2016年09月25日

ニボルマブ単剤の初回治療のデータ

Nivolumab Monotherapy for First-Line Treatment of Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer.

Gettinger S et al.
J Clin Oncol. 2016 Sep 1;34(25):2980-7.
PMID: 27354485

Abs of abs.
PD-1抗体であるニボルマブは既治療の非小細胞肺癌に対してドセタキセルを上回る生存延長を示した。今回は初回治療としてのニボルマブ単剤治療をCheckmate012試験として第Ⅰ相試験を行った。52人がニボルマブ3mg/Kgを2週毎に病勢進行あるいは毒性に耐えられれなくなるまで投与した。病勢進行後の後治療はプロトコールごとで許容されている。一次目的は安全性、副次項目として奏効率、24週経過時の無増悪生存割合であった。全生存期間は探索的項目と設定された。治療関連有害事象について、すべてのグレードでは71%に起こっていた。よく見られたものとして倦怠感(29%)、皮疹(19%)、悪心(14%)、下痢(12%)、皮膚掻痒感(12%)、関節痛(10%)であった。10人(19%)の患者に、グレード3,4の毒性が報告され、グレード3の皮疹は2人(4%)に発症し、6人(12%)が治療関連の有害事象のため治療を中止した。奏効率は23%(12/52)うち4人が現在も完全奏効を持続中である。奏効の内75%(9/12)は初回評価時(11週)で効果が認められ、8例(67%)は現在も効果が持続(5.3-25.8ヶ月)している。何らかのPD-L1発現が認められた例では、28%(9/32)の奏効率で、発現のない例では14%(2/14)であった。無増悪生存期間中央値は3.6か月で、24週経過時の無増悪生存割合は、41%[27-54]であった。生存期間中央値は19.4ヶ月で、1年生存率は73%、18か月生存率は57%であった。本試験から初回治療のニボルマブ単剤は毒性は許容され長い奏効期間があることが示された。

感想
ニボルマブ単剤の初回治療のデータです。このデータを云々する前に、まず既治療例のデータをおさらいします。ドセタキセルを対照とした非小細胞非扁平上皮癌の試験(Checkmate057)と、扁平上皮癌の試験(Checkmate017)がありました。それぞれニボルマブの奏効率は19%、20%で、長期に奏効する(Durable response)が特徴的でした。今回は初回治療かつ単アームの第Ⅰ相試験ですが、スパイダープロットを見る限り傾向は同じです。また全体の奏効率は23%で、二次治療のそれと大差がありません。これは従来の抗がん剤ではなかったことです。要するに「効く人は効くが、そうでない人は全く効かない」し、最初なら効きやすいあるいは、抗がん剤でいろいろ変化を起こした方が効きやすいということもない、つまり抗がん剤治療によって効く効かないが変わらないかもしれないことも重要だと思います。各所で言われている通り、免疫療法に関してはTKIを含めた従来の抗がん剤の考え方ではもはや通用しないということになります。このような薬に全体としてのPFSはさほど意味を持たないように思いますし、また全体のOSも同じで、どれくらい効く人が入っているかによってかなり左右されると思います。これだけであれば、初回治療でとりあえず試してみるという方法もあります。しかしそんなに簡単ではありません。残念ながら効果のなかった人について免疫療法が「水と同じ」ならまだ良いのですが、免疫状態の変化が残存しどのように後治療に影響かまだ不明です。PD-1抗体の後のTKI投与の肺毒性が懸念されていますが、内分泌機能低下をいつまで気にしたらよいのか、自己免疫疾患の発症割合はどうなのかなど、実地臨床でのデータ収集でしか明らかにできない課題が山積しています。結局、PD-1抗体を最適使用するためには、PD-1抗体の効果予測因子あるいはPD-1抗体の後の治療毒性と期間、リスクファクターを明らかにする、のどちらかが達成される必要があります。この号のエディトリアルでは、ニボルマブの奏効率が低いのでプラチナ2剤に勝つためにはPD-L1発現で対象を絞り込む工夫が必要と書いています。PD-L1発現である程度絞ることは可能でしょうが、小さい気管支鏡検体あるいは細胞診がまだ多い日本では非現実的であると思います。仮にもう少し良いマーカーが見つかったとして、その集団に対するプラチナ2剤とのランダム化第Ⅲ相比較試験は必要でしょうか?抗がん剤の開発、発売が最近加速しています。私は第Ⅲ相試験で証明されないと使えない薬もありますが、特に分子標的治療は安全性が担保され、ターゲットとマーカーの関係が少数例で明らかに証明できれば十分ではないかと思います。


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2016年09月18日

EGFR-TKI治療後に可溶性PD-1が高くなると予後が延長

Increase in soluble PD-1 is associated with prolonged survival in patients with advanced EGFR-mutated non-small cell lung cancer treated with erlotinib.

