2005年10月28日

スピーカー「エージング」の科学的根拠

アメリカのオーディオ雑誌『ステレオファイル』の最新号に、ちょっとおもしろい小ネタ記事が載っていた。オーディオファイルの間では、スピーカーは新品で箱から出したばかりのときには実力を発揮しないことが「通説」になっている。音が硬く、表現に生気がなく、低音が伸びないというのが一般的な症状で、本領を発揮するまで、一定期間音を出して「エージング」または「ブレークイン」させる必要があるといわれる。

日本語では「エージング」が一般的なので、この記事ではそちらに統一するが、英語ではこの文脈では"break-in"または"burn-in"を使うことが多く、agingを使うことはほとんどない。ステレオファイルの記事でも"break-in"が使われていることを指摘しておく。なお、ここでいうスピーカーは一般的な、コーンを使うタイプのものである。

記事で紹介されているのは、フランスのエンジニアがイギリスの有名なスピーカーメーカーB&Wの研究所で書いた論文で、彼はこれを発展させた論文で博士号を取得したという。ポイントは「マリンス効果(ストレス軟化)」という現象で、ゴム業界ではよく知られているらしい。

drivercutoutスピーカーのユニット(ドライバー)において、振動するコーンをフレームにつなぐエッジ(英語では「サラウンド」、図では"Suspension")の多くはゴム製。ただし、紫外線によってボロボロになってしまうのを防ぐために、強化剤(主にカーボンブラック)が加えられている。ゴム分子と強化剤粒子の結合は比較的弱いため、この素材は引っ張れば引っ張るほど弾性が下がって柔らかくなるそうだ。

この素材を繰り返し引っ張る実験を行ったところ、かなりの回数をこなすことによって、ゴム素材は徐々に柔らかくなり、最終的には安定状態に達したという。同じ力を加えた場合に、初期状態より大きく伸びるようになり、元に戻ろうとする力も弱くなったわけだ。ある程度いくと安定して、それ以上変わらなくなるというのもポイントだろう。

このようにエッジの機械的性質が変わると、スピーカーのパフォーマンスにも影響が出る。まず、ドライバーの最低共振周波数が下がり、低域が伸びるようになるほか、ドライバーとエンクロージャ、バスレフポートの相対的チューニングにも影響する。また、エッジそのものの共振周波数も変化し、こちらは振幅は大きくないのだが、周波数が高いので聴感上影響が出やすいという。

なお、こうして失われた弾性は、数日引っ張らない(鳴らさない)でいると一部回復するそうだ。エージングを早く進めたい場合は、コーンがたっぷり動く低周波信号を連続して再生するのがよさそうだ。長い間スピーカーを鳴らさないでいると音が変わった、なんてこともあるかもしれない。

さらに、コーンとボイスコイルの間にあって、ドライバーを支えているスパイダー(通常は樹脂を含ませてひだをつけた布製)も、コーンの挙動を制御する上で重要な役割を果たしている。これについてはまだ詳しい研究がないそうだが、コーンを指で押して最大限の振幅をさせると、樹脂が布から離れるパリパリという音がきこえるらしいから、エッジと似たような性質の変化があっても不思議ではない(僕は自分のスピーカーでそういう実験をする気にはならないが^^;)。

科学的なアプローチで知られるAudioholicsというサイトの別の記事では、このスパイダーに注目しており、実験こそしていないものの、数十秒間大きく運動させてやれば「ブレークイン」は完了するはずだと述べている。

僕自身は、恥ずかしながらスピーカーのエージングなるものを体験したことはない。モニターオーディオのシルバーS8を購入した当時はまだオーディオに経験が浅く、今のように耳が訓練されていなかったから、変化を察知できなかったのかもしれない。

雑誌のレビュー記事をみていると、アメリカではレビューアーが自宅に送られてきたスピーカーと数ヵ月一緒に生活し、エージングの状況もレポートしていることが多いが、日本の雑誌では、試聴室にもちこまれたものを短時間聴いて印象を書いていることが多い気がする。これだと、速報性という点では有利かもしれないが、まったくエージングされていない状況でレビューしている可能性もある。スピーカーのエージングは経験的に知られており、今回示されたように科学的根拠もある必然的な現象なのだから、レビューアーもきちんと考慮すべきだろう。

