換気扇。夏場には茶室に籠った熱気を排気するとともに、水屋に設置したエアコンの冷気を引込みます。本体はコンクリートスラブから下ろしたボルトに設置してあるので、茶室に振動は伝わりません。ただダクトを通じて空気の流れる音、というのは若干聞こえるかも、空気を引っ張る上では仕方ありませんが。

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換気扇の吐き出し口、エアコンの室外機(別室のもの)、水やり用の散水栓とホースなどをここにまとめ、簾で隠す予定。

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床の間の天井。換気扇の吸い込み口、床の間用照明のキセノンボーライト。天井には花蛭釘。ここまで見返すことはありませんので、換気扇や照明器具をお客さんが見る事はありません。

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床の間から躙口を見る。躙口の上の連子窓は、当初は慈光院のように、柱までにする予定でしたが、途中で変更。竹の割付けにも注意しながら寸法を決め、小壁をつけましたが、やはりこうした方が、陰影が深まり、よかったように思います。

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茶道口付近。早く障子を入れて、西日が下地窓の影を紙張障子に写すところを見てみたい。正午の茶事、終盤の三時から四時には、このあたりに西日が射し込み、刻々と変化する陰影を映し出す予定です。

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相手柱も、建築主さんがネットで購入されたもの。はつり目が残る古材。床柱、床框、落掛との相性もよく、よくぞこうしたメンバーが集まったものだと思います。建築主さんの熱意の賜物です。

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茶道口の天井につけられたライコン付きスイッチ。ここならば、床の間の様子をうかがいながら照明の明るさを調整でき、しかもお客さんからスイッチ自体が見えません。

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水屋に設置された、折りたたみ式の棚。水屋は狭いので、普段はこの状態ですが、、、

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広げるとこんな感じ。懐石のお膳などがすぐに給仕できるように、こうした棚が必要。以前古いお茶室で見た水屋の折りたたみ棚の仕組み、イメージを大工さんに伝えて、大工さんが作ってくれたもの。

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基本的に茶室の設計をさせていただく時には、原寸図を描いて細かなところまで検討して作りますが、この棚については、大きさ、高さなど建築主さんと相談の結果決めたこと以外、細かなところは大工さんにおまかせ。こうした形は、なかなか図面を描いている人間にはできないものですので、これぞ数寄屋大工の仕事、と感心します。

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建築における設計者と施工者の関係は、音楽で言えば、作曲者と演奏者。こうした仕事は、演奏者の采配に任されたアドリブ、協奏曲で言えばカデンツァです。

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水屋の水皿、竹の簀子も入れられました。

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落掛けを廻り込む光。躙口や障子を透過した光が、床の畳や、壁を反射して、影となる部分にも廻り込んで光を届けます。日の光は刻々と変化し、空間におけるその挙動はなかなか捉えることができませんが、それでもこうした光景をつぶさに観察し、どのような位置に開口を開けて、床や壁の仕上げをどうすれば、どのように、どのような光が広がっていくのか、ということを想定して設計をしなければなりません。

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落掛の寸法についてはずいぶんと悩みました。待庵の落掛などは見附一寸二分ほどあるのですが、小間の茶室では見附一寸をきるものも見かけるように思います。今回柱も見附四寸と大きいので、途中大工さんとも相談したのですが、結局、見附九分と細めの寸法にしました。その理由のひとつは、下から見上げると、神代杉のような色目のものは見附も下端も一体となって見え、見附寸法を安易に大きくすると、随分大きなボリュームに感じられてしまうのではないか、ということ。また床柱の見附とのバランスという問題もありますが、今回は古材。新材で見附寸法を決めて面巾を決めて、といった場合の四寸と、古材の見附四寸、というのは、意味が違うように思います。新材ならば、やはり四寸にした意味や意思があり、それに取りつく落掛はもちろん、それとのバランスを考慮しなければなりませんが、古材の場合は、寸法はあったまま、ですので、敢えてその寸法とのバランスを考えるよりも、落掛なら落掛自体の寸法というものにこだわったほうがよいのではないか、ということ。さて出来上がりは、どうでしょうか。個人的には、あの敢えて決めたギリギリの寸法が緊張感をそこはかとなく漂わせているように思うのですが、手前味噌かもしれません(笑)。なかなか正解は見つかりませんが、そうした葛藤や検討を積み重ねていくしか、よい建築をつくる方法というのはないように思います。

