2016年07月24日

非小細胞肺癌の脳転移に対するPD-1抗体の効果

Pembrolizumab for patients with melanoma or non-small-cell lung cancer and untreated brain metastases: early analysis of a non-randomised, open-label, phase 2 trial.

Goldberg SB et al.
Lancet Oncol. 2016 Jul;17(7):976-83. 
PMID: 27267608

Abs of abs.
PD-1系統をターゲットとした免疫療法は様々な腫瘍に対して効果を上げてきた。今回はPD-1阻害薬であるペンブロリズマブの効果と安全性を、悪性黒色腫と非小細胞肺癌の脳転移に対し検証した。非ランダム化第2相オープンラベル試験として、この2疾患で未治療の脳転移のある患者を登録した。対象は少なくとも一つの未治療かつ5-10㎜の脳転移を持ち、神経学的に無症状、ステロイドの必要のないものとした。またPD-L1発現が陽性のものとしたが、悪性黒色腫についてはこれを求めていない。患者はペンブロリズマブを10㎎/kgで2週ごとに病勢進行まで投与を継続した。プライマリーエンドポイントは脳転移のレスポンスである。この試験は現在進行中であり、今回示すのは早期解析の結果である。
2014-2015年に52人をスクリーニングし36人(18人が悪性黒色腫、18人が非小細胞肺癌)を登録した。脳転移にレスポンスしたのは悪性黒色腫で4/18(22%)、非小細胞肺癌で6/18(33%)だった。データ解析時に効果持続中であった一例の非小細胞肺癌は確定しないものの、それ以外の症例の奏効期間は長かった。重篤な有害事象は、グレード3のAST上昇が悪性黒色腫で見られ、非小細胞肺癌ではグレード3の腸炎、肺臓炎、倦怠感が各1例、グレード4の高カリウム血症と、グレード2の急性腎障害が各1例みられた。神経症状として一過性のグレード3の認知機能障害とグレード1-2のけいれんが悪性黒色腫で見られた。本研究からペンブロリズマブは悪性黒色腫と非小細胞肺癌の脳転移に対し効果を示し、安全性も許容される。これは未治療あるいは進行性の脳転移に対しても全身的な免疫療法が考えうることを示すものである。

感想
免疫療法が脳転移に効果を示す初めての前向き研究です。今回は悪性黒色腫と非小細胞肺癌両者の混合ですが、特に非小細胞肺癌では進行例の2次治療データの全身の奏効率と遜色なく、今後の可能性を示す良い結果と思います。今回対象となった脳病変は、未治療か放射線治療後に明らかな進行が見られるものと定義されています。これは少し生物学的特性が違うかもしれません。また前化学療法のレジメン数は問われていませんが、当然PD-1、PD-L1抗体の治療歴のない患者となっています。病変は大きいものではなく、小さい多発病変が対象になっています。5個までの標的病変の設定が許容され、悪性黒色腫で中央値8個(標的病変2個)、非小細胞肺癌で6個(同2個)でした。悪性黒色腫では定位照射で進行した病変が標的病変として多く含まれており、やや不利な背景となっています。効果の出方は両疾患とも同じ傾向で、おおむね2か月くらいで効果が確認され、6か月を超えてもなお治療継続中である症例が多くなっています。つまり効果のある症例は、肺病変でそうであったように、かなり長期にわたり効果が持続するということです。また効果が「評価不能」とされた病変の中に、悪性黒色腫の症例でBRAF阻害薬を止めた影響で急速に進行した例や、出血により急遽放射線治療が必要になったものがあり、その後はペンブロリズマブ投与が安定して続けられている例が挙げられています。従ってドライバー変異があり、分子標的薬で強く脳病変が制御できている症例では、あまり効果が期待できないということではないでしょうか。また定位照射後に進行した病変にも効果はなかったようです。けいれんが起こった症例がありますが、これは腫瘍周辺の浮腫が原因ではないかと考察されています。その例として悪性黒色腫の症例で、急に意識状態が変化し、MRIを取ったところすべての病変が増大し、定義上はPDとなった症例がありました。しかし生検を行ったところ、炎症であったとのことでした。いわゆるpseudo-progressionということになりますが、このような現象があることから、大きいものや有症状のものに対して免疫療法を行うことは、症状増悪の危険性があることから問題があると思われます。今回はペンブロリズマブでしたが、ニボルマブでも脳転移に効果があったとの報告がされています[Dudnik E LungCancer2016 PMID:27393516]。同じく小さい多発病変に関する2例報告ですが、ペンブロリズマブと同様に、一旦効いた症例は6ヶ月を超えてなお効果が持続中のようです。またこれもドライバー変異のない症例で喫煙者でした。以上から多少飛躍を持って考えてみると、小さい脳転移ならPD-1抗体による効果が期待されるようです。しかしEGFR遺伝子変異などドライバー変異下にある脳病変は、PD-1抗体での治療に期待するよりフレアを懸念が大きいといったところでしょうか。今後に期待されますが、まだ放射線治療より優先されるといった状況ではありません。


