扁平上皮癌に対するネシツムマブの第Ⅲ相試験(SQUIRE)再発小細胞肺癌でsensitive relapseはアムルビシンが優れるのか

2015年06月21日

Ⅰ期非小細胞肺癌に対する定位照射は手術を上回るのか

Stereotactic ablative radiotherapy versus lobectomy for operable stage I non-small-cell lung cancer: a pooled analysis of two randomised trials.

Chang JY et al.
Lancet Oncol. 2015 May 13. [Epub ahead of print]
PMID: 25981812

Abs of abs.
ステージⅠの非小細胞肺癌の標準治療はリンパ節郭清+肺葉切除である。切除不能例に対して定位放射線照射(SABR)が有望視されている。「手術可能」のステージⅠの非小細胞肺癌に対してSABRの2つのランダム化第Ⅲ相試験がそれぞれ独立に計画されたが、登録が悪く早々に登録中止となってしまった。今回はこれらのデータを統合解析しSABRと手術との生存期間の比較を行った。2つの臨床試験はSTARSとROSELであり、これらは手術可能なT1-2a(<4cm)N0M0を登録し、1:1でSABRと手術(肺葉切除+リンパ節郭清またはサンプリング)とに割り付けた。プライマリーエンドポイントは全生存期間でintention to treatに解析した。58人(31人がSABR、27人が手術)に割り付けられ、追跡期間中央値はSABR群で40.2ヶ月、手術群で35.4ヶ月であった。手術群で6例が死亡し、SABR群では1例が死亡した。3年生存率はSABR群で95%[85-100]、手術群で79%[64-97]でハザード比0.14[0.017-1.190,P=0.037]であった。無再発3年生存は86%対80%であった。手術群において局所リンパ節再発が1例、2例が遠隔転移を起こした。またSABR群では1例が局所再発、4例が局所リンパ節再発、一例が遠隔転移を起こした。SABR群にはグレード4の有害事象および治療関連しは無く、3例(10%)のグレード3の有害事象を認めた。内訳は10%が胸痛、6%が呼吸困難感、咳嗽、3%が倦怠感と肋骨骨折であった。一方手術は1例(4%)が手術合併症で死亡し、12例(44%)がグレード3-4の有害事象を認めた。内訳は4例(15%)に呼吸困難感、胸痛、7%に肺感染症であった。本試験によりステージⅠの切除可能非小細胞肺癌にSABRは治療選択肢となりうるといえるだろう。サンプルサイズが少なくまたフォローアップ期間が短いので、比較試験をさらに追加することが望まれる。

感想
過去にも取り上げたことのある定位照射(SABR) vs 手術の比較試験の結果です。実地臨床において手術可能なら手術ですし、SABRになっているものは本人希望も含めて何らかの切れない理由があります。肺癌学会ガイドラインだけではなく世界中で手術が標準治療とされている以上、ランダム化とは言え、ひょっとしたら劣るかもしれないものに当たる臨床試験のエントリーを勧めるのは、かなり抵抗を覚えます。また手術とSABRでは侵襲性が大きく違い、どちらでもいいと言ってくれる患者さんはなかなか見つからないのも十分想像できます。この事情は外国でも同じらしく、2つのランダム化試験STARSとROSELは遅々として進まず、登録中止となり今回の統合解析が行われました。SABRはリンパ節の処置をしないので局所再発が気になるのと、手術は侵襲が大きいため術死の問題があるもののリンパ節の処置をするので局所制御は改善できそうだが、結局遠隔転移を防げるのかはよくわかりません。最近発表されたデータ[van den Berg LL JTO2015 PMID:25629639]では、SABRと手術合わせて300人規模の追跡を行った結果、全生存期間において差はないが、局所あるいはリンパ節再発はSABRで多くなるといった結果でした。
過去の傾向スコアでマッチさせた検討を少し見てみます。統計手法上の限界で症例数が少なくなる上に、そもそも背景が異なり、外科医あるいは放射線科医の考え方も必ずしも統一されていないので結論は一定しません。まずHamajiらは症例数41対41で比較し、5年生存率が手術68.5%、SABR37.3%であったとし、手術が良いだろうと結論しています[Hamaji M AnnThoracSurg2015 PMID:25661580]。またMokhlesらは症例数73対73で比較し、5年生存率が手術80%、SABRが53%であり有意差は無いが、3年以降は手術が良好だろうと結論しています[Mokhles S LungCancer2015 PMID:25622781]。さらにMatsuoらは症例数53対53で比較し、5年生存率が手術40.4%、SBRTが55.6%で有意差なく、SABRは選択肢となると結論しています[Matsuo Y EJC2014 PMID:25281527]。症例数が少ないので偶然の要素が大きくなりますが、バラバラの結果が出るということは、おそらく大きな差がないのではないかと想像されます。今回の切除可能例に対して3年生存率がSABR群で95%、手術群で79%とSABRが良い結果であり、手術よりむしろSABRを勧めた方がいいのかと早合点しそうです。しかし今回のデータはあくまでも不完全な臨床試験を2つ合わせて解析したものであり、エビデンスとしては扱いに注意を要します。サンプルサイズが依然小さい点と、追跡期間が短い点も欠点に挙げられます。しかしこれまでの傾向スコアを使った小規模の報告を支持する内容でもあり、著者らもいうように手術可能な人に対しても「SABRも選択肢と考えられる」といった評価が妥当ではないかと思います。つまり積極的にSABRをした方が予後が良いとはまだ考えてはいけないということになります。また私は外科ではないのでよくわかりませんが、日本の手術の方がリンパ節郭清、術後管理などが丁寧であると聞いたことがあります。手術の方が負担が大きいわけですから、どの集団が手術の恩恵を受けやすいか?などさまざまな臨床背景を組み合わせて、これからエビデンスが構築されるのが良いか思います。手術といっても定型的な肺葉切除と区域切除では少し違うでしょうし、おそらく腺癌に関しては新しいWHO分類も関係するかと思います。
最後に更なる臨床試験が必要であるという常套句が書いてあります。私は、よほど状況が変わらない限り、SABR対手術のランダム化試験は現実的にはこれが到達点ではないかと思っていました。しかし現在2つの臨床試験が準備中のようです。VALORという試験と、SABRToothという試験です。症例数、エンドポイントなど詳細は検索してもよくわからなかったのでなんとも言えませんが、SABRで済ませられれば患者の側から見れば低侵襲で生存が良くなり利益が大きいので、是非研究が完結し結論が下されることを願ってやみません。


j82s6tbttvb at 01:30│Comments(0)論文メモ 

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
扁平上皮癌に対するネシツムマブの第Ⅲ相試験(SQUIRE)再発小細胞肺癌でsensitive relapseはアムルビシンが優れるのか