2005年11月12日

『ステレオサウンド』誌のスピーカー特性計測

StereoSound日本の有力(高級?)オーディオ雑誌『ステレオサウンド』の155号(2005年夏)と156号(2005年秋)に、「試聴&測定で探る現代スピーカーの魅力」という記事が掲載されたことは、日本のオーディオファンの皆さんはとっくにご存じだろう。僕は日本に住む家族に送ってもらったので少し遅れたが、2回に分けて掲載されたこの特集を昨日読み終わった。米国の有力誌『ステレオファイル』で毎号展開されている計測と比較しながら、感想を述べてみたい。

まず、25年間(!)行われていなかったスピーカーの特性計測を今回復活させたことを大いに評価したい。科学と感性を両輪とするオーディオ機器の評論を主観評価だけで行うのは片手落ちで、「がまの油」を売るオカルトグッズ業者や、性能の悪い機器を高級パッケージにつつんで高値で売る悪徳メーカーをはびこらせることにつながりかねないと思っているので、科学的なアプローチは個人的に大歓迎なのだ。

今回、35ものモデルについて手間暇のかかる緻密な測定を行い、レビューアーによる主観評価と並べて掲載したのはすばらしいことだと思う。豊富な経験と知識にもとづいて、測定でわかることとわからないことを冷静に伝えた石井伸一郎氏は、本当によい仕事をされたと思う。

Stereophile以前「アメリカのオーディオ事情:雑誌編」という記事で紹介したアメリカの有力誌『ステレオファイル』では、長い間継続して、紹介する機器の計測を行っている。この「継続している」ことはとても重要で、ある程度横並びに比較できるデータが蓄積されるだけでなく、毎月読んでいる読者の側もすこしずつ知識を蓄えられるという利点がある。

『ステレオファイル』のウェブサイトでは、過去の正式レビュー記事の多くを無料で公開している。例えば、「フロアスタンディング・スピーカー」について、ここで閲覧できる最古のレビュー記事は1975年。最初の「特性計測」は1986年に登場する。アポジーのDuetta IIというスピーカーの計測であるが、そのグラフを見れば、当時の測定項目はインピーダンス曲線と、かなり大ざっぱな周波数特性に限られていたことがわかる。最新の「特性計測」(例として、リンク先は『ステレオサウンド』でも取り上げられているストラディバリ・オマージュ)を見れば、測定項目も増え、その精度も比べものにならないくらい向上していることがわかる。

では、現在『ステレオファイル』が行っている測定と、『ステレオサウンド』の特集における測定の違いを見てみよう。これからは、両方で取り上げられていたソナス・ファベールのストラディバリ・オマージュの、『ステレオファイル』の測定結果を例として見ながら話を進めていきたい。

<測定方法>
『ステレオサウンド』では無響室で、高精度の機器を用いて本格的な測定を行っている。一方、『ステレオファイル』では、編集長のジョン・アトキンソンが自宅で測定する。レビューアーがこれまた自宅で主観評価を終えた後、その同じ個体を彼の家に送るのである。

スピーカーの場合、部屋の影響を排除するため屋外(たぶん裏庭^^)に出て、高い台座にスピーカーを載せて計測する。巨大で重いスピーカーだと持ち上げられないので、地面に置いて測定^^。この場合は地面からの反射音が加わり、周波数特性では中低域〜低域がブーストされるので、その旨の断り書きが入る。

測定の精度は『ステレオサウンド』の方が高いだろう。しかし、無響室を借りての今回の計測を継続的に行うのは不可能だろう。一方『ステレオファイル』の方式は、精度が多少犠牲になっても、毎月無理なく継続できる方法となっている。

<測定項目>
『ステレオファイル』がやっていて、『ステレオサウンド』になかった項目は、(1)入力電圧波形と音圧波形との位相のずれを表す位相特性(リンク先の"Fig. 1"の点線)、(2)時間領域での各ユニットのつながりと位相関係を明らかにする「ステップ・レスポンス」(リンク先の"Fig. 7")、(3)ユニット/キャビネットの共振を示すcumulative spectral decay (ウォーターフォール)(リンク先の"Fig. 8")。

