PD-1阻害薬の後の殺細胞性抗がん剤は効果が高い免疫関連有害事象とirAE、いつどう考える?

2018年01月07日

オシメルチニブ治療後のT790M消失は予後不良

Outcomes in patients with non-small-cell lung cancer and acquired Thr790Met mutation treated with osimertinib: a genomic study.

Lin CC et al.
Lancet Respir Med. 2017 Dec 14.  [Epub ahead of print]
PMID: 29249325

Abs of abs.
オシメルチニブはEGFR-TKI治療後にT790M変異を持つ非小細胞肺癌患者の治療薬として承認された。今回は非小細胞肺癌で一つあるいは二つのTKIで治療後に進行、T790M変異を持ち第三世代EGFR-TKI、オシメルチニブで治療した患者の転帰を評価した。対象となった患者は、AURA研究の一施設で登録され、EGFR-TKIに耐性を示しかつEGFR遺伝子変異を持ち、腫瘍組織または血漿中でT790Mが検出可能であったものである。患者はオシメルチニブ20-240mgを病勢進行あるいは毒性中止まで内服した。血漿サンプルを6週毎に採取し、開始時の生検および、任意で疾患進行後に生検を行った。EGFR遺伝子変異とT790M、C797S変異を含む耐性メカニズムを評価し、全生存期間、無増悪生存および疾患進行後の生存との関連を評価した。AURAに登録された71 人の患者のうち、53人が適格であった。全体の無増悪生存期間の中央値は11.1ヶ月[95%CI 8.4-13.9]であり、全生存期間は16.9ヶ月[11.7-29.1]であった。47人が疾患進行を示し、オシメルチニブ後の全生存期間中央値は5.4か月[4.1-10.0]であった。疾患進行後について40人の血漿サンプルが入手可能であった。これらのうち12例(30%)がT790M変異を有していた(うち4例はC797S変異あり)。治療前の血漿中にEGFR遺伝子変異が見つからない場合、この中では最良の全生存期間22.4ヶ月[15.6-未達]、無増悪生存期間10.8ヶ月[7.2-未達] を示した。T790M変異を喪失するがEGFR遺伝子変異は残っていることが、最短の無増悪生存期間2.6ヶ月[1.3-未達]と関連していた。疾患進行後の22検体について、扁平細胞癌(1例)および小細胞肺癌(2例)への形質転換を見出した。T790Mは9/18(50%)に、またC797Sは2/12(17%)、cMETの増幅は5/10(50%)に見られた。またBRAF変異1/13(8%)、KRAS変異も1/13(8%)が見られた。オシメルチニブ治療後には多様な耐性メカニズムが見られる。このような耐性の違いは、臨床試験におけるオシメルチニブの将来の開発戦略を決定づけるかもしれない。

感想
第三世代TKIの耐性機序についても徐々にデータが出されています。今回は既存のTKI後にオシメルチニブを使用したAURA試験からの報告です。第三世代の耐性機序としてMET増幅、HER2増幅があることが既に報告されており[Ortiz-Cuaran S ClinCancerRes2016 PMID:27252416]、またC797S変異も有名です。また第一世代TKI後に約半数にT790M変異が出現し、かつそれが予後良好因子であることは良く知られています。しかし第三世代TKI後はどうなっているのか全体像がまだわかっていません。一方でliquid biopsyも大きく進歩しています。EGFR遺伝子変異についてliquidは、組織より感度が悪く、陽性例は予後不良であることが知られています。これまでliquidにおける同定は「有無」を見るものが多かったですが、今回は「元々のEGFR遺伝子変異が保持され、T790Mが消えると予後が悪い」といった理解しにくい問題を提起しています。
本文中ではEGFR遺伝子変異あるいはT790M変異が遊離DNAで同定される人のことを"shedder"と称しています。これは「流す人」の意であり、血中に流れている人という理解で良いかと思います。さてオシメルチニブ投与前のshedderとnon-shedderを分けて比較したところ、無増悪生存期間、全生存期間ともnon-shedderが良好でした。これは従来の報告と合致します。またFigure6では、オシメルチニブで病勢進行時にctDNAの情報のあるものを3群に分け比較しています。この3群とはT790Mが消失したもの、PD後にnon-shedderとなったもの、shedderであり続けたもの(新たに出たものも含む)です。それによるとT790Mが消失したものが明らかに無増悪生存期間、全生存期間とも悪くなっています。この機序について詳しい考察はされていませんが、T790Mが本来のドライバーであるDel19やL858Rを抑える働きをしているのであれば理解できるかもしれません。つまり毒を持って毒を制する状態になっている可能性を想像してしまいます。ひょっとするとT790Mは減らしすぎないように大事に持っておくことが最適な戦略なのかもしれません。私の印象ではオシメルチニブの反応は多種多様で、病変により反応が異なるいわゆるheterogenityを実感するものとなっています。もちろん現在では第一、二世代のTKIを使用した後のなのでそう感じるだけかもしれません。以前の記事でもオシメルチニブ後のT790M消失が意味を持つか?と書きました(http://blog.livedoor.jp/j82s6tbttvb/archives/46839173.html)が、今回の論文からも意味を持つという立場で今後の報告を見ていきたいと思っています。


j82s6tbttvb at 01:30│Comments(0)論文メモ 

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