2017年04月23日

ドライバー変異とPD-L1強発現の重複はどの程度か

Correlation between Classic Driver Oncogene Mutations in EGFR, ALK, or ROS1 and 22C3-PD-L1 >=50% Expression in Lung Adenocarcinoma.

Rangachari D et al
J Thorac Oncol. 2017 Jan 16. [Epub ahead of print]
PMID:28104537

Abs of abs.
遺伝子解析における癌に対する標的分子(EGFR、ALK、ROS1)の探索と、免疫染色で行われるPD-L1の腫瘍スコア(TPS)は、進行肺癌における治療選択に使われる。しかしこれらのバイオマーカーの重複についてはあまり報告されていない。自施設で71例の肺腺癌を見直し、クローン22C3 pharmDxキットを使用しPD-L1免疫染色を評価した。同時に共存する遺伝子変異と臨床病理学的背景を検討した。検体は外科生検、気管支鏡などによる小検体、吸引細胞診あるいは胸水由来のセルブロックを使用した。PD-L1のTPS50%以上は29.6%に見られ、19検体がEGFR遺伝子変異、FISH-ALK、FISH-ROS1陽性であったが、そのうち18例はTPS50%未満の症例で、TPS50%以上陽性例では1例のみが陽性であった(P=0.0073)。PD-L1が50%以上である腫瘍は有意に喫煙と関係したが、性別、人種、ステージ、生検部位、検査方法によらなかった。PD-L1はルーチン検査として実施可能であった。PD-L1のTPSが50%以上あるものは、ほぼ承認された治療のあるドライバー変異と重ならなかった。今後3つのバイオマーカー特異的な集団が決定できると思われる。それぞれに特異的な初回全身治療は(1)EGFR/ALK/ROS1の影響下にある肺腺癌は適合するTKI(~20%)、(2)PD-L1強発現の肺腺癌(TPS>=50%)は抗PD-1であるペンブロリズマブ(~30%)、(3)バイオマーカー陰性(つまりEGFR/ALK/ROS1/PD-L1すべて陰性)はプラチナ2剤併用+/-ベバシズマブとなる。

感想
いずれは多くの施設でのなされるであろう検討です。ドライバー変異とPD-L1発現は相互排他的でなくオーバーラップする場合があることが言われています。実臨床では、ドライバー変異→PD-L1染色と順番を付けて出している施設も多いかと思います。ただ各施設ともまだ数も多くないため実態がどうなのか今一つつかみ切れていないのと、そもそも未治療時点でのこれらの頻度についての報告が無いことから今回の論文を読んでみました。PD-L1でのTPS>=50% は、喫煙者が多く、いわゆるドライバー変異はほとんど見られていません。逆にTPS<50%ではEGFR/ALK/ROS1変異が18/50=36%に見られていました。ただKRAS変異陽性は、TPS>=50% で7/21=33.3%、TPS<50%では16/50=32%と大差はありませんでした。結局今回TPS>=50%とALK1例のみがオーバーラップしておりその割合は4.8%となりました。本文でもペムブロリズマブの初回治療の試験(KEYNOTE-024)[Reck M NEJM2016 PMID:27718847]でTPS>=50%とドライバー変異の重複は6%であったと書かれています。これらのことから、少数のオーバーラップ例を除くと、肺腺癌ではドライバー変異と対応するTKIで治療していくグループと、PD-L1抗体を主体とするグループ、それ以外の従来通りの抗がん剤を行うグループに分かれるのは自明のこととなります。今回はアメリカでのデータですのでEGFR変異が少し少ないと見られます。つまりアジア人の場合その割合は大まかに1:1:1になるのではないかと思います。
さてEGFR遺伝子変異陽性例でEGFR-TKIに耐性化した場合、T790M発現とPD-L1発現はどうなっているのでしょうか。この関連について最近日本から報告がなされています[Haratani K AnnOncol2017 PMID:28407039]。それによるとTKI後にニボルマブ治療をしたグループでT790M陽性の場合、PD-L1>=50%が0%、T790M陰性だと22%でした。またニボルマブ治療していないグループで検討してもそれぞれPD-L1>=50%はT790M陽性において4%、陰性で12%で見られたとのことでした。これまでサブグループ解析でEGFR遺伝子変異陽性例へのPD-L1抗体の利益はあまり見られなかったですが、この薬剤の適応についてはTKI終了後の状態も細かく評価していく必要がありそうです。


j82s6tbttvb at 01:30|PermalinkComments(0) 論文メモ 

2017年04月16日

古くて新しいP53、EGFR-TKIの効果を減弱

Mutations in TP53, PIK3CA, PTEN and other genes in EGFR mutated lung cancers: Correlation with clinical outcomes.

