2014年12月
2014年12月28日
IASLC/ATS/ERSの肺腺癌分類の予後は、進行例でも使えるか。
The clinical relevance of pathologic subtypes in metastatic lung adenocarcinoma.
Clay TD et al.
J Thorac Oncol. 2014 May;9(5):654-63.
PMID: 24722155
Abs of abs.
IASLC/ATS/ERSの肺腺癌分類では、可能な場合には転移巣での病理組織学的パターンを見ることが推奨されている。これらのパターンをみることが臨床的に役立つかどうか検討するため、転移巣から外科的生検で得られた肺腺癌の組織標本をレビューした。組織学的パターンを同定するため、病理医によりsolid with mucin、acinar、micropapillary、papillaryといった、3学会の提唱するサブタイプが決定された。次いでEGFR変異、KRAS変異についてはホルマリン固定・パラフィン包埋標本からSanger sequencingを使って高感度で行った。その結果100人が検討され、主なサブタイプの内訳は、solid (50), acinar (29), micropapillary (20), papillary (1)であった。この100人のうち45人については全身治療を受けていなかったものの、治療を受けた55人と生存において差がなく、またサブタイプによっても差が見られなかった。Solid patternの方が生存が悪く、acinar patternは、HR0.32[0.15-0.68], P=0.003、micropapillary patternはHR0.34[0.17-0.69], P=0.003と生存に関する限り良好であった。EGFR変異についてみるとsolid patternは頻度が低く、never smokerの割合も低かった。今回の検討からは、転移巣におけるsolid pattenは化学療法における生命予後不良で、EGFR変異が少なかった。ただしこれらのことはさらなる大規模での確認を必要とする。
感想
当ブログでも何回か取り上げているように、IASLC/ATS/ERSの肺腺癌分類は予後を反映して作られています。ただしこれは外科切除で治癒できそうな比較的早期段階のものが対象となっています。ですから抗がん剤をするような進行肺腺癌で、この分類が当てはまるかどうかは未知であり、当然のこととして進行例においてこの分類が予後を反映しているのかは臨床疑問になりえます。結論から言えば、進行例では逆になっており、予後はsolid patten<micropapillary patternとなり、早期例と逆の結果になりました。
本論文と同時期に、高悪性腺癌 (micro-papillary, papillary, solid優位)と 中間悪性腺癌 (lepidic, acinar優位)を、進行癌313例で比較した類似研究もあります[Campos-Parra AD ERJ2014 PMID:24435003]。その結果も今回の論文と同じで、生存はむしろ「高悪性腺癌」の方が良好でした。この理由はEGFR遺伝子変異陽性が多いことで治療への反応性が違うからではないかと報告されています。本論文でも同じ考察がなされています。もともとどうなのかについて知るべくもなく、また今後わかることはないでしょう。治療手段の進歩によって予後因子が変わるのは、乳癌におけるHER2発現が予後不良因子であったことに似ています。
また今回はmetastatic siteということで、生検部位は脳(30%)、胸膜(25%)、骨・筋 (20%)、 縦隔(18%)となっていました。術後再発例の2例を除き、原発との一致率は書いていませんが、進行期症例では原発にアプローチ不能なことも多いので、臨床的には肺腺癌そのものが示すサブタイプとみて良いのではないかと私は思います。ただ著者らは micropapillaryとsolid patternは原発巣に頻度が低く、転移巣で頻度が高いとの報告があり、転移巣だけみている今回の研究では結論が下せないと慎重な態度です。
さらにEGFR変異については、micropapillaryの30%、acinarの14%に見られ、solidに見られたものはわずかでした。これはよく言われることかもしれませんが、面白いのはsolidにはexon18やexon20 insertionといった"uncommon mutation"が見られていました。組織型を見たときにdriver mutation検索に参考となります。なおKRAS変異はsolidの36%、 acinarの31%に見られており、EGFR変異と相互排他的でした。KRAS変異の結果は3学会分類での関係と共通していました。 結局今回の論文は、Campos-Parraらの報告と同様に、早期と進行肺癌では組織型による予後が逆転するが、その理由は分子標的治療の進歩によるということになります。
本年はこれで最後としたいと思います。今年一年見てくださった皆様、ありがとうございました。それでは良いお年をお迎えください。
Clay TD et al.
J Thorac Oncol. 2014 May;9(5):654-63.
PMID: 24722155
Abs of abs.
