Wynton marsalis"standard time Voi1"1987
ウィントン・マルサリス(tp)
マーカス・ロバーツ(p)
ロバート・レスリー・ハースト(b)
ジェフ・ティン・ワッツ(ds)
1986年NY録音
ウィントン・マルサリス、25歳
マーカス・ロバーツ、23歳
ロバート・レスリー・ハースト、22歳
ジェフ・ティン・ワッツ、26歳

ウイントンマルサリス。
アメリカ発。
1980年デビュー。この作品は7作目。
現在57歳。今も活躍中。

ところで彼のこの頃の日本での評価は2分していた。
褒める側では
「天才」「クリフォードブラウンの再来」などともてはやされる。
実際彼のプレイはうますぎるし穴が無い。

しかし一方で、評論家からはこんなヤジも飛んでいた。
「上手すぎて味がない」
「鑑賞しても面白くない」
「生意気」
「気に入らない」
「絶対認めない」

これは一体どういうことか。
私は彼がデビューしたとき
まだ学生であった。ハンコックと来日して
モードを吹いていな記憶があるが、お子様だった私には当選理解できなかった。
もちろん悪口も聞いていたからこのアルバムは聞きたかったけど
しばらく手を出さなかった。
というより
40年以上経ってやっと聞いたというわけであります。

当時の寺島靖国さんが著書「辛口ジャズノート」のコメント。
「ここにはリラックスはない。穏やかで気の利いたフレーズや、
思わずほほが緩むような楽しさもない。
聞こえてくるのはあくまでも挑戦的サウンドであり、
自分たちの音こそ正しいと言わんばかりの威圧的とも言える演奏、
意志がむき出しになった緊張感が張り詰める濃密なサウンドである」

これはもう自分たちが聴いてきたジャズジャイアント
リーモーガンやクリフォードブラウンの音楽の領域をあっさりと超えて
20歳そこそこの若者が何を言ってるんだ。・・・・という恨みすら感じる
冷静で評価されたコメントではないことは一目瞭然である。

ということは私は自分で確かめてみたいと思うようになったということなのである。

若きサイド面に囲まれてスタンダードを演じるこの作品は
バップではない。
作品とメロディーはスタンダードであるが、アドリブやコードはモード以外の何者でもない。
だから所詮彼の発想もマイルスやハンコックらの作り上げたモードジャズの領域内に収まっているというわけだ。
しかしうまい。
録音も良いし言うことなしだ。
寺島先生は感情が入っているから悪口になっているがその裏返しといっても良い出来栄えである。
リラックスできる。
テクニック音量が制御されて完璧なので当然リラックスできる。
気の利いたフレーズだらけで感動しかない。
自分たちこそ正しいと言わんばかりの演奏は自信に満ちていて
美しい。
そして飽きない。
上手すぎて味わいだらけのこのアルバムはこれからの私のマストアイテムになるであろう。
奇をてらわない彼の真面目な姿勢は私の生き方にもシンクロして・・・・
毎日真面目にコツコツ積み上げてこの作品を完成させたのだよ。
どうだ。
お前たちには真似できないだろう。
瞬間瞬間に閃いて度胸で勝負してたまたまヒットしてものではない。
そうだよ。
大事なのは積み重ねだよ。

日本の吹奏楽は毎日ロングトーンをやる。
野球部やサッカー部の部員はこのロングトーンを毎日毎朝聞いて育っている。

そんな積み重ねが目に映ってむしろ微笑ましく感じるのは私だけだろうか。
しかしウイントンくん。
風呂敷はもう少し小さく。
言葉は凶器ですよ。