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茶道口の足許。松の敷居に壁の塗り廻し。京都の一流の職人(大工さんも左官屋さんもまだ若いですが、そういって差し支えないと思います)が創り出す造形。こうしたものがそうした手によって出来るということを知った上で、たとえば住宅や店舗などで、現代に相応しく、なおかつ新しいものを、いかにつくるべきかを考えるのが、設計者の仕事。

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茶道口に立った時の眺め。

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現場を離れる際に、名残惜しく、写真をもう一枚。来週には建具が入り、年内で一段落する予定です。

織部灯籠と塵孔

奈良のお茶室の現場。二日連続になってしまいますが、石の据え付けが気になるので、昼からまた現場に来てしまいました。庭の仕事は、建築の仕事と違って、図面通り、という訳にも行きませんし、現場でどうするか決める、ということが重要であると同時に楽しみでもあるように思います。

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午前中で蹲踞の据え付けが済んで、灯籠の移設中。ばらばらにして移動したものを組み立て中。

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遠く離れて、出来上がりの様子を伺っています。

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蹲踞と灯籠。庭が狭いので、配置が難しい。灯籠は織部灯籠(切支丹灯籠)。普通灯籠には台座がありますが、織部灯籠では竿が直接土の中に埋め込まれて、竿の上部を丸くし、十字架を表しているとか。竿の上部の丸い部分には謎の文字が彫られていますが、それらは慶長年間と江戸初期の僅かな期間のみに使用されたと言われ、昭和初期に十数年に渡って日本全国で拓本を採取し研究をした松田重雄氏の考察に寄れば、Parti(天の父) を意味する「PTI」、竿の下部に彫られている八頭身の尊像はFilio(聖子キリスト)なのだとか。

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腰掛待合、次客と三客用の延べ石。

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断面が六寸×五寸で、最初は六寸が平になるように据えられましたが、ちょっと巾広すぎるので、五寸が平となるように縦使いとしてもらいました。ちょっとのことですが、納まりが違います。

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腰掛待合の様子。石の高さは実際に座ってみて確認。円座が一寸弱ぐらいあるので注意が必要。

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躙口、貴人口へ到る飛び石。貴人口といってもダミーで、奥には既存のガラスブロックがあり、その隙間を掛け雨戸の置き場とする予定。ちょっと如庵の雰囲気にも似て、早く障子(古建具を使う予定)を入れて様子を見てみたい。

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建築主さんがご用意された瓦を使って作った塵孔。小間の塵孔らしく丸くなるように、瓦の端と端をくっつけると、丸が大きくなりすぎるし、、、と思っていたところに、建築主さんが「ちょっとずらしたらどうですか」。いいアイディア。マツダのロータリーエンジンみたいで綺麗なかたちです。巴を覗き石に見立てて。こうしたやりとりが出来る現場は本当に楽しい。

石の据え付け

奈良のお茶室の現場。今日から造園屋さんが入って石の据え付けです。

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土壁も乾いて、良い色になりました。近づいて見てみると藁すさが柔らかくに見えるなんとも言えない仕上がり。さすがです。ちなみに塗っていただいた左官屋さんは、今度有名な建築家から依頼されて東京で有名人の居宅の壁を塗るのだとか。

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着いた時には、もう差石は据えられていました。これから躙口の踏石を据え。造園屋さんが用意してくださった石はちょっと大きめ。下に張った石で、躙口用にはちょっと多すぎる。建築主さんに確認していただいても、やっぱり大きいかも、とのこと。造園屋さんは持ってこられた石をお勧めしますが、2対1で変更に決定。水張口のものと入れ替えて、据え付け開始です。

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床からの高さ、と、壁からの距離、が難しい。建築主さんに実際に、入る動作、出る動作をしていただいて、確認。

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だいたい座ったところ。

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明日は蹲踞廻りや飛び石を据える予定。写真は腰掛待合の次客、三客用の延べ石。