IASLC/ATS/ERSの肺腺癌分類では、可能な場合には転移巣での病理組織学的パターンを見ることが推奨されている。これらのパターンをみることが臨床的に役立つかどうか検討するため、転移巣から外科的生検で得られた肺腺癌の組織標本をレビューした。組織学的パターンを同定するため、病理医によりsolid with mucin、acinar、micropapillary、papillaryといった、3学会の提唱するサブタイプが決定された。次いでEGFR変異、KRAS変異についてはホルマリン固定・パラフィン包埋標本からSanger sequencingを使って高感度で行った。その結果100人が検討され、主なサブタイプの内訳は、solid (50), acinar (29), micropapillary (20), papillary (1)であった。この100人のうち45人については全身治療を受けていなかったものの、治療を受けた55人と生存において差がなく、またサブタイプによっても差が見られなかった。Solid patternの方が生存が悪く、acinar patternは、HR0.32[0.15-0.68], P=0.003、micropapillary patternはHR0.34[0.17-0.69], P=0.003と生存に関する限り良好であった。EGFR変異についてみるとsolid patternは頻度が低く、never smokerの割合も低かった。今回の検討からは、転移巣におけるsolid pattenは化学療法における生命予後不良で、EGFR変異が少なかった。ただしこれらのことはさらなる大規模での確認を必要とする。
感想
当ブログでも何回か取り上げているように、IASLC/ATS/ERSの肺腺癌分類は予後を反映して作られています。ただしこれは外科切除で治癒できそうな比較的早期段階のものが対象となっています。ですから抗がん剤をするような進行肺腺癌で、この分類が当てはまるかどうかは未知であり、当然のこととして進行例においてこの分類が予後を反映しているのかは臨床疑問になりえます。結論から言えば、進行例では逆になっており、予後はsolid patten<micropapillary patternとなり、早期例と逆の結果になりました。
本論文と同時期に、高悪性腺癌 (micro-papillary, papillary, solid優位)と 中間悪性腺癌 (lepidic, acinar優位)を、進行癌313例で比較した類似研究もあります[Campos-Parra AD ERJ2014 PMID:24435003]。その結果も今回の論文と同じで、生存はむしろ「高悪性腺癌」の方が良好でした。この理由はEGFR遺伝子変異陽性が多いことで治療への反応性が違うからではないかと報告されています。本論文でも同じ考察がなされています。もともとどうなのかについて知るべくもなく、また今後わかることはないでしょう。治療手段の進歩によって予後因子が変わるのは、乳癌におけるHER2発現が予後不良因子であったことに似ています。
また今回はmetastatic siteということで、生検部位は脳(30%)、胸膜(25%)、骨・筋 (20%)、 縦隔(18%)となっていました。術後再発例の2例を除き、原発との一致率は書いていませんが、進行期症例では原発にアプローチ不能なことも多いので、臨床的には肺腺癌そのものが示すサブタイプとみて良いのではないかと私は思います。ただ著者らは micropapillaryとsolid patternは原発巣に頻度が低く、転移巣で頻度が高いとの報告があり、転移巣だけみている今回の研究では結論が下せないと慎重な態度です。
さらにEGFR変異については、micropapillaryの30%、acinarの14%に見られ、solidに見られたものはわずかでした。これはよく言われることかもしれませんが、面白いのはsolidにはexon18やexon20 insertionといった"uncommon mutation"が見られていました。組織型を見たときにdriver mutation検索に参考となります。なおKRAS変異はsolidの36%、 acinarの31%に見られており、EGFR変異と相互排他的でした。KRAS変異の結果は3学会分類での関係と共通していました。 結局今回の論文は、Campos-Parraらの報告と同様に、早期と進行肺癌では組織型による予後が逆転するが、その理由は分子標的治療の進歩によるということになります。
本年はこれで最後としたいと思います。今年一年見てくださった皆様、ありがとうございました。それでは良いお年をお迎えください。
2014年12月21日
末梢型扁平上皮肺癌の予後因子とは?
Prognostic factors based on clinicopathological data among the patients with resected peripheral squamous cell carcinomas of the lung.
Kinoshita T et al.
J Thorac Oncol. 2014 Dec;9(12):1779-87.