もうひとつ、エージングに必要とされる期間、つまりエッジが安定状態になるまでにかかる期間については、雑誌等のレビュー記事を見る限り、100〜300時間というのが多いようだ。500時間になると「ブレークインにおそろしく時間がかかる」というような記述がみられるようになる。どこかの掲示板で「5000時間」というような書き込みをみたことがあるが、それだと24時間信号を流し続けても約7カ月、1日3時間だと5年近くかかってしまう。様々な要因で「音が変わっていく」という話と混同しているのではないかと思うが、「スピーカーが本来の力を発揮するまでに」5000時間かかるようなスピーカーは僕なら欠陥品と考えて、近づかないだろうなぁ^^。

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jazzaudiofan at 15:15│Comments(13)TrackBack(1)オーディオ 

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1. スピーカー「エージング」の科学的根拠?  [ Sound Field 〜オーディオのまとめ〜 ]   2012年03月07日 20:05
引用元 ピュアAU DALI 【Magic Moments! 15】 http://awabi.2ch.net/test/read.cgi/pav/1330008175/l50 107 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 投稿日: 2012/03/02(金) 23:47:34.55 ID:9Dd0OM3...

この記事へのコメント

1. Posted by NIKI   2005年10月29日 02:01
家のアルテックは、鳴らさないとエッジのビスクロイドが固まります。ウーハーの動きが悪くなります。そうなると、ホーンとのつながりが悪くなります。ここまで長期間鳴らさず放置してしまうと、スピーカーがまともに鳴るようになるまでは、1週間弱と結構な時間がかかります。1回、この状態のときにSPセッティングを弄りました。ウーハーの状態が元に戻ってくるに従い、結局セッティングを元に戻したという苦い経験があります。他にもあります。アルテックのエンクロージャーなのですが、これが湿度で響きが変わります。最近は、ギターの手入れ用「オレンジオイル」で表面を磨いて保護したりしています。これで、だいぶ天気による格差はなくなったように思います。また、コーン紙が水分を含んだとき(特に梅雨時期)はウーハーが重く低音も重いみたいです。
でも、エージング(ブレイクイン)は、理論上成り立つんですか。幻聴ではなかったんですね(笑)
2. Posted by Iichi   2005年10月29日 02:02
エージングに関しては、スピーカーで、要エッジ張替えのジャンクを購入し、自分で張替えしいます。
一本張替えが終わって試聴してる間、その後残りの一本を張り替えて、両方を試聴すると、あまり耳の良くない自分でも、明らかに音の違いがわかりますね。
アンプにおいては、最近200Vをダウン・トランスで100Vにして、使用してます。そしたら、エージングが必要ないに等しい音が出る様なりました。
ここで気がついたのは、200V電源にする前、100Vに達してない低電圧を使用してたために、エージングが必要でなかったか?という事です。
3. Posted by jazzaudiofan   2005年10月29日 05:53
>NIKIさん、
アルテックのお話、興味深く伺いました。色々な条件で、微妙に音が変化するものなんですね。エージングは幻聴ではないので、これからは(も?)堂々とその議論ができますよ^^。

>Iichiさん、
経験に基づくお話、ありがとうございました。エッジは経年劣化しますので、ある程度立つと張り替えないといけないんですよね。

アンプの電源の影響は興味深い現象ですが、どう関連しているのかはよく分かりませんね。上記論文の論理でいけば、アンプ側の条件に関係なくエージング(新品時のブレークイン)が必要なように思われますが、どうなんでしょうね。
4. Posted by ライ麦畑   2005年10月29日 21:53
今回の記事、大変興味深く拝見しました。
エージングには科学的な根拠が裏付けされていたんですね。

自分のスピーカーでは購入時の状態と現状を実際に比較する事はできませんが、私はエージングによる音の変化はあるものだと確信しています。

スピーカーが熟れたのか自分の耳が慣れたのかは不明ですが・・・・
5. Posted by NIKI   2005年10月29日 23:20
>Iichiさん
200V→100Vのダウントランスを使われているとのことですが、容量等の関係もあり、一概に言えないのではないでしょうか。大音量で鳴らす場合は、電圧降下で電灯が瞬間的に暗くなり、屋内配線を太くされたほうがいい場合もあります。
ちなみに、私も特注減圧トランス(200V→117V 定格1kVA)を使っていますが、容量不足のために作り直そうかと考えています。

>ライ麦畑さん
耳が慣れてきている可能性は大いにありますね。
6. Posted by jazzaudiofan   2005年10月30日 01:45
ライ麦畑さん、NIKIさん、コメントありがとうございます♪