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京都に戻るとちょうど夕暮れ。北大路駅から家に帰る途中、賀茂川の東岸からの眺め。綺麗なグラデーションと落葉したアキニレやケヤキのシルエット。

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色付いた葉がすっかり落ちてしまった桜の枝。

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今日はドイツのオケでティンパニを叩いている友達がうちに来る日だったのですが、家に着いたらちょうど帰ったところ、すれ違いでお逢いできず。いただいたお土産は、息子にロンドンバスと本場ドイツのバウムクーヘン(木のケーキ)。

左官終了

いよいよ今日で左官が終了。建築主さんがお休みだったので駅までお迎えに来ていただいて現場へ。

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ガレージの屋上では、左官屋さんが炉壇の上塗り中。現場での仕上げといったりきたり。

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現場では上塗りが終了していました。まだ水分を含んでいるので、だいぶ濃い色になっています。これから乾いて水が引いていくと、色も薄くなっていきます。

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腰掛待合の塗り立ての壁に、木々の影が映っていました。

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躙口付近。上塗りの前に竹の連子などを打ち付け。上塗りは竹の後ろなどが塗りにくい。

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躙口から覗いた床の間の様子。あとは乾いて障子が入った時にどうなるか。

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挟み鴨居と方立の角柄と連子の竹の納まり。方立の上に竹を乗せている例もいくつか見ますが、あんまり美しいとは思わないので、今回は連子の竹の間に、写真のようなバランスで方立と挟み鴨居が納まるように、割付けを決めました。仕上がりも図面通り。竹の釘は、角張った皆折釘(かいおれくぎ)を使うことが多いように思いますが、今回はあえて柔らかく女性的なイメージの巻頭釘を使用。

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全体のバランス。躙口の上の壁のバランスもよかったように思います。左側の下地窓は連子の竹とギリギリの寸法ですが、これは中の見え方のため。西日があたるこの下地窓は、茶道口から入ってくる亭主を味わい深く照らしてくれると思います。

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炉壇、いよいよなかの壁の上塗り。緊張感が漂います。

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茶道口に射し込む西日。

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炉壇は完成。扇風機と西日で乾燥中。

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点前座の入隅の壁に映る木漏れ日。やはり土壁に映る影は美しい。

建具の採寸

奈良のお茶室の建具の採寸。建具は、前の事務所の時からお世話になっている大津坂本の建具屋さんにお願いしています。大津から奈良へと向かうので、途中でひろっていただいて、一緒に現場へと向かいました。

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現場で採寸する建具屋さん。敷居から鴨居の内法や、柱から方立までの巾など、建具に必要な寸法を採寸していきます。茶室の場合は、下地窓にかかる障子や、掛雨戸など、採寸が特殊なものもありますので、現場で確認しながら進めていきます。今回現場で手間がかかったのが、掛雨戸。雨戸を掛けるための折れ釘を、下塗り後、上塗り前に大工さんに打ってもらわないといけないのですが、その位置を決めるためには、雨戸自体の大きさや、上桟の見附や見込みの寸法も決定しなければなりません。竹の連子の部分は竹を越えるように大きな折れ釘が必要ですし、壁が薄いので、釘の長さにも注意が必要。

大工さんの腕の善し悪しは建具屋さんがよく知っている、といわれますが、図面通り原寸通り、しかもビシッと綺麗に納まっている様子を見て、「上手やなあ」と感心していました。これで建具屋さんもいつもにも増して気合いをいれて仕事をしてくれると思います。古建具を改修して使ったりするので、一度工場にもお邪魔する予定です。

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釣り釜を自在で掛けたところ。

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ビシッと真ん中に納まっています。

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釜蛭釘付近。竿縁が干渉せず、きれいに納まりました。

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ずっと我慢していた、中板の養生をついに、取ってみました。古材がとりあう床柱付近は、新築とは思えないような雰囲気に仕上がっています。寸法も想定したとおり、思わずにんまりしてしまいます。

