2016年05月29日

ニンテダニブの小細胞肺癌に対する効果

A phase II study of nintedanib in patients with relapsed small cell lung cancer.

Han JY et al.
Lung Cancer. 2016 Jun;96:108-12.
PMID: 27133759

Abs of abs.
ニンテダニブは3系統に及ぶ経口血管キナーゼ阻害薬である。本試験は再発あるいは治療抵抗性の小細胞肺癌患者に対するニンテダニブの効果と安全性を評価するために行った。対象はPS0-2で1つまたは2つの化学療法で進行が見られた患者である。患者はニンテダニブ200㎎を1日2回投与を4週間受け、病勢進行あるいは毒性に耐えられなくなるまで継続された。プライマリーエンドポイントは奏効率である。2段階デザインを採用し、第2段階に進めるためには22人中2人以上のレスポンスを必要とした。2011-2014年までに24人を登録し22人が治療され評価可能となった。フォローアップ中央値は9.7ヶ月、年齢中央値は64歳であり22人が男性であった。6人がsensitive relapseで、8人の前治療が1レジメンであった。中央値で1サイクル[1-5]が投与され、一人がPRとなり、7人がSDであった。奏効率は5%[0.1-22.8]であり、無増悪生存期間は1.0ヶ月であった。全生存期間は9.8ヶ月であったが、第2段階へ進むための基準をみたさなかった。主な毒性は肝酵素上昇(86%)、貧血(73%)、食欲不振(59%)、悪心(50%)であった。ほとんどの毒性は軽微でコントロール可能であった。グレード3の肝酵素上昇は5人(23%)に発生した。本研究からニンテダニブは再発または治療抵抗性小細胞肺癌に対し、毒性はコントロール可能であったがごく限られた効果しか示さなかった。

感想
ニンテタニブは特発性肺線維症の薬として国内承認されており、その用量は150㎎を1日2回です。元となったのはINPULSIS試験[Richeldi L NEJM2014 PMID:24836310]で、IPF患者にニンテダニブを服用してもらうことで肺活量の低下を抑え、急性増悪の頻度も抑制したというものです。さらにニンテタニブはチロシンキナーゼ阻害薬ですので、肺癌での臨床試験が行われています。非小細胞肺癌再治療におけるドセタキセル+ニンテダニブ(200㎎1日2回)対ドセタキセル+プラセボ[Reck M LancetOncol2014 PMID:24411639]は、LUME-Lung1試験として知られ、その結果は無増悪生存期間が3.4ヶ月対2.7ヶ月、ハザード比0.79 [95% CI 0.68-0.92], p=0.0019でした。特に腺癌でのサブグループ解析では、全生存期間が12.6ヶ月対10.3ヶ月でハザード比0.83[0.70-0.99], p=0.0359といった結果で、ニンテダニブの上乗せにより生存延長効果が示唆されるものでした。ニンテダニブは現在国内で特発性肺線維症にしか保険適応がありません。当然間質性肺炎合併肺癌治療に使ったらよいのではないかという発想は出てきます。間質性肺炎合併の小細胞肺癌にはしばしば遭遇します。これらの問題点は薬剤性肺炎あるいは自然増悪による急性増悪ですが、初回治療はプラチナ+エトポシドでおおむね共通しているようです。しかし小細胞癌は再発することが多く、2次治療に困ってしまいます。sensitive relapseであれば再度同じ薬剤投与でも良いのでしょうが、そうでない場合、添付文書上の間質性肺炎に禁忌のアムルビシン、イリノテカンを除くと選択肢はノギテカン(トポテカン)しかありません。これはあまり馴染みのない薬で、しかも効果はアムルビシンほどの切れはなく困ってしまうところです。今回の結果は良い結果ではありませんが、間質性肺炎合併小細胞癌で仮に使う薬が無い場合、ニンテダニブを使うというのも今後選択肢になってくるかもしれません。

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2016年05月22日

全脳照射を加えることでゲフィチニブの脳移行性は上昇する

Blood-brain barrier permeability of gefitinib in patients with brain metastases from non-small-cell lung cancer before and during whole brain radiation therapy.

Zeng YD et al.
Oncotarget. 2015 Apr 10;6(10):8366-76.
PMID: 25788260

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脳転移のある非小細胞肺癌患者を登録し、全脳照射(WBRT)中におけるゲフィチニブの血液脳関門透過性を調べた。ゲフィチニブは250mg/dayを先行して30日間投与、それから同時併用しながらWBRT(40Gy/20分割/4週)で行い、維持療法を行った。脳脊髄液と血液採取は、まずゲフィチニブ投与30日後に行い、さらにWBRT中の10、20、30、40Gy施行時にも採取した。対照群として脳転移のないゲフィチニブ投与患者13名から脳脊髄液と血漿サンプルを採取した。これらのゲフィチニブ濃度は液体クロマトグラフ-タンデム質量分析を使って測定した。結果は15名のゲフィチニブ+全脳照射の検体を採取して検討した。脳転移のあるゲフィチニブの脳脊髄液-血漿比は、脳転移のない対照群と比較し高くなっていた(1.34% vs. 0.36%, P<0.001)。この脳脊髄液-血漿比は30Gy時点でピーク達し(1.87±0.72%)、照射前(1.34±0.49%)より有意に高かった。脳転移の増悪までの時間および、全生存期間は7.07ヶ月と15.4ヶ月であった。本研究からゲフィチニブの血液脳関門の通過性はWBRTの線量が上がるに従って増加することが知られた。