少しずつ起こる変化というのは判断が難しいですね。スピーカーが変わったのか自分が変わったのか・・・^^。

この記事で紹介した、科学的裏付けがとれている変化は、新品の初期状態から安定状態に至る、(大部分が)不可逆的な1回限りの変化のことです。

「エージング」というと、お酒の熟成のように、少しずつずっと続いていく変化のように取られがちですので、やはり正確を期して「ブレークイン」と書いた方がよかったかもしれません。

なお、毎日電源を入れてから調子が出るまでの変化は可逆的なもので、僕は「ウォームアップ」と呼んで区別しています。
7. Posted by voice and breath   2005年10月30日 09:32
jazzaudiofanさん、皆さん、こんにちは!
この話題、すごい反響!

「エージング」と「ウォームアップ」って区別が難しいですね。
最近の体験をお話しますと:
新品のJBL4318を1カ月半鳴らした後、不具合が出て新品交換してもらった際、新しいものを先に送ってきましたので、じっくりと新旧の聴き比べをしました。
この時は、全く差がわからなかった。
もう少し正確に言うと、セレクター等で瞬間的に切り替えすることができなかった為、違うように感じても、配線をし直してしばらく聴いていると馴染んでしまう。
つまり「エージングによる差」<「ウォームアップによる差」だったのだと思います。

(つづく)
8. Posted by voice and breath   2005年10月30日 09:33
(つづき)

また3カ月前に引越しをするまでの2カ月間、4月に購入したSP(JBL2235H+JBL2426H)を週末だけ使っていました。
普段なら、電源を入れて30分もすれば気持ちよい音になるものが、この時は、半日は音が悪いんです。これは何度も体験しましたから、気のせいではないと思います。

・・・で結局どうなのか?議論の結論に繋がる根拠はないのですが、エージングによる差異は、機種によりかなり違うように思います。
9. Posted by jazzaudiofan   2005年10月30日 15:21
voice and breathさん、貴重な体験談をありがとうございました。

機種によって「初期ブレークイン」、「毎使用時のウォームアップ」、「継続的なエージング(熟成)」の変化の程度がかなり異なるものなんですね。

音の記憶は長くもちませんから、特にスピーカーのように結線の切り替えに時間がかかるものは、微妙な違いの比較は難しいと思います。

ウォームアップの件ですが、スピーカー以外にも、特に半導体アンプは数日通電しないと「寝起き」が悪く、ウォームアップに時間がかかることがありますね。
10. Posted by ぼつぼつ   2012年09月09日 17:50
5 皆様初めて投稿します。
私のエージング経験ですが,b&w小型spがなぜかゴミの中にあり手元で聞いたがとても聞けた音ではなかったので知り合いのお店で朝から夕方まで毎日それから半年後あれ!と思うような変化そしてとうとう1年が過ぎました
これが本来の音かなと思うくらい素晴らしく変化しました。おそらくうん十年前に制作されて随分長い期間眠っていたと思う、人間で例えるならばうん十年ベットで寝たきり状態で急に起き上がて日常生活は到底無理ですそれなりの長期リハビリ(エージング)が必要と思われます。新品のエージング時間と中古のエージング時間はかなりの差があるみたいですね。
11. Posted by jazzaudiofan   2012年09月10日 14:01
ぼつぼつさん、コメントありがとうございます。
中古品はエージングにさらに時間がかかるかもというお話し、そうかもしれませんね。サラウンドの材質が経年変化で当初より固くなった、というのは考えられます。
12. Posted by 杉ちゃん   2013年11月12日 13:11
ジャズ&オーディオ通信さま、お久しぶりです。
「SPエージングの科学根拠」をヒットしましたら「ジャズ&オーディオ通信さま」のHPに・・・・知らなかった(笑)

・・・で、何故この書き込みに興味を得たかと申しますと、小生、現在はB&W M802を使っており、最近ゴムエッジが硬くなったような気がしたからです。

で、「アーマオイル」とか「ポリメイト」なるゴム軟化剤で処理しようと、準備しておりました処、この書き込みが目に入り、「ちょっと待った―!」と相成りましたです。(笑)
最近硬くなったと感じたのは、鳴らさなくなった(1ヶ月2〜4時間程度)為かも知れません。鳴らし込みにより柔らかくなるかも知れませんので、試してみます。
13. Posted by エルメス ハンドバッグ ジグザグPM 037620ZIG   2014年08月26日 13:27
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