細かい点を言えば、『ステレオファイル』では周波数特性をポートも含むユニットごとに測定している。また、スピーカー全体の周波数特性はツイーターの高さで測った水平30度の遠距離計測結果を平均し、ウーファー等の短距離計測結果を複雑なやり方で合成したものとなっており、『ステレオサウンド』の計測方法とかなり違うようなので、単純な比較はできないと思う。

逆に、『ステレオサウンド』が計測し、『ステレオファイル』で計測していないのは、20kHを超える超高域の周波数特性と、歪み特性(2次と3次の高調波歪み)である。

<プレゼンテーション>
グラフを比べると、『ステレオサウンド』の方が明らかに精度が高そうだが、情報が多すぎて見にくい側面もある。主要グラフである「周波数特性/インピーダンス特性/歪み特性」はふたつに分けるか、カラーを使った方が見やすくなるだろう。また、周波数特性の指向感度特性(水平・垂直)は、三次元プロットを使った『ステレオファイル』(リンク先の"Fig. 5"と"Fig. 6")の方がずっとわかりやすい。

<測定評価>
ストラディバリ・オマージュは、『ステレオサウンド』の周波数特性では、定規で測ったような驚異的なフラットさが印象的で、特に超高域では50kHzまで伸びているのがすごい。インピーダンス曲線も上下に振れる幅が小さいし、歪みも少ない。「音楽性」を最優先して作られたかに見える美しいイタリア製のスピーカーがこれほど優れた特性を示しているのは驚きだった。

一方、『ステレオファイル』の周波数特性はそれほどフラットという印象を与えないが、これは計測方法の違いによるものだろう。キャビネットに125〜150Hz付近の共振があることなど、若干のマイナス要素が言及されているが、総じてすばらしい特性と評価されている。

結論を述べよう。今回の『ステレオサウンド』の特集はスナップショット的ではあるが、日本のオーディオファイルにとても貴重な情報を提供したと思う。「ステップ・レスポンス」や「ウォーターフォール」がなかったのは残念だし、測定結果の提示の仕方も改善の余地があるが、「歪み特性」を含め、精度の高い測定を行ったことは高く評価したい。

これだけ本格的な計測を続けて行うとか、何度も繰り返すことは難しいだろうが、大変優れた企画だっただけに、これだけで終わらせてしまうのはもったいない。これを出発点にして発展させ、『ステレオファイル』のように、簡略化した計測を毎号行うことも検討して欲しいものだ。

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この記事へのトラックバック

1. 石井伸一郎先生宅オフ(1)  [ ゆうけいの月夜のラプソディ ]   2005年11月14日 13:23
 本日念願であった石井伸一郎先生のお宅を訪問することができ、楽しい時間を過ごさせ

この記事へのコメント

1. Posted by voice and breath   2005年11月13日 08:33
jazzaudiofanさん、ありがとうございます。
jazzaudiofanさんならではの貴重な検証ですね!

その昔、2S-305を買った時に、無響室での実測データがついて来たことを思い起こされます。
何かプレミアムのようなものを感じて嬉しかった一方で、グラフを見ても決してフラットではなく、ただそれだけで、何かの役にたった訳ではありませんでした。
継続することにより、データが蓄積がなされ、実際に活用できるようになると良いですね。

ちなみに、オーディオが科学的に評価されることは大賛成です。
なぜなら、良いものが評価されなかったり、どうでも良いものが好評価であったりすることが非常に多いように思っているからです。
これらは主観的な問題であり、科学的な検証には限界があると思いますが、明らかに解消できることもあろうかと思います。(つづく)
2. Posted by voice and breath   2005年11月13日 08:33
(つづき)
ちょっと突拍子もない例え話ですが・・・
〈友人が苺のアイスクリームを作って美味かったそうだ。そこでレシピのメモをもらい、真似して作ってみたけど、自分には甘すぎて美味くなかった。〉