感想
EGFR遺伝子変異陽性肺癌で、増悪の仕方として脳転移だけがコントロールできなくなることがあります。特に癌性髄膜炎という病態はEGFR-TKI登場まではほとんど見られず珍しい病態でしたが、現在では頻繁に遭遇し臨床的に大きな問題となっています。今回はそのコントロールの難しい脳髄膜転移に対し、全脳照射と同時にゲフィチニブを投与すると脳脊髄液中の最終的に濃度が約3倍に上がるという結果です。通常量のTKIで脳病変が進行してきた患者に「高用量TKI」のアイデアは以前より知られており、症例報告[Jackman DM JCO2006 PMID:16983123]や、後ろ向き研究[Kawamura T CanChemoPharm2015 PMID:25921002]が報告されています。ゲフィチニブを投与中に脳転移だけ新規発症、あるいは悪化の場合であれば、高用量にせずともエルロチニブまたはアファチニブにスイッチすれば、一旦はコントロールできる印象があります。しかし後者2者でやっていて癌性髄膜炎を発症した場合、かなりコントロールに難渋します。脳転移が出ていれば全脳照射を行いますが、髄膜炎ではあまり改善につながりません。今回のデータから、全脳照射をしながらTKIを継続することで、そのままにしておくより脳脊髄中濃度が上昇することがわかりました。これが一般化されるならば、癌性髄膜炎に対したとえ脳転移巣がなくとも全脳照射、それも標準量である30Gyより少し多い量を行い、それによって血液脳関門を意図的に破壊し、TKIをbeyondで継続することで治療になり得るということになります。本論の引用文献をみますと、殺細胞性の抗がん剤でも全脳照射により脳脊髄液への移行率が良くなるようです。しかし本来血液脳関門は脳へ有害物質が入らないようにしているのであり、全脳照射後の抗がん剤投与は脳へ損傷という逆の一面もあるかと思います。
この論文は一年ほど前のものですが、今回取り上げたのは中国のTKIであるイコチニブの用量を全脳照射をしながら上げていったときに脳脊髄液への移行率がどうなるかを検討した研究[Zhou L LungCancer2016 PMID:27133757]があり、その参考文献として見つけたので読んでみました。日本における臨床ではゲフィチニブ使用の検討のほうが有用です。これ以外の癌性髄膜炎への対処法としてベバシズマブの併用、VPシャントが試されているようですが、大規模な報告はありません。できるだけ既存の手法で、脳脊髄液内のTKI濃度を上げようするならば、全脳照射にさらに高容量のTKIを併用するのが現実的な手段で、癌性髄膜炎が従来の方法でコントロールできないときには試してみる価値があるかもしれません。


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2016年05月15日

間質性肺炎合併肺癌の抗がん剤治療~急性増悪の予測因子

Low forced vital capacity predicts cytotoxic chemotherapy-associated acute exacerbation of interstitial lung disease in patients with lung cancer.

Enomoto Y et al.
Lung Cancer. 2016 Jun;96:63-7.
PMID: 27133752

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殺細胞性抗がん剤投与を行った際に、既存の間質性肺疾患の急性増悪(AE-ILD)が起こり重篤な治療合併症であることが知られている。しかしそのリスク因子についてあまりよくわかっていない。今回は殺細胞性抗がん剤治療を受けた患者の中で、HRCTで間質性肺疾患(ILD)を確認したものについて急性増悪のリスク因子について解析した。抗がん剤関連のAE-ILDは、最終投与より4週以内で起こった呼吸困難の悪化、発症とHRCTでの両側性のすりガラス陰影の新規出現(これには既存ILDと重なる非区域性浸潤影の有無を問わない)、感染や心不全または肺塞栓が除外出来ることと定義した。ベースライン情報とAE-ILDのリスク因子をロジスティック回帰分析を使い評価した。既存のILDがあったのは85人で、AE-ILDは26人(30.6%)に発症していた。8人は死亡し、11人は集中治療でも全身状態悪化を来した。AE-ILDを起こさなかった患者と比較して、AE-ILDを起こした患者は有意にFVCが低かった(中央値で91.1% vs. 76.6%, P=0.01)。単変量または多変量ロジスティック回帰分析で、ベースラインにおけるFVCが低いこと、非小細胞肺癌(NSCLC)は、重篤な有害事象のリスク因子となった(オッズ比はFVC0.97[0.94-0.99]、NSCLC4.65[1.10-19.76])。本研究から抗がん剤投与に関連したAE-ILDは頻回に見られ、既存のILDには致命的な治療合併症である。肺機能の評価がこれらの有害事象を予測するために有用である可能性がある。