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2016年07月17日

TKI時代におけるEGFR遺伝子変異陽性、若年者は意外に予後不良

Advanced non-Small cell lung cancer patients at the extremes of age in the era of epidermal growth factor receptor tyrosine kinase inhibitors.

Chen YM et al.
Lung Cancer. 2016 Aug;98:99-105. 
PMID: 27393514

Abs of abs.
若年者(40歳以下)と超高齢者(80歳より上)とで非小細胞肺癌における臨床的特徴と生存の特徴に違いがあるとみられてきた。しかしながら超高齢者におけるEGFR遺伝子変異陽性例でのEGFR-TKIの利益についてはあまり研究されてこなかった。今回は主に超高齢者の特徴と予後について後ろ向き研究を行った。2010年から2014年までの1510人の肺癌患者のうち、555人の患者にEGFR遺伝子変異が測定されていた。これらを若年者(40歳以下)、前期中年(41-60歳)、後期中年(61-80歳)、高齢者(80歳より上)と定義しそれぞれのグループについて解析した。555人の患者のうち、20人(3.6%)が40歳以下に分類され、60人(10.8%)が、80歳より上の高齢者であった。若年者の非小細胞肺癌患者はBMIが低く(P=0.003)、脳転移(P=0.016)および骨転移(P=0.002)が多かった。若年者ではEGFR遺伝子変異があっても予後があまり良くなかった(EGFR変異あり対野生型 12ヶ月 vs 7.3ヶ月、P=0.215)。高齢者の非小細胞肺癌ではBMIが低く(P=0.003)、PSが悪かった(P=0.028)。高齢者ではEGFR遺伝子変異があるほうが予後が良かった(13.2ヶ月 対 4.9か月、P=0.003)。今回の研究から高齢者ではEGFR遺伝子変異があるほうが予後がよく、若年者ではEGFR遺伝子変異があってもあまり予後が良くならないことが知られた。

感想
いままでEGFR遺伝子変異陽性で高齢者の検討は、学会発表も含めれば無数にありました。しかし母集団が同じところで、年齢層を分け、しかも野生型との比較を行った研究はなかったと思います。地味な臨床データですが、いくつか目を引くポイントがあったので読んでみました。今回の患者はEGFR遺伝子変異陽性例についてはTKI治療をすべて受けています。
EGFR遺伝子変異陽性例の全生存期間の曲線を見ると、40歳以下と80歳より上のグループがほぼ重なり、41-80歳までの2グループはほぼ重なっています。PFSもほぼ同じ傾向で数が少ないですが、やはり40歳以下が一番悪くなっています。ただしこの症例数はわずか9例しかありません。一方野生型での生存期間を見ると、41歳-60歳のグループが一番よく、40歳以下のグループもそれほど悪い印象ではありません。これらのことについて、著者は「診断に際し若年者では感染症などの鑑別に時間がかかってしまう」ことを挙げています。しかし肺癌の生物学的特性自体、若年者と高齢者では同じではないことの方が大きいでしょう。若年者の場合、プラチナ2剤もしっかりできますし、血管新生阻害薬を加えても副作用は少ないように見えます。しかしなかなか効果が上がらないような気もします。年齢別にEGFR遺伝子変異ありなしを比較した図も出ています。それをみると全年齢層にわたって、EGFR変異陽性例の方が予後良好です。当たりまえの話ですが、EGFR遺伝子変異陽性例にTKIを積極的に使うのは間違いないところです。良く患者さんから「若い人は早く進むけれど、年を取ると進行が遅いのでは?」と聞かれます。これまで私は一概にそうは言えないと説明してきましたが、EGFR遺伝子変異陽性例に関しては、説明を変える必要があるかもしれません。EGFR遺伝子変異陽性例では、あまりに高齢になると、免疫力、回復力などが悪くなるので予後が悪くなり、若年者では強い治療もできるがやはり元々の生物学的性格の違い、微小環境の違いなどが反映されやすく予後不良になるのかもしれません。医療事情も違うので日本の症例での確認が求められます。


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2016年07月10日

多数の外科切除検体で見るとPD-L1は予後不良因子

Prognostic Significance of PD-L1 in Patients with Non-Small Cell Lung Cancer: A Large Cohort Study of Surgically Resected Cases.

