さて、最後は米国です。

1915年頃は直接戦争に参加していなかった米国ですが、欧州で開発されつつある新兵器にはまず車両メーカーが関心を示しました。工業国として目覚しい発展を遂げていた米国では戦争以前からそれとは関係なく様々な走行装置が試されていたのです。

その中で履帯式戦車の原型となったのは米国ホルト社製の装軌式トラクターでしたが実は当のホルトが計画していた戦車はビッグホイール式でした。これは想定していた戦場がニューメキシコの砂漠地帯だったためと考えられます。

◎150トン「陸上砲艦Field Monitor」(1915年)
150トン「陸上砲艦Field Monitor」は成長著しい米国産業界の力と共和党の第一次大戦参戦への期待が生み出した物だった。
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当初の計画では1916年には建造されると予想されていた。また使用目的も南部国境地帯の広大な平原や砂漠で越境を繰り返すメキシコ民兵への対抗策だった。
(※革命勢力である護憲派内で対立していたカランサ派を米国が政府承認したため、これに反発したビリャ=サパタ派がニューメキシコ州をゲリラ攻撃していた)

しかしパンチョ・ビリャ討伐軍にも参加していたジョン“ブラック・ジャック”・パーシング将軍はこのアイディアを否定した。彼は馬にこだわり支援的な目的以外での自走車両を認めていなかったのだ。

米国ではあらゆる種類の装軌車両がテストされていたものの、いわゆる「ビッグホイール」方式に対してまだ楽観的な見方がされていた。

「陸上砲艦」は前後2対の巨大な車輪(直径20ft=約6m)を2基の蒸気エンジン(スチーム・ホイールタンク用にドーブル・エンジニアリング社の協力で開発した物)で駆動する。

各車輪は個別にギアボックスを持っており、それは車体のトランスミッションに接続されていた。
武装は2門の6インチ海軍砲で車体の前面に並列に配置されていた。(6インチ砲は当時の米海軍艦艇副砲として一般的だった)
副武装はコルトM1895重機関銃が予定されていた。車体上に2つある砲塔にそれぞれ2挺ずつ、その他に6挺の計10挺が搭載される。

5インチ砲、6インチ砲は沿岸砲台用の予備砲身が多数あり、弾薬も備蓄があった。そこで車載用マウントに適合された92本の6インチ砲身と28本の5インチ砲身が海軍から貸し出される事になった。

だが前述の通り陸軍の関心は薄かった。やがて準備段階から進まぬうちに第一次大戦は休戦となり、「陸上砲艦」用に用意されていた6インチ砲、5インチ砲の砲身は海外に売却された。

◎スチーム・ホイールタンク(1916年)
1915年、ホルト社は150t「陸上砲艦Field Monitor」を提案したが陸軍の関心は薄かった。1916年に軍は検討の後「陸上砲艦」計画への援助を打ち切った。

ホルトの開発者たちは基本的な特性を見直し、より小型の車両の開発を自主的に続ける事にした。すでにヨーロッパでは同種の装甲車両が実現されつつあることに重大な関心を寄せていたからである。
改良のためのアイディアはこれら先駆者のものを拝借した。「Steam Wheel Tank」の「Tank」の名称も英国からの拝借だった。

開発は1916年後半から1917年初頭に始まったと見られる。
基本的に「陸上砲艦」のアイディアの流用ではあったがその全長は3分の1になった。車輪の配置は車体前部に一対の直径8ft、幅3ftの駆動輪を、車体後部に直径4ftの方向転換用のローラー(圧延鋼製)を持つ3輪式に改められた。
エンジンはケロシンを燃料とするボイラーと75馬力のドーブルDoble蒸気エンジンが2基ずつ搭載された。
Steamwheelstank
大きさと重量の減少で「陸上砲艦」に搭載予定だった6インチ砲は積めなくなったため主武装はより小口径の物に変更された。
75mmヴィッカース山砲(QF 2.95-inch mountain gun?)1門が車体前面に、もしくはQF6ポンド砲(口径57mm)2門が車体両側のスポンソンに搭載される予定だった。副武装はブローニング.30口径重機関銃2挺。装甲は6~15mmだった。
QF2.95inchMountainGun
QF 2.95-inch mountain gun

試作車は1918年2月に完成した。
3月から5月にかけてアバディーン試験場で評価試験が行なわれたがその性能はあまり思わしい物ではなく、計画は破棄された。

◎Fredrick Wagner Armored war-tank(1918年)
1918年に特許申請されたビッグホイールタンク。→
US1292170-0
US1292170-2
車輪の他に補助的な履帯式の走行装置も備えた複合的な車両。
何気にこうしたアイディアとしてはかなり早い時期に登場している。

◎Anton J Jehlik Armored Vehicle(1916年)
US1195680-1
側面図では「あーはいはい、ビッグホイールね」な形をしてますが
US1195680-0
平面図では「ロードローラーだ!!!」
敵陣を踏み潰しておいてさらに後方の砲で残敵を掃討するというこの時代に多い無慈悲な仕様。→

◎F. X. Lauterbur Tractor(1919年)
モノホイールタイプのアイディア→
US1313095-0

US1313095-1
このアイディアの変わった所は複数の車両を横一列に連結できるという事!!
US1313095-3
夢の「幅1kmを一気に更地にする」無敵車両が実現したかも!?

ところで発明者さんのミドルネームが「X」って珍しいなと思ったのですがAlexander:アレキサンダーのニックネームであるXander (ザンダー)、Xandy (ザンディ)、そしてXavier (ザヴィアー=ザビエルの英語読み)、Xenon (ゼノン)などがあるそうです。


あとビッグホイールの仲間っぽいものにポーランドのArmored Kresowiec(1919年)とかがあったのですが。
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サイズ的には当時よくあったスタイルのトラクターの装甲化な気がします。
(それ言っちゃうと身も蓋もない・・・)
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