VanderLaan PA et al.
Lung Cancer. 2017 Apr;106:17-21.
PMID: 28285689

Abs of abs
EGFR遺伝子変異陽性例のTKIへの反応の程度と期間は多様である。共存している遺伝子変異、つまり最近広く知られつつあるが意義のよくわかっていない遺伝子変異がEGFR-TKIへの反応性、あるいは耐性メカニズムに関与しているのではないかと考え今回の研究を行った。自施設でEGFR変異を持つ腫瘍のデータベースを見直した。これらについてより詳細な分子プロファイリングを行い、EGFR-TKIの反応性と合わせて評価した。171例のEGFR遺伝子変異症例のうち、20例に詳細な分子検討が可能であった。50%にTP53変異が確認され、10%にPIK3CA、5%にPTEN変異が確認された。TKIへの反応をみると、PFSとT790M耐性の発現頻度と生存期間においてEGFR変異/TP53野生型が、EGFR変異/TP53変異陽性に比べ高い傾向にあった(P>0.05)。また19Del/TP53野生型に有意なPFS延長が見られた(P=0.035)。本検討からEGFR遺伝子変異陽性肺癌にはTP53変異の共存がよく見られ、それが予後を変えている可能性が示唆される。このような単一の遺伝子変異情報の追加が、本当に臨床に還元されるのかどうかは更なるコホート研究が必要である。

感想
過去の研究として非小細胞肺癌の15人の原発転移巣のペア検体を使って、次世代シークエンサーで詳細に遺伝子変異を調べた研究がありました[Vignot S JCO2013 PMID:23630207]。それによるとTP50変異が高頻度(12/15)で見られていました。このような併存する遺伝子変異が、お互いにどのように作用しているのかはあまりよくわかっていません。いままではドライバー変異とされる一つの遺伝子変異を標的として治療を組み立てていました。ドライバー変異とまでは言えなくとも、いくつかの変異が重なった場合、治療への反応あるいは耐性メカニズム、予後が違うのかは次の関心事です。TP53の研究の歴史はEGFR遺伝子変異よりずっと古く、また多様な癌種に染色で高発現しており、特に肺癌では喫煙と関係があるとされています。またTP53遺伝子変異には様々なタイプがありますが、主にはエクソン5-8に発生する変異が調べられています。これもEGFR遺伝子変異よりははるかに昔から知られていますが、変異部位も多く研究成果がまとまらない一因のようです。
今回の研究のポイントは、TP53変異があると、TKIでのPFSが半減し、T790M変異出現も1/4になってしまうということです。全体での生存期間中央値はTP53変異なしが32ヶ月、変異ありが25ヶ月でした。類似研究も出されており、同じくEGFR遺伝子変異陽性にTKI治療を行った場合のTP53変異、なかでもエクソン5-8の変異別に比較されており、特にTP53のエクソン8変異があるとのPFS、OSが短かったという結果でした。中でも19Delに加えて、TP53のエクソン8変異あり/なしでの差が大きく見られました[Canale M ClinCanRes2016 PMID:27780855]。
これらTP53変異とEGFR遺伝子変異の共存に関する研究はもっと直接的なものもあります。TP53変異をもともと起こしているLi-Fraumeni症候群での、EGFR遺伝子変異陽性肺癌の報告がすでに複数出されています。それらをまとめた総説[Ricordel C LungCancer2015 PMID:25433984]では、EGFR-TKIはこの症候群でない人と同じように効くようであるとしています。しかしこれらの症候群の人は若年発症であり一律に比較できるものではないかもしれません。今後はこれらがん関連遺伝子変異を一網打尽に調べた上で、最適な治療を考える時代になるでしょう。これらの変異の組み合わせを一つ一つ取り上げた前向き試験はすでに時代遅れで、今回のような後ろ向き研究から手がかりを得ていくことになると思います。



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2017年04月09日

進展型小細胞肺癌に対する予防的全脳照射、日本での結果

Prophylactic cranial irradiation versus observation in patients with extensive-disease small-cell lung cancer: a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial.