感想
間質性肺疾患(ILD)合併肺癌は、長年実地臨床の悩みの種です。重篤なIPFだけでなく、CTでしか見えない胸膜直下のごく軽い網状陰影でも肺臓炎のリスクが上がります[Niho S JpnJCO2006 PMID:16702163]。既存のILDのある症例にゲフィチニブを投与すると極めて危険なことは有名ですが、それ以外でも薬剤性肺炎を起こしてからよく見てみると、治療前のCTにわずかに間質影があったりします。またILD自体が肺癌の高リスク群であるため、それなりにIPFを経過観察していると必ず肺癌に遭遇します。これらの集団に対する特に進行例への抗がん剤治療については、大規模試験もなく確たるエビデンスがありません。治療関連の急性増悪(AE)は最も恐れるところですが、事前のリスク評価はなく、かといって予防もできず手の打ちようがない状況です。しかし一方でPSの良い方も多く、緩和ケアだけとも言えず、薬剤性肺炎のリスクが少ないとされる薬を選んで投与しているというのが現状ではないでしょうか。後ろ向き研究の報告はある程度あり、特に術後のAEについては、術式、男性、急性増悪の既往、周術期ステロイド使用、KL-6上昇、UIPパターン、VC低下がリスクとして挙げられているようです[Sato T JThorCardSurg2014 PMID:24267779]。
さて今回の論文の結論は予測FEVが下がると急性増悪のリスクが上がるということでした。同時にNSCLCがリスクになっていますが、これはNSCLCしか基本的に使わないドセタキセルで高い発症率であったため多変量モデルに残ってしまったようです。本論ではFVCが1%上がるごとにAEのオッズ比がどう変化するか、をモデル化しています。少し残念なのは、そのオッズ比は確かにP=0.01で有意であるものの、0.97[0.94–0.992]とほとんど1になっていることです。できれば5%、10%刻みでダミー変数化していたらもう少し差が見えてわかりやすかったのではないかと思います。
さて、今回研究対象となったILDの評価は、2011年のATS/ERS/JRS/ALAT合同ガイドラインを使って画像判定されています。これは胸膜直下・肺底部優位な分布、網状影の存在を確認し、7つのinsonsistentなパターンがなければ、蜂巣肺のあるものをUIPパターン、ないものをpossible UIPパターンに分ける方法です。急性増悪(AE)の定義は、要約に示した通り、両側性のすりガラス陰影の新規出現で感染等の他疾患が除外できることでした。今回対象となった85人のILDの中でIPFと診断されたのは68.2%で、IPFの割合が比較的高いと思われます。当然増悪率はUIP>non-UIPと思われますので、IPFが多く含まれればそれだけ危険性が高い集団ということになります。肺癌が診断された時期も大事で、半分以上肺癌とILDが同時に判定されています。経過観察中のケースでは中央値で5.8年で肺癌が診断されています。このILDの経過中に発見されたものは、定期CTで見つかることが多いためリードタイムバイアスがかかります。
さてILDで抗がん剤を行った人の生存期間中央値は9.7ヶ月で、1年生存率は34.2%でした。これはちょうど15年ほど前のⅣ期非小細胞肺癌の成績と似ており、最近の薬物療法の進歩の恩恵を受けていないのかもしれません。
AEを起こした抗がん剤が挙げられていますが、パクリタキセル13.5%、ペメトレキセド19.2%、S-1=18.2%などは良いとしても、ドセタキセル61.5%、ゲムシタビン50%(ただし1例のみ)は高い発生率でした。特に今回の解析ではドセタキセルのCTCAEグレードもすべて3以上で重篤なものが多いようです。ILD例での2次治療での35例対象のドセタキセルの後ろ向き研究では、5例(14.3%)にAEが発症しそのうち3例が死亡したと報告されており、添付文書上は禁忌でなくともかなり危険と判断しておくべきかもしれません。一方でゲムシタビン、ペメレキセドは初回治療の場合AEが6%弱で割と使える[Choi MK CanChemoPharm2014 PMID:24696125]という報告もあります。私はILD合併例に抗がん剤治療自体するのかどうかよく考える必要があると思っています。見かけ上のPSが良くとも、全体として見た場合生存の延長を示すかどうかは疑問があります。しかし何もしないことにも抵抗があります。この葛藤が冒頭に述べた臨床医の悩みになっているわけですが、抗がん剤治療するしないのランダム化試験は実現不可能でしょう。したがって全国で多くの症例を集めて傾向スコア解析で、疑似的な比較をしていくことが一応の現実解になるかと思っています。


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