2017年06月25日

PD-L1発現と画像との対比

Computed Tomography Features of Lung Adenocarcinomas With Programmed Death Ligand 1 Expression.

Toyokawa G et al
Clin Lung Cancer. 2017 Mar 16.[Epub ahead of print]
PMID: 28385373

Abs of abs.
抗PD-L1抗体の進歩により、肺癌治療の新しい道が開けている。PD-L1は免疫チェックポイント阻害薬の効果予測として期待されており、非侵襲的にPD-L1発現の評価が出来れば、免疫療法をする患者を同定するための手助けになる。今回は394人の切除された肺腺癌で、術前に薄切りCTが行われ免疫組織化学染色でPD-L1発現が評価できたものを対象とし、CTでの画像所見とPD-L1発現との関連を検討した。CT画像では、収束(convergence)像、周辺すりガラス陰影、エアブロンコグラム、ノッチ、胸膜巻き込み、スピキュレーション、空洞化を評価した。394人中78人(19.8%)がPD-L1陽性であった。単変量解析ではPD-L1陽性肺腺癌は収束像(P<0.01)、ノッチ(P<0.01)、スピキュレーション(P<0.01)、空洞化(P<0.01)と周辺GGOがないこと(P<0.01)がPD-L1陽性と有意に関連した。多変量解析においては、収束像の存在(P<0.01)と、空洞化(P<0.01)、周辺GGOがないこと(P<0.02)とエアブロンコグラムが無いこと(P<0.03)が有意にPD-L1発現と関係していた。本検討からPD-L1陽性肺腺癌は、収束像、空洞化を示す頻度が高く、周辺GGOとエアブロンコグラムは少ないことが観察された。この結果は免疫療法前にPD-L1発現を評価する手助けとなりうる。

感想
現在非小細胞肺癌の治療は大きく3群に分けられようとしています。①ドライバー変異、②PD-L1陽性、③その他で、1と2は多少オーバーラップしているようですが、この3カテゴリーで大きく捉えると治療が理解しやすくなります。遺伝子異常というミクロの現象を、CT、肉眼像と対比しようとする試みは繰り返し行われてきました。過去にも当ブログでもEGFR遺伝子変異陽性[Hasegawa JTO2016 PMID: 26917231]での画像的特徴の報告を取り上げてきました。ALK陽性もsolid patternが多いことが報告されています[Choi CM Radiology2015 PMID:25575117]。今回の検討で使用されたPD-L1抗体はSP142で、カットオフは5%とされました。このSP142はアテゾリズマブのコンパニオン診断薬として使われていますが、他の22c3(ペムブロリズマブ)、22-8(ニボルマブ)と比べ感度が低いことが知られています。カットオフ値の是非はともかく、現時点で臨床的に見分けたいのはPD-L1>=50%の症例でしょう。本検討ではconvergence、cavitationの頻度とPD-L1発現状態の細かい相関関係については言及されていません。PDL1陽性・陰性を目的変数、収束像、周辺GGO、エアブロンコグラム、空洞を説明変数とした多重ロジスティック回帰がされており、オッズ比は収束像が2.8、周辺GGOが0.47、エアブロンコグラムが0.48、空洞化が2.86でした。ごく単純に考えると空洞と収束像は3倍、PD-L1陽性に出やすいということになります。PD-L1染色は初回治療前に評価する施設が多くなっています。しかしEGFR遺伝子変異などと同時に出した場合、保険請求が認められるかどうかまだ不確実な面もあります。今回EGFR遺伝子変異と画像との関係も同様に解析されており、オッズ比は周辺GGOが2.86、エアブロンコグラムが4.8、空洞化が0.40でした。概ねPD-L1とEGFR遺伝子変異は表裏の関係にあるようです。つまり治療のカテゴリーと同様、画像にも傾向というものが見られるので、なんとなくではなく言語化した知識として知っておくことは、追加コストも要らず、未診断の画像を見る時に役立ちます。


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2017年06月18日

既治療非小細胞肺癌に対するアベルマブの効果

Avelumab for patients with previously treated metastatic or recurrent non-small-cell lung cancer (JAVELIN Solid Tumor): dose-expansion cohort of a multicentre, open-label, phase 1b trial.