PMID: 25226427
Abs of abs
末梢型扁平上皮肺癌(p-SqCCs)が最近増加している。切除可能なこれらの癌種の臨床的な予後因子はよくわかっていない。280例の完全切除された末梢型扁平上皮肺癌を対象に臨床病理所見、原発部位と全生存期間、無再発生存期間の関係を解析した。すべてのステージの末梢型扁平上皮癌で、多変量解析の結果、有意となったのはSCC値(OS;p<0.01, RFS;p<0.01)、脈管浸潤(OS;p<0.01,
RFS;p<0.01)、胸膜浸潤(OS;p=0.03,RFS;p=0.01)、リンパ節転移(OS;p=0.02)、併存肺疾患(OS;
p<0.01)であった。ステージⅠにおいては、SCC高値(OS;p<0.01,RFS;p<0.01)、脈管浸潤(RFS;p< 0.01)と胸膜浸潤(RFS; p = 0.01) が予後不良と相関していた。生存率から考えた場合、T1でSCC高値あるいは脈管浸潤がある場合は、T2aに格上げしうるように思われた。ステージⅠBはステージⅠAに比べ有意に予後不良である(5年無再発生存率; 61.4% vs 76.6%, p<0.05)。本検討から、SCC高値、胸膜および脈管侵襲ありは末梢型扁平上皮肺癌で有意な予後不良因子であった。さらにT1でSCC高値あるいは脈管侵襲がある場合は、生存を正確に反映するために、T2aに格上げしたほうがよいように思われる。
感想
かつて扁平上皮肺癌といえば、筋金入りの重喫煙者の肺門部にドンとできる中心型が典型的でした。最近そのような症例は減り、逆に末梢型の発生が増えている印象があります。昔、私も疑問に思い外科の先生に聞いたところ「たばこを深く吸い込むから」といった返事が返ってきて驚いたことがあります。本論文の結論の一つは脈管浸潤があるものは予後が悪いということでした。これはあちこちで繰り返し報告され、最近ステージⅠの非小細胞肺癌についてのメタアナリシスも行われています[Mollberg NM Ann Thorac Surg2014 PMID:24424014]。それによると脈管侵襲のなしありで無再発生存期間(HR2.52[1.73-3.65]、全生存期間(HR1.81[1.53 to 2.14])においてかなり予後に差があることが報告されています。
もう一つの結論はSCC抗原が予後を反映するということでした。このSCC抗原については、良性肺疾患でも上昇し、あまり精度のよいマーカーとは言えないようです[Molina R Clin Chem.1990 PMID:2302769]。私もSCC高値ということで紹介され、測りなおしたら正常値だったという経験を複数もっています。現在は、SCCの代わりにCYFRAを測っている施設が多いように思います。逆にベースにある肺疾患もあわせての評価という意味ではSCCが有用といえなくもないですが、やはりマーカーと基礎肺疾患について別々の評価が望ましいと思います。
ただステージⅠのSq症例でCYFRA上昇は予後不良との報告があります[Matsuoka K EurJCardiothoracSurg2007 PMID:17611117]ので似たようなものなのかもしれません。
ところで予後が悪そうとわかった場合、どう行動すればよいのでしょうか。これについては術後補助化学療法を加えるのが一つと、あとは「入念なフォロー」ということになってしまいます。肺癌の術後フォローアップについて少し調べてみたところ、2014年版肺癌学会ガイドライン(金原出版)では、外科切除後の定期的な経過観察を行うよう勧められています(グレードB)が、具体的な方法は定められていません。この辺りはエビデンスが不足しているようです。検診など見つけることには力がそそがれていますが、フォローアップの方法論に関しては何故かあまり議論されません。ステージ、病理所見などによって細分化されるべきとは思いますが、一方でステージⅠのGGOなどはフォロー不要かもしれません。
色々書きましたが、この論文の優れている点はレトロスペクティブではありますが、性別、年齢、喫煙、基礎肺疾患の有無などさまざまな因子について詳細に解析されています。詳しくは本文を見ていただきたいのですが、いろいろな議論をするときに参考となる数字が得られる資料としての価値があると思います。
Kinoshita T et al.
J Thorac Oncol. 2014 Dec;9(12):1779-87.