Sorensen SF et al.
Lung Cancer. 2016 Oct;100:77-84. 
PMID:27597284

Abs of abs.
PD-1/PD-L1経路による免疫回避機構は、非小細胞肺癌において重要な役割を果たしている。可溶性PD-1(sPD-1)は血液で同定でき、前臨床段階ではsPD-1はPD-1/PD-L1相互作用を阻害し、抗腫瘍免疫を向上させるという結果が出ている。この研究は、EGFR遺伝子変異陽性例に対するエルロチニブ治療前と進行後にsPD-1濃度を比較し、アウトカムにどのように関連しているかを見る試験である。患者はエルロチニブ治療を行った38人の患者でEGFR遺伝子変異を持っているものである。血中のsPD-1測定はサンドイッチELISA法で行い、EGFR遺伝子変異の状態は循環癌細胞DNA(ctDNA)または生検によって行った。エルロチニブ治療前にsPD-1は21%に見つかった。病勢進行時には37%(P=0.015)になっていた。エルロチニブによる治療後、34%でsPD-1が増加し、8%が低下、58%が不変であった。治療中のsPD-1の増加は、無増悪生存期間の延長(調整ハザード比0.32, P=0.013)と全生存期間の延長(ハザード比0.33, P=0.006)と関係していた。これとctDNAでのT790Mの出現との関係は見られなかった。今回の結果からエルロチニブ治療中のsPD-1の増加は良好なアウトカムと相関し、PD-1/PD-L1系路が広く影響を及ぼしていることがうかがい知れる。また前臨床であるとされるsPD-1の生物学的活性が、生体内でもあると支持するデータである。

感想
PD-1抗体と薬剤耐性を含めたEGFR遺伝子変異との関係は非常に興味を持たれています。PD-L1発現が上がることによりEGFR-TKI耐性が起こっているのであれば、PD-1抗体を投与するというのは非常に理にかなった話です。本論文も含めEGFR-TKI投与によりある程度PD-L1発現が上がることは間違いないように見えるのですが、それがニボルマブを初めとする免疫治療に直結するわけではないことがポイントです。ゲフィチニブ投与前後で生検によるPD-L1発現を調べた研究[Han JJ ClinLungCancer2016 PMID:26707383]では、ゲフィチニブ投与後38.9%にPD-L1増加が見られていました。ゲフィチニブでPDになった後、PD-L1発現が増加したグループと、最初も後も変化のなかったグループとを比較したデータもあります。それによるとPFSは差がなかったものの、PD-L1増加が見られた方が予後が良い傾向が見られたとしています。導入部分での解説では、この可溶性PD-L1は、PD-L1Δex3の翻訳物質で、膜貫通部分のないものとされています。この物質は健常人、自己免疫疾患で増加しているとのことです。そしてその役割は、PD-1とPD-L1の結合を阻害し、T細胞能機能と増殖を正常に戻す働きをしていると考えられているようです。今回の論文でも、組織でのPD-L1発現と同様に、エルロチニブ治療後のsPD-1が上がるほど予後が良好でした。そしてこれはT790Mの発現とあまり関係がみられませんでした。腫瘍細胞におけるPD-L1がsPD-1によって阻害され、T細胞側のPD-1が不活性なままでいれば腫瘍免疫は保たれるというのが想定される機序になります。これは私見ですが、仮にそうだとすると腫瘍のPD-L1は自己のsPD-1ですでに十分に阻害されているということになり、新たにニボルマブを入れてもあまり効果がないと思われます。今後組織でのPD-L1発現、sPD-1濃度、ドライバー変異との関係、免疫チェックポイント阻害薬の効果との関係が解析されると思います。ニボルマブの後のTKIは肺毒性が強いようですので、使いにくい状況です。その結果によって今後のEGFR遺伝子変異陽性例に対する免疫療法の位置づけを考えることができるかもしれません。


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2016年09月11日

EGFR-TKIの皮疹予防は可能だが、下痢と口内炎は予防困難

A phase II study (ARCHER 1042) to evaluate prophylactic treatment of dacomitinib-induced dermatologic and gastrointestinal adverse events in advanced non-small-cell lung cancer.