Gulley JL et al.
Lancet Oncol. 2017 May;18(5):599-610.
PMID: 28373005

Abs of abs.
アベルマブはヒトIgG1モノクローナル抗体でPD-L1を標的とし、メルケル細胞腫瘍に対して米国で承認されている。この薬は第Ⅰ相用量増加試験において、固形腫瘍を対象に抗腫瘍活性があることと毒性が許容されることが確認されている。今回の用量拡大コホートは、プラチナ製剤での治療歴のある進行非小細胞肺癌への治療として行われた。試験はオープンラベルの第Ⅰ相試験として行われ、米国の58施設が参加し、プラチナベースでの治療に進行、あるいは抵抗性が確認されている非小細胞肺癌の患者が登録された。患者はⅢB、Ⅳ期で扁平上皮癌あるいは非扁平上皮癌であることが確認されており、かつ測定可能病変があり、さらに腫瘍生検か保存検体でバイオマーカー評価が行われている。PD-L1発現や他のバイオマーカー発現(EGFR、KRAS,ALK)による患者選択は行っていない。患者はアベルマブ10㎎/㎏で2週毎に投与され、病勢進行か毒性が許容できなくなるまで行われた。主要評価項目は安全性と毒性である。2013年から2014年までに184人の患者が登録されアベルマブ治療が開始された。フォローアップ期間中央値は8.8ヵ月であった。最も見られた治療関連有害事象は、すべてのグレードで倦怠感₍25%)、インフュージョンリアクション(21%)、悪心(13%)であった。グレード3以上ではインフュージョンリアクション₍2%)、リパーゼ上昇₍2%)、呼吸困難₍1%)であった。重篤な有害事象は44%に発生し、呼吸困難5%、肺炎5%、COPD3%、免疫関連有害事象12%であった。効果としては1名の完全奏効を含む22人₍12%)に奏功し、38%に病勢安定が得られた。つまり50%に病勢コントロールがついたことになる。また1人が当初からの放射線肺臓炎でグレード5、死亡となった。しかしこれはグレード3と考えられ、病勢進行で死亡したと考えられる。今回の試験でアベルマブの毒性は許容され、治療抵抗性の非小細胞肺癌に効果を示した。この結果は更なる臨床試験の根拠となるものである。

感想
免疫治療においては製薬企業の競争が激しくなっています。今回のアベルマブは売上高で1位のファイザーの薬で、最大手の遅れての参入は業界の競争の激しさを反映しています。この薬の特徴は実験レベルではありますが、抗腫瘍効果としてADCC活性を助ける働きがある点です。しかし実臨床では未知の状態です。さて今回の試験は第Ⅰ相の拡大コホートで実質第Ⅱ相試験の位置づけのようです。対象は前治療が1が66%、2が24%つまり殆どが2次3次で行われています。また組織型は腺癌が62%、扁平上皮癌が29%でした。喫煙者は86%、EGFR遺伝子変異陽性が11%、ALK陽性が1%でした。この背景はおそらく実地に近く、既治療例に対するペムブロリズマブ対ドセタキセルのKEYNOTE-010試験[Herbst RS
Lancet2016 PMID:26712084]と非常によく似ています。ただ今回の染色は「73-10」という既存のコンパニオン診断薬とは違うものが使われており、その評価も定まっていません。
KEYNOTE-010試験ではTPS>1%が登録されており、この中でペムブロリズマブ10mg/kg群におけるOSが12.7ヵ月、PFS4ヵ月、奏効率18%と報告されています。今回の結果で、TPS1%以上のPFSは12週=2.8ヵ月、OS=8.9ヵ月、奏効率14%とやや劣勢な結果でした。もちろん比較に無理はあります。本文中の生存曲線を見るとPD-L1陽性例と陰性例では、明らかに異なっており、特にPFS曲線では、1年後でも20%程度が残っており、これまでのPD-L1抗体と同じ傾向を示します。つまり良い意味でも悪い意味でも、既存のPD-L1抗体と大きく差がないことが予想されます。すでに既治療例へのアベルマブ対ドセタキセル(NCT02395172)が、OSをプライマリーエンドポイントとして行われ792人の登録が終わっているようです。またプラチナ2剤との併用(NCT02576574)との比較試験も1095人を目標に患者登録中です。
最近の状況を見ると、これらの試験が成功裏に終わったとして、数年後にはPD-L1製剤が入り乱れ、使い分けもよくわからなくなっていることを非常に懸念しています。かつてプラチナ製剤+新規抗がん剤の最強を決めるべく(注;厳密にはそのような試験デザインとなっていません)、ECOG試験[Schiller JH NEJM2002 PMID:11784875]、FACS試験[Ohe Y AnnOncol2007 PMID:17079694]が行われたものの、はっきりした結論は出ずに終わっています。治療が複雑化し、新薬がどんどん出てくる状況では逆に、臨床的に感じることができないレベルの証明をあきらめるのも医療資源の無駄を省く一手ではないかと思います。


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2017年06月11日

スタチン製剤の抗がん剤への上乗せ効果~うまい話はめったにない

Multicenter, Phase III, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial of Pravastatin Added to First-Line Standard Chemotherapy in Small-Cell Lung Cancer (LUNGSTAR).