PMID: 25226427
Abs of abs
末梢型扁平上皮肺癌(p-SqCCs)が最近増加している。切除可能なこれらの癌種の臨床的な予後因子はよくわかっていない。280例の完全切除された末梢型扁平上皮肺癌を対象に臨床病理所見、原発部位と全生存期間、無再発生存期間の関係を解析した。すべてのステージの末梢型扁平上皮癌で、多変量解析の結果、有意となったのはSCC値(OS;p<0.01, RFS;p<0.01)、脈管浸潤(OS;p<0.01,
RFS;p<0.01)、胸膜浸潤(OS;p=0.03,RFS;p=0.01)、リンパ節転移(OS;p=0.02)、併存肺疾患(OS;
p<0.01)であった。ステージⅠにおいては、SCC高値(OS;p<0.01,RFS;p<0.01)、脈管浸潤(RFS;p< 0.01)と胸膜浸潤(RFS; p = 0.01) が予後不良と相関していた。生存率から考えた場合、T1でSCC高値あるいは脈管浸潤がある場合は、T2aに格上げしうるように思われた。ステージⅠBはステージⅠAに比べ有意に予後不良である(5年無再発生存率; 61.4% vs 76.6%, p<0.05)。本検討から、SCC高値、胸膜および脈管侵襲ありは末梢型扁平上皮肺癌で有意な予後不良因子であった。さらにT1でSCC高値あるいは脈管侵襲がある場合は、生存を正確に反映するために、T2aに格上げしたほうがよいように思われる。
感想
かつて扁平上皮肺癌といえば、筋金入りの重喫煙者の肺門部にドンとできる中心型が典型的でした。最近そのような症例は減り、逆に末梢型の発生が増えている印象があります。昔、私も疑問に思い外科の先生に聞いたところ「たばこを深く吸い込むから」といった返事が返ってきて驚いたことがあります。本論文の結論の一つは脈管浸潤があるものは予後が悪いということでした。これはあちこちで繰り返し報告され、最近ステージⅠの非小細胞肺癌についてのメタアナリシスも行われています[Mollberg NM Ann Thorac Surg2014 PMID:24424014]。それによると脈管侵襲のなしありで無再発生存期間(HR2.52[1.73-3.65]、全生存期間(HR1.81[1.53 to 2.14])においてかなり予後に差があることが報告されています。
もう一つの結論はSCC抗原が予後を反映するということでした。このSCC抗原については、良性肺疾患でも上昇し、あまり精度のよいマーカーとは言えないようです[Molina R Clin Chem.1990 PMID:2302769]。私もSCC高値ということで紹介され、測りなおしたら正常値だったという経験を複数もっています。現在は、SCCの代わりにCYFRAを測っている施設が多いように思います。逆にベースにある肺疾患もあわせての評価という意味ではSCCが有用といえなくもないですが、やはりマーカーと基礎肺疾患について別々の評価が望ましいと思います。
ただステージⅠのSq症例でCYFRA上昇は予後不良との報告があります[Matsuoka K EurJCardiothoracSurg2007 PMID:17611117]ので似たようなものなのかもしれません。
ところで予後が悪そうとわかった場合、どう行動すればよいのでしょうか。これについては術後補助化学療法を加えるのが一つと、あとは「入念なフォロー」ということになってしまいます。肺癌の術後フォローアップについて少し調べてみたところ、2014年版肺癌学会ガイドライン(金原出版)では、外科切除後の定期的な経過観察を行うよう勧められています(グレードB)が、具体的な方法は定められていません。この辺りはエビデンスが不足しているようです。検診など見つけることには力がそそがれていますが、フォローアップの方法論に関しては何故かあまり議論されません。ステージ、病理所見などによって細分化されるべきとは思いますが、一方でステージⅠのGGOなどはフォロー不要かもしれません。
色々書きましたが、この論文の優れている点はレトロスペクティブではありますが、性別、年齢、喫煙、基礎肺疾患の有無などさまざまな因子について詳細に解析されています。詳しくは本文を見ていただきたいのですが、いろいろな議論をするときに参考となる数字が得られる資料としての価値があると思います。
2014年12月14日
BRAF変異は、喫煙者に多いのか?
Clinical Characteristics and Course of 63 Patients with BRAF Mutant Lung Cancers.
Litvak AM et al.
J Thorac Oncol. 2014 Nov;9(11):1669-74.
PMID: 25436800
Ads of abs.
BRAF遺伝子変異は約2%の肺腺癌に見つかり、分子標的治療のターゲットとなりうるドライバー変異の一つである。今回はこの変異の臨床背景と経過について、数を集めて検討した。2009年から2013年までに、BRAF変異を同定した患者63人(V600変異36人、非V600変異27人)の、臨床背景、治療結果を解析した。BRAF変異はmass spectrometryの結果に基づき、V600、D594、G469のアミノ酸変異の"hot-spot mutation"をPCRを使って遺伝子解析した。また全生存期間に関しては、ステージを一致させたKRAS、EGFR遺伝子変異を持つ患者と比較した。BRAF変異全体で見た場合、喫煙者が多くを占めていた(42% vs. 11% ;P=0.007)。しかしV600変異についてはlight/never smokerが多くを占めていた。また早期ステージと思われた32人において、6人(19%)がKRAS変異を持つ二次性肺癌を発症した。V600変異は、非V600変異と比較し良好な生存であった(3年生存:24% vs 0% ;P<0.001)。以上、これまでのなかで最大規模のBRAF変異肺癌の報告を行った。ほとんどの患者は重喫煙者で、19%の早期ステージBRAF変異肺癌に、KRAS変異を持つ2次性肺癌が見られた。V600変異を持つ進行肺腺癌は、非V600変異肺癌と比較し、予後良好であった。
感想
今年初めにBRAFについての報告を読んでいます[Kinno T Ann Oncol2014 PMID:24297085]。そこでは、日本人ではBRAF変異が1.3%に見られ、V600E、non-V600Eとの間の生存に有意差はありませんでした(V600E=8人、NonV600=18人)。おさらいになりますが、BRAFはセリン/スレオニンキナーゼで、 RAS–RAF–MEK–ERK経路を活性化し、細胞増殖シグナルを伝えています。このBRAF変異に対する治療は、悪性黒色腫で先に進んでおり、V600変異のあるものへの治療として、ベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)が最近日本でも承認されました。現在の非小細胞肺癌の臨床試験では、EGFR/ALK測定なしでは物を言うことができなくなっていますので、将来的にはBRAF変異についても測定が求められることになるだろうと思います。
今回は臨床背景の検討で、すべての患者を見ると、年齢中央値は65歳、V600は64歳(48-79歳)と非V600(33-85歳)男女比もほぼ半々でした。BRAF変異を持つ患者全体についての喫煙歴は、Never or =<15pack-years/それ以上の割合が、42%/52% vs. 11%/89%で有意に喫煙者が多いと主張されています。しかしnever smokerは、8% vs. 7%でして、本当に、喫煙状況によって差があるのかどうかはまだわからないと思います。特にV600変異については、本文では、light/never smokerが多くを占めていたと書かれています。しかし最近出た別の報告[Villaruz LC Cancer2014 PMID:25273224]では、BRAF変異は全体の2.2%(21/951)に認められ、そのほとんどがV600E変異であり、過去/現喫煙者に多かったとされ、本試験結果とは異なります。全体としてのBRAF変異が、いままでのdriver mutationに比べ喫煙者に多いことに変わりがないですが、さらにそれがV600E中心で見られるとされており、本試験との統一した理解がしにくい結果となっています。
生存については以前の日本の報告では、差がないとのことでしたが、Stage IIIB/IVにおいては明らかにV600と非V600では差があるように見えます。しかし症例数が少なく、さらに分子標的治療の影響があり、自然史として違いがあるわけではないだろうと思います。ちなみに、今回の対象患者の中では、V600E変異を持つ20人の進行例があって、そのうち10人はBRAF阻害薬を使ったとのことです。その結果60%がPR、30%がSDであったと書かれています。殺細胞性抗がん剤の効果については言及がありませんが、過去の報告[Cardarella S ClinCancerRes2013 PMID:23833300]によれば、わずか14例についてですが、BRAF変異肺癌の初回のプラチナベースの治療でBRAF変異なしと比較し、PFSに差が無いとされています。蛇足として、その報告には有意差はないものの、V600変異でPFSが悪そうな生存曲線が乗っていますが、症例数が極端に少なく今後の検討を要するでしょう。
本論文から、EGFR変異などと少し違い、たばこを吸う人にもある程度、BRAF変異が見られることが再確認できました。しかし年齢、性差では傾向が見られず、この点でもEGFR変異とは少し違うようです。また現在分子標的治療のあるV600変異については、never-smoker/right smokerの割合が比較的高そうであり、そう思うとEGFR変異と似ていて理解しやすいですが、なおpendingであることについては記憶しておく必要があると思います。
Litvak AM et al.
J Thorac Oncol. 2014 Nov;9(11):1669-74.
PMID: 25436800
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BRAF遺伝子変異は約2%の肺腺癌に見つかり、分子標的治療のターゲットとなりうるドライバー変異の一つである。今回はこの変異の臨床背景と経過について、数を集めて検討した。2009年から2013年までに、BRAF変異を同定した患者63人(V600変異36人、非V600変異27人)の、臨床背景、治療結果を解析した。BRAF変異はmass spectrometryの結果に基づき、V600、D594、G469のアミノ酸変異の"hot-spot mutation"をPCRを使って遺伝子解析した。また全生存期間に関しては、ステージを一致させたKRAS、EGFR遺伝子変異を持つ患者と比較した。BRAF変異全体で見た場合、喫煙者が多くを占めていた(42% vs. 11% ;P=0.007)。しかしV600変異についてはlight/never smokerが多くを占めていた。また早期ステージと思われた32人において、6人(19%)がKRAS変異を持つ二次性肺癌を発症した。V600変異は、非V600変異と比較し良好な生存であった(3年生存:24% vs 0% ;P<0.001)。以上、これまでのなかで最大規模のBRAF変異肺癌の報告を行った。ほとんどの患者は重喫煙者で、19%の早期ステージBRAF変異肺癌に、KRAS変異を持つ2次性肺癌が見られた。V600変異を持つ進行肺腺癌は、非V600変異肺癌と比較し、予後良好であった。
感想
今年初めにBRAFについての報告を読んでいます[Kinno T Ann Oncol2014 PMID:24297085]。そこでは、日本人ではBRAF変異が1.3%に見られ、V600E、non-V600Eとの間の生存に有意差はありませんでした(V600E=8人、NonV600=18人)。おさらいになりますが、BRAFはセリン/スレオニンキナーゼで、 RAS–RAF–MEK–ERK経路を活性化し、細胞増殖シグナルを伝えています。このBRAF変異に対する治療は、悪性黒色腫で先に進んでおり、V600変異のあるものへの治療として、ベムラフェニブ(商品名:ゼルボラフ)が最近日本でも承認されました。現在の非小細胞肺癌の臨床試験では、EGFR/ALK測定なしでは物を言うことができなくなっていますので、将来的にはBRAF変異についても測定が求められることになるだろうと思います。
今回は臨床背景の検討で、すべての患者を見ると、年齢中央値は65歳、V600は64歳(48-79歳)と非V600(33-85歳)男女比もほぼ半々でした。BRAF変異を持つ患者全体についての喫煙歴は、Never or =<15pack-years/それ以上の割合が、42%/52% vs. 11%/89%で有意に喫煙者が多いと主張されています。しかしnever smokerは、8% vs. 7%でして、本当に、喫煙状況によって差があるのかどうかはまだわからないと思います。特にV600変異については、本文では、light/never smokerが多くを占めていたと書かれています。しかし最近出た別の報告[Villaruz LC Cancer2014 PMID:25273224]では、BRAF変異は全体の2.2%(21/951)に認められ、そのほとんどがV600E変異であり、過去/現喫煙者に多かったとされ、本試験結果とは異なります。全体としてのBRAF変異が、いままでのdriver mutationに比べ喫煙者に多いことに変わりがないですが、さらにそれがV600E中心で見られるとされており、本試験との統一した理解がしにくい結果となっています。
生存については以前の日本の報告では、差がないとのことでしたが、Stage IIIB/IVにおいては明らかにV600と非V600では差があるように見えます。しかし症例数が少なく、さらに分子標的治療の影響があり、自然史として違いがあるわけではないだろうと思います。ちなみに、今回の対象患者の中では、V600E変異を持つ20人の進行例があって、そのうち10人はBRAF阻害薬を使ったとのことです。その結果60%がPR、30%がSDであったと書かれています。殺細胞性抗がん剤の効果については言及がありませんが、過去の報告[Cardarella S ClinCancerRes2013 PMID:23833300]によれば、わずか14例についてですが、BRAF変異肺癌の初回のプラチナベースの治療でBRAF変異なしと比較し、PFSに差が無いとされています。蛇足として、その報告には有意差はないものの、V600変異でPFSが悪そうな生存曲線が乗っていますが、症例数が極端に少なく今後の検討を要するでしょう。
本論文から、EGFR変異などと少し違い、たばこを吸う人にもある程度、BRAF変異が見られることが再確認できました。しかし年齢、性差では傾向が見られず、この点でもEGFR変異とは少し違うようです。また現在分子標的治療のあるV600変異については、never-smoker/right smokerの割合が比較的高そうであり、そう思うとEGFR変異と似ていて理解しやすいですが、なおpendingであることについては記憶しておく必要があると思います。
2014年12月07日
(私見)Lux-Lung7試験を予想する
皆様のおかげで、ブログ開設より2年が過ぎようとしています。数えてみますと、今回は投稿100回記事目のため、すこし「お遊び」を許容していただきたいと思います。
臨床腫瘍学の分野で、大規模臨床試験が世界中で進められています。最近は製薬メーカーのグローバル化に伴い、国際共同治験が数多くされています。以前にも記事で述べましたように、臨床試験のデータとして症例数が多いことと、同じようなことが繰り返し証明されることは確実性が高く、エビデンスとして強固であると考えています。また以前より臨床試験については、有意かどうかもさることながら、症例数およびその設定について注意を払って、結果を考えるようにしているつもりです。学会発表されたデータよりも、論文化されてから考えたいという姿勢は変わっていないのですが、その一方で進行中の試験で結果を楽しみにしているものもあります。わかる範囲で結果を予想しながら、これは無理かなとか、これはプライマリーエンドポイントが達成されなくても、この解析で保険をかけているなと妄想?しています。事前に妄想?していると、どんな結果であれ、発表された時の解釈もしやすいように思います。
さて今、私が勝手に興味を持って、結果を待っているものとして、LUX-Lung7試験(http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01466660)があります。この試験はファーストラインとしてのEGFR遺伝子変異陽性(Ex19del/L858R)の進行非小細胞肺癌に対して、アファチニブ vs ゲフィチニブのhead to headの比較試験で、非常にシンプルな試験です。プライマリーエンドポイントは、PFSです。仮説、統計設定についてはわかりませんが、サンプルサイズとして316例(おそらく150例ずつの比較試験)で症例集積はすでに終わっており、おそらく来年のASCOで結果が発表されると思われます。わかることはここまでですが、EGFR-TKIに差があるかどうかはまだ未知で、結果によってはゲフィチニブを良く使っている日本の日常診療への影響が出る試験だと考えています。今回は、大胆ではありますが、既存のデータからその結果を予測してみたいと思います。EGFR遺伝子変異陽性例に対するEGFR-TKIの試験は、人種によるばらつきが少なく予想をしやすいと思っています。すでに発表されたゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブについての結果を見てみます。
ファーストラインのゲフィチニブは、日本のデータでPFSが9-10か月、おそらく海外でやると少し悪いことが多く、ゲフィチニブで9か月以上出るとは考えにくい。一方、アファチニブは11か月前後のPFS、その差があるとしても、普通見積もって2か月、少なく見積もっても1か月。またIrreversible TKIのダコミチニブは、ほぼエルロチニブと同等、少なくとも負けてはいないようでした[Ramalingam SS LancetOncol2014 PMID:25439691]。ファーストラインのエルロチニブで少なめに見積もっても、安定的にPFS10-11か月は出てきそうに見えます。
したがってざっくりと、ゲフィチニブ8.5か月対アファチニブ11か月と見積もります。単純計算で考えたハザード比8.5/11=0.77。ここでSWOGのサイト(https://www.swogstat.org/stat/public/survival_twoarm.htm)
で症例設定を計算すると、HR0.77 alpha=0.05, power=0.8で大体350例前後(本試験の症例は316とあります)ですので、おそらくこの推定に近い仮説を立てて設定されているのではないかと思います。ということは、8割の確率でpositive dataが得られるということになりますが、この通りだと予想外の圧倒的な差はつきにくいことになります。したがってP=0.04-0.01の間になりそうです。
蛇足ですが、ダコミチニブはPFSでエルロチニブに比較して最後の方で少し開いていました。つまりダコミチニブだけ恩恵を受ける集団があるのかもしれません。類推するとゲフィチニブ対アファチニブの生存曲線も少し最後が開くと予想されます。マニアックな話ですが、生存曲線の比較は、どこに重みを置くかによってログランクと一般化ウイルコクソン検定で少し異なります。最後が開くパターンはログランク検定で少し差が出やすい(このことは学会・論文発表のための統計学 浜田2012 p227に解説があります)ので、より差は検出しやすいでしょう(最近はログランク検定ばかりです)。以上のように私は、Lux-lung 7試験はpositive trialになると予想しています。
全体として差があったとして、さらに注目を浴びるのはEx19delとL858R別に見たときに、ゲフィチニブとアファチニブが差があるのかということでしょう。予想するデータに乏しいのですが、おそらくハザード比はEx19delの方が大きく、L858Rは小さいと思います。しかしいずれもアファチニブが勝っていると予想しています。繰り返しますが、今回は投稿100回記事目のため、このような「お遊び」をいたしました。私の戯言ですので、くれぐれもお間違いのないようにお願いいたします。これからも当ブログをよろしくお願いいたします。
臨床腫瘍学の分野で、大規模臨床試験が世界中で進められています。最近は製薬メーカーのグローバル化に伴い、国際共同治験が数多くされています。以前にも記事で述べましたように、臨床試験のデータとして症例数が多いことと、同じようなことが繰り返し証明されることは確実性が高く、エビデンスとして強固であると考えています。また以前より臨床試験については、有意かどうかもさることながら、症例数およびその設定について注意を払って、結果を考えるようにしているつもりです。学会発表されたデータよりも、論文化されてから考えたいという姿勢は変わっていないのですが、その一方で進行中の試験で結果を楽しみにしているものもあります。わかる範囲で結果を予想しながら、これは無理かなとか、これはプライマリーエンドポイントが達成されなくても、この解析で保険をかけているなと妄想?しています。事前に妄想?していると、どんな結果であれ、発表された時の解釈もしやすいように思います。
さて今、私が勝手に興味を持って、結果を待っているものとして、LUX-Lung7試験(http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01466660)があります。この試験はファーストラインとしてのEGFR遺伝子変異陽性(Ex19del/L858R)の進行非小細胞肺癌に対して、アファチニブ vs ゲフィチニブのhead to headの比較試験で、非常にシンプルな試験です。プライマリーエンドポイントは、PFSです。仮説、統計設定についてはわかりませんが、サンプルサイズとして316例(おそらく150例ずつの比較試験)で症例集積はすでに終わっており、おそらく来年のASCOで結果が発表されると思われます。わかることはここまでですが、EGFR-TKIに差があるかどうかはまだ未知で、結果によってはゲフィチニブを良く使っている日本の日常診療への影響が出る試験だと考えています。今回は、大胆ではありますが、既存のデータからその結果を予測してみたいと思います。EGFR遺伝子変異陽性例に対するEGFR-TKIの試験は、人種によるばらつきが少なく予想をしやすいと思っています。すでに発表されたゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブについての結果を見てみます。
ファーストラインのゲフィチニブは、日本のデータでPFSが9-10か月、おそらく海外でやると少し悪いことが多く、ゲフィチニブで9か月以上出るとは考えにくい。一方、アファチニブは11か月前後のPFS、その差があるとしても、普通見積もって2か月、少なく見積もっても1か月。またIrreversible TKIのダコミチニブは、ほぼエルロチニブと同等、少なくとも負けてはいないようでした[Ramalingam SS LancetOncol2014 PMID:25439691]。ファーストラインのエルロチニブで少なめに見積もっても、安定的にPFS10-11か月は出てきそうに見えます。したがってざっくりと、ゲフィチニブ8.5か月対アファチニブ11か月と見積もります。単純計算で考えたハザード比8.5/11=0.77。ここでSWOGのサイト(https://www.swogstat.org/stat/public/survival_twoarm.htm)
で症例設定を計算すると、HR0.77 alpha=0.05, power=0.8で大体350例前後(本試験の症例は316とあります)ですので、おそらくこの推定に近い仮説を立てて設定されているのではないかと思います。ということは、8割の確率でpositive dataが得られるということになりますが、この通りだと予想外の圧倒的な差はつきにくいことになります。したがってP=0.04-0.01の間になりそうです。
蛇足ですが、ダコミチニブはPFSでエルロチニブに比較して最後の方で少し開いていました。つまりダコミチニブだけ恩恵を受ける集団があるのかもしれません。類推するとゲフィチニブ対アファチニブの生存曲線も少し最後が開くと予想されます。マニアックな話ですが、生存曲線の比較は、どこに重みを置くかによってログランクと一般化ウイルコクソン検定で少し異なります。最後が開くパターンはログランク検定で少し差が出やすい(このことは学会・論文発表のための統計学 浜田2012 p227に解説があります)ので、より差は検出しやすいでしょう(最近はログランク検定ばかりです)。以上のように私は、Lux-lung 7試験はpositive trialになると予想しています。
全体として差があったとして、さらに注目を浴びるのはEx19delとL858R別に見たときに、ゲフィチニブとアファチニブが差があるのかということでしょう。予想するデータに乏しいのですが、おそらくハザード比はEx19delの方が大きく、L858Rは小さいと思います。しかしいずれもアファチニブが勝っていると予想しています。繰り返しますが、今回は投稿100回記事目のため、このような「お遊び」をいたしました。私の戯言ですので、くれぐれもお間違いのないようにお願いいたします。これからも当ブログをよろしくお願いいたします。