January 20, 2012

香港D&G風暴

dandg (3)
香港、新春D&G祭り!




日本メディアでもネットニュースでは少し報じられていたようですが
短い表面的な記事ではこの騒動の本質が伝わらない気がしたので
いまさらながらご紹介します。

騒動の話題に入る前に。
わたしはテレビの仕事をしているので、時々目の当たりにすることが
ありますが、いわゆる大手ブランドは公道から外装を映されることを
拒絶することがあります。実際のところ、そのブランドショップを
映したいわけではなく街頭を映したいのですが、そのブランドショップだけ
はずすことができない状況にも関わらず、「店の前を映すな」と
阻止されることもあり、そうするとそのショップがあるがために
街頭撮影自体ができなくなります。
「いえ、そちらこそ、撮影の邪魔なので店どけてください」といいたくなる
ことも多々あります。カバーとかかけて隠してくれたらいいのに。

たとえば渋谷のスクランブル交差点を撮ろうとしたとき、
109が「このビルは写らないようにしてください」って言い出だしたら
おかしいでしょ!(もちろん109さんはそんなこと言いません。)

メディアであろうと一般の方々であろうと、店員さんや警備員さんに
怒られたことがある人は少なくないかもしれません。
商品を映すな、店内を映すなというのは所有物だからもちろん
わかります。所有物という意味では、店舗外装も所有物。
ですが、公共の場で風景となっている以上、威圧的に「見られる」
「撮られる」ことを妨害をすることは実際のところどうなのかと思う
のですが、このあたり、どういう業界ルールがあって、
それが当然のようにまかりとおっているのかはよくわかりません。

さて、この香港D&G祭りも、そもそもそんな若干不条理にも思える
業界ルールのようなものが事の発端になっています。

舞台は尖沙咀の廣東道にあるD&G店舗。

時は遡って2011年12月。
店舗前の公道で一般市民が写真を撮っていたところ、
D&Gスタッフから写真を撮るなと命じられたことがネット上で
「不条理だ」と議論されていたことを、蘋果日報の記者が
発見したところから物語は始まります。

2012年1月4日。
蘋果日報の記者が現地調査実施。
店舗前の公道から写真撮影を試みます。
そこでD&Gの守衛たちから「撮るな」と撮影を阻止され
厳しく怒られます。

「取材許可を申請していますか?
していないなら撮らないでください。」

腑に落ちない気持ちもあるけど、まあ店舗は人の所有物ですし、
そういうルールがまかり通っているのですから、しかたがないのかなと
思うこともなくはありません。

が、問題はここからなのです。

店側の理屈が不条理だと食い下がる記者に対し、

D&G側は香港人を最も挑発する言葉を言ってしまいました。

それも、よりによって香港世論を盛り上げることにかけては
卓越した才能を発揮する「蘋果日報」様の記者に向かって。

「內地遊客影相就冇問題。香港人就要過主。」

訳すと、「大陸観光客の記念写真はいいけど、香港人はダメ。」

その時に香港人に対して使った言葉、「過主」。

それは、たとえば、昔の中国で、物乞いなどがしつこく
家へ来たりしたときに、「あっちへ行きなさい」という時によく
使われたような言い回しで、非常に見下した言い方です。

中国からの観光客が撮ることはかまわない。
香港人はあっち行け。

シャネルやグッチ、プラダ、高級時計店などなど高級ブティックが
軒を連ねるこのカントンロードは、香港へ買物旅行で訪れる
富裕層の中国大陸人客が最も多い場所のひとつ。
SALEでもないのに連日ヴィトンの店舗前には長蛇の列が出来て
います。その中にあるD&Gのメインのお客様も大陸からの旅行者
です。

何度もブログで紹介しているとおり、
現在、香港には大陸からの投資や観光客が殺到しています。
もちろんそのチャイナマネーで潤っている財政や観光はありますが、
一般的には不動産価格や生活物価が高騰したことで生活が
苦しくなり、さらに街中に大陸観光客があふれることで様々な
問題が日常的に発生するなど社会にはゆがみが生じています。
子供に香港市民権(居住権)を得るために香港で出産しようと、
様々な方法で越境してくる大陸人妊婦さんが激増し、香港人妊婦さんの
ベッドが足りなくなってしまう問題も対策が後手後手にまわるばかりで
解決できていません。
一般市民は、良い思いどころか、不愉快な思いが増えています。

そうして市民の鬱憤が溜まっているところに、
D&Gが明確に見せてしまった香港人が最も嫌悪する姿勢。

「大陸人優遇、香港人冷遇」

香港で最も「香港の自由と民主」を愛するメディア、
蘋果日報主催のお祭りがはじまりました。


Day 1 (1月5日報道)
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惡霸 D&G 惡女:櫥窗唔影得



”ちょっと、この店の人たち、こう言ったよ。

「香港人就要過主」 (香港人はあっち行け)

ここは香港なのに!”