Takahashi T et al.
Lancet Oncol. 2017 Mar 23. [Epub ahead of print]
PMID: 28343976

Abs of abs
これまでの第Ⅲ相試験の結果からすると、進展型小細胞癌における予防的全脳照射は有症状の脳転移を減らし生命予後を延長することが示唆されている。これらの研究では抗がん剤のレジメンが統一されておらず、また照射量、なにより予防的全脳照射の登録時の画像評価が欠如しており問題の残る結果となっている。今回は進展型小細胞肺癌の予防的全脳照射の再評価を行うため第Ⅲ相試験を計画した。日本における47施設でオープンラベル試験を行った。対象は進展型小細胞肺癌で、プラチナベースの抗がん剤に何らかの反応を示した患者でかつMRIで脳転移がないものである。これを25Gy/10Frの予防的全脳照射を受ける群と観察群に1:1で割り付けた。患者は12カ月後までは3ヵ月毎、その後は18カ月、24カ月の時点でMRIを撮影された。層別化因子は年齢、施設、PS、抗がん剤への反応である。プライマリーエンドポイントは全生存期間でintention-to-treatで解析された。2009-2013年に224人が登録されランダム化された。全体で113人が予防的全脳照射、111人が観察群に割り付けられた。2013年に163人が登録された時点で予定通り中間解析が行われた。その結果、試験完遂しても予防的全脳照射が上回る確率がベイズ流予測で0.011%となったため早期中止となった。全生存期間中央値は予防的全脳照射群で11.6ヵ月[9.5-13.3]、観察群で13.7ヵ月[10.2-16.4]、ハザード比1.27[0.96-1.68; P=0.094]であった。3ヵ月の時点でのグレード3以上の有害事象は、食欲不振(治療群3% vs 観察群1%未満)、下肢筋力低下(1%未満 vs 5%)で治療関連死亡はなかった。今回の日本での進展型小細胞肺癌での試験では、予防的全脳照射は単純観察に比較して予後を延長しなかった。初回抗がん剤治療に反応した患者に対する予防的全脳照射は必須とは言えず、定期的なMRI検査によって脳転移の有無を確実にフォローアップしていくことが重要である。

感想
進展型小細胞肺癌において、全身抗がん剤治療に良く反応した人に予防的全脳照射を行うことは国際的には標準治療となっています。この根拠は片群143例の予防的全脳照射をする群と経過観察群に分けた比較試験[Slotman B NEJM2007 PMID:17699816]です。この試験結果は全生存期間6.7ヶ月対5.4ヶ月、ハザード比0.68、1年以内の脳転移再発率が、14.6%対40.4%と、生命予後と脳転移再発率ともに改善するという報告でした。ただランダム化する際、つまり全身抗がん剤治療後における頭部MRI検査が義務付けられているわけではなく、診断時に脳転移があり無症状の脳転移例も含まれていることが大きな問題点とされてきました。また前向き試験でありながら、前レジメンの差を考慮せず、さらには予防的全脳照射のやり方も統一されていないことも質の低さを懸念するものでした。それらを解決するべく今回の試験が行われました。統計設定は2年生存率が24%対15%、ハザード比0.75の仮定の下、症例数330で行われました。ところが結果的に生存曲線は途中で交差することなく、ずっと経過観察群の生存が良く途中中止されました。2年生存率も15%対18.8%と経過観察群が上回る結果となりました。この経過観察群は、20年近く前のJCOG9511[Noda K NEJM2002 PMID:11784874]のシスプラチン+イリノテカンの2年生存率19.5ヶ月とほぼ同じで、これをどう考えるか議論のあるところです。経過観察群が良かった理由について、セカンドラインの治療は88%対89%と差がないものの、3次治療は50%対61%、4次治療は26%対36%と徐々に差が出て来ます。後治療の抗がん剤の効果というより予防的全脳照射群はこれだけPSが保てなったとみるべきでしょう。さてエディトリアルではSlotmanが、この研究の問題点として人種差と一施設あたり1例/年の登録であり一般化できない点、経過観察群でも58%に放射線治療が入っている点を指摘しています。また全身抗がん剤終了後のMRI検査についてはヨーロッパでは一般的でなく、(自身の研究で)小さな無症候性の脳転移例を除けば、予防的全脳照射の利益は減るであろうがなお有益であると述べています。また現在Slotmanらの研究のエビデンスが浸透し、98%の放射線治療医が進展型小細胞肺癌の治療後の予防的全脳照射を推奨していると書いています。私は確かにSlotmanの研究は粗いと思いますが、細かい背景因子の違いはランダム化により解決されていると思うので、依然として重視すべき研究と思います。いろいろ述べましたが、実地臨床への応用は実は矛盾しません。私たちは豊富な医療資源にアクセスできる世界で稀な幸運な国の住人です。両臨床試験の結果から、4コースの抗がん剤を終えた時点で再ステージングを行い、初回診断あるいは4コース終了時点のいずれかで、無症状でも脳転移があれば(抗がん剤で消えていても)全脳照射を治療量ですべきであり、それ以外はMRIでしっかり経過観察するということです。これらの2つの試験は両方とも真実であり、実は違った集団を見ているに過ぎないと考えています。


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