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中板の様子。表面の小さな傷も、昔から使われた茶室であるかのような雰囲気を醸し出すのに一役かってくれるように思います。建具屋さんが帰られたあとは、建築主さんと二人、久しぶりに現場でゆっくり、たくさんのお話をしました。庭について、お茶室について、茶事について、先生について、大工さんについて。寒い中、畳も敷いていない現場で、中板を挟んで二人とも正座して。気がつけば、あっという間に時間が過ぎていました。出来上がったあとも、きっとこうして楽しい時間が過ごせるお茶室になってくれると思います。なんだか出来上がってしまうのが、寂しい気もしますが、お茶室はこれから。たくさんの茶事を行い、たくさんの人と楽しんでいただければ、と思います。

キセノンライト

奈良のお茶室の現場監理。昨日から左官屋さんが入っているので、どうなっているか楽しみです。今日は朝から電気屋さんが、床の間に使うライトを事務所に持ってきてくださいました。

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キセノンライトはキセノンガスを封入した高効率ローボルトランプを直列に配列し、それらを硬質ガラス管で覆った長寿命、屋内用器具。茶室だからといって旧態依然とするのではなく、求める空間、雰囲気を作るために、最新の機器を導入するのも設計者の仕事。

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フィラメントで発光するので、色も自然な電球色、ライコンに安定器がいらず、ジーっという音もせず静か。

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ライトコントロールも付けて持ってきていただきました。無段階で調光できるので、お望みの雰囲気にすることができると思います。

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電車の中で仕事を進めて、現場に到着。写真は挟み敷居のスペーサー。

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下塗りが終わっています。竹の連子は、下塗りが乾いたあと,上塗りをするまえに打ち付けます。

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左官屋さん。今日は外腰掛待合の下塗り。下地窓まわりは手間がかかります。

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大工さんは炉壇の据え付け。向切で中板もあるので、炉壇は一旦落とし込んでから、手前にずらして、さらに中板の下に滑りこませなければなりません。炉壇は、上塗り前の状態。持ってかえって塗るか、現場で塗ってしまうかは、状況に応じて。

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腰掛待合の天井。以前ブログでも紹介した、建築主さんがお茶の先生から頂かれた竹の網代。二枚必要だったので、中央で継いで、押さえをいれてもよいですよ、としていたのですが、さすが数寄屋大工。三枚持ち帰って、一枚をばらし、その材料を使って、二枚を一枚に見事に継ぎ合わせています。色目があわないかなあと思っていたのですが、見事に揃っています。すごい。

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下塗りをする左官屋さん。今回の現場は設計者も大工も左官もみな三十代半ばで同世代。大工さんも左官屋さんも茶室の仕事に慣れていて、教えていただくことも多いですし、安心して現場をお願いできます。こうした人材がいるのも、さすが京都です。

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隅丸用のコテ。今回は床の間の中や、点前座の角を塗り廻しにしています。

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下地窓越しに茶席を見る。

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同じく下地窓越しに床の間を見る。

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キセノンボーライトを点けてみたところ。全開にすると少し白っぽく見える。

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少し絞ると黄色味を帯びてくる。いろいろと調整してみて感じたことは、全く点けない状態よりも、ほんの少しだけ電気を点けることで、かえって薄暗さを演出できるのではないか、ということ。実際に壁が塗られて、障子が入った状態で点けてみるのが楽しみです。茶事では、初座が陰で、後座は陽。天候や時間にもよりますが、無段階の調光器で、その時に応じた亭主が求める雰囲気を演出できるのでは、と思います。

下地窓

お茶室の現場監理。大工さん曰く「やっぱりお茶室は手を抜くところがないですねえ(笑)」ということで、当初の予定より少し工期が延びています。

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現場に到着すると、ちょうど躙口や連子窓の鴨居を取付けるところでした。

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連子窓の鴨居の角柄は、外は縦勝ち、内は横勝ち。鴨居のすぐ上には貫板が通るので、写真のようなかたちになっています。

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火灯口の茶道口の下地が出来ています。

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煤竹の方立を取付けて、、、

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下地窓を取付けます。下地窓廻りの敷居、鴨居、方立は原寸を描いていますし、下地窓自体も原寸を描いて作ってもらっているので、現場でピタリと合いました。