Seckl MJ et al.
J Clin Oncol. 2017 May 10;35(14):1506-1514. 
PMID: 28240967

Abs of abs.
小細胞肺癌の治癒は依然として大きな課題である。実験上ではシスプラチンのような薬に、スタチンの追加効果があることが示されている。そしていくつかの癌種での観察研究において、抗がん剤とスタチンの組み合わせが再発を遅らせ、延命効果があることが示されている。今回は初回ランダム化プラセボ対照、二重盲検化試験としてはじめて小細胞肺癌の標準治療との比較試験を行った。患者は小細胞肺癌、PS0-3でプラバスタチン40㎎かプラセボをシスプラチン(カルボプラチン)+エトポシドを組み合わせ、3週おきに病勢進行あるいは毒性で耐えられなくなるまで投与した。プライマリーエンドポイントは全生存期間で、副次項目として無増悪生存期間、奏効率、毒性とした。イギリスの846人の患者が登録された。年齢中央値は64歳で、43%が限局型、57%が進展型であった。758人の死亡と787人のPFSイベントが発生していた。すべての患者、あるいはいくつかのサブグループにおいてもプラバスタチンの利益は見られなかった。2年生存率におけるプラバスタチン群対プラセボ群は13.2%対14.1%、ハザード比1.01[0.88-1.16; P=0.90]、全生存期間中央値は10.7ヶ月対10.6ヶ月、無増悪生存期間中央値は7.7ヶ月対7.3ヶ月であった。限局型小細胞肺癌における全生存期間は両群とも14.6ヶ月、進展型で9.1ヶ月対8.8ヶ月であった。有害事象も両群で同等であった。本研究から標準的な小細胞肺癌治療にプラバスタチン40㎎を組み合わせることは、安全ではあるが利益もなかった。この結論は、癌に対するスタチン治療を評価する他の4つの小規模ランダム化試験と同じである。

感想
変わり種の臨床試験です。他疾患で使用されている薬剤を抗がん剤に上乗せすることで効果を得ようとする試みは残念ながらあまり成功していません。少し前になりますが、非小細胞肺癌対象でニトログリセリンの併用で、抗がん剤の効果が上がったという日本での第Ⅱ相試験が出ました。しかしその後海外の第Ⅲ相試験でネガティブに終わった試験がありました[Davidson A AnnOncol2015 PMID:26347110]。また他疾患との因果関係を見つけようとするのも流行があるようで、例えば20年ほど前であればヘリコバクターピロリ菌との心疾患との関連が精力的に解析されました。またマクロライド系と呼吸器疾患との関連も、DPBを除いてもかなり報告されたように記憶しています。
さてスタチン系もその一つで、最近ではスタチン使用によりEGFR-TKIの効果を強めるのではないかという報告もなされています[Hung MS PLoS One2017 PMID: 28158206]。スタチンと癌発生抑制に関する疫学データも多く、基礎実験においてスタチンはアポトーシス誘導や細胞増殖抑制など抗がん作用があるようです。しかし今回の場合、特に結果のよい第Ⅱ相試験があったわけではないようです。別のスタチンと抗がん剤併用の第Ⅱ相試験としては、進展型小細胞肺癌に対するシスプラチン+イリノテカン+シンバスタチンが単アームで評価されています[Han JY Cancer2011 PMID:21523731]。そこでのプライマリーエンドポイントは1年生存率で、閾値奏効率を30%と仮定したものの、結果は39.3%[27.0-51.6%]とネガティブな結果に終わっています。
今回の試験の患者登録ではLD,EDも関係なく、プラチナはシスプラチンでもカルボプラチンでもよく、また放射線同時併用も規定せずといった非常に大雑把であり、決して質が良いとは言えない研究です。ただ生存曲線を見るとPFS、OSとも見事に重なっており、OSのハザード比は1.01[0.88-1.16; P=0.90]と、多少登録基準が緩くともランダム化され数が多いと見事に均一化されるという見本のようになっています。彼らはこの試験結果をもって小細胞肺癌に対するプラバスタチン追加は「no value」と評し、他癌種でのスタチン研究の、患者登録や追跡調査を資源節約のために早くやめるようにとまで言っています。
私が今回この論文を取り上げたのは、今後ビッグデータの解析などから「思わぬ発見」が多数出てくるであろうと危惧するからです。本当は何の関係もないことが、ビッグデータの解析でクローズアップされることが確実と思います。つまり数万人の服薬データを解析すれば、薬と予後との関係は偶然有意差がついて出るものがあります。その中ではランダム化比較試験をしてみようかと思う結果もあるでしょう。臨床医はエビデンスの批判的吟味が基本です。そのような時に思い出すべき、前述のニトログリセリンの研究とともに、「めったにない」ことを知らしめた研究の一つの思います。


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