よく知られている様に、日本の兵式飯盒は最大で4合の米が炊ける様に設計されています。これは旧日本陸軍が二人一組で炊爨するのを前提に兵式飯盒を設計している関係で、飯盒1個で二人分の米飯(つまり一人2合)を炊ける様にするためです。ちなみに、もう1個の飯盒は汁物など副食を作る事になっています。
   さて、その4合炊きですが、日常的に使うにしても、一人暮らしなどでは4合など食べきれませんし、2合でも多いくらいですから、4合を炊く機会というのはあまりありません。ところが、キャンプや車中泊などでは人数が多い場合もあり、4合炊きにチャレンジするのですが、これが非常に難しい。そこで、当協会は試行錯誤を繰り返し、4合炊きがおおよそ成功する炊き方を見出しました。

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いい感じに底がキツネ色になった4合飯
焚き火でもこの出来映え


■失敗の経験
   これまで、一番経験を積んできたのは2合炊きで、これは、
  • 4〜5分で沸騰する程度の強火にかける
  • 沸騰したら5〜6分ほどで重湯が引く程度の弱火にする

   といった炊き方で、まずまず失敗する事がありませんでした。これはガスやガソリンといったポータブルストーブの場合でも、シエラストーブやファイヤーボックスでの焚き火の場合でも、共通していました。焦げる場合は火が強すぎた時ですし、芯飯やベタ飯は火力が弱い場合でした。

 

  ところが、この炊き方で4合炊きをやると、大抵はいつまでも重湯が引かず、ひつこく火にかけ続けざるを得ず、結果として上はベタ飯、下は焦げ飯といった出来映えの飯に仕上がります。そこで、強火の時間を長くする、あるいは弱火を長くするなどの工夫をしてみたのですが、毎度出来映えに差があり、かつ失敗する事が多く、これで定型といえるタイムが出ずにいました。(→焚き火による4合炊きの難しさ


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火にかける時間が長すぎると
飯の出来映えに関わり無く焦げます


■考察
   そこで基本に立ち返り、米の飯がどの様にして炊きあがって行くか、その行程を思い出してみました。

  1. 当初、米と水が分離していて、釜の底からの熱の伝導で熱せられた湯が。米粒の間隙を対流して米粒の加熱が行われる時期。
  2. 米の澱粉が溶けてコロイド状となり、ために湯の対流が止まり同時に米粒の中の澱粉の糊化が進む時期。
  3. いわゆる<蒸らす>ため、米粒間と釜底に残留する水分の蒸散、米粒の中心部への吸収と膨軟が期待される時期。
  4. 釜底の水分が涸れて加熱し、底一面に狐色に色づいてα化が進み、更に良化して香味がつき、かくて真にうまい飯が完成する時期
 この1から2にかけてが、飯盒を強火にかけて沸騰させる行程になるのですが、2合炊きの場合は嵩が少なく熱の通りも良いため、2から3への移行が早く、沸騰後ただちに弱火に切り替えないと、焦げ飯になってしまう可能性が大です。ところが、4合の場合は嵩が多く、沸騰して噴き出した時点ではまだまだ2の段階で、3に移行するには時間が掛かるのでないか。つまり、沸騰しても、しばらくそのままの火力で沸かし続け、頃合いを見計らって弱火にする、というのを試してみる事にしました。

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吹きこぼれは目安として結構重要です


■ケーススタディ
   実験の要目としては、沸騰してから弱火に移行するまでの、強火を継続する時間などのくらいが適正なのか、という事です。長過ぎては当然焦げるでしょうし、短すぎてはベタ飯になるのは目に見えているからでした。
   実験では、まず室内でプリムスIP-2243を使っておおよその適正タイムの見当をつけ、その後、屋外でファイヤーボックスを使って近似値が出るか試してみました。その結果が以下の通りでした。