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下地窓に射し込む陽射し。障子に映る陰影が楽しみです。

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大工さんの仕事も、あと一息です。

壁のサンプルと茶室の天井

茶室の工事が大詰めなので、東京出張から早朝に帰ってきてから、少しだけ寝て、今度は奈良へ。

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今日は左官屋さんがサンプルを持ってきてくださいました。床の間に置いて様子を見ます。

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同じサンプルを外壁のところにも置いてみます。光に当たり具合で、色見も随分と変わって見えます。左下のものは、左官屋さんが表千家御家元の増築で使ったものと同じ土で作ったもの、大きめの藁を入れ、最後に薄く細かい土でコーティングしてある、味わい深い荒壁風。右はその土に灰を入れたもの、上は灰と墨を入れたもの。

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東京出張中に、大工さんが休日返上で天井を仕上げてくれました。躙口や連子窓のつく壁は、作業の都合で最後に仕上げるので、普段ならみられないアングル。

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釜蛭釘も取付けられています。天井裏はこんな感じ。既存の天井をつっていたボルトをうまく利用しています。

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釜蛭釘。竿縁の女竹と干渉してくるかが問題でしたが、向切りで、釘の先で右を向いたので、うまくいけそうです。自在をかける時に、すこしだけ注意が必要。建築主さんの御主人がこの釘をみて「サザエのワタみたいやなあ」とおっしゃったとか。蛭釘という名前を聞くと蛭を思い浮かべますが、そういわれてみれば似ているかも。

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へぎ板の平天井と小舞と北山小丸太の化粧軒裏。こちらも普段なら見られないアングル。

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天井板はへぎ板、竿縁は女竹吹き寄せ。やはりこうした味わいは、割って、引き裂いて作られたへぎ板だからこそ。職人さんがいなくなってきていると聞きますが、いつまで使えるでしょうか。

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茶道口から床の間を見たところ。

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古材の相手柱と煤竹の廻縁、杉の廻縁の取り合い。

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床の間天井の花蛭釘。本を見ると床の中心を向く、という記述をよく見かけますが、実際の茶室を見ると外側を向いているのが多いですよね、と建築主さんと意見があったので、今回は外向き。

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床の間の無双釘。表千家は「浮」タイプ。ちなみに裏千家は「沈」タイプ。

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竿縁の女竹は巻頭釘で留めます。

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煤竹の竿縁は、ちょうどよい節の間隔でした。煤竹は向きによってその表情が随分と変わりますが、今回は私が出張中だったので、大工さんが建築主さんと相談して決めてくれました。

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角柄は「見附の裏目だけ延ばす」というのが現代の数寄屋大工さんに伝わるセオリーのようですが、古い茶室をみると必ずしもそうはなっていません。待庵は異例中の異例かもしれませんが、連子窓の室内側は、ほとんど延びていませんし、外部側も見附分ほどしか延びていません。とりあえず現場では、裏目分延ばしていただいたのですが、綺麗すぎるというか、格好良すぎる、といった感じ。色々と悩んだのですが、今回は古材を使った古風な茶室、ということで、短くてもらいました。「短いものを延ばすことは出来ませんが、長いものを切るのは出来ます。」と、写真は大工さんが切っているところ。

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現場監理は、いつも大体昼過ぎから三時の休憩後しばらくまでいるのですが、ちょうど三時頃からの陽射しは、庭木のボウガシの葉っぱの隙間から漏れ、ピンホールカメラの原理で、丸い水玉模様を壁に映し出します。雲の具合や、葉っぱを揺らす風の具合によってその表情は刻々と変化し、見ていて飽きません。茶室が出来上がったら、ちょうど連子窓の障子に映り込む予定。楽しみです。考えてみると、茶室に入ると、障子越し、下地窓越しの光は刻々と変化し、釜の松風の音以外には、風の音、葉ずれの音だけが普段よりより敏感に聞こえます。茶室は「自然をより敏感に感じる為の装置」とも言えるかもしれません。

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ボウガシの様子。西向きの茶室もいいものです。スカイハウスを設計するにあったって、「西日を美しく入る建築をデザインしなさい」と言った菊竹清訓の言葉を思い出します。

