山崎直子さん(39)は平成12年、国際宇宙ステーション(ISS)の管制員を目指していた夫の大地(たいち)さん(37)と結婚。2年後に長女の優希ちゃん(7)を出産し、ママさん飛行士の暮らしが始まった。

  [イラスト]化粧は?トイレは? 女性飛行士と宇宙生活とは…

 「仕事と子育てを両立させたい」。出産前、こう語っていたが、現実は厳しかった。米スペースシャトル「コロンビア」の事故で搭乗機会が遠のき、海外で長期訓練を続ける日々。子育ての多くを夫に頼るしかなかった。

 シャトルの搭乗資格を得るため、米国で約2年間の訓練に入るときだった。大地さんは勤め先を辞め、「専業主夫」になることを決意。管制員の夢をいったんあきらめ、妻を支えようと一緒に渡米した。この決断が夫婦の間に思わぬ亀裂をもたらす。

 「ボートに住みたい。夫に生きがいを見つけてもらい、希望を持って生きてほしいのです」。16年、山崎さんは宇宙航空研究開発機構(JAXA)に、とっぴな電話を入れた。

 大地さんは渡米後、就労資格を得られず、管制員への夢を再開できずにいた。目標に向かって前進する妻と、絶望に沈む夫。山崎さんは、寝室付きのハウスボートで米国流に暮らすことにあこがれていた大地さんの思いを、せめてかなえようと許可を申し出たのだ。

 電話を受けた訓練担当の山口孝夫さん(52)は「『自分のために夫が夢を失い申し訳ない』と言っていた。妻、母、飛行士と多くのものを1人で背負い、悩んでいた」と明かす。

 山口さんの脳裏をよぎったのは万一の事故だ。訓練はT38ジェット練習機を操縦する危険で重要な段階を迎えていた。家庭のことで集中力が途切れると、命を失いかねない。

 訓練の中止は「脱落」を意味する。だが、思い切って言った。

 「きつかったら訓練をやめなさい」

 「できます」

 山崎さんの集中力が乱れることは一度もなかった。

 大地さんの帰国後、母子生活が始まった。山崎さんは未明に起きて仕事を片付けた後、優希ちゃんを保育園に送って訓練に向かう。「家庭と訓練の優先度をその都度考えるのにすごく苦労した」と打ち明ける。

 山口さんは「どんなに大変でもつぶれなかったのは、宇宙に行きたいという強い意志と、情熱があったから」と話す。

 夫婦は19年に一時、離婚調停を進めていた。

 「訓練優先で家族に我慢を強いたところがあった。主人には感謝している」「妻も私に最大限協力すると約束してくれた。もう一度、信じてみようと思った」

 ほどけかけた家族の絆(きずな)は、再び固く結ばれた。

 実は2人はまだ結婚式を挙げていない。「初飛行の後で」という山崎さんの意向からだ。「帰還して一番早くできる場所は滑走路。そこに赤じゅうたんを敷いて挙式できれば最高ですけどね」と大地さんは笑う。

 互いに宇宙を目指したからこそ引かれ合い、苦しみ、すべてを乗り越えてきた10年間。“宇宙夫婦”が新たな門出を迎える。

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