Sun JM et al.
J Thorac Oncol. 2016 Jul;11(7):1003-11.
PMID: 27103510

Abs of abs.
本研究の目的は非小細胞肺癌のPD-L1の発現が予後に与える影響を評価することである。1070人の外科切除された非小細胞肺癌での免疫染色によるPD-L1発現を評価し、コックス比例ハザードモデルを使用して解析を行った。解析調整因子は、年齢、性別、喫煙状況、組織型、ステージ、PSである。PD-L1発現状況は6%が強陽性、38%が弱陽性であった。陽性が高い状況は、扁平上皮癌、ステージⅢB、Ⅳに見られた。PD-L1発現はおそらく予後不良と関連し、強陽性例では調整ハザード比1.56[1.08-2.26, P=0.02]であり、弱陽性例では1.18[0.96-1.46, P=0.12]であった。陽性例全体と陰性例の比較では1.23[1.00-1.51, P=0.05]であった。PD-L1発現のネガティブな効果は、術後化学療法、放射線療法で調整すると統計学的有意性が見られくなった。同じことは無増悪生存期間についても観察された。ステージⅠの症例において、再発割合はPD-L1陽性例が高く(48%対27%, P<0.001)、調整後の無再発生存期間はPD-L1強陽性でハザード比2.01[1.08-3.73, P=0.03]、弱陽性で1.57[1.17-2.11, P=0.003]であった。本研究から非小細胞肺癌におけるPD-L1発現は予後不良と関連するが、その効果は術後治療によって弱められると考えられる。

感想
PD-L1発現が予後予測因子なのか、あるいは免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子なのかはここ数年で議論が進んできました。今のところPD-L1染色は、参考にするけれどそれほど頼りにはならない、言い換えれば「PD-L1 IHCはソフトな効果予測因子であって、EGFR阻害薬におけるEGFR遺伝子変異やALK阻害薬におけるALK融合遺伝子のようなハードな効果予測因子とは異なる。」(引用元:日本肺癌学会、バイオマーカー委員会からのお知らせ https://www.haigan.gr.jp/modules/kaiin/index.php?content_id=51)という解釈がよいかと考えています。これまで小数例でのPD-L1と予後との検討はなされてきましたが、必ずしも一致した結果にはなっていませんでした。これは試薬、手技、カットオフポイントの不一致が大きく関わっていました。
今回使われた染色法はペンブロリズマブでの臨床試験で使用されたPD-L1染色とほぼ同じですので、臨床試験との対比もしやすいと思います。免疫染色判定の原型は、1%以上陽性を陽性、50%以上陽性を強陽性と定義しています。しかし対照標本とのずれが少し発生しているようです。
さてPD-L1と背景因子を見ていきますと、強陽性になるのは65歳以下で4.5%、65歳以上で8.6%と差がありました。男性7.9%、女性3.1%で、組織学的にみると腺癌では5.3%に対し、大細胞癌で10.3%で、弱陽性まで含めてみた場合は、腺癌36.6%、扁平上皮癌64.7%でした。喫煙状況では、喫煙者で8.3%、非喫煙者で3.5%でした。したがってPD-1抗体が効きやすいといわれている集団(喫煙者、扁平上皮癌)はある程度PD-L1発現が高いことが裏付けられます。
本題の全生存期間、無増悪生存期間、無再発生存期間の検討では、すべてにおいてPD-1陰性が、一番良い予後を示しています。つまりPD-L1発現は予後不良因子と位置付けることができます。また程度の差はあれ、陰性>弱陽性>強陽性の順になっていますので、うまくカットオフポイントを選択していけば、発現程度により層別化もできるということになります。
臨床現場でニボルマブが使用できるようになって、半年が過ぎました。実地での経験はこれから学会発表がつづくと思います。私の少数例の経験では、明らかに効いたとわかる症例はむしろまれで、大半の症例が、いわゆるpseudo-PDなのかtrue-PDなのかよくわからないまま2-3か月経過し、やっぱりtrue-PDだったということが多いように感じます。高価な薬ですので、患者さんの期待も大きいのですが、私の中ではまだ使い方のコツがわかりません。中には腫瘍が加速度的に悪化する症例もあるようです。使い慣れるにはもう少し時間がかかるのと、情報の共有の必要性を感じます。


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