15:16→1:30→4:10やや焦げIP-2243
25:11→2:01→4:06焦げIP-2243
35:27→3:00→4:00やや焦げ(焦げが堅い)IP-2243
44:29→3:21→3:30かなり焦げ(焦げが堅い)IP-2243
55:00→2:07→3:52やや焦げ(焦げが堅い)IP-2243
65:03→2:01→4:04焦げ無しIP-2243
75:40→2:03→5:22やや焦げIP-2243
84:20→2:00→3:35やや焦げIP-2243
95:44→2:02→4:06やや焦げFirebox
105:33→2:01→4:01かなり焦げFirebox
115:26→2:00→3:39キツネ色Firebox
125:15→2:00→4:00キツネ色IP-2243

   継続時間(沸騰から強火のまま加熱し続ける時間)を、1〜2では1分半から2分で行いました。これでは重湯が結構残る感じでしたので、3〜4では3分から4分で行いました。しかし、底がカチコチになるまで焦げる感じでしたので、それ以降は2分で行いました。その時の気温や火力調整の度合いによって、多少のばらつきはあるものの、おおよそ酷い焦げ方をせず、上手く炊ける様になってきました。
   ポイントなのは、4合炊きの場合、沸騰に至るまでの時間は、おおむね5分から5分半掛かる事。そして弱火は4分以上続けると焦げてしまう、という事でした。2合の場合に比べると、重湯はそれなりに残る格好になるのですが、重湯が消えるまで火にかけ続ける、つまり弱火を4分以上続けると、底がキツネ色を通り越して焦げますし、むしろそのくらいの重湯が残った方が、蒸らしの段階でいい感じの飯にしてくれる様です。
   ただし、火力の具合は、その時の気温等の条件によって変化し、仮に沸騰に5分以上掛かる場合でも、弱火に4分かけていると底が焦げるという事もありました。なので、弱火で3分を越えた時点で湯気の出方が落ち着いたとか、焦げた匂いがするといった時は、4分を待たず3分半程度で火から下ろす様にしました。
   ガスやガソリンといったポータブルストーブの場合、火力調整は自在に出来るので強火から弱火に一気に変える事が出来ますが、ファイヤーボックスの場合はそうは行きません。なので、沸騰してから1分までは薪を強火の時と同じくくべて火力を維持し、それが過ぎたあとは徐々に薪が燃え尽きて弱火になる程度の焼べ方にして、強火を2分継続するのと同じ燃やし方にしました。
   上記の結果、4合での炊き方は、以下のものであろうと思います。
  • 5分前後で沸騰する程度の強火にかける
  • 沸騰したらそのまま2分、強火で加熱する
  • その後、弱火で3.5分〜4分温める
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左がIP-2243でのタイム
右がファイヤーボックスでのタイム


■焦げる理由
   飯盒メシを焦がしてしまう一番の理由は、水と米が熱せられて対流しつつ糊化が進み、その対流が止まっているにも関わらず火にかけ続ける事です。つまり、対流が続いている限りは、いくら火力が強くても焦げ付く事はなく、その事に気づいた事が、4合炊きにおいて沸騰後も継続して強火にかけ続ける技法を試すきっかけとなりました。
   強火を継続する理由は、十分に加熱して対流させ、米の糊化膨張を促進し、かつ吹きこぼれによって余計な水分を放出するためです。ただし、この強火の継続時間が長すぎると、やはり底を焦がしてしまいます。底を焦がさず、かつ飯の仕上がりがよくなる時間が、約2分間だったのです。
   弱火は、上記の飯が炊ける行程の3番4番のパートに相当しますが、ここでも過度に長い時間弱火にかけていると底が焦げました。そして3分半から4分で切り上げるのが、丁度よくキツネ色に底が焦げ、美味く仕上がる事が分かりました。
 気候や環境によって、必要とする火力の度合いに違いはあると思いますが、おおよそ、このタイムで美味くいくと思います。なお、今回の実験でも、ポータブルストーブで炊いた時より、ファイヤーボックスで炊いた方が断然美味しいご飯が炊けました。

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やはりご飯は焚き火で炊くのが美味いようです