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向切の炉のあたりに集中する光の束。

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へぎ板の重ねは八分。南北方向を十六枚で割付けしています。

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天井裏の様子。

水屋の棚

奈良のお茶室の現場監理。大工さんの作業も終盤にかかりはじめています。

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大工さんにベニアをあてがっていただいて、茶道口の大きさ、かたちを決めていきます。

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実際に建築主さんに立っていただいて、火灯口のかたちをベニアに書いていきます。一応、建築主さん(亭主)の雰囲気も感じながら、かたちを決めていくのは、茶室は、いわばオートクチュール。現場でこうした曲線を決めるのは、茶室建築設計の楽しみのひとつです。

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古材を使った床の間。床柱の節もよい感じです。今は大工さんの道具置き場になっています。

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外壁の下地のボードを貼っています。本来、壁の下地は竹小舞にしたいところですが、どうしても手間がかかる分、高額になってしまいます。全体の予算もありますし、止む終えないところだと思います。例えば、外腰掛待合いをベンチなどで代用して、壁を竹小舞下地にする、という選択肢もあったかもしれませんが、やはり茶事全体を想定すると、竹小舞下地に固執することは、今回は得策ではなかったと思います。限られた予算のなかで、最善のものができるように仕上げや仕様を決めて予算配分をするのも設計者の重要な仕事だと思います。

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水屋の様子。今日は写真右手にある、物入れの中の棚の高さを決めました。建築主さんに箱炭斗やこげ縁(炉縁と炉壇を覆う木製の枠)、銅鑼や花台を持ってきていただいて、どこに何を置くかを決めて、棚の奥行きと高さを決めます。資料を見れば雛形がのっていますが、やっぱりそれぞれの道具の大きさがあったり、使い勝手がありますので、こうして現場で現物を見ながら決めるのが一番です。

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水屋の棚。上の通し棚は、奥行き一尺(30センチ)で板、下の通し棚は、奥行き八寸(24センチ)で竹を入れた簀子棚。ここまで大きな問題もなく順調に工事が進んできたのですが、実は水屋の棚では少し困ったことがおきていました。当初図面では、二段の通し棚は両方とも板としていました。裏千家では水屋の棚でかならず簀子にしなければならない、という話はあまり聞かないように思いますし、水屋の詳細については、ある程度工事が進んでからと思っていました。ある時、お施主さんと大工さんと私で立ち話をしている時に、「水屋の棚、ひとつは竹を入れて簀子にしてください」とおっしゃられました。ここでおそらく「下の段を」とおっしゃられていたと思うのですが、そこがちゃんと伝わらず、大工さんが作ってきてくださったものは、下の段八寸のものが板、上の段一尺のものが簀子になっていました。表千家では、下の段には水に濡らして使うもの、上の段には水に濡らさないもの、という使い分けがありますので、簀子棚と板棚を逆にするわけにはいきません。私の不勉強でご迷惑をお掛けして大変心苦しかったのですが、大工さんに作り直しをお願いしました。

今回改めて感じたのは、流派によって色々だなあ、ということ。その後調べてみると、表千家では、簀子棚に茶碗を伏せておくこともある、とのこと。そうして乾燥させるので、そのための簀子棚なのですが、しかし裏千家の本によれば、茶碗は口造りの薄いものもあるので、伏せておくことはおすすめできません、としています。写真では悪い例として伏せた茶碗が載っています。いっぽう、表千家では茶碗は高台が重要ということで、簀子棚に伏せておくようです。

もうひとつは、お施主さんが大工さんに希望をお伝えする事の難しさ、です。そのために設計者がいて、今回はその怠慢によってこうした失敗がおきたわけですが、やはりきちんと図面化すべきだったと反省しています。今回は1/20の図面で詳細な寸法を書き込んでいましたので、お茶室に慣れている大工さんならば、原寸を書かなくても問題はなかったと思います。それでも何か変更があれば、念のため、改めて原寸図などを作成するべきだったと思います。