D&Gの非を裏付けるため、
蘋果日報は法的根拠などで自己の正当性を固めていきます。

弁護士は公道で写真を撮ることはなんら規制されることがないと明言。

守衛が「次はお前のカメラを壊すぞ」と告げたことについては
恫喝・脅迫にあたるとして、刑事問題に該当。

蘋果が大々的に報じたことにより、
あっという間に香港中に知れ渡り、
瞬く間に香港中の怒りに火をつけました。ご覧ください。


Day 2(1月6日報道)
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死不悔改 全城挑機影爆佢



Day 3(1月7日報道) 
禁攝高層哂靚車 百人挑機



Day 4(1月8日報道) 
唔道歉 萬人今日圍住影



店の前に、記念写真を撮る人が殺到することになりました(笑)

海外ブランドショップ側 vs. 香港市民の戦いは火蓋を切りました。

市民の怒りを煽る蘋果日報。煽られる香港市民。
さりげなく追随する他香港メディア。日本語で喩えるなら
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損!」

そしてお祭り開始の号令から4日目の1月8日、
早くも騒動は最大の盛り上がりを迎えます。

facebookを中心として参加の呼びかけがおこなわれた活動。

「D&G門口萬人影相活動」(D&G店舗外一万人撮影活動)

活動の目的は、D&Gから香港への謝罪です。

D&Gがテナントとして入っている海港城はかなり早い段階で
謝罪を表明しましたが、
香港地元のテレビニュースどころか、CNNなど海外の報道機関
でも報じられる大きな騒動になっていながらも
ここまで一貫してD&Gは謝罪をする姿勢は見せませんでした。

香港人のプライドをかけて、謝罪を求める市民が廣東道に結集!

「ここは香港だ!」

「道歉吧!」(謝れ!)

Day 5(1月9日報道)
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天下圍攻 發聲明 冇道歉



1月8日の報道です。

数千人集まった模様。

一致団結しすぎw

市民参加型D&Gフェスティバル、大いに盛り上がりました。

アイアンマンも参加。

Iron man踩場  rap爆佢



1月8日は、わたしはちょうど九州ロケがはじまった日でした。
朝から撮影クルーの間では「今日のD&G祭りはどうなるか」という
話題で持ちきり。初日の撮影終了後は「すごいことになっているw」
と情報を仕入れては盛り上がっていました。
これだけ大きなお祭り騒ぎになっている香港にいない自分たちが
少し残念でもありました。
このニュースを笑いながらも、今の香港の社会のゆがみについても
クルーメンバーたちと話したり、みんなの話を聞いたりしていました。

日に日に大きくなっていく騒動は大きな社会問題となり、
立法會(香港の国会)で審議の課題にまでなってました。

この数千人による抗議活動のあとも、
市民からの抗議は収まることなく、
蘋果の攻撃も収まることなく、
始まりから約2週間が経過した昨日1月18日、
D&Gはついに「香港市民の心を傷つけた」ことに対し、
謝罪文を発表しました。


態度が悪い、言い方が悪いなど、もちろん非は多々ありますが、
正直な気持ちを書くと、営業妨害までされたという部分では
今回のD&Gは時期が悪かったという不運が重なったとも思います。

香港で鬱積している触れてはいけない部分を刺激したことで
発散できる場がなかった香港市民の苛立ちや鬱憤がプチンと
一気に切れて、D&Gに向いたのだと思います。

明らかに粗野な金持ちが優遇されるようになった香港で
冷遇される香港市民。
香港の老舗がどんどん立ち退かされ、大陸観光客が好む
高級ブランド、貴金属、化粧品の店だらけに街が変貌
していくことへの憤り。
強いものがますます強くなる「覇権(権力)」への嫌悪感。
止められない変化への不安感。
溜まっていた怒りのエネルギーが一気に大噴火し、
人間マグマの標的になったのがD&Gだと思います。

D&G騒動の表面だけ見ると、悪ノリのようにも見えるし、
くだらないバカ騒ぎかもしれません。
ですが、この騒動の背景には深い社会問題が潜んでいます。

最近香港のネット上では「中国大陸」様の揶揄として
「強国」と表現することが流行っています。
「ああ、また強国のことか」「しかたない、強国だから・・・w」

香港が好きだと公言する人たちでも折に触れ、よく言う言葉。
いちいち「中国化してる」、とか、「中国になったから」、とか。
時と場合によってはデリケートな言葉だということを忘れないで
いただきたいと感じることが多々あります。
香港が望んでそう選んだわけじゃない。
うまく説明できないけど、一番傷ついているのは、香港人です。