・・・もちろん友人と自分は甘さの好みが違うのでしょうが、自分が使った苺の方が上等で糖度が高かった可能性も用意に想起されますね。

ところがこれが、オーディオの世界であれば、「低音がダブつく」とかの評価になるのが落ち(笑)だと思います。
3. Posted by 845single   2005年11月13日 16:45
5 昔からステレオ雑誌において測定データがないことに関しては疑問でした。MJ誌は無線と実験の時代からやっていましたが、他誌は無かったですね。私もステレオサウンド誌が継続されることを望みます。
4. Posted by jazzaudiofan   2005年11月13日 17:54
voice and breathさん、845singleさん、コメントありがとうございます♪

測定データは読み方を学ぶことも重要ですね。また、単体で見るよりも、他の製品と比較して初めて意味が出てくるものもあります。僕の場合はステレオファイル誌をずっと読み続けることで少しずつわかってきました。

同好会のイベントで、時間領域・位相領域の整合性にこだわるスピーカー設計者Vandersteen氏の講義を受けたのもよい思い出です。彼はステレオファイルの過去の「ステップ・レスポンス」のグラフをいくつか集めたプリントを配り、読み方(そして彼のスピーカーがいかに優れているか^^)をくわしく説明してくれたんですね。

もちろん、特性がかなり悪いのに、主観評価がとても高い製品がときどきありますし、スピーカーの音の感触や、音場・音像の傾向などは計測では(今のところ)わかりません。その辺がオーディオのおもしろいところですね。
5. Posted by ゆうけい   2005年11月13日 23:41
はじめまして、ゆうけいと申します。kimuraさんのブログから流れてまいりました。実は本日石井伸一郎先生宅へ伺わせていただきました。拙ブログで少しずつ感想を書いていきますのでよろしければご笑覧ください。
6. Posted by ゆうけい   2005年11月14日 08:01
 拙ブログへのコメント&TBありがとうございました。
 さて、大変申し訳ないことにジャンクTBを削除中何かの手違いがあったらしく、jazzaudiofanさんのTBも消えてしまいました。もしよろしければ再度TBしていただければ幸いです。
 これからもよろしくおねがいします。
7. Posted by yama   2005年11月14日 09:22
情報ありがとうございます。ようやくステレオファイルのグラフの見方がよく分かりました。ステレオファイルですが、アンプの測定の時は、時々プレヒートをかけすぎて、アンプを壊しかけてる時がありますね。実はクレルの新しいプリメインの測定結果楽しみにしてたのですが、プレヒート時に煙が出てしまったとやらで、もひとつな結果で残念でした。
8. Posted by jazzaudiofan   2005年11月14日 10:20
>ゆうけいさん、
了解しました。
これからも宜しくお願いしますm(_ _)m

>yamaさん、
アンプのプレヒート、サイン波を入れて定格出力の3分の1を1時間継続的に出し続けるんですよね。かなり厳しいテストでしょうが、方法は一定してますので公平ではあります。

クレルは出力の割にヒートシンクが足りないみたいですね。通常使用なら(かなり熱くはなっても)問題ないので、筐体を小さくコストを抑えるための合理的な妥協だと思います^^。
9. Posted by ゆうけい   2005年11月14日 13:24
jazzaudiofanさん、ありがとうございました。こちらからもTBさせていただきました。
10. Posted by Sasaki   2005年11月20日 15:08
Hajiさん、
興味深く読みました。
その本、読んでないけど。
特性、そう云えばステレオ・サウンド誌ではついてませんね。全然気にならなかったけど。
私の敬愛する長岡鉄男さんは必ず自分で測定したものを付けてましたね。
それをメーカの人はとやかく言ったものです。
良い加減な測定とか。
(大体、メーカのエンジニアには不評でしたが)
あのピンクノイズを再生して1/3octバンド幅でのF特測定は結構聴覚と合っているように思います。
その簡易測定装置が昔、松下電器でありました。5〜6万円ぐらいだと思ったけど。マイクも付属した物であれは確か石井伸一郎さんが商品化したものだと思います。私も買って使っています。
でもその最新の測定と聴感って相関は取れて来たのかな。
今度その記事読んでみますネ。
チャオ♪

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