ただ、転んでもただじゃ起き上がらない。大工さんから、前回作った棚は少したわみがきつかったので、框の見附、一分大きくしましょうか、と提案がありました。資料を見ると、框の見附は七分のものがあったり、八分五厘のものがあったり、長さによりますが、色々。せっかく作り直すので、框の成(見附)を七分から八分へ変更しました。出来上がりを見てみると、絶妙な寸法でした。いやな顔ひとつせず作り直してくれた大工さんに、本当に感謝です。

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水屋の右に(座敷に近いほうに)二重釣棚。赤杉の九寸角。下の棚には灰匙と灰器、もともと香合を置く場所はありませんが、棚が空いているときは香合をおく事もあるそうです。上の棚は本来何もおかないところですが、使わない時に水次薬缶をおいておくこともあるとか。二つの棚の間は一尺。竹は四分φ。板は、はしばみに加工、そのままのばして木口をみせる方法もあるようですが、ここでは留めにして納めています。写真ではまだ施工していませんが、竹と棚は巻頭釘(一寸)で固定。竹の下端は節で切って、角柄は九分にしています。

お茶室の電気設備

奈良のお茶室の現場監理。今日は午後から電気屋さんに来ていただきました。前の事務所の時からお世話になっている電気屋さんです。

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天井裏にエアコンの冷媒管を通していただいています。本来茶室にはエアコンなどは付けないものなのでしょうけど、それでも現代の状況を考えたら、また茶事はお客様をもてなす事という意味を考えたら、エアコンなしというわけにはいけません。近現代のお茶室には、下地窓や筬欄間のような吹き出しを工夫して直接茶室内に吹き出す例もありますが、今回は予算もないということで、水屋に一般的な壁掛けエアコンを設置して、茶席内には、目立たないところに換気扇を設置し、冷気あるいは暖気を取り込もうという作戦。水屋と茶室あわせて四畳半くらいの大きさですし、天井高を低く容積も少ないので、六帖用で充分に効くはずです。室外機は静寂な茶室からは出来るだけ遠ざけて設置。室内機も鉄筋コンクリート造の躯体に設置したほうがよいかと思いましたが、室内機はファンが廻る程度で最近のものは静かなので大丈夫でしょう、ということで、木下地に設置。

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今回のお茶室は鉄筋コンクリート造の住宅の外部に増築という形で、外部コンセントがあったものの、容量が少ないので、分電盤から新たに分岐。壁厚18センチのコンクリート壁を貫通して新たに引込み。床の間用の照明器具など配線工事を行います。床の間の照明は、当初シームレスラインを選んでおいたのですが、電気屋さんからリネストラランプはいかがですか。とのこと。電気屋さんはつい先日まで、大徳寺・聚光院の工事に携わっていて、そこでも、床の間や床脇の照明には苦労されたとのこと。リネストラランプは直管型白熱灯。蛍光灯のような形ですが、白熱灯の一種で調光が可能。帯状の光で、わざとらしくなく、お軸やお花を照らします。床の間は茶室で重要な場所でありながら、無粋に蛍光灯で皓々と照らされているのは、非常に残念です。今回は茶室の様子を伺いながら調光もできるように、茶道口水屋側の天井にライコンのスイッチを設置。天井が低いので、十分に手が届きますし、なおかつお客様から見えないというのも重要。、また床の間の天井高さと茶席の天井高さの差を利用して見えないように換気扇を設置、夏場には籠った熱気を排気します。できるだけ換気扇の音がしないように中間ダクトファンを使用し、本体を鉄筋コンクリートの躯体に設置します。

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古材の中板が設置されています。養生をとって見てみたいところですが、我慢、我慢。設置されたところをご覧になったお施主さんにお聞きしたところ、よかったですよ、とのこと。楽しみです。

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家具用コンセント(右)と敷居用コンセント(左)。今回茶室内には床の間の照明以外、照明は付けない予定。どうしても暗い場合は電気の行灯を使う予定なのですが、問題はコンセント。普通に壁に付けたら、行灯を使っていない時は特に無粋ですので、今回は向切の炉の脇の床下に、家具用コンセントを設置。畳寄せにコードが通る分だけの穴を切り欠いて、コンセント接続部は見えないようにします。敷居用コンセントは水屋の電気ポット用。こちらは水屋ですので壁につけてもよいのですが、茶室との間仕切り壁で壁厚が薄く、ボックスが納まらないので、床に設置します。