香港市民の我慢の限界は、もう超えている。
それが見事に表面化したのが、今回のD&G騒動であると
わたしは思います。今後も何か同様のことは起きる気がします。

この軋轢は難しくて、誰が悪いとか、どうすればいいという
解決策が見つからない、なるようにしかならない部分なのだろう
とも、わたしは思っています。

不要な経済発展はいらない、昔の香港に戻せ、
という気持ちが強い人もいれば、
これからの発展こそが大事だと思う人もいるでしょう。

異文化の流入に対しては、日本を含め、
どこの国でも似たような軋轢があると思います。
たとえば、かつて中国返還直前、香港人は大量にカナダへ
移民しました。(後に、英国領時代と大きく変わらなかったことで
結局大量に戻ってきましたが)
その際、バンクーバーでは香港人移民や形成された香港社会を
疎ましく思う動きが大きくなり、香港人宅への放火事件まで発生
したそうです。カナダのような移民国家でさえも、こんなことがあります。
それでも当時のカナダが香港からの移民と資本が入ったことで、
経済が潤ったのも事実です。

変動時代にある今の香港は、とても難しい社会情勢です。
相手が中国様だけになお難しい。
今はとにかく香港市民に鬱屈したものが渦巻いている時期の
ような気がします。自由と文化は自分たちで守り維持するもの
という意識の上で成り立っている香港の自由。
香港らしさを失わずにいたいと誰よりも思っているのは香港市民です。
現在の香港でその動きの中心になっているのが、
「80後」と呼ばれる1980年代生まれです。

今回のD&G騒動は、ちょっとそんなことを考えさせられました。

そういえば、銅鑼湾の時代廣場にあるUA Times Square Cinemaが
家賃の高騰に負けて1月末で閉館します。

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香港に住むようになって以来、
最もよく利用していた映画館なので、とても寂しいです。
とはいっても、歴史が長い映画館の閉鎖と違って、
ここは古い映画館でもないし、商業施設の中にはいっている
チェーンの映画館。単にわたしにとって便利だから
よく行っていた、個人的に身近な場所というだけなのですが、
いつも当たり前にあったものがなくなるって寂しいなあ
(しかも不便になる)と、しみじみ思います。
映画館閉館のあとには、大陸観光客様御用達のブランドショップ、
ルイ・ヴィトンの大型店舗が入居することが決まっているそうです。
この流れもまた現代香港的。
なぜかアンチが多いヴィトン。わたしはアンチどころか、愛用して
いたりもしますが、それでも既にこの狭い香港の中にいくつも大きな
ショップがあるのに、またか・・・という気持ちです。
どの街も個性がなくなり、同じような大手の店ばかりになっていく。
最近の香港は、市民の心が痛むそういうニュースが本当に多いです。


D&G騒動を詳しく説明して、香港の外にいる方々に香港の今が
どう伝わるのかわかりません。ただ、香港の複雑な社会環境を少し
でも伝えられたらいいな、と思って紹介してみました!


では最後は明るく最近テレビでよく流れているフリーペーパー
のCMをご紹介して終わりたいと思います。
香港の表現の「自由」に対する主張を強く感じるCMです。

爽報CM


このCMが地上波で普通に流れている香港。自由すぎるw

ちなみに「爽報」とは、蘋果日報が創刊したフリーペーパー。
また蘋果!そうです、また蘋果!
蘋果さんは、良くも悪くも本当に香港らしい報道メディアです。

2月4日続報追記。
対立はまだまだ続いています。
http://blog.livedoor.jp/japanavi/archives/52070810.html


この話題はこのくらいにして、いよいよ年末!
もうお正月終わってしまった日本ではピンとこないかもしれませんが
香港(というかアジア各国)でお正月ムードはやはり旧正月じゃないと
実感できません。街は真っ赤に彩られ、新年を迎える忙しさを感じます。
【九州ロケ】から戻ってきて以降、まだ香港生活への原状回復が
できていないわたしは、気持ちばかりが焦ります。
そろそろブログの話題も、お正月に向かいたいところです。
年末恒例、ヴィクトリアパークの維園年宵花市もはじまりました。

dandg (6)






ここで毎年会場に並ぶ政治風刺グッズの数々にも
香港らしさと表現の自由が詰まっています。
お正月元旦は来週月曜日。Come on 辰年,大年初一!

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りえ

2000年〜香港移住。

香港永久居民。

香港TVタレント(電視節目主持)

日本夜景応援大使

関西観光大使

座右の銘は「芸人魂」「騎牛搵馬」

香港最長寿の訪日観光番組、香港地上波Viu TV「日本大放送 Go!Japan TV」レギュラー出演中。


「日本大放送 Go!Japan TV」

*Viu TV 99ch
毎週日曜日11:30放送!
*2012年からは台湾,シンガポール,中国等でも放送開始!


*番組ホームページ
www.jptime.tv


2012年11月番組オフィシャル中文月刊誌「Go! Japan」創刊!
毎月5日香港全域のコンビニエンスストアや新聞スタンドで発売です!20ドル!


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