Lacouture ME et al.
Ann Oncol. 2016 Sep;27(9):1712-8.
PMID: 27287210

Abs of abs.
ARCHER1042試験は、進行非小細胞肺癌に対するランダム化第Ⅱ相試験で、ダコミチニブによる皮膚障害(SDAEI)、下痢、口腔粘膜炎についての予防治療を探索する試験である。ダコミチニブで治療した非小細胞肺癌を2つのコホートに登録した。コホート1は患者を1:1に割り付け、経口ドキシサイクリンかプラセボを4週間服用した。コホート2は経口VSL#3プロバイオティックに局所のアルクロメタゾン投与を行った。コホート1,2でのプライマリーエンドポイントは、開始8週以内のすべてのグレードのSDAEIとグレード2以上のSDAEIの発生頻度、そしてSkindex-16で評価したQOLである。さらにその他のプライマリーエンドポイントとして、コホート2では治療開始8週以内の下痢と口腔粘膜炎についても調査した。これらはmodified-Oral Mucositis Daily Questionnaireを使って評価された。
コホート1では114人がランダム化され、56人のドキシサイクリン群と58人のプラセボ群に割り付けられた。コホート2は59人が評価可能であった。ドキシサイクリンはプラセボに比較してグレード2以上のSDAEIを50%減少させた(P=0.016)。すべてのグレードのSDAEIはドキシサイクリン群で低かったが、統計学的有意差には届かなかった。またドキシサイクリン投与はQOLの低下が少ないことと関連した。アルクロメタゾンはQOL低下抑制と関連したが、グレード2以上のSDAEIの頻度を統計学的に有意に低下させなかった。VSL#3はすべてまたはグレード2以上の下痢の低下にはつながらず、口腔粘膜炎にも影響を与えなかった。本研究よりダコミチニブによるグレード2以上のSDAEIにドキシサイクリンは予防効果が認められた。ドキシサイクリンとアルクロメタゾンは患者申告の皮膚関連の有害事象の減少に関連したが、プロバイオティックは下痢、口腔粘膜炎予防には効果が見られなかった。

感想
第二世代EGFR-TKIで日本で発売されていないものにダコミチニブがあります。これはアファチニブと同列に位置し不可逆的にEGFRと結合し、広範囲にHERファミリーを阻害します。EGFR遺伝子変異陽性例に対しては、アファチニブにかなり遅れを取っており、初回治療におけるダコミチニブ対ゲフィチニブの第三相試験(ARCHER-1050)の結果が待たれます。これまでの研究からのエルロチニブ対照のpooled analysis[Ramalingam SS AnnOncol2016
PMID:26768165]からはPFS14.6ヶ月、OS26.6ヶ月とかなりの成績が期待されます。しかし問題は毒性でアファチニブ同様下痢と口腔粘膜炎がひどいようです。アファチニブの下痢はロペラミドを使用することでかなり抑えられますが、その使い方は施設によりかなりばらつきがあるようです。一方皮疹対策も、さまざまであり予防的にミノサイクリンや保湿剤を使用する施設と、出てから使用する施設と差があるようです。今回は以前ご紹介したPan Canadian Rash Trialの結果[Melosky B JCO2015 PMID:26573073]とよく似た結果となりました。つまり予防策をしても全体として皮疹の頻度は減らないが、重症化は防げるということです。
小分子化合物による分子標的治療は肺癌以外も含め年々数が増えており、特に皮疹、手足症候群、間質性肺炎の対応が重要になってきています。今まで他の癌を持っている方で、相談を受けるのは転移性肺癌鑑別くらいでしたが、間質性肺炎も散見されるようになっています。皮疹のマネジメントも私たちにはゲフィチニブの経験があり、管理方法はしっかり身に付ける必要があります。今回使われたアルクロメタゾンは日本では含有量が異なるものの商品名「アルメタ」で、ミディアム(4群)に位置付けられ、同等薬にロコイド、キンダーベートがあります。外用ステロイドの細かい使い分けは専門家の仕事ですが、爪囲炎含めステロイド外用剤をしっかり使うことだと思います。下痢に関して、今回プロバイオティック製剤では抑えられませんでしたが、このVSL#3はかなりメジャーなもののようで、アメリカのアマゾンのウエブサイトに紹介があります。日本ではロペラミドを予防的に投与する施設もあるかと思います。私の経験では下痢が出そう、あるいは出た場合に、患者さん自身が自己調整できるケースが多いので、予防ではなく出てからの対処でよいと思っています。



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