2016年08月28日

クリゾチニブの後のセリチニブも有望だが、悪心対策は必須

Activity and safety of ceritinib in patients with ALK-rearranged non-small-cell lung cancer (ASCEND-1): updated results from the multicentre, open-label, phase 1 trial.

Kim DW et al.
Lancet Oncol. 2016 Apr;17(4):452-63.
PMID: 26973324

Abs of abs.
ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺癌は、クリゾチニブのようなALK阻害薬に感受性がある。しかしいずれ耐性化し少なくない症例で脳に進行が見られる。セリチニブは実験においてクリゾチニブより活性があり、生体内で血液脳関門を通過し、クリゾチニブ耐性例に効果を発揮する。今回はALK阻害薬で治療された後と、治療の入っていない症例の両方でセリチニブの効果をみる試験を行った。ASCEND1はオープンラベルのPhaseⅠ試験で、ヨーロッパなど20の専門施設で行った。適格患者は18歳以上で、ALK陽性かつ進行あるいは転移性、標準治療にも関わらず進行が見られ測定可能病変をもつものである。すでに発表されたように主な目的はMTDの決定である。このアップデートされた解析では、用量増量試験または拡大フェーズにおいて推奨用量であるセリチニブ750mgを投与されたもの全員の解析が含まれている。ここではベースラインにおいて安定しているまたは局所治療された頭蓋内病変への効果も探索的に見ている。安全性については一回でもセリチニブを服用した患者を対象に行った。本試験の集積は終わっているが、なお追跡を行っている。255人の患者が少なくとも1回以上のセリチニブ750㎎を受けた。246人はALK陽性である。データカットオフ時点において、中央値にして11.1ヵ月のフォローアップを受け、147人(60%)が治療中止、98人(40%)が病勢進行となった。奏効率はALK阻害薬未使用例で72%[61-82]、効果持続期間は17.0ヵ月、無増悪生存期間18.4か月、一方ALK阻害薬既治療例では奏効率56%[49-64]、効果持続期間8.3ヵ月、無増悪生存期間6.9ヵ月であった。脳転移症例のうち94人が治療後の評価が可能で、頭蓋内病変の病勢コントロール率はALK阻害薬未使用例で79%[54-94]、ALK阻害薬既治療例で65%[54-76]であった。また94人のうち11個の評価可能で放射線治療をしていない脳病変があり、6個に部分奏功を認めた。検査値上でよく見られたグレード3、4毒性はのAST、ALT上昇で、検査値以外では下痢、悪心で6%に見られた。また2例の研究期間中の死亡例があり、治療担当医見解では治療関連と思われた。一人は間質性肺炎であり、もう一人は感染と虚血性肝炎による多臓器不全であった。本試験により、セリチニブのALK陽性非小細胞肺癌に対して頭蓋内病変への効果も含め長期に渡る全身性の効果が認められた。これはクリゾチニブ治療後にも認められ、クリゾチニブの代替薬としても効果が認められた。この効果を確かめるべく、現在脳あるいは髄膜病変に対するPhaseⅡ試験が進行中である。

感想
少し前に発表されているデータです。私の印象ですが、あまり派手なプロモーションもないまま2016年5月にセリチニブが国内発売されています。ALK融合遺伝子変異陽性は肺腺癌の数%にしかなく、なかなか使う機会の少ない薬です。すでにこの分野で3つ目の薬ということで、先発のクリゾチニブ使用後に対する効果も徐々に報告され、米国ではEGFRよりもALKの方が分子生物学的にも研究が進んでいるようにも見受けられます。EGFR遺伝子変異と少し違うのは、耐性変異の出方が細かく分かれることと、現状の薬でも先発のクリゾチニブ耐性後にも一定の効果が見込めることにあります。今回の元データ[Shaw AT NEJM2014 PMID:24670165]はすでに発表されており、その後の追加症例+フォローアップデータになります。PhaseⅠといってもALK阻害薬未治療例83人、既治療例163人と並の第Ⅱ相試験より多い症例数があります。ALK阻害薬未使用例では、当然効果がありますので、既治療例を中心に見ていきます。まずこの既治療例では診断からセリチニブが入るまでの期間が中央値で21.2ヵ月[13.6-33.6]あり、前に3レジメン以上されているものが56%を占める集団です。つまりこの集団は抗がん剤あるいはクリゾチニブがよく効いていてコントロールできていた集団ということになります。しかし逆にエビデンスのある治療が尽きている集団ともいえます。Waterfall plotを見るとほとんどが下を向いています。つまり従来の抗がん剤の奏効率はほぼ0%の集団に対し、PD10%、不明16%を除くと3/4になんらかのメリットをもたらしています。1年生存率が67%、イベント数が足らないため仮の全生存期間であるものの16.7ヵ月(単純に21.2+16.7=38.9)とかなり長くなっています。注意点としては、先にレトロスペクティブなデータとして発表されたクリゾチニブ→セリチニブの治療シークエンスのデータ[Gainor ClinCanRes2015 PMID:25724526]は、今回の臨床試験の結果の中にかなり含まれています。結果は変わりませんが講演会などでは別データとの先入観があったので注意が必要かと思います。さてこの薬の実地使用上の注意点は、強い消化器毒性です。おまけにカプセルも大きく、しかも150mg/capなので、5個が初期用量です。これだけでもかなり苦痛かと思います。半分にして10個の方がましかもしれません。何らかの消化器毒性は99%に発症し、悪心嘔吐、下痢は軽度のG1-2が80%程度ですが、グレード3も6%ありました。実臨床では750㎎を継続して飲める症例はないとも聞きます。やはり5HT3阻害薬含め、ロラゼパム、オランザピン、デキサメサゾンなどによる悪心嘔吐対策は必須と考えられます。前回記事にも書きましたが、私はALK陽性肺癌には3剤を十分に使いたいのでこれらの支持療法にも習熟していきたいと思っています。