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水屋の簀子棚。表千家では水屋に二段の棚がつけられて、下の段は竹の入った簀子棚で、水に濡らして使う道具類を置きます。上の棚は通し棚と言い、水に濡らさない道具を置く、という使い分けがされています。

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古建具屋さんで購入した腰付紙張障子。高さ五尺四寸で、もともと四畳半のお茶室で使われていたものです。

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提出した図面を元に製作していただいた下地窓。一週間ほどで完成しました。

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茶室内部に差し込む西日。茶室が出来上がれば、こうした陽射しが連子の障子に影を落とします。

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腰掛を製作中。束には茶室の壁留めに使ったナグリの端材を使っています。侘び茶の茶室では本来、贅沢な材料は使わず、ありあわせの材を上手に使って建てるもの、とされます。こうして、なにげないところに、それとわかる端材を利用することで、そうした亭主の気持ちをさりげなく表現してくれると思います。

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普段は一人で仕事をされている大工さんですが、職業訓練校から弟子希望の若者が来ています。希望者三人が四日ずつ現場に来る予定。教えながら仕事を進めるのは大変ですが、後進を育てるのも重要な仕事。

銘竹と板金

奈良のお茶室の現場監理に行く前に、銘竹屋さんへよって、使う竹の最終確認。

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水屋の通し棚、板を三枚にして、その間に竹をいれます。候補になるのは、女竹と寒竹。写真は女竹。節がつるっとしていて表情が柔らかなので、白竹が男竹で、こちらは女竹。写真で一本だけ少し茶色をしているものがありますが、こちらは実は葦。節の形状はそっくりです。

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こちらは寒竹。晩秋から冬にかけてタケノコがでるので寒竹。タケノコは美味しいらしい。元末がきついので、二本で使ったほうが良さそう。竹屋さんいわく、こちらのほうが上等。女竹の三倍します。といっても一本150円に対して450円ですが。今回のイメージとしては女竹かなと思いっています。

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下地窓の図面を持参して、製作をお願いしました。下地窓は、もともと壁の下地を塗り残したもの。もともとの壁下地は小舞(こまい)と呼ばれる竹と、壁下地の骨ともいえる間渡竹(まわたしだけ/えつり竹とも)という2種類の竹で出来ています。間渡竹のピッチは七寸五分から一尺前後、小舞は一寸から一寸五分、間渡竹に小舞竹を縄などで固定します。茶室に使われる下地窓は葦などで代用してそれらを意匠化したものですが、その由来を少し残し、藤蔓が巻かれる葦は少し太めにし(平竹を使うこともあります)、壁面において間渡竹が入る位置に想定して七寸五分から一尺ピッチにして、升目も一寸から一寸五分にしたほうがよいように思います。また葦をランダムに二〜五本と並べて景色としますが、こちらは少し細めのもので(細かったらから束ねたという趣向)、かたよりは現場で廻りの状況に合わせて考えた方がよいよう思います。

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現場に用意された水屋の棚。こちらは竹の入らないもの。巾八寸。

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裏返したところ.四分角の部材が一尺一寸ピッチで入れられています。

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框は五分×七分。板は厚さ三分。

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今日は板金屋さんが来ています。庇のガルバリウムと水屋の舟を一日でやってしまおうという作戦か、四人体制です。

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大工さんが見当たらないなあと思ったら、こんなところにいました。身長180センチの大柄な大工さんですが、細身なので大丈夫。

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この庇の上に大工さんがいます。庇の板金の立ち上がりの施工中。

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水屋には製作された舟がおかれています。銅で作られることが多いと思いますが、今回はステンレス。

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二階ベランダからの眺め。

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谷の部分は小さめに。

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水屋の腰板。一枚の板でいけたので、杢目が通って美しい。

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大工さんは壁の下地にかかっています。だいぶかたちが見えてきます。無双釘の位置も確認して、補強をいれておいてもらいました。
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岩崎建築研究室
岩崎 泰

住宅,茶室,店舗の設計等について
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