近年の大学入試では、入試科目に小論文を課す大学が増えてきました。
これは、恐らく、従来の与えられた問題に対して正しい答えを導き出す、いわゆる「学力試験」(私はテストで正答を作成する能力を消極的アウトプットと呼ぶことにしています)だけではなく、積極的に自分の考えを発信する能力(私はこの能力のことを積極的アウトプットと呼んでいます)が重視されてきていることの表れだと思います。

出題形式も様々で、課題文を読んで、それに対する自分の考えを述べるもの、表やグラフを読み取った上で、自分の考えを述べるもの、あるテーマにしたがって、自分の考えを述べるもの…大学ごとに特色ある課題文が出題されています。

大体、毎年この時期になると、特に推薦入試で小論文が必要になるために、指導を依頼されるのですが、現在小論文の指導を受けている人、これから指導を受けようと思っている人、あるいは来年小論文試験のある大学を受けようと思っている高校2年生の人、いずれにしてもまずきちんと頭に入れておいてほしいことがあります。

それは、

合格ラインに達する小論文を書くには、最低でも3ヶ月は必要

だということです。

結論から言うと、たったの2週間やそこらで合格ラインに達するのはほぼ不可能です。
ですから、大学入試で小論文を使う可能性がほんの少しでもあるのなら、入念な準備が必要ということです。
一般入試よりも小論文の方が楽、なんて甘い考えは早々に捨て去った方が良いでしょう。
私個人の考えとしては、小論文の方が、長く険しい道であるように思います。

こんな風書いてしまうと、なんだか小論文が非常に恐ろしいもののように見えますが、小論文と普通の受験勉強を比べたときに、確実に小論文の方が楽、というか分かりやすい点があります。
それは、自分の成長が非常に顕著に現れる、ということです。
普通の受験勉強は、なかなか思うように成績が上がらず、悩んでしまう受験生も多いことと思いますが、小論文に関しては、自分の成長が手に取るようにわかります。
モチベーションの維持という面においては、小論文の方が楽かもしれません。

さて、良い小論文を書くためにまず何をすべきか。
それはズバリ、

指導者選び

です。

良い小論文を書けるようになりたいのであれば、良い指導者を見つける必要があります。
こういうことを書くと同業批判になってしまうのであまり書きたくはないのですが、正直なところ、同じ国語の先生といえども、それぞれの先生には当然ながら(本当はよくないのだけど)得手不得手があります。
現代文が得意な先生もいれば、古典が得意な先生もいて、実は漢文がプロフェッショナルなんだ、という先生もいたりと一口に「国語の先生」と言っても、その特性は千差万別です。
これは、単に先生が勉強不足というわけではなくて(中にはそういう方もいますが…)、大学時代の専攻の違いに拠るところが大きいです。
近代文学を専門に研究してきた先生もいれば、平安文学が専門だった先生もいる、国語学が専門だった人も、日本語学が専門だった先生だっているんです。
要するに、国語の教員になった人たちというのは、「国語」という枠組みの中でつながっていても、自分の最も得意とする分野は先生ごとにかなり違うということです。

したがって、小論文指導が得意な先生とそうでない先生が当然いるわけです。

そこで、良い小論文を書くためには良い指導者探しから始めなければならないというわけです。

というわけで、以下に私が個人的に考える「指導者選びの基準」を挙げておきます。
これは、私が小論文を指導する際に心がけていることでもあります。

―良い小論文を書くための指導者選びの基準―
①添削するだけの先生は×。直接話す場を設けて指導してくれる先生を選ぶべし。
②表現や言い回し、言葉の使い方を直すだけの先生は×。小論文の構成、書き方等根本的な問題を指摘してくれる先生を選ぶべし。
③教師側の考えを押し付ける先生は×。自分の意見を尊重した上で、どのように修正すればよいかをアドバイスしてくれる先生を選ぶべし。

以上の3点になります。

①について:添削は、小論文指導においては何ら根本的な解決には至りません。直接話をする中でしか受験生が本当に書きたいこと、伝えたいこと、考えていることは引き出せませんから。
②について:小論文を書く上で、最低限の表現や言葉の使い方のバリエーションは必要です。しかし、あくまでそれは二次的なもので、メインではありません。したがって、表現や言い回しについてしか言及してくれない先生の下では良い小論文を書けるようにはなりません。
③について:小論文は受験生の考えを聞きたいのであって、教師の考えを聞きたいのではありません。また、教師に「こう書け!」と言われたところで、本番の試験で良い答案を作る能力が身につくわけではありません。したがって、これも小論文指導においては何の根本的解決に繋がりません。

以上のことを踏まえて、指導者選びはくれぐれも慎重に行ってください。

(関連項目)
小論文入門編②―小論文トレーニングを始める前に―