j82s6tbttvb at 01:30|PermalinkComments(0) 論文メモ 

2016年08月21日

(私見)無増悪生存期間をエンドポイントとしたランダム化比較試験の結果は意味があるか?

次々と臨床試験の結果が発表されています。ここ半年くらいでランダム化比較試験について違和感を覚えています。特にPFSをプライマリーエンドポイントとしたものについては、解釈が難しくなってきたように思います。がんの生物学的背景が徐々に解明されてきたのと、予後延長に伴い、薬を投与する期間が長くなっていることに起因していると感じています。

TKI対抗がん剤治療の臨床試験について、PFSで比較するのはおかしいのではないかとの意見が前からありました。PFSベターならOSがベターであろうとの推察に基づきTKIを初回治療に持ってきています。しかしこれが本当に生存を延ばしているのかどうかは大規模に検証されていません。現在の結論は結局「両方使うべき」という立場です。であればTKI対抗がん剤治療の臨床試験は投与順序を見た試験とも言えます。そうなるとPFSはまったく意味を持たず、OSを見なくてはならないということになります。しかしOSで見た場合、中央値36ヵ月対37ヵ月といった臨床的に無意味な差では、数の力でP<0.05であっても意味がないでしょう。ここでは数を頼みの統計学的有意差だけではなく、適切なエンドポイントに「臨床的に意味があると認められる差」があるかで考えていく必要があるでしょう。

TKI対TKIの試験も考えるほどに意味が分からなくなります。例えば今年の米国臨床腫瘍学会で発表されたJ-ALEX試験では、ご存知の通りPFSにおいてアレクチニブ>クリゾチニブでした。しかし実地臨床ではクリゾチニブはもう使わないのでしょうか? その後のセリチニブのデータはどう位置付けられるのでしょうか。ALK-TKIが生涯ただ一剤の使用のみ許されているであれば、この結果は意味を持ちアレクチニブ一択で決まりでしょう。しかし現実はそうではありません。事実、EGFR-TKIにおける臨床では多くの先生が第1,2世代を2剤、3剤と使います。しかしこの使用には対してエビデンスは全くありません。しかし実際には使っています。LUX-LUNG7試験でのPFSがアファチニブ>ゲフィチニブになっても、存在する薬はすべて使って行きたいというスタンスの先生が多いように感じています。となれば今ある既存の薬剤をひたすらPFSで比べても、結局すべて使うのであればあまり利益はないようにも感じます。今後、がんの生物学的解明がなされ、それに基づくベストな選択ができれば最高ですが、すぐには実現しないでしょう。現実的には多数の実地データに基づく薬剤選択が大切になってくると思います。実地臨床データを、いわゆる「ビッグデータ」として数を蓄積していけば、思わぬ効果予測因子がわかるかもしれません。また効果予測因子とまでいかなくとも、薬剤Aの後に薬剤Bを使うと高齢の女性では特に悪そうであるといった、細かい条件下で生かされる可能性もあります。アメリカではSEERというデータベースを使った研究が活発に行われています。偶然を排除することはできませんが、多くは臨床試験結果の再現が確認されています。実地で再現性があれば、最初から第Ⅲ相ランダム化比較試験など不要かもしれません。

また私自身も含め、最近P<0.05にこだわり過ぎであることも気になってきました。20回に1度と19回に1度の違いは、統計学的には天国と地獄でしょうが、人間には感じられません。P=0.05を少し上回っただけの、データは本当に無価値なのでしょうか。逆にP<0.05であれば、どんな結果でも従わねばならないのでしょうか。この件についてアメリカ統計学会からも2016年3月に声明が出ています。それによるとP値の使い方に注意を与えつつ、ポストP値の時代へという内容になっています。この意味するところは、P値の価値を認めつつも、あまりに便利であることから、P<0.05でなければ価値がないとか、逆にP<0.05であれば正しい、といったP値至上主義から抜け出そうということです。今だ学会発表ではP<0.05であることが、珍重されつづけています。しかし少し統計をかじったことのある人間であれば「さまざま工夫」で容易にP<0.05を出すことはできるでしょう。また前述のビッグデータで数が多くなると、わずかな差もP<0.05になってしまいます。となるとどう考えてもおかしいことも「統計学的有意」で勧められる可能性もあります。いずれにせよ、臨床医一人一人がデータをしっかりと見て判断を加えることが求められています。最近の一流紙ではプロトコールもオンラインで見ることもでき、臨床試験登録も必須ですので、特殊な内部情報を得ることのできない一般購読者でも判断はしっかりできるようになっています。情報の透明性は極めて重要な要素で、ネットの発達した現在のありがたさを感じています。

今回はいつもと趣向を変え、現在感じていることを長々と述べてみました。表題に対する私の結論は、同一患者で両方使うことになる2剤のPFSを比較してもあまり意味はなく、使うとわかっているのであれば実地臨床データを使って順番を検討したほうが有益ではないかということです。盆休み中ということで、まとまりのない所はご容赦いただきたく思います。

j82s6tbttvb at 01:30|PermalinkComments(0) 臨床から 

2016年08月14日

肺癌手術例でもCRPとアルブミン値で予後が分かれる

Value of the Glasgow Prognostic Score as a Prognostic Factor in Resectable Non-Small Cell Lung Cancer.

Yotsukura M et al.
J Thorac Oncol. 2016 Aug;11(8):1311-8. 
PMID: 27234603

Abs of abs.
過去10年にわたりグラスゴー予後スコア(GPS)は、さまざまな癌種の切除可能例あるいは切除不能例の予後と関連することが報告されてきた。このスコアはCRPとアルブミン値に基づくものであるが、非小細胞肺癌の切除例について適応できるかどうかはわかっていない。今回は病理病期ⅠかⅡ期で完全切除した非小細胞肺癌を対象として検討した。1048人の患者をGPS-0(n=817)、GPS-1(n=184)、GPS-2(n=47)に分類し、生存解析を用いて予後とGPSとの関連を検討した。5年生存率はそれぞれ91.2%、78.3%、75.8%であった。GPS-0とGPS-1では有意に全生存期間が異なっていた(P<0.001)。またGPS-0とGPS-2の間でも同様であった。単変量解析では10個の予後と関連する因子があり、多変量解析を行った。その結果男性(P=0.031)、脈管侵襲(P<0.001)。リンパ節転移(P<0.001)、GPS(P=0.025)が有意な予後因子となった。本検討よりGPSが大きいと有意に予後不良となる。生物学的機序は不明であるものの、完全切除された非小細胞肺癌であっても炎症に基づいたスコアが有用な予後予測指標になり得ることが示された。

感想
今回使用したGPSスコアはとてもシンプルであり、CRP>0.3㎎かつアルブミン<3.5mg/dlであれば2、CRPのみ異常なら1、CRP正常なら0を付けます。このCRPはもともとの報告[Forrest LM BJC2003 PMID:12966420]ではCRP>1㎎がカットオフポイントであったようですが、最近の報告では0.3㎎にしているものもあり、比較的若い病期であればむしろ妥当と考えられます。このあたりの変遷はdiscussionで述べられています。
さて結果を見ますと、再発までの時間はGPS-0>1>2ときれいに層別化されており、予後も同様でした。進行例は当然「体力」は大きく影響するでしょうが、耐術能のある場合でも、TNMのように腫瘍側の因子からみたものだけではなく、宿主側の栄養、炎症因子から見ても予後が分かれるということは、すこし驚きです。どのような場合でも予後は腫瘍側からだけで決まるわけではないことを示唆しているようです。文献検索しますとほぼ同じ研究が最近出されていました[Osugi J J CancerResTher2016 PMID:27461679]。この研究でも全く同じ結果でしたが、CRPを1をカットオフにしたもの(mGPS)と、0.3をカットオフにしたもの(HS-mGPS)が比較されており、後者が優れていると結論しています。ちなみに"prognostic score" and "lung cancer" で検索すると最近GPS関連の報告が多くなされています。予後解析の定石として、これまで年齢、PS、性別、EGFR遺伝子変異などが必須でしたが、今後は炎症因子としてGPSを含むことが求められるかもしれません。また内科医の立場としてはニボルマブの奏効と関係するかどうかも気になる所です。


j82s6tbttvb at 01:30|PermalinkComments(0) 論文メモ