高齢者の限局型小細胞肺癌に対して、放射線は抗がん剤と同時併用にすべきかGGNのHRCT所見は組織型、組織浸潤を反映する

2015年11月08日

第三世代EGFR-TKIの耐性機序、T790Mの消失は意味を持つか

EGFR-independent mechanisms of acquired resistance to AZD9291 in EGFR T790M-positive NSCLC patients.

Planchard D et al.
Ann Oncol. 2015 Oct;26(10):2073-8.
PMID: 26269204

Abs of abs.
AZD9291はEGFR遺伝子変異に特異的に作用する不可逆的阻害薬であり、特にT790Mをターゲットとしている。この化合物はPhase1/2試験(AURA試験)で劇的な効果を示したが、この薬に対する獲得耐性もあるため効果が限られている。最近EGFRチロシンキナーゼ結合部位におけるC797コドン変異がT790MにおけるAZD9291に対する耐性機序として報告された。このAZD9291の耐性メカニズムを同定するため、AZD9291で治療された2人に対しての再生検を行い検討した。その結果2つ別々に、HER2とMETの増幅をFISHとCGHで認め、これらは第三世代TKIの獲得耐性のメカニズムとして可能性があるものと思われた。面白いことに、この変化はT790Mの完全消失を伴っていた。一例においては2か所から生検し違う状態を確認した(原発巣からはT790Mを検出したが、転移巣からはT790Mが消えておりそれぞれ違う経路の活性化が見られた)。今回の研究から、T790Mがあるクローンと無いクローンの両方がベースラインで存在し、AZD9291はT790Mを持った細胞の増殖を効果的に抑えるが、T790Mがないものには耐性化の介在をしてしまう。ここではそれがHER2やMETの活性化によるバイパス経路ではないかと考えられる。

感想
第一世代EGFR-TKIの耐性機序はT790Mの出現が5-6割ということがコンセンサスになっています。この耐性克服の薬剤として、今年の4月にAZD9291[Janne PA NEJM2015 PMID:25923549 ]、ロシレチニブ[Sequist LV NEJM2015 PMID:25923550]のデータが相次いで論文公表され、記憶に新しいところです。これらもやがて耐性化する運命にあり、その耐性化の研究がここ半年で急速に進んでいます。耐性化はまずcell-free plasma DNAの解析により、T790Mの近くにC797Sという新たな変異が出現することが報告されました[Thress KS NatMed2015 PMID:25939061]。その報告では15例中6例に新たなC797S獲得、5例はT790Mを維持していたがC797Sは出ず、4例はT790Mが消えたがEGFR遺伝子変異は残っていたというものでした。その報告はデジタルPCRによるもので、可能であれば組織生検の方が場所の特定ができ正確ではないかと考えられます。今回の検討は、2例ではありますが組織生検で検討されており、臨床経過と合わせて今後の参考になります。提示されている1例目は、del19の患者で、シスプラチン+ペメトレキセド→ゲフィチニブ(35ヶ月)→AZD9291(14ヶ月)と治療され、肺病変の生検ではAZD9291を挟んでT790Mが消失し(del19は残存)、HER2増幅が起こっています。2例目はL858Rの患者で、AZD9291を挟んで、T790Mが消失し(L858Rは残存)、MET増幅が起こっています。なおこの2例はともにC797Sは出現していませんでした。これらの所見から、AZD9291はT790M陽性細胞は強力に抑えるものの、もともとあるT790M陰性細胞が増殖してきてしまうのではないかと考察されています。腫瘍生検による症例報告はもう一報あり[Yu HA JAMA Oncol2015 PMID:26181354]、del19にT790Mを保持したままC797Sが出現した症例が論文になっています。従来の報告も含めて、AZD9291の耐性化は大きく分けて①T790Mが保持されC797Sが出現、②T790Mが消失し、代わりにHER2、METなど別経路でシグナルがバイパスされる、の2パターンあるように思えます。両者は一組織内、あるいは原発と転移で混在してくることもあるでしょう。このT790Mが消える現象は単にAZD9291が強いからなのでしょうか。逆にT790Mが少し残っていれば、シグナル伝達のバイパスの活性化は遅れるのでしょうか。私にはこのT790Mの持つ意味にはまだまだ深い謎があるように感じています。さて今回の症例では見られなかったC797Sについてですが、最近興味深い論文が出ています[Ercan D ClinCancerRes2015 PMID:25948633]。細胞実験ではありますが、C797S出現例にはゲフィチニブやアファチニブが効くかもしれないという内容です。AZD9291が近々発売され、さらに耐性化した症例には第一世代TKIが再チャレンジされるでしょうから、そこで奏効例が頻発するようなら自ずと確認できると思います。もっと言えば第一世代⇔第三世代TKIを繰り返す症例も出るかもしれません。いずれにしろ臨床現場としては、早急に第三世代EGFR-TKIが発売されることを待ち望んでいます。


j82s6tbttvb at 01:30│Comments(1)論文メモ 

この記事へのコメント

1. Posted by eveeve   2015年11月10日 02:56
 初めてコメントします。妻を肺がん患者に持つ50代の者です。2012年10月から闘病しており、現在ほぼサードライン治療中です。
 EGFR変異陽性でL858Rですが、昨年の生検では
T790Mの2次変異は陰性でした。
 
 いつも興味深く読ませて頂いておりますが、この記事は希望なのか、又も暗中模索なのか、何とも不思議な感じですね。EGFR-TKIには大変希望を持っておりますが、なかなか一筋縄には行かなそうですね。
 個人的にはPD-1等の免疫チェックポイント阻害剤
を大変注視しています。

 また質問などさせて下さい。よろしくお願いします。

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
高齢者の限局型小細胞肺癌に対して、放射線は抗がん剤と同時併用にすべきかGGNのHRCT所見は組織型、